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【本編】浮気男に別れを切り出したら号泣されている。
諦めない。
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何度も連打されるインターフォン。
心臓が大きく脈打った。
期待を顔に出さないようにしつつ、インターフォンの方を見る。
来客に苛立ったように舌打ちをする夏川。
居留守を使おうとしたようだが、鳴りやむことのないインターフォン。
それに諦めたようでインタフォンで応対する。
『郵便です』
一瞬四季を期待したが、助けを呼ぶことのチャンスで来客に期待が募る。
まだ一階にいる。叫ぶのはまだだ。
「何回もうっせーよ」
『すみません、本日中の配達を依頼されています』
凄く苛立っているようで、こんなに口調の悪い男だったろうか。
それでも一階の開錠音がする。
紅葉の表情を凝視した後、手に持ったのはガムテープだ。
「!」
だが紅葉が何を考えているのか察してしまったようだ。
「念のためだ。・・・紅葉が良い子なら大丈夫だ」
口にをガムテープを張られ両手をもまとめられた。
足もまとめられそうになったところで、時間切れで部屋前のチャイムが鳴る。
ピーンポーン
「・・・音を立てるな。もしやぶったら・・・分かるな?」
「っ」
紅葉は頷くしかなかった。
応対するために玄関に向かう夏川を見届けながら、音をたてないようにベッドから降りてリビングに向かった。
バクバクと心臓が高鳴る。
リビングの扉の向こうから郵便局員と会話するのが聞こえてくる。
助けを呼ぼうと叫ぼうとしてはっとした。
・・・USB!
もし警察に助けられても、あれを夏川に持たせたままにさせておけない。
たとえ見つかって酷いことになっても。
プログラミングを取られるよりも。
あのUSBの所為で四季が不利になることだけは何としても避けたい。
すると、玄関から苛立った声がする。
「は?内容証明?」
「はい。受け取りのサインお願いします」
内容証明とはいつ誰が何を送ったのか証明するものであり、公的に証明できるものだ。
例えば裁判などトラブルが起きた時に送られて来るものである。
そんなことよりもだ。
机の上や棚の上。どこを見てもなくて、まさか今もUSBを持ったままなのだろうか?
焦りを感じているとリビングにおいてある共有のPCの横に、あのUSBが乗っているのが目に入った。
「!」
喜んだつかの間、それを咄嗟にとり固まってしまう。
データを消すにもあと30秒ほどで消せるだろうか?
窓の外に捨てるわけにも、水をかけたとしても、壊すにしても硬い物もない。
瞬時に隠すためにソファーの縫い目の裏についているファスナーを開けてそこに押し込んだ。
「ありがとうございましたー」
「ッ」
郵便局員が帰ってしまい、ハッとした。
叫ぶのを逃してしまった。
扉が閉じるのと同時に夏川が持ったままの紅葉のスマートフォンが鳴った。
「・・・、・・・、・・・ふぅん?」
リビングの扉の向こうでこちらのように気が付いた夏川が見える、鳴っているスマートフォンをそのままにこちらに向かってくる。見たことがない程冷たい笑みを浮かべていた。
咄嗟に意味もなく壁際に逃げた。
「ぁ・・・」
「なにしてるんだ?」
その抑揚のない声に紅葉は体をびくつかせた。
先程は感情が昂っていたからあんな風に言えた。
夏川が離れて落ち着いた今。
その激昂を自分にぶつけられたらと思ったら恐怖で体が震える。
「っ・・・、」
また叩かれるのだろうか。
それとも殴られる?
また、無理矢理抱かれるかも知れない。
・・・やだ・・・!
紅葉を踏み躙る行為は幾らでもあるのだ。
しかし、言いつけを破ったにも関わらず、それには目をつむったようだ。
鳴り続けるスマートフォンを差し出してきたディスプレイには『部長』と書いてある。
「丁度いいタイミングだ。辞めるって答えろ」
「っ」
「これは最後のチャンス。・・・『辞める』だけ言え。
分かったな?」
夏川の言う通り最後だ。
コクリと頷くとボタンの通話ボタンに夏川の指が伸びた瞬間、プツリと切れてしまった。
「ぁ・・・」
その時に絶望の表情をする紅葉に夏川は嘲笑した。
馬鹿にしたようなそんな笑い初めてだった。
「ハハハ!・・・助けを求めるつもりだったのか」
「ちが」
「本当に紅葉は嘘つきの悪い子になった。
・・・もう、その体に教え込むしかないな」
「っ」
暗い笑みを浮かべてゆっくり近寄ってくる夏川に、恐怖が最高潮になった時だ。
伸びてきた腕に目を硬く瞑った瞬間。
カチャンッ
「!!?」
施錠の上がる音に夏川は後ろを振り返った。
そしてすぐさま人がどたどたと入ってくる。
紅葉はその一番前の人物から目を離せなかった。
「・・・!」
「紅葉っ」
紅葉の姿を見つけると夏川を押しどけて中に入ろうとするが、夏川にその腕を掴まれ阻まれるも男、・・・四季の方が早かった。
その腕を捻り上げて床にねじ伏せ押し付けた。
起き上がれないように頭を床に縫い付ける。
「ガッ」
起き上がろうとする夏川の頭を床に押し付けて、ゴッと音を立てた。
乱暴な音を立てて舌打ちを立てた。
「私の前でそれ以上されると困ります」
そんなことを言いながら四季と入ってきた男は紅葉の状態をスマートフォンのカメラ機能で連写をしながら四季を止める。
すると、四季は手を離すとまっすぐに紅葉のもとへ来て抱きしめてくれる。
「っ・・・遅くなってすまない・・・!」
ドッドッドと心臓の音がする。
「っ・・・そんなことっ・・・ないですっ・・・信じてました」
仕事で多忙を極める四季が来てくれるのは一か八かだった。
来てくれるだけでも奇跡だ。
★★★
同居の為に借りた家に向かう途中。
何が正しいのかわからなくなる。
四季に迷惑を掛けたくなくて、なんとしてもUSBを取り返したい。
けれどこのまま戻るのは、あまりにも浅慮では無いだろうか。
会社を出たところで立ち止まると、四季のマンションへ向かうとポストに鍵を入れた。
「・・・、」
四季の午後の日程はミーティング続きた。
今日も24時間近の帰宅になるはず。
だから、もしその時間になっても会社寮に戻らなければ、警察を呼んで欲しいとお願いしていたのである。
★★★
住所をメールに記述したのは警察に知らせてほしかったから。
鍵をポストに入れたことは何も考えていなかった。
だが、それが好転した。
まさか、いつもより早い時間に帰宅してくれるとは思わなかった。
口元と腕のガムテープを外されると、改めてぎゅっと抱きしめられると安心するのに、先ほどの恐怖を思い出して体が震えてしまう。
普段どんな事でも一糸乱れることのない四季が、今はしっとりと汗ばんでいるのはそれだけ急いでくれていたのだとわかる。
『ありがとう』と『大丈夫だ』と伝えたいのに、感情がコントロールできない。
涙が流れ潤む視界の向こうに、四季が見える。
「っ・・・っ」
「・・・っ」
苛立っているようなのに、それでも紅葉を抱きしめる腕はどこまでも優しい。
そんな状態の紅葉についに夏川が叫んだ。
「ぐっ・・・っ誰だよ!お前ら!」
その声にハッとして、涙をぬぐってそちらに首をむける。
しかし、四季にくるりと視線をそらすように体を動かされる。
「っ・・・?」
「この家に紅葉の服はあるか?」
「・・・はい」
「どこにある?」
「こっちです」
指をさすと四季に手を引かれて部屋に連れていかれた。
クローゼット開けて、服を取り出し震える紅葉に着るのを手伝ってくれた。
すると隣の部屋から聞こえてくる。
「失礼。私、立仙(りっせん)法律事務所の弁護士立仙修二(りっせん しゅうじ)と申します」
そう言いながらカシャカシャと何か写真を撮る音がした。
着替え終えてみてみれば今度はゴミ箱の中をあらゆる角度でとっている。
夏川と話してるのを一旦やめて、先の方を見る弁護士。
「病院の診断と体の写真は貴方が撮っておいてください」
そう言うと持っていたスマートフォンを渡す。
よく見れば四季の物だ。
「・・・わかった」
「不満そうな顔しないでください。説明したでしょう。あとは任せてください」
「頼んだぞ」
「はい」
「くそっ待てよ!不法侵入と暴行・・・あと誘拐で警察に訴えてやる!!」
そんな風に叫ぶ夏川の前に立仙が止めるように前にたった。
「通報なら合ってますが、訴える場所は警察ではありません」
「っ・・・あげ足取ってんじゃねぇ!」
「そうですね。
では、まず『不法侵入』については、私達はこちらの正式な家主の秋山様の依頼でこちらに来ています」
その言葉に紅葉を睨んでくる。
「『暴行』については、秋山様に鍵を預かっている私たちは、お会いしに来たところ日ごろからDVを行っている夏川渉氏に掴まれた為、暴力と判断し自己防衛するための行為です。
また、秋山様のDV・・・つまり暴行を止める手助けするためであり、万が一こちらが過剰とされ『暴行罪』が適用されたとしても、裁判で情状酌量が適用される範囲です。
・・・それよりも、秋山様にされた『暴行』の方が罪が重くなるでしょう」
「っ」
「あぁ失礼。私こう言うものです」
なんて今さらながらに夏川に名刺を手渡す立仙。
「夏川さん。そんな事よりも別件で貴方に用があります。
先程は届いた内容証明はご確認頂けましたでしょうか」
立仙がそう言いながら四季に合図をすると出ていこうとするので、四季を慌てて止める。
「待ってください!・・・USBをっ」
「USB・・・?」
紅葉は先ほど隠したところを探すと、USBを取り出した。
それを四季に手渡す。
「っ・・・そいつ・・・あの時の・・・!」
そこで夏川は四季の正体に気が付いたようだ。
紅葉がそんな夏川の方を見ていると、四季がUSBを手に取る。
「これは?」
「っ・・・以前ここで仕事していた時、データを抜かれていたんです」
「・・・、」
「ほう。・・・それはまた新しい罪状が付きましたね。窃盗罪に脅迫罪も適用されるやもしれませんね」
全てを言わずとも立仙は状況が想像できたらしい。
ぎらりと目が光った。
「っ・・・そんなのっ
つか、おい!勝手に連れて行くな!!」
「成人した男性と外出するのに、何故家族でもないあなたに止める権利があるのでしょうか」
「っ」
「秋山様への件は今は保留しておきましょう。
それよりも先ほど貴方へ届いた内容証明の件です。不倫の慰謝料を請求されています」
「俺はしていない!」
「不倫される皆さん等しくそうおっしゃります。
示談にするかどうかなど今後の話し合いは私を通してください」
そんな冷たく言い放つ声を聞き届けながら、紅葉達は家を出るのだった。
★★★
病院に行き傷を写真に撮り診断書を作成し、四季の家に向かう頃には12時を越していた。
それから、傷跡を写真に撮られる。
頬に尻それに自分でも気づいたなかった膝や口の中までだ。
それが終わる頃には別の人間にあのUSBを調べさせたところ、何も入っていないことが分かった。
パソコンの方は他社の情報を退避した上でログをチェックしUSBなりほかにデータが吸い上げられていないか確認することになった。
『Rnism』のデータを本当に撒く気はなかったのかもしれないが、それでも許せることではない。
だが、不倫の慰謝料を請求されるという夏川に、それと合わせて慰謝料を取るというのが気が引けた。
そんな心情を四季はわかる様だ。
「・・・紅葉はどうしたい」
「え・・・?」
ソファーで隣同士で掛けながら、そう尋ねてくる四季を見上げる。
紅葉の意見を聞いてくれるようだったが、くしゃりと顔をゆがませた。
「と、・・・本当は紅葉の意見をすべて聞いてやりかった」
「・・・、」
「悪いが俺に任せてくれないか」
「盗難のことだけに収めていただけませんか・・・?」
「それは絶対駄目だ」
四季には珍しく語気を強く否定する。
それに圧倒されたが、紅葉はコクリと頷いた。
甘すぎるという自覚はあった。
紅葉としては盗難の罪を償い、もうこんなことをしないでくれるならそれでいい。
けれど・・・『もうしない』という約束に信用がないと思えるのは当然だった。
「わかりました。・・・四季さんにお願いします」
紅葉が考えた後にそう言うとホッとした様に微笑んだ。
結果は同じなのだろうが、紅葉に断ってくれるそれは全然違う。
しかし、それはすぐに悲しそうに歪まれ、頬にタオルに包まれた冷却剤を当てられた。
先程までそうしていたのだが、話すのに外してしまっていた。
「紅葉。こちらは自分で押さえてくれないか?うつ伏せになってくれ」
「!・・・、でも」
「恥ずかしがっている場合じゃない。
・・・いや、俺が嫌なら・・・いや、嫌だとは思うが、誓って何もしない。
やましい気持ちは存分にあるが、治ってからだ」
「・・・っ・・・はい」
ストレートにいう四季に恐怖だとかそんなもの感じなかった。四季の膝の上に寝そべるとボトムをずらすと、患部を外気に晒した。
数回だったがまだ熱が篭っているのか空調の整ったこの部屋でも涼しさを感じる。
暫く冷却剤を断ってからそっと当てられた。
「・・・痛むか?」
しばらくしてそう尋ねられるそれにコクリと頷いた。
時間もあるが緊張が切れた。
うとうととしながら答える。
「気持ち、いい、・・・です」
「・・・、」
暫くするともう片方にも当てられる。
「ん」
「・・・、・・・。そうだ、暫く俺の部屋に泊まるといい」
「え・・・?」
「医師にも言われただろう?遅れて症状が出てくることもあるって」
頬をなぐられたが打ちどころが悪かったら最悪の事態もあり得ると言われた。
「でも」
「寮は完全防音で食堂以外は1人だ。
最悪な事態になったらどうする?・・・と言うのは建前で俺が安心したいんだ」
「・・・わかりました。お願いします」
そんな風に言われたら、申し訳ない気持ちよりもお願いしたくなる。
それに、四季の側なら安心する。
★★★
【別視点:四季】
数日後。
結局、パソコンからデータが抜かれていないことが、状況からも本人からも確定した。
その夏川の盗難がなくなったことで、警察に突き出す話はなくなった。
それは『Rnism』のイメージだとかではなく、四季の我儘だった。
盗難はなくとも強要や暴行で警察通報することはできるのだなしなかった。
故に夏川は『HRYM』に現在も籍を置いている。
ただし、海外の僻地へとの転勤となった。
別にやらなくてもいい仕事を朝から晩までこなしている。
浮気の件は蓋を開けてみると少し形が変わった。
『HRYM』に勤める先輩社員のパートナーと夏川の浮気だと思われたが、実際は執拗なストーキングと接触で浮気を強要となり、本社から転勤になったのだ。
現時点で帰国の目処は無く、帰国の際は必ず四季に連絡が入ることとなっている。
休暇は皆に等しく与えられたものだが、パスポートは貴重品として会社預かりになっていて申請が必要となっており、夏川は実質自由に使えないものとなっている。
解雇にしてしまうと完全に自由になってしまうからだ。
四季は日本の法律で罰する罰だけでは納得いかなかった。
盗難で刑罰が終わって戻ってくるのは目に見えている。
だったら、事実を突きつけ『HRYM』に誠意を見せてもらったのだ。
そして、その海外への転勤は夏川の両親も追従することになった。
それは甘やかす目的ではなく監視役である。
夏川の両親もそれぞれ海外に支部を持つ様な会社であり今回は自分から志願した形になるが、今回のことで真相を全て知った夏川の両親は、実の兄弟のように育った紅葉に対してした仕打ちを例え実の親でも許さないそうだ。
英語を話せない夏川は暫く親のいる家からは出られない形となる。
夏川の親から謝罪のメッセージが届き、これまでの事を本人に変わり謝罪をされ慰謝料が払われることになった。
また、夏川の私物は全て没収され廃棄となった。
その廃棄も第三者として会社が入り確実に廃棄したと言う証明書付きで。
「他社のデータを引き抜いた体裁で強請った」と言う状況が、親としてではなく同じビジネスマンとして許さないものであり、本人の証言があったとしても信じられないための措置だそうだ。
誠意ある対応に四季は満足であったが、一方の紅葉はあんなことをされたというのに『幼馴染』に手痛く仕返しをすることを、心の底では心を痛めているようだった。
なんでも紅葉の言うことを聞いてやりたいが、あの男への報復だけは手を抜けないのだ。
★★★
【紅葉視点】
そんなこんなの最終日。
紅葉はフリーランスで働いていた先との最後の仕事を片付けた。
それは『Rnism』も同じだ。
開発部の皆んなには契約終了とだけ言ってさろうと思う。
それが、ケジメだと思った。
そんなことを思っていると、なんと社長に呼び出された。
驚き慌てていると四季に『大丈夫だから』と、連れていかれる。
長い廊下を歩き、秘書がズラリと並ぶ部屋を通り過ぎる。
そして、最後の扉だと思われるそれを開けた瞬間。
紅葉は頭を下げた。
「こっこの度はっ申し訳ありませんでしたっ」
頭を膝につく程さげた。
クスクスと笑う声に、ここは土下座だったかと膝をつこうとしたところで、困った表情をした四季に腕を掴まれた。
「取り敢えず入ろう」
「っはい、失礼しますっ・・・、・・・え?」
扉を閉めたのと同時に目に入った人物に驚いた。
そこにいたのはBAR『黄昏』の、マスター。
「久しぶり。紅葉君」
そう言って手を振るマスター。
わからずに頭が混乱してる紅葉をソファーまで連れていった。
そして座る様に促される。
「えっと、これは、、、、いや。申し訳ありませんでした」
「あぁ。例の件はつつがなく終わったと聞いているからもう大丈夫。今日は別の話だ」
同じ人、同じ声、同じ口調なのに威厳を感じた。
服装と場所だけでこんなにも変わるのだろうか。
「立仙社長。本日はどのような」
「ん?うちの大切な社員である君を煩わせたという社員の方がみたくなって」
「!」
「立仙社長」
途端に声のトーンが下がる四季。
しかし、つづける。
「君さ。四季に迷惑かけてそのまま去るの?
なんも誠意はないの?」
「っ僕に出来ることなら何でもします!」
「じゃ。宜しくね。四季。そんなわけだから」
「え」
「明日からもバリバリ働いてね。
君が四季のそばにいるだけで四季の効率が50%上がるんだ。
すごいよね。元々出来るやつだったのに、人参が隣にきたら速度があがるなんて、馬みたいだよね」
急な事で戸惑っている四季が深くため息をついた。
「最終日に社長室に連れてこいと言うから来てみれば。
・・・なんなんですか。この茶番は」
どうやら先程のはマスターこと立仙社長の要望だったらしい。
「だって。ネタバラシしたくて。
あはは!さっきのは冗談だよ」
「・・・、」
「・・・驚いた?
ふふふっねぇ、紅葉君。
プログラミング好きなんだよね?」
「っ・・・はい」
「うちは君みたいな人材が是非ほしいんだ。
今のご時世さっきので雇用は出来ないから、是非君には首縦に振ってもらいたいんだけど。
今日四季は午後休だから2人でよく話して欲しい」
「お?良いのか?ラッキー」
「っまっ」
「不満も不安も四季にぶつけたらいい。
そいつは紅葉君のお願いならなんでも聞いてくれるから」
そういって立仙は満面の笑みを浮かべるのだった。
心臓が大きく脈打った。
期待を顔に出さないようにしつつ、インターフォンの方を見る。
来客に苛立ったように舌打ちをする夏川。
居留守を使おうとしたようだが、鳴りやむことのないインターフォン。
それに諦めたようでインタフォンで応対する。
『郵便です』
一瞬四季を期待したが、助けを呼ぶことのチャンスで来客に期待が募る。
まだ一階にいる。叫ぶのはまだだ。
「何回もうっせーよ」
『すみません、本日中の配達を依頼されています』
凄く苛立っているようで、こんなに口調の悪い男だったろうか。
それでも一階の開錠音がする。
紅葉の表情を凝視した後、手に持ったのはガムテープだ。
「!」
だが紅葉が何を考えているのか察してしまったようだ。
「念のためだ。・・・紅葉が良い子なら大丈夫だ」
口にをガムテープを張られ両手をもまとめられた。
足もまとめられそうになったところで、時間切れで部屋前のチャイムが鳴る。
ピーンポーン
「・・・音を立てるな。もしやぶったら・・・分かるな?」
「っ」
紅葉は頷くしかなかった。
応対するために玄関に向かう夏川を見届けながら、音をたてないようにベッドから降りてリビングに向かった。
バクバクと心臓が高鳴る。
リビングの扉の向こうから郵便局員と会話するのが聞こえてくる。
助けを呼ぼうと叫ぼうとしてはっとした。
・・・USB!
もし警察に助けられても、あれを夏川に持たせたままにさせておけない。
たとえ見つかって酷いことになっても。
プログラミングを取られるよりも。
あのUSBの所為で四季が不利になることだけは何としても避けたい。
すると、玄関から苛立った声がする。
「は?内容証明?」
「はい。受け取りのサインお願いします」
内容証明とはいつ誰が何を送ったのか証明するものであり、公的に証明できるものだ。
例えば裁判などトラブルが起きた時に送られて来るものである。
そんなことよりもだ。
机の上や棚の上。どこを見てもなくて、まさか今もUSBを持ったままなのだろうか?
焦りを感じているとリビングにおいてある共有のPCの横に、あのUSBが乗っているのが目に入った。
「!」
喜んだつかの間、それを咄嗟にとり固まってしまう。
データを消すにもあと30秒ほどで消せるだろうか?
窓の外に捨てるわけにも、水をかけたとしても、壊すにしても硬い物もない。
瞬時に隠すためにソファーの縫い目の裏についているファスナーを開けてそこに押し込んだ。
「ありがとうございましたー」
「ッ」
郵便局員が帰ってしまい、ハッとした。
叫ぶのを逃してしまった。
扉が閉じるのと同時に夏川が持ったままの紅葉のスマートフォンが鳴った。
「・・・、・・・、・・・ふぅん?」
リビングの扉の向こうでこちらのように気が付いた夏川が見える、鳴っているスマートフォンをそのままにこちらに向かってくる。見たことがない程冷たい笑みを浮かべていた。
咄嗟に意味もなく壁際に逃げた。
「ぁ・・・」
「なにしてるんだ?」
その抑揚のない声に紅葉は体をびくつかせた。
先程は感情が昂っていたからあんな風に言えた。
夏川が離れて落ち着いた今。
その激昂を自分にぶつけられたらと思ったら恐怖で体が震える。
「っ・・・、」
また叩かれるのだろうか。
それとも殴られる?
また、無理矢理抱かれるかも知れない。
・・・やだ・・・!
紅葉を踏み躙る行為は幾らでもあるのだ。
しかし、言いつけを破ったにも関わらず、それには目をつむったようだ。
鳴り続けるスマートフォンを差し出してきたディスプレイには『部長』と書いてある。
「丁度いいタイミングだ。辞めるって答えろ」
「っ」
「これは最後のチャンス。・・・『辞める』だけ言え。
分かったな?」
夏川の言う通り最後だ。
コクリと頷くとボタンの通話ボタンに夏川の指が伸びた瞬間、プツリと切れてしまった。
「ぁ・・・」
その時に絶望の表情をする紅葉に夏川は嘲笑した。
馬鹿にしたようなそんな笑い初めてだった。
「ハハハ!・・・助けを求めるつもりだったのか」
「ちが」
「本当に紅葉は嘘つきの悪い子になった。
・・・もう、その体に教え込むしかないな」
「っ」
暗い笑みを浮かべてゆっくり近寄ってくる夏川に、恐怖が最高潮になった時だ。
伸びてきた腕に目を硬く瞑った瞬間。
カチャンッ
「!!?」
施錠の上がる音に夏川は後ろを振り返った。
そしてすぐさま人がどたどたと入ってくる。
紅葉はその一番前の人物から目を離せなかった。
「・・・!」
「紅葉っ」
紅葉の姿を見つけると夏川を押しどけて中に入ろうとするが、夏川にその腕を掴まれ阻まれるも男、・・・四季の方が早かった。
その腕を捻り上げて床にねじ伏せ押し付けた。
起き上がれないように頭を床に縫い付ける。
「ガッ」
起き上がろうとする夏川の頭を床に押し付けて、ゴッと音を立てた。
乱暴な音を立てて舌打ちを立てた。
「私の前でそれ以上されると困ります」
そんなことを言いながら四季と入ってきた男は紅葉の状態をスマートフォンのカメラ機能で連写をしながら四季を止める。
すると、四季は手を離すとまっすぐに紅葉のもとへ来て抱きしめてくれる。
「っ・・・遅くなってすまない・・・!」
ドッドッドと心臓の音がする。
「っ・・・そんなことっ・・・ないですっ・・・信じてました」
仕事で多忙を極める四季が来てくれるのは一か八かだった。
来てくれるだけでも奇跡だ。
★★★
同居の為に借りた家に向かう途中。
何が正しいのかわからなくなる。
四季に迷惑を掛けたくなくて、なんとしてもUSBを取り返したい。
けれどこのまま戻るのは、あまりにも浅慮では無いだろうか。
会社を出たところで立ち止まると、四季のマンションへ向かうとポストに鍵を入れた。
「・・・、」
四季の午後の日程はミーティング続きた。
今日も24時間近の帰宅になるはず。
だから、もしその時間になっても会社寮に戻らなければ、警察を呼んで欲しいとお願いしていたのである。
★★★
住所をメールに記述したのは警察に知らせてほしかったから。
鍵をポストに入れたことは何も考えていなかった。
だが、それが好転した。
まさか、いつもより早い時間に帰宅してくれるとは思わなかった。
口元と腕のガムテープを外されると、改めてぎゅっと抱きしめられると安心するのに、先ほどの恐怖を思い出して体が震えてしまう。
普段どんな事でも一糸乱れることのない四季が、今はしっとりと汗ばんでいるのはそれだけ急いでくれていたのだとわかる。
『ありがとう』と『大丈夫だ』と伝えたいのに、感情がコントロールできない。
涙が流れ潤む視界の向こうに、四季が見える。
「っ・・・っ」
「・・・っ」
苛立っているようなのに、それでも紅葉を抱きしめる腕はどこまでも優しい。
そんな状態の紅葉についに夏川が叫んだ。
「ぐっ・・・っ誰だよ!お前ら!」
その声にハッとして、涙をぬぐってそちらに首をむける。
しかし、四季にくるりと視線をそらすように体を動かされる。
「っ・・・?」
「この家に紅葉の服はあるか?」
「・・・はい」
「どこにある?」
「こっちです」
指をさすと四季に手を引かれて部屋に連れていかれた。
クローゼット開けて、服を取り出し震える紅葉に着るのを手伝ってくれた。
すると隣の部屋から聞こえてくる。
「失礼。私、立仙(りっせん)法律事務所の弁護士立仙修二(りっせん しゅうじ)と申します」
そう言いながらカシャカシャと何か写真を撮る音がした。
着替え終えてみてみれば今度はゴミ箱の中をあらゆる角度でとっている。
夏川と話してるのを一旦やめて、先の方を見る弁護士。
「病院の診断と体の写真は貴方が撮っておいてください」
そう言うと持っていたスマートフォンを渡す。
よく見れば四季の物だ。
「・・・わかった」
「不満そうな顔しないでください。説明したでしょう。あとは任せてください」
「頼んだぞ」
「はい」
「くそっ待てよ!不法侵入と暴行・・・あと誘拐で警察に訴えてやる!!」
そんな風に叫ぶ夏川の前に立仙が止めるように前にたった。
「通報なら合ってますが、訴える場所は警察ではありません」
「っ・・・あげ足取ってんじゃねぇ!」
「そうですね。
では、まず『不法侵入』については、私達はこちらの正式な家主の秋山様の依頼でこちらに来ています」
その言葉に紅葉を睨んでくる。
「『暴行』については、秋山様に鍵を預かっている私たちは、お会いしに来たところ日ごろからDVを行っている夏川渉氏に掴まれた為、暴力と判断し自己防衛するための行為です。
また、秋山様のDV・・・つまり暴行を止める手助けするためであり、万が一こちらが過剰とされ『暴行罪』が適用されたとしても、裁判で情状酌量が適用される範囲です。
・・・それよりも、秋山様にされた『暴行』の方が罪が重くなるでしょう」
「っ」
「あぁ失礼。私こう言うものです」
なんて今さらながらに夏川に名刺を手渡す立仙。
「夏川さん。そんな事よりも別件で貴方に用があります。
先程は届いた内容証明はご確認頂けましたでしょうか」
立仙がそう言いながら四季に合図をすると出ていこうとするので、四季を慌てて止める。
「待ってください!・・・USBをっ」
「USB・・・?」
紅葉は先ほど隠したところを探すと、USBを取り出した。
それを四季に手渡す。
「っ・・・そいつ・・・あの時の・・・!」
そこで夏川は四季の正体に気が付いたようだ。
紅葉がそんな夏川の方を見ていると、四季がUSBを手に取る。
「これは?」
「っ・・・以前ここで仕事していた時、データを抜かれていたんです」
「・・・、」
「ほう。・・・それはまた新しい罪状が付きましたね。窃盗罪に脅迫罪も適用されるやもしれませんね」
全てを言わずとも立仙は状況が想像できたらしい。
ぎらりと目が光った。
「っ・・・そんなのっ
つか、おい!勝手に連れて行くな!!」
「成人した男性と外出するのに、何故家族でもないあなたに止める権利があるのでしょうか」
「っ」
「秋山様への件は今は保留しておきましょう。
それよりも先ほど貴方へ届いた内容証明の件です。不倫の慰謝料を請求されています」
「俺はしていない!」
「不倫される皆さん等しくそうおっしゃります。
示談にするかどうかなど今後の話し合いは私を通してください」
そんな冷たく言い放つ声を聞き届けながら、紅葉達は家を出るのだった。
★★★
病院に行き傷を写真に撮り診断書を作成し、四季の家に向かう頃には12時を越していた。
それから、傷跡を写真に撮られる。
頬に尻それに自分でも気づいたなかった膝や口の中までだ。
それが終わる頃には別の人間にあのUSBを調べさせたところ、何も入っていないことが分かった。
パソコンの方は他社の情報を退避した上でログをチェックしUSBなりほかにデータが吸い上げられていないか確認することになった。
『Rnism』のデータを本当に撒く気はなかったのかもしれないが、それでも許せることではない。
だが、不倫の慰謝料を請求されるという夏川に、それと合わせて慰謝料を取るというのが気が引けた。
そんな心情を四季はわかる様だ。
「・・・紅葉はどうしたい」
「え・・・?」
ソファーで隣同士で掛けながら、そう尋ねてくる四季を見上げる。
紅葉の意見を聞いてくれるようだったが、くしゃりと顔をゆがませた。
「と、・・・本当は紅葉の意見をすべて聞いてやりかった」
「・・・、」
「悪いが俺に任せてくれないか」
「盗難のことだけに収めていただけませんか・・・?」
「それは絶対駄目だ」
四季には珍しく語気を強く否定する。
それに圧倒されたが、紅葉はコクリと頷いた。
甘すぎるという自覚はあった。
紅葉としては盗難の罪を償い、もうこんなことをしないでくれるならそれでいい。
けれど・・・『もうしない』という約束に信用がないと思えるのは当然だった。
「わかりました。・・・四季さんにお願いします」
紅葉が考えた後にそう言うとホッとした様に微笑んだ。
結果は同じなのだろうが、紅葉に断ってくれるそれは全然違う。
しかし、それはすぐに悲しそうに歪まれ、頬にタオルに包まれた冷却剤を当てられた。
先程までそうしていたのだが、話すのに外してしまっていた。
「紅葉。こちらは自分で押さえてくれないか?うつ伏せになってくれ」
「!・・・、でも」
「恥ずかしがっている場合じゃない。
・・・いや、俺が嫌なら・・・いや、嫌だとは思うが、誓って何もしない。
やましい気持ちは存分にあるが、治ってからだ」
「・・・っ・・・はい」
ストレートにいう四季に恐怖だとかそんなもの感じなかった。四季の膝の上に寝そべるとボトムをずらすと、患部を外気に晒した。
数回だったがまだ熱が篭っているのか空調の整ったこの部屋でも涼しさを感じる。
暫く冷却剤を断ってからそっと当てられた。
「・・・痛むか?」
しばらくしてそう尋ねられるそれにコクリと頷いた。
時間もあるが緊張が切れた。
うとうととしながら答える。
「気持ち、いい、・・・です」
「・・・、」
暫くするともう片方にも当てられる。
「ん」
「・・・、・・・。そうだ、暫く俺の部屋に泊まるといい」
「え・・・?」
「医師にも言われただろう?遅れて症状が出てくることもあるって」
頬をなぐられたが打ちどころが悪かったら最悪の事態もあり得ると言われた。
「でも」
「寮は完全防音で食堂以外は1人だ。
最悪な事態になったらどうする?・・・と言うのは建前で俺が安心したいんだ」
「・・・わかりました。お願いします」
そんな風に言われたら、申し訳ない気持ちよりもお願いしたくなる。
それに、四季の側なら安心する。
★★★
【別視点:四季】
数日後。
結局、パソコンからデータが抜かれていないことが、状況からも本人からも確定した。
その夏川の盗難がなくなったことで、警察に突き出す話はなくなった。
それは『Rnism』のイメージだとかではなく、四季の我儘だった。
盗難はなくとも強要や暴行で警察通報することはできるのだなしなかった。
故に夏川は『HRYM』に現在も籍を置いている。
ただし、海外の僻地へとの転勤となった。
別にやらなくてもいい仕事を朝から晩までこなしている。
浮気の件は蓋を開けてみると少し形が変わった。
『HRYM』に勤める先輩社員のパートナーと夏川の浮気だと思われたが、実際は執拗なストーキングと接触で浮気を強要となり、本社から転勤になったのだ。
現時点で帰国の目処は無く、帰国の際は必ず四季に連絡が入ることとなっている。
休暇は皆に等しく与えられたものだが、パスポートは貴重品として会社預かりになっていて申請が必要となっており、夏川は実質自由に使えないものとなっている。
解雇にしてしまうと完全に自由になってしまうからだ。
四季は日本の法律で罰する罰だけでは納得いかなかった。
盗難で刑罰が終わって戻ってくるのは目に見えている。
だったら、事実を突きつけ『HRYM』に誠意を見せてもらったのだ。
そして、その海外への転勤は夏川の両親も追従することになった。
それは甘やかす目的ではなく監視役である。
夏川の両親もそれぞれ海外に支部を持つ様な会社であり今回は自分から志願した形になるが、今回のことで真相を全て知った夏川の両親は、実の兄弟のように育った紅葉に対してした仕打ちを例え実の親でも許さないそうだ。
英語を話せない夏川は暫く親のいる家からは出られない形となる。
夏川の親から謝罪のメッセージが届き、これまでの事を本人に変わり謝罪をされ慰謝料が払われることになった。
また、夏川の私物は全て没収され廃棄となった。
その廃棄も第三者として会社が入り確実に廃棄したと言う証明書付きで。
「他社のデータを引き抜いた体裁で強請った」と言う状況が、親としてではなく同じビジネスマンとして許さないものであり、本人の証言があったとしても信じられないための措置だそうだ。
誠意ある対応に四季は満足であったが、一方の紅葉はあんなことをされたというのに『幼馴染』に手痛く仕返しをすることを、心の底では心を痛めているようだった。
なんでも紅葉の言うことを聞いてやりたいが、あの男への報復だけは手を抜けないのだ。
★★★
【紅葉視点】
そんなこんなの最終日。
紅葉はフリーランスで働いていた先との最後の仕事を片付けた。
それは『Rnism』も同じだ。
開発部の皆んなには契約終了とだけ言ってさろうと思う。
それが、ケジメだと思った。
そんなことを思っていると、なんと社長に呼び出された。
驚き慌てていると四季に『大丈夫だから』と、連れていかれる。
長い廊下を歩き、秘書がズラリと並ぶ部屋を通り過ぎる。
そして、最後の扉だと思われるそれを開けた瞬間。
紅葉は頭を下げた。
「こっこの度はっ申し訳ありませんでしたっ」
頭を膝につく程さげた。
クスクスと笑う声に、ここは土下座だったかと膝をつこうとしたところで、困った表情をした四季に腕を掴まれた。
「取り敢えず入ろう」
「っはい、失礼しますっ・・・、・・・え?」
扉を閉めたのと同時に目に入った人物に驚いた。
そこにいたのはBAR『黄昏』の、マスター。
「久しぶり。紅葉君」
そう言って手を振るマスター。
わからずに頭が混乱してる紅葉をソファーまで連れていった。
そして座る様に促される。
「えっと、これは、、、、いや。申し訳ありませんでした」
「あぁ。例の件はつつがなく終わったと聞いているからもう大丈夫。今日は別の話だ」
同じ人、同じ声、同じ口調なのに威厳を感じた。
服装と場所だけでこんなにも変わるのだろうか。
「立仙社長。本日はどのような」
「ん?うちの大切な社員である君を煩わせたという社員の方がみたくなって」
「!」
「立仙社長」
途端に声のトーンが下がる四季。
しかし、つづける。
「君さ。四季に迷惑かけてそのまま去るの?
なんも誠意はないの?」
「っ僕に出来ることなら何でもします!」
「じゃ。宜しくね。四季。そんなわけだから」
「え」
「明日からもバリバリ働いてね。
君が四季のそばにいるだけで四季の効率が50%上がるんだ。
すごいよね。元々出来るやつだったのに、人参が隣にきたら速度があがるなんて、馬みたいだよね」
急な事で戸惑っている四季が深くため息をついた。
「最終日に社長室に連れてこいと言うから来てみれば。
・・・なんなんですか。この茶番は」
どうやら先程のはマスターこと立仙社長の要望だったらしい。
「だって。ネタバラシしたくて。
あはは!さっきのは冗談だよ」
「・・・、」
「・・・驚いた?
ふふふっねぇ、紅葉君。
プログラミング好きなんだよね?」
「っ・・・はい」
「うちは君みたいな人材が是非ほしいんだ。
今のご時世さっきので雇用は出来ないから、是非君には首縦に振ってもらいたいんだけど。
今日四季は午後休だから2人でよく話して欲しい」
「お?良いのか?ラッキー」
「っまっ」
「不満も不安も四季にぶつけたらいい。
そいつは紅葉君のお願いならなんでも聞いてくれるから」
そういって立仙は満面の笑みを浮かべるのだった。
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