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執着旦那と愛の子作り&子育て編

今回は・・・流石にむりかぁ。でも駄目だと思うと気になっちゃうよね。④

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※今回沢山女性が出てきます。
※えっちだけ見たい方は下の方までスクロールしてください。



王都にある貴族街との境界に建てられた大きな屋敷。
ハイシア家で所有していた屋敷の周辺も買い入れ、クラシカルな屋敷を改修し白をベースに赤色を差し色にした洋館に生まれ変わった。
手入れが行き届きいつ見ても美しい。
門には常時兵がおり、敷地は背の高い柵で囲われている。
主な収入源は貴族からの寄付により成り立っている。
それでまかり通っているのは、ここが全世界初の女性専用巨大サロンな為である。

この館への入場条件は「女性」であれば身分構わず入る事が出来る。
その為入口は3つ備えられており、一つは平民の利用者と荷物搬入口に繋がる入口。
もう一つは貴族用に、最後はVIP用だ。
VIPは基本閉ざされており、王族や来賓客用の入り口である。

中の全フロアーでは身分を振りかざす事は禁止されており、誰もが自由にどのフロアーにも移動ができるが、貴族の集うフロアーはラグジュアリーなフロアーになっておりドレスコードが決められている。
そしてマナーも重要とされており、下品な振る舞いは退場頂くことになっている。

なお、全館を通し禁止事項を侵した者や著しく品位を下げる行為、他者を侮辱する行為などはブラックリストに記載され、以降は固く侵入を禁止される。

女性が自由に過ごせる場所として作られた場所「リジェネ・フローラル」。

行くことがステータスとなりつつあるここに、その日全館を揺るがすほど絶世な美女が現れた。

皆がその美女を見る度にひそひそと話す。
あのような美しい娘をもつ貴族いたかしら?と。

★★★

平民が利用する入口から入ったのだが寄せられる視線が耐えられなかった。
ただでさえキツく息苦しいのにそんなに見られたら息抜きが出来ない。落ち着かない。
勿論それは表に出さずに歩いているのだが。
やはり、男性が女装をするなんて無理があるからなのだろうか?

ここはリジェネ・フローラルに貴族の娘風に変装し忍び込んでいた。
また、名を『ユーリア』と名乗る。

誰が忍び込んでいるかって?勿論シャリオンである。

「どこかおかしい?・・・かしら。ジャスミン」

使い慣れない言葉使いにボロを出しそうだ。
するとそんな憂い顔のシャリオンにジャスミンは眉をしかめた。

「そんな顔しちゃダメよ!可愛いのだからもっと笑顔よっ」
「あ・・・はは・・・」

あまりうれしくない誉め言葉である。
きついコルセットに余計気分が悪くなりそうだ。

一時間ほど前の話を思い出す。

ジャスミンに話を聞いてから、「リジェネ・フローラルに行ってみたい」から「行かねばならない」という使命感に変わった。
キャロルに関しては口を出すなと言われその時は頷いたが、この建物内で起きたことはシャリオンに責任が発生する。
屁理屈かもしれないが状況を知る必要がある。
それに・・・もう一つの事情も。
あれからジャスミンに話されたのはとても信じがたい話だった。

『王城に努めるメイドが日中頻繁に出入りをしているわ』

城に努める人間の中にはゾルのように24時間休みが無い人間もいるだろう。
しかし基本的には休みがある為そのメイドが休日に使っているというのならまだ納得が出来る。
だが問題はそうではないのだ。
頻繁に休みを与える程、城勤めは楽な仕事ではない。
おまけに『メイド』という事は、王族の女性や側室のお世話をする使用人だ。
アシュリーが王族になった為に人員が足りなくなったメイド。
そこで急遽引退したロザリアが復帰し現在のメイド長と力を合わせて、人員を育てるという状態だというのに許せる話ではない。

ここまでメイドが足りなくなったのは、ルークが前婚約者との婚約を白紙に戻した為である。
揃えられていたメイドへ自主退職を募ったところ多くの人間が退職し家に帰ってしまった。
王城に努めるメイドはハイシア家と異なりすべてが貴族の娘である為、結婚の為に退職をしたのだ。
また、恨みが少なくないハイシア家の第一子という事もあるかもしれないが、だから適当にしていいという事ではない。
そもそもだったら募集に応えなければいい話なのだ。

正直そのメイドを突き止めてロザリアに突き出すとかは考えていない。
注意をして素直に聞いてくれればそれでいい。
アシュリーの世話係がいるのは受け入れがたいが、改心をしてくれるならシャリオンは目を瞑ろう。
勤怠を怠った者として、ルークやアンジェリーンに相談すればいいことだろうが、なんでも排除をしたらいいと言う話ではないからだ。

ところで、今「リジェネ・フローラル」に行くことはガリウスで思考共有で伝えている。
事情を伝える前に『赤蜘蛛の人間を屋敷に手配してあります』と言われた。
今朝、やたら『浮気したら駄目ですよ』と、念を押してきたことも含めて解っていたのだろう。
流石ガリウスだと感心しながら、シャリオンはジャスミンに準備を手伝ってもらった。

ガリウスとの約束で他者に肌を触れさせてはいけない。
約束があるので途中まで自分で着るのだが、渡された面積の少ない下着に「?」を浮かばせながら履くとスリップを着てガータベルトを身に着けた。そしてコルセットはジャスミンに締めて貰った。
それからペティコートを履かせられ、・・・あとはもうよくわからない。
ジャスミン曰く本来の社交の場で着るようなドレスに比べればカジュアルなものなのらしいが、ふわふわとかひらひらしたドレスは足元がさっぱりしすぎていて緊張してしまう。

こんなに頑張ってきたのにジャスミンの一言『コルセットはいらなかったかもしれないわね』というのは、完全に着終わる前ではなく、せめて絞めた直後に行ってほしかった・・・。

だが脱いで着替える時間はなく今も着たままだ。胸が開いたドレスではないのが救いである。
それから、よくわからない水(化粧水)やらクリームみたいのを塗りたくり、怖い顔をされながら『殆ど弄る必要が無いわね』なんて言われながら紅を引かれ、化粧を施された。

鏡に映る自分は見慣れないし心底気持ちが悪い。
なのに、ジャスミンはずっと『似合ってるわぁ~!』『はぁ?大丈夫よ。絶対誰よりも可愛いわ。・・・、今言ったことはガリウス様に秘密にして頂戴ね』とか、言われながら家を出れるくらいまでには気分が上がり、ここにやってきたのだ。
ちなみに、ワープリングを準備させたときのゾルとも顔を合わせたが、驚くほど何も言わなかった。
そんな事よりも、シャリオンの身辺警護の為に赤蜘蛛のメンバーにあれこれと指示をするのに忙しいようだった。

「(あれは・・・変過ぎて気を使ってくれたのかな)」

コルセットの息苦しさに出掛ける前のことを思い出す。
ざわめく周りの声に引き戻され、ついにリジェネ・フローラルへ足を踏み入れた。


★★★


中に入ると白を基調にした優しい雰囲気の空間だった。
花柄や草木の装飾は見事で、それがまた目が痛くならない様にコーディネートされているのが素晴らしい。
非日常に感じるそこは当然ながらいたるところに女性がいた。
やまない視線は諦めつつ、辺りを見回しつつもジャスミンを見上げた。

「まずは全体的を回ってみたい」
「えぇ」

経営の立場からしてどんな風に使われて、どんなものが求められているのかを知っておく必要がある。
まぁそれは3番目の理由ではあるが、ジャスミンにはあくまで館内を見たい体裁をみせる。
勿論、中に入ることなんてそうないのだから、これを気に見るつもりだ。

不穏な件に関しては、まず人物や事象の特定をしなければならない。
本当はキャロルのことももっと詳しく教えて貰いたいのだが、ジャスミンの様子から今は控えている状況だ。
まずは中の様子次第である。中の状況が酷ければジャスミンを尊重するというのも別の話である。
なお、ジャスミンには第2・第3のリジェネ・フローラルのような施設を作るのに、やはり内見をしておきたいと伝えた。勿論話の流れで本心はそうではないと察しているかもしれないが。

案内されながら歩いていく廊下は少し狭い。
この辺りの部屋を解放していただろうか?と、記憶の中の内部構造を思い出していると少し雰囲気が違う部屋があった。
あまり聞いたことは無い雰囲気の笑い声だ。
豪快で「あっはっはっは!」と聞こえるのは驚いたが、あまりにも楽し気でシャリオンは興味を示しその部屋に近づいた。

「!そこは」
「え?」

シャリオンを見るなりそれまで愉快に話していた会話はシンと静まり返り、一斉に視線を外された。
殺風景な部屋に6人掛けのテーブルが4つほど入るその部屋には沢山の人がいて、衣服を見るに平民だというのは解った。
気まずそう静かな部屋は『シャリオンのような者』が入ってはいけなかった様だと察した。

「ジャスミン。他の部屋に参りましょう。
皆さんお邪魔してごめんなさい。それではごゆっくり」
「!?」

硬くならない程度のお辞儀をし詫びて出ていくと、静まり返った部屋はドッと騒めきがひろがる。
全ての会話は聞こえなかったが、その中でも一番大きかった『お貴族様が謝った!?槍でもふるんじゃないのかい!?』というのには苦笑した。あまりにも大きい声で周りの皆に注意されていたけれど。
部屋から少し離れるとジャスミンが声を顰めて尋ねてくる。

「ごめんなさい」
「何故ジャスミンが謝るの?ぼ・・・私が入っていってしまったのだもの。止められないよ」
「彼女達も悪気があったわけじゃないのよ。自分達を守る為でもあるの」

恐らく彼女達は裕福な人間に怯えている。
それにジャスミンが庇うのを見ると大体事情を察することが出来た。
彼女達もいわば被害者なのだろう。

「うん。解っているよ」
「つらいなら私が報告するから」
「そんな顔してた・・・?」
「楽しそうではないわね」
「それは・・・まぁ。
それよりも入ってはいけない部屋があるなら教えて貰いたいのだけど」

利用しているところを見たいが、話しの邪魔はしたくなくてジャスミンに尋ねれば首を横に振った。

「いいえ。あそこが少し特殊なの」
「そう。わかった」

そう返事をした後、物陰から興味津々でこちらを覗いてくる少女が見えて手を振る。
目をきらきらと輝かせて話す子供の先に、シャリオンに気が付き真っ青になっている親が見え、続いて頭を下げようとするので首を横に振った。
王族でもないし、ハイシアの民でもない。
過剰に頭を押さえつけようとする様子は、きっと他の貴族に教え込まれたのだろう。

「規律を作るだけじゃダメだったね」

そう言うシャリオンにジャスミンは渋い顔をする。

「大丈夫。問題は起こさないから」

出掛ける直前、陰になる前のゾルが『何かあってもすぐに助けられないのだから行動は気を付けろ』と言っているのを見て、ジャスミンも心配しているのだろう。
 
しかし、こうなってしまったシャリオンは頑固で頷かない。

「大丈夫だよ。ぼ・・・私には心強い護衛がいるもの」

今は2人のゾルがシャリオンの影になっている。

一体どんな技なのだろう?そもそも今のゾルもドレスを着ているのかな?

なんて可笑しな事を思いつつ部屋を巡った。
ジャスミンに聞くと先ほどの部屋は一番貧困層の人間がいるそうで、あまり貴族は近づかない部屋だそうだ。

この狭い館内は縮図を見ているよう。
部屋が変わるたびに、話し方たや衣服、話している内容も変わっていくのが解る。

ジャスミンがとある部屋の前で止まった。
ここは平民がいて先ほどよりは裕福な部類だそうで、先ほどとは違い『話は出来る。・・・はずよ』というので中に入っていく。
1番最初の部屋よりは拒絶感はなく、シャリオンに驚くが会釈をしジャスミンを見ると安心した様に息をつくのが見える。

「ジャスミンは安心されているんだね」
「私はここで貴族ではないと言っているからよ。ここには仕立て屋とかデザイナーとして出入りをしているの」
「ふぅん。・・・、・・・もしかして、ジャスミンの事皆女性そう思っているの?」

暗に性別を差したのだがジャスミンにはしっかりと伝わったようだ。

「それはそうでしょうね。良いながら歩くものじゃないし。
そもそも。貴方に言ったのは伴侶様がとーーーーーーーーーても神経質だったからよ」

当時のことを思いだしたのか大げさに言うジャスミンに笑った。

「あははは・・・ごめん」
「いいのよ。今となっては面白いもの」
「ぼ・・・私も初めてジャスミンにあった時は楽しかったよ。あの明るさで救われた」

そういうと、ジャスミンは何かを察したようだった。
ジャスミンに仕立てて貰うとなったのに、謁見がなかなか叶わなかったのはシャリオンに心身のトラウマがあって知らない人、特に男性に会うのが怖かったのだ。
ジャスミンはどこからどう見ても『性別』を感じさせないのだが、あの当時は頭で『男』と思ったら恐怖を感じていたかもしれない。

「結婚前は誰でもそうなるわ。マリッジブルーと言うでしょう?」
「うん。うちに婿入りしてもらったのにね」

事情をある程度知っているはずなのに、軽く扱ってくれるジャスミンの心遣いが暖かった。
そんなジャスミンだからこそ、アシュリーが魔法を使えることも包み隠さず話、使う魔法にも制限を掛けていないのだ。
浮遊するのも大変珍しいそうだが、それ以上に変身をしたり双子内の思考共有出来たり人の心を読む能力。遠くの物を呼びよせる魔法は大変難しいらしい。ガリウス曰く、転移の魔法も出来るだろうと言っている。
黒魔術師の素質を持っているというのだから、それはたやすいだろうが。
何故信用しているのかと言ったら特に理由は無く直感的なものだ。
信じたいから信じている。
ミクラーシュのことは自己満足だ。信じたかった。
それは人を見るということをしなかったと言われたら辛いのだが、『裏切りを懸念して信じない』のではなく、『裏切られたらその時に判断し動くからその時までは信じたい』のだ。
この考えは何かしらのトップに立つ人間にしては相応しくないのかもしれないが。

「そういえばそうね。実は嫌だったの?」
「そんなことないよ!大切なパートナーだよ」
「ふふふっ知っているわ」

そんな風にシャリオン達が楽し気に話していると、数人の若い・・・というか幼い子供達が近くに寄ってきてはジッと見つめられるというのを繰り返す。

「???」
「今度ね」

何も発さないのでなにを求められているかよくわからなかったが、ジャスミンがそう言うと彼女達はお辞儀をして去っていく。
なんなのか尋ねてもそれに苦笑するだけで「何でしょうね」としか言ってくれなかった。
きっとまだ言いにくいことなのだろう。

「それよりも今はここがどんな状況か確かめる為に来たのでしょう?」
「うん。そうだけど」
「なら回りましょう♪それでここを沢山盛り上げましょうー!」
「ん??うん」

突然仕事意欲を出したのはよくわからなかったが、シャリオンは念願の館を回る。
おもてなしをする人間たちの所にも行った。
中はハイシアの人間が多く、ここに所属するにあたって顔合わせもしたものだから、数人はシャリオンに気付くと目が点になっていた。
そんな彼女達にシャリオンは自分の口元に人差し指を当てて『シーッ』と内緒にして欲しいアピールをすると、心得てくれたのか、一旦後ろに下がっていった。
多分、情報共有をしてくれに行ったのだろうか。

別の部屋に入ると1つの円卓でとても楽しそうに話しているのを見えた。
また近寄ったら逃げられてしまうと思うと近づきにくいが、彼女達からは話を聞くのは難しいだろうか。

その輪は周りより年齢が高そうだった。おそらくシャリオンよりも年齢が上であろう。
するとシャリオンの視線にジャスミンが気が付くとその輪に近寄って行った。
暫くしてジャスミンがこちらを向いて手招きをしてきた。
話が聞けるのだと思い嬉しくなって近寄るも、皆がこちらを警戒して見てきているのがわかる。
シャリオンは話を割ってしまった事を詫びた。

「ユーリアです。お話中ごめんなさい」
「ラーミアよ」

その中で1番発言権がありそうな貫禄のある女性がこちらをじっと見てくる。
不躾な視線は気分が良いものではないが、話を割って入って行ったのはシャリオンだ。
それにここに出入りする貴族の評判が悪い為、こんな反応になってしまうのは仕方がないことだろう。

「ジャスミン。それで何かよう?」

そうジャスミンに言いながらチラリと視線をこちらを見てくる。

「だから、そんなふうに見るのやめなさいよ。・・・はぁ・・・」
「あんま見ないお貴族様が一体何の様なのって聞いてるの」
「あんたっ」
「私からお答えしても宜しいでしょうか」

奮起するジャスミンを止めて、そうお伺いをするとラーミアはフンと笑ってこちらを見てくる。

「私達に許可など取る必要は無いじゃないの」
「貴女達は突然知らない人間が、断りもなくペラペラ話し出したら気持ち悪くはないの?」

シャリオンの言葉にラーミアの隣の女性が膝でこづいた。

「ラーミア」
「・・・はぁ。悪かったわ。少し気が逆立っちゃって」
「いえ。気にしてないわ」

シャリオンがそう答えるも、ジャスミンは気が治まらないようだ。

「ユーリア様はお心が広いからお許しくださったのよ!」
「悪かったってば。そういう人間かどうかは目を見れば解る。
それにあなたがそんな風に気を遣いながらも連れてきた相手という事は平気なんでしょう?
でなかったら私明日は生きられないわね」

その言葉にがっくりと肩を落とすジャスミン。

「・・・そんな事言いもやりもしないお人よ」
「ジャスミン、私が貴族だと言ったの?」
「いいえ。けど・・・」
「そんなのわかるわ!」

ジャスミンが答えるよりも前にラーミア達はケタケタと笑った。

「??」
「きているドレスが違うもの」

確かに最初の部屋にいた女性たちの衣服ですぐに平民だとわかった。
しかし、この部屋にいる人間はシャリオン達とあまり大差ないと思うのだが。
袖を掴み見るが首を傾げる。
やたらヒラヒラしていたり、色味が明るいと言う気はする。
・・・なんて、シャリオンは思っていたが実際は全然違う。
使っている布も、高い染色剤を使われているし裁縫も違うのだが、足首まであるスカートとに違いを見いだせてなかった。

「ユーリア様はあまりそう言うのわからない方なの」

残念そうに言うジャスミン。

「はぁ?自分で選んだんじゃないの?」
「ユーリア様はそう言うところにはこだわりないの」
「・・・ジャスミンの仕事のこと知ってるのよね。売れっ子デザイナーだからあなたを指名しているんじゃないの
しているんじゃないの?」

デザイナーであるのを知らないのかと思ったらしい。

「知ってるわ。・・・まぁ。その事は良いとして」

そう言ってジャスミンが合図を送るように、こちらを見てくる。

「質問をしてよろしいかしら」
「えぇ」
「この建物のことを聞きたかったのだけど、・・・その前に別のことを聞いても良いかしら?」
「答えられることならね。けど、お代を頂こうかしら」

対価を求められることにはなんとも思わなかったが、まさか即現金で求められるとは思わなかった。

「今手持ちがないので、後日届ける形でもよろしいでしょうか?」
「駄目」

取り付く島もないくらいの速さに困ってしまった。
これはで直した方が良いのだろうか。
いや。もしかしたら影のゾル達なら持っているかもしれない。・・・だが今は受け取れる状況ではない。
困ってしまった状況にジャスミンが助けてくれるようだった。

「ラーミアっ・・・、・・・はぁ・・・仕方ないわね」
「ありがとう。ジャスミン」

その言葉にジャスミンを見上げ、視線でお礼を言う。
正直なところ、お金を数えることは出来るし、金額を右から左に動かすこともお手の物だ(?)。
しかし、現金で支払いをしたことがあるのは本当に少ない。
それ故に今日も資金なんて持って来なかった。

「お金を払ってくれるならどっちでもいいわ」
「ありがとう」
「で、何が知りたいの?」

テーブルに肘を付き片眼を閉じながらこちらを訪ねてくる。

「ここにくる貴族で城に出入りしている人間と、規律を破っている貴族を知りたいのだけど、そんな人間はご存知ないですか?」
「2つも?随分欲張りね」
「難しいかしら」
「いいえ。城を出入りしている人間には当てがあるわ。
規律を破る・・・ねぇ。具体的にどんな事?」
「そうね。爵位を盾に暴力をふるうような人と言った感じかしら」
「・・・っ」

シャリオンの言葉にジャスミンが勢いよくこちらを見てくる。
キャロルのことを差しているとわかったのだろう。

「そういう方には近寄らない様にしようと思って」

ジャスミンはにこりと微笑んだのだが、信じてないような視線を向けてくる。
あまり彼の前で無茶をしては無いはずなのにな。と、思っているがジャスミンは気が気ではないようだ。
ラーミアはこちらを見てくる。

「本当・・・よ?」

あぁ本当に話しにくい・・・

そんな事を思っているとより一層に口調がおかしくなる。

「知てる。けど、・・・少し時間が欲しい」
「そう。それならまた来るわ」

悪事を働いている貴族をリークしろと言われてすぐには難しいだろう。
下手したら自分が危険にさらされるかもしれないという心配は誰でもするものだ。
信頼関係が無いというのにそんなことを聞いて教えてくれるはずがない。
彼女達からしたら全員貴族であり良し悪しなんてない。
そんな状態で信用が出来るのは金であり、前金を求められるかと思ったがラーミアは今は不要だと答えた。

しかし強気なラーミア態度だったが、おとなしく引き下がるとざわめきが起きた。
貴族だから気にしているのだろう。
そんな周りには気にせずにラーミアはつづけた。
聞いた情報はまだ教えられないが話せることが無いわけではないようだ。

「可笑しな貴族なら見たわ」
「どんな?」
「今日初めて来た子ね。先ほどの件と関係があるかわからないけれど」

どうやら年齢の若い貴族のようだ。

「あぁ・・・あの子ね」

テーブルに同席している女性がくすくすと笑いだした。
その様子は嫌な感じではなく、純粋に楽しんでいる感じであった。

「クロエとソフィアと知り合いだとは思わなかった」
「そう言えばあなたと同じ髪色と瞳の色だったわ」
「!・・・ユリのこと?」
「知っているの?あぁ貴族同士だものね」

ユリとはアシュリーの事である。
アシュリーをみて王女だと気付く者はいないだろうが、その造形はガリウスそっくりで貴族であることはすぐにわかるだろうと思い偽名を名乗らせるようにしたのだが。
どうやらここの部屋の人間にはそんなこと関係なかったようだ。

「ユリは失礼なことはしてなかった?」
「えぇ」
「そう。・・・まだ、幼い所があって変なところがあると思うのだけれど」
「変なところ・・・変なところだらけねぇ。
どこかのお姫様なんでしょうけど、あんなにぞろぞろと用心棒まで引き連れて現れて、子供につき合わせられるなんて気の毒ね」
「・・・あはは・・・」
「貴女も同類よ?」

どうやらラーミアは洞察力に優れているようだ。

「・・・でも悪い子では無いようだけど」
「えぇ」

シャリオンがそう返事をすると訝し気に眉を顰めるラーミア。
知り合いだというのは解っているだろうが、流石に血縁者には見えない・・・か?
だが、アシュリーを良く言われるのは嬉しくて笑みを浮かんでしまう。

「そういえば彼女も貴族・・・というか同じことを聞いてきたわね」
「え」
「『城で働くのをさぼっていることを馬鹿みたいに高らかに話している頭の足らない人間をご存じありませんか?』だったわね」
「っ・・え」
「ほぼそのままのことを彼女が言っていたわ。具体的な容姿も出していたから教えたけれど」

リジェネ・フローラルに行きたいと言った時はそんな様子はなかったのに、本当はそれが目的だったのだろうか。
ラーミアの良いぶりだと、アシュリーはそれ以上の情報を持っている様に感じた。
シャリオンが知っているのは、ジャスミンから教えられた情報だけである。

「・・・ふふ」

思わず笑ってしまうと怪訝そうにジャスミンが覗き込んでくる。
しかし、シャリオンには嬉しかった。
アシュリーがどこかで得た情報に疑念を抱きここに来たという事に。

「ユーリア様?」
「・・・ん。ううん。まぁなんでもないよ」

そこまで聞いて手を出すのはやめる事にした。
ここでシャリオンが動き、アシュリーの邪魔をするわけにはいかない。
アリア達がついているならまず身の安全はあるだろうし、誰なのか突き止めるのをアシュリーに任せよう。

「ユリに全面協力してあげて欲しいわ。だから私の方は申し訳ないのだけどキャンセルで」
「・・・、それは残念。けれど上げられる情報無いのよ」

そう言いつつもどこかホッとしている様子だ。

「そうなのね。・・・きっとユリならたどり着くと思うわ」
「・・・」
「なのでその件は良いのだけれど、規律を破っている人間を知りたいわ」

しかし、その安心はその言葉ですぐに曇った。

「揶揄っているの?・・・どう考えてもそっちの方が重い内容じゃないか」
「ごめんね。紛らわしくて」

シャリオンも解っていたもんだからクスクスと笑った。

「でも、さっきも言った通り今日が無理なら今度で良いわ。
それに、今日歩き回るからその時に見つけられるかもしれないし」

そういうシャリオンにラーミアは驚いた後ジャスミンを見た。
そんな視線を向けられてもジャスミンは『私は悪くないわ』と言い続けるのにクスクスと笑った。
恐らく見えないゾルにでも訴えているのだろう。

「それで本題を聞きたいのだけど。いいかしら?」
「えぇ。ここの事だったわね」
「うん。あなた達に今ここの不満を聞きたいわ」

初対面の人間が気にするのはおかしな内容に、ラーミアは眉を顰めた。
この建物がハイシア家所有のものと言えたなら良いのだろうが、ここでそれを言ったらこんな格好して潜入しているのが他の貴族に知られかねない。
遠縁を通せば良いのかもしれないが、聞かれるまで話す必要はないだろう。
それに、正体を明かし本当の声が聞こえなくなるのは困る。
どんな不満が聞けるのだろうかと、ワクワクする(?)シャリオン。
しかし。ラーミアから意外な答えだった。

「ないわ」
「え?・・・ぁ・・・別に悪いことを言ってもここの支配人に告げ口したりしないわ。・・・他のみんなは無いの?」

きょろきょろと円卓に掛けている皆を見渡すが、同様に首を振った。
でも、それは何か言いずらそうな感じはない。

「本当に・・・?」
「本当よ。ここは良いところ」
「・・・本当に???」
「疑り深いねぇ。・・・さっきのような貴族が原因?」
「・・・、・・・えぇ。どう考えても愉快な話ではないわ」
「それを差っ引いても、ここは安全なところなの」
「・・・、」
「嘘ではないわ。本当よ。・・・気温は一定に保たれているし、危険なことはない。何より仕事が取れること」

ここにはお茶や交友の為に来ていると思っていた。
しかし、それにしては年齢が高い女性もいる。
現にラーミアはシャリオンより歳上に見える。
それに・・・ラーミアは誰かと結婚しているのではないのだろうか。
そんなことを考えていると頭の中が混乱していく。

「ここの従業員はハイシアの人間が多いわ。けれど、それでも足りなくなることが多いの」
「!」
「仕事をくれるのはお情けかも知れないけどね。・・・現に従業員用の部屋を貧困の女達の為に開けているわ」
「!?」

そんな話聞いたこともなかった。
中に関しては各責任者に任せている。
何故教えてくれなかったのか?と落胆を感じてしまうが、ラーミアの話に今は耳を傾ける。

「お貴族様も気まぐれで仕事をくれるの」
「支払いをバックレる人間も入れるけどね」

そんな酷いに人間もいるのかと思いつつ、先ほどすれ違った子供達が一体何をしに来たのかわかった。
それ程仕事が無いという事なのだろうか?
国から手当はどうしたのだろうか。

「手当は・・・」
「??」
「国から出ているはずでしょう?」
「あぁ・・・あれね。そんなのあっと言う間よ。女が生きていくにはとにかく金が必要なの」

その言葉に息を飲んだ。

「ギルドには行かないの・・・?」
「武術が使えたり魔法が使えるならその手もあっただろうけどね。
殆どないわ。
結構危険なものが多いし、そもそも私達は文字も読めない。
だからカウンターで聞くしかないのだけれど、何度も行っていると邪険にされるしね。
最近では新顔の女は入口で弾かれるくらいだよ」
「・・・、」
「女性保護なんて金が持っている奴らが本の気まぐれでしているだけ。
核で子供を授かれるんだから、女なんて弱くてなんの使い道にもならないさ。
・・・て、ここで世話になっているのに可笑しな言い草だけどね。
でもここ以外はそれが現実」

その視線は貴族であるシャリオンも軽蔑にもにた視線を感じた。
軽視出来る内容ではなく、考えるところはあるがシャリオンはその話題に今は触れずに飛ばした。
シャリオンが『良くしたい』だなんて言っても彼女達には響かない。
そんな事よりも結果で返すのが一番に思えたのだ。
憂う心に留まらずに一歩を進ませたい。

「文字を読めるような学校があったら行きたい?」
「はぁ?行きたいか行きたくないかじゃなく『行けない』んだよ」

不快そうに言うラーミア。
学べる場所を作ろうかと思ったのだが、先ほどと反対の言葉に眉を顰めた。
読みたいけど勉強したくないといっているのかと思ったのだ。

「ユーリア様・・・そこに金銭が発生するなら無理よ」
「あぁ。そういう事か。文字の読み書き程度ならお金は取らないよ」

疑心暗鬼の眼差しにブルーリア伯爵の言葉を思い出す。
彼女達もタダで何かをしてもらうのは警戒するだろうか。
この『リジェネ・フローラル』の運営の資金は実のところ貴族の娘達が優雅に時を過ごせば過ごすほど潤っており、ここも厳密では無料ではないのだ。

「その代わり働いて貰いながらという形になるけれど。
2割・・・1割くらいは賃金から割引く感じかな?」
「「「!!」」」
「それと場所はハイシアになるけどワープゲートあるから良いよね?」

そんな風に言うと部屋の中が騒然となる。
まさかそんなに皆が驚くとは思わなくてシャリオンはビクついてしまう。
皆がこちらに真偽を確しかめるかのようにこちらを凝視してくる。
シャリオンがラーミアを見ていると、その視線はラーミアに注がれる。

「えぇ。ワープゲートがあるもの。・・・場所は・・・問題じゃないわ」

言葉に攻撃的な態度が抑えられたように感じる。
シャリオンにはハイシアを守るべき使命がある。
その為にも領民に職を与えるのは当然の事なのだが、目の前の必死な人たちの目を見て決心をする。
これから第二の施設を作る予定もある。
本気で仕事を探しているのだとわかる。が、今すぐにはこんな沢山の人間の支援は出来ない。

「あ・・・でも・・・ごめん」
「っ・・・」

そう言ったところで失望の息がつかれる。
それはそうだろう。

「今すぐには難しいんだ。あと半年後くらいにはなるかな・・・」
「「「!!!」」」
「っ・・・半年待てばやってくれるの!?」
「うん。それまでには少しずつ雇う事は出来ると思うけれど、教えることが出来る教師を抑えるのと受け入れる体制が無いから、大勢となると半年後かな」

シャリオンがそう言うとホッとした様に息をつく女性たち。

「まぁ・・・ここはお茶を楽しむところだけど、貴女達が望むなら教える者を連れてこようか?」
「っ・・・、・・・えぇ。知りたい。文字が読めるようになりたいわ」
「わかった。まずはその人を探してきて、準備できたら知らせるね。
その時までにもし気が向いたら、ここの何が良くて、悪いのかをもっと教えてくれると嬉しいな。
あぁ。でも甘くつけなくていいよ」
「・・・えぇ」
「じゃぁ、ぼ・・・私はまだこの中を回らないといけないから。・・・失礼させていただきますわ」

なんて噛みそうになりながら、そう言うとシャリオンはその部屋を後にするのだった。

★★★


ラーミア達の所から離れると、別の部屋に入るがどこも似たような感じだった。
全体がこんな感じなのかと思っていると、ジャスミンはそれを汲み取ったのか雰囲気が異なる場所へ連れて行ってくれた。
『ある意味私の仕事場ね』と、笑うジャスミン。
どうやら流行りのイメージはここでの得ているらしい。

室内装飾が華美になったような気がする。
シャリオンはこの建物が出来た時はあまり口出しをしなかったから、中の状況をあまり解っていないのだ。
何気なくあたりを見ているとジャスミンが教えてくれる。

「ここから先は少しテイストが変わっているでしょう?
なんというか・・・貴族が好きそうなというか、貴族らしいというか」
「あぁまぁそうだね。屋敷とあまり変わらない感じがするね」

シャリオンからすると先ほどの部屋の方がいつもと違い興味深いものがあった。
しかし、絨毯になるとこんなに歩きやすくなるのかと思った。
高さの低いヒールだが改めて思う。

「絨毯は全館敷くようにしようか」
「えぇ。そうね」

そんな話をしながら周りを見て歩いていると、今度はジャスミンを贔屓にしているという侯爵家のナタリー夫人に紹介される。シャリオンも会ったことがある女性だったが今は『ユーリア』として挨拶をした。
気付かれないかヒヤヒヤとしたが、ナタリー夫人は幸いな事にシャリオンだとは気付かなかったようだ。
こんなところに男が入るわけもなく、そう気付かれることはないと変な自信も付いてきた。

「ごきげんよう」
「ごきげんよう」

カテーシ―を返す。
ちなみにシャリオンは女性の手順もしっかりと頭に入っているので完璧だ。
にこりと浮かべる微笑は、優し気で気品のある振る舞いである。
空いているソファーを勧められ、ジャスミンと共に掛けた。
周りに女性がいない為に正しい年代は解らないが、シャリオンより少し上くらいだろうか。

本当はラーミアに聞いたように『爵位で圧力をかけるような人間がいないか?』というのを聞きたいのだが我慢して、まずはたわいもない話をする。
前から来てみたかったが周りに女性がいない為に、ここに出入りしているというジャスミンに連れてきてもらった事。ここでの様子などを聞いた。

「そうね。夜会などは殿方が多くいらっしゃるし、夫人としての役目を果たさなければですが、こちらでは女性同士でお話が出来るのがいい所ですね。
良い意味でも悪い意味でも羽を伸ばせる場所ですわ」
「そうなんですね。・・・ですが、旦那様といらっしゃりたいとかはございませんか?」

そう言うと、夫人はクスクスと笑った。

「ユーリア様はご結婚されているのね」

どうやら寂しくないか?と言う言葉に取られてしまったようだ。
シャリオンとしては今後は性別関係ない施設を作りたいと思っていてその意見が欲しかったのだ。
頬が熱くなるのを感じながら頷いた。

「っ・・・えぇ」
「そうね。・・・旦那様とと言うのも勿論あるけれど・・・。
ここは閉じ切り過ぎるかもしれないわね」
「どういうことですか?」
「先ほど言ったでしょう?羽目を外しすぎてしまうと」
「はい」
「女性が少ないからこそ、目が少なく度を過ぎることをする人がいるのだけど、それを振り返らずに気にしない人間が一定数いるみたい」

そう言いながらシャリオンを見てくる。
なんだかこちらに訴え掛けられているような気分だ。
シャリオン自身なのだから、顔を見てハイシア家のゆかりあるものだというのは解っているとは思うが。

それとも、『だから公爵に伝えて』という事なのかな?

相手の真意を確かめるように質問をした。

「それは困った事ですね。・・・ここの責任者に伝えてみてはいかがでしょう。
どなたかご存知ですか?」

シャリオンの言葉に驚いた後にクスクスと笑う。

「そうね。存じ上げているわ」

隠していないのだから当然と言えば当然なのだが、やはりそうだったかと思いながらも、シャリオンに苦笑を浮かべる。

「子供ではないのだから告げ口のような真似は。と」
「・・・、」
「けれど・・・少し注意したことで、やり口が巧妙・・・というか陰湿になってしまって」
「!」
「これ以上悪質になるようであれば必要だとは思っていたのです」
「その方を聞くのは難しいのでしょうか」
「してない罪をあげることは出来ませんわ」

シャリオンを信用していないという事なのかそれらしいことを言う。
怪訝に思っていると、シャリオンの心情を汲み取ったのか補足してくれるジャスミン。

「もういないのよ」
「え」

その表情をみると見たことが無い、無表情な様子だった。
つまり、ジャスミンがキャロルを虐げた人間を教えてくれなかったのはそういう事なのだろうか。

「もうここには来なくなってしまったの。
社交の場でも殆ど見かけなくなってしまって。・・・結婚して家に入ってしまったのかしら。
そんな噂は聞いて居ないのですけれど」

悔しそうにしながらもため息を吐いた。
家に入ってしまえば、手を出しにくくなる。
だが、不穏なことを続ける。

「でも・・・その後も似たようなことをする人間がいる様子なの。
だから・・・今度こそ、その人間を突き止めてご相談するわ」
「そう・・・なのですね。・・・貴重なお話を教えていただきありがとうございます」
「いいえ。・・・あまり無理をなさらない様にお伝えください」
「・・・、」

やりきれない思いを胸に秘めながら、シャリオン達はお礼を言うとその場を立つのだった。


★★★


ジャスミンの得意先にその後もいくつか回った。
ここの評判を聞きつつもおかしな人物がいないか探した。
シャリオンに考慮して人を紹介してくれているようで、芯のしっかりした聡明な方が多かった。
例の件にも気づいており胸を痛めているようだった。

それに比例してシャリオンの中に疑問が膨らんでいった。

話を聞けば聞くほど、何故問題として挙げてくれなかったのか思いが募るが、それと同時に『女性として生きる事』に闇を感じた。
貴族の彼女達でさえ男性には勝てないというのが解る。
いや・・・。
彼らに言われたらそれが正しいことだと考えている節がある。
注意出来ない最終的な理由はそれぞれの家で言われているのだろう。・・・そう察した。

「・・・なんで、そんなことをするのだろうね」

他者を力で制圧する行為が好きではない。
シャリオン自身もされ心に深い傷を負ったから余計にそう思う。
そう言うのを好む人間がいるのも理解しており、その為に『爵位や権力で他者に圧力を与えない』というルールを作ったというのに。
そういう事をする人間も好きにはなれないが、それ以上に規律を破る行為に嫌悪する。

「ユーリア様・・・」

思い悩むシャリオンに心配げに声を掛けてくる

「・・・、・・・これはつまり・・・試されているという事なのかな」
「っ・・・」

シャリオンは本気でそう言ったのだが、ジャスミンはずるりとこける。
そして苦笑をした。

「ち・・・違うと思うわよっ?」

言い回しに不穏な空気を察したのか焦るジャスミン。
 
「ふぅ・・・、これだけ回っていないのだから、今日は来ていないか、もうそういう事を考える人が少なくなったのかもしれないわね」
「・・・、」

いないなら良いことのはずなのに釈然としない。

「大丈夫。見つけたら今度こそ報告するわ」
「・・・うん」

毎日ここに来れるわけではなく結局はそうなってしまうのだろう。
だが新たなやることが出来た今、これにだけかまけているわけには行かない。
最後にこの中でも上流とは言われる貴族たちが集う一角があるらしく、そこを覗いて行こうと思った時だった。

広間の方から騒ぎが聞こえてきて、ジャスミンと顔を見合わせる。

「なにかしら」

2人は声がする方に向かって足を動かす。
するとそこには、取り巻きを引き連れた令嬢とアシュリー達だった。
アシュリーもアリア達を引き連れているのでそれなりの人が集まっている。

シャリオン達の場所からはアシュリーの声は良く聞こえずぎりぎりの場所まで近づいた。
遠巻きに人が集まっているから気づかれることはないだろう。

「聞いて居るのですかっっ」

令嬢がそれもこんなに人がいる前で叫ぶことに驚いてしまう。
それも話している場所はホールのようになっており彼女の声だけ響いている。
しびれを切らしたのかその女性がアシュリーに近づこうとするも専属の護衛に止められた。
アシュリーの前には斜め前には今止めた専属の護衛と、左隣にはサファイア右隣にはアリア、背後にはクロエとソフィアの2人がいる。

「あら・・・私に仰ってるとは思いませんでしたわ」

そう言ってアシュリーはニコリと微笑んだ。
そんな様子に噛みついてきた女性は息を飲む。

「っ・・・どこの誰なのですか!」
「ジル」

短く答えたのは護衛だ。
どうやら要注意人物と認識をしたのか、アシュリーには近づけまいとしている。
しかし、それがまた癇に障ったらしい。

「貴方に聞いておりませんわっ私はそこの方に言っているの!!」

何故そんな興奮しているのかと思ったら、こんなやり取りを何度かしているらしいことを周りの令嬢たちの囀りで解った。
そして彼女がどんな人物なのかも少しわかった。
どうやらあまり見ない貴族を見つけると、取り巻きの1人に引き込むというのを良くしているらしい。
後ろの女性達もあまり顔色は良くなく、嫌々ついてきているのが解る。

「大体、新参者の貴女が生意気なのです!私がせっかくだからルールを教えて差し上げようと思いましたのにっ」
「・・・はぁ。・・・いちいち怒鳴らないで下さいませんか?
きんきんと耳障りですわ」
「!!!?」
「しゃべるなとは言ってないわ。淑女らしくしていただきたいのです。
声のボリュームを下げて下さいな。他の方にもご迷惑が掛かりますわ」

にっこりと微笑むアシュリーは、気後れする様子が無い。
それに周りがひそひそと話している。

その話をまとめてみるとうっすらと話が見えてきた。
どうやら、今アシュリーに突っかかっている令嬢は、見ない貴族を見ると近寄りとりまきにしようと画策しているらしい。

「っあなたがそうさせているのです!!さっさと家の名前を仰いなさい!!」

今の声は大分響いた。
騒ぎを聞きつけて集まってきた女性が多くなる。
平民の女性たちも覗きに来ているのが見えた。

「・・・まずいわね」
「え?」
「って、まずいでしょう?」
「あの子の事なら大丈夫だと思うよ」
「・・・、」

見ていると焦った様子もない。
何よりアシュリーは自分の身を守るだけの強さがある。
魔法を使えなくする魔法?などが無い限りは無敵なのだ。
それに今朝もしっかりとアシュリーにおまじないはかけているのだから、おかしな魔法が掛けられることはない。
アリア達は護衛としているけれども、どちらかというと相談役である。
そんな理由から落ち着いているシャリオンにジャスミンの方が驚いている。

「なにかあったらすぐにでも帰ってくるよ。そう言い聞かせているから」

アシュリーにだけはシディアリア産の転移の魔法道具を持たせているから、室内からでも転移が出来るのだ。
正直なところアシュリーとガリオンは転移を使えるかもしれないと思い始めている。
それをそろそろ明確にした方が良いかもしれない。

「・・・、」
「て、何を急に黙り込んでいるのよ」
「ん?ううん。なんでもないよ。もう行こうか」
「いいの?見ていかなくて」
「うん。後で何があったか教えてもらうから」

そう言うとシャリオンは踵を返した。
あの女性は家格を持ち出し自分の取り巻きに引き込んでいるのは大方間違いがないと思う。
しかし、アシュリーがぶつかった困難なら、まずはアシュリーに立ち向かってもらいたい。
勿論とても気になるところではあるけれど、シャリオン達はそこから遠ざかろうとした時だった。

「貴女・・・アイリスと同じ目に合わせるわよっ」

その言葉にシャリオンは思わず振り返った。
それは、先日の夜会でルークに側室に入れ欲しいと訴えた貴族で男爵家の娘だ。

まさか・・・彼女の事?

アイリス・アップルトン。城に勤めるメイドで城でも一度見かけたことがある。
ネイビの髪で髪を後ろに纏め、意志の強そうな眼差しだった。
通常ならよっぽどのことが無い限り城勤め中に社交の場には出ないだろうに、アップルトン家はどういうつもりなのだろうか。

「それは爵位をたてに脅していると受け取ってよろしいかしら」

深いため息をつきながらそんなことを言うアシュリー。

「ちっ・・・違うわ!私はたとえ話を」
「私の耳には『同じ目に合わせる』と聞こえましたけれど。
最近お城のお勤めで登城もなさってないのと関係があるのかしら」

アシュリーを見たことが無いために完全に舐めていたのだろう。
アイリスが登城することが出来た人間だと知っていることに驚いている。

「っ・・・貴女・・・メイドなの?」
「いいえ」

怪訝そうに答えるアシュリー。

「っっ・・・そ・・・そうよね!私貴女をお城の中で見たことが無いもの!
貴方達は・・・え?」

同意を求めようと後ろを振り返った女性に、取り巻き達は一歩足を引かせた。
そしてアシュリーを見たかと思うと、口早に『私本日家での用事がありますので』と、まばらに帰っていくのが見えた。ガリウスにそっくりだという事に気が付いたのだろう。
1人消えもう1人とぞろぞろと消えていくことに慌てる女。
それがどうしてか気づいていない者だけが残り、原因であるアシュリーを睨む。

「っ・・・」

取り巻きを引き連れて歩くことがステータスだったのだろう。
そう言うタイプの人間を見たことがあるシャリオンは冷めた目で見ていた。
しかし、自ら尻尾を思い切り振りだしてきてくれた人間をアシュリーがどうするの気になった。

「私とても得意なことがありますの」

突如話し出した内容はお茶でも飲みながら自己紹介をするような口ぶりで始めるそれに、いらだたしそうに歯向かってきた。
アシュリーはそれには構わずににこりと手を差し出すと、そこには一枚の板が見る見る間に生成されていく。
そして・・・。

「そっくりでしょう?」
「!!」

魔法で作り上げたその板にはどうやら何かが描かれているようだ。

「ふんっそれがどうしたというのです!」
「これをロザリアに渡したら面白いことになると思いませんか?」
「!!!!!!」

それを見た女と残った取り巻き達は首を横に振った。

「ユリ。待って。それはここのルールを破っているわ」
「・・・、そうね」

がくがくと震え真っ青になった女は足元を見る。
サファイアに指摘されたアシュリーはため息を吐いた。

「ち・・・違うわ・・・私だけじゃ」
「・・・けれど・・・そうね・・・。貴女がこのまま自分がいるべき場所に戻り素直に彼女へ謝罪し、心を入れ替えるなら、これは廃棄しようかしら」
「!!」

ここでは権力をかざして相手に圧力を与える行為は禁止されている。
正直なところ権力をかざしているわけではないが、問題を起こしたことには変わりない。
止めてくれたサファイアに感謝をする。

すると、女は一瞬シャリオンの後方にある部屋を見たが、しばらくして了承した。
それから残った数名を引き連れて出ていくのを見るとふぅっとため息を吐いた。

「ふぅ。終わったみたい」
「・・・随分楽観視しているのね」
「聞いて居て不愉快だけどどうしようもないでしょう?」

初めて聞く人間には気にする内容かもしれない。
それよりもこの状況をどうするのだろうと見守っていると、アシュリー達はその広間につくとソファーに掛けた。
そこにはピアノがあってそれに掛けるのはクロエとソフィア。
何をし始めるのかと思ったら、彼女達はピアノを弾き始めたではないか。
それにはシャリオンも驚いてしまったのだが、その腕前は素晴らしかった。
どうやらこの騒ぎを落ち着かせるために、クロエ達がかって出てくれたのだろう。
彼女達の腕前はプロと言っても過言ではない程で、野次馬に来ていた者たちもその音色にうっとりしている。
ひそひそと『今日は演奏が聴けたわ』と、囁いているのを見るとどうやら彼女達は何度かここで弾いているのであろうことがわかる。
たしかにこの空間は無音だ。
演奏があるのも楽しみ繋がるだろう。

「音楽隊を置くのも良いかもしれないね」
「・・・、・・・、・・・あなた・・・今の見てそれなの?」
「ん?・・・うん」
「・・・、」

そういうシャリオンにジャスミンは苦笑をする。
だが、シャリオンはアシュリーが丸く収めたことに嬉しく思うのだった。

★★★

それから、部屋を回るも貴族の部屋は3つに大きく分かれた。
シャリオンに本当に貴族なのか疑うものと、やたら美しいと絶賛してくるものと、シャリオンにそっくり(?)だとすり寄ってくるものだ。
目を輝かせてこちらに迫ってくる。

「ハイシア家の方ですか?」
「とくにシャリオン様に似てらっしゃいますわっ」

「え・・・えぇ。遠縁にあたる者です」

シャーリーは伯爵家の家の出の者だが、女性がいないことに安心をしつつそう答えた。

「やっぱり!」

そういうときゃっきゃと騒ぐ女性達。

「可憐・・・いえ・・・凛々しくてでもいいえっ・・・あぁっなんて言葉で言い表したらいいのっ」
「お名前を聞いてもよろしいでしょうか」
「あら!あなたっまずは自分から名乗るのがどおりでなくって!?」
「あぁっそうですわねっ」
「ハイシア公爵にお近づきになりたくとも、男性方が陣取っておりますし、それに伴侶様がとても厳しくて」
「前公爵もお厳しいですわ」

社交会では常にガリウスが隣に居てくれるが、それはガリウスのことを言っているのだろうか。
厳しいというのは意味が良くわからない。

「どのようなことをされたのですか・・・?」
「されたというか睨まれると言った方が正しいのですけれど。
それにお話したくともシャリオン様がお1人になる事はありませんでしょう?」
「・・・、どのようなお話があるのですか?
公爵にお話があれば手紙を出していただければお話は行くかと思いますが」

そんなにしたい話があるのだろうか。
今の今までシャリオンの元にはそのようなことは一度もなかった。
ゾル達は手紙の中身は確認するが破棄するという事は無いと思うのだが、もしかして止めてくれていたのだろうか。

「そんな。大それたお話ではありません。ここを建てて頂いたことや、楽しくお話をしたいだけですわ。
私がもう少し歳が上なら婚約の申し込みを致しましたのに」
「あら!私だって婚約の打診をさせていただきましたが、断られてしまったのですよ?
貴女には無理です!」
「まぁ!・・・ひどいわぁ」

心の底から思っているわけではなく冗談を言い合っているようだ。
それ程仲が良いのだと思う。

「公爵はやはりお忙しいのかしら」

そう言ってシャリオンを見てくる。
それにしても自己紹介をしていないのによくこんなに話してくるものだ。
同性だからなのだろうか。
少々驚いてしまうがあいまいにうなずいた。

「未婚の方と2人で会うのはその方の評判を傷つけてしまうので」
「まぁ・・・私達のことを考えて下さってのことなのね」
「私なら公爵となら問題がおきても気にしませんのに。
次期宰相との仲が良いのは伺ってますし、第一婦人でも構いませんわ!」
「そうね。第一子であられるアシュリー様は王女殿下になられて、弟君のガリオン様は次期公爵という立場ですけれど、領主と兼業というのは大変でしょう」

その気迫はなんだか怖いものを感じてしまい、思わず後ずさる。
しかしじわじわと迫ってくる気配に女性相手に圧を感じてしまった。
このままここに居てはその場を取り持ってくれと言われかねない空気である。
思わずくるりと踵を返すと駆けだしていた。

「そう言ったことは私にはわかりかねます。申し訳ありません。この後予定があるので失礼いたしますっ」

普段は毅然として振る舞う事を常に心がけているが、向けられる好意(?)に恐怖する。
足早に立ち去ると後ろから『お待ちになって!』と、言う声に早々に逃げ出した。
しつこく追ってくる彼女達だったが、ヒールを履いているようなのは助かった。
このまま逃げ切ってしまおうと、どこかの部屋で隠れ逃げ切ろうとして入ったところで人とぶつかってしまう。

「わぁっ」
「きゃぁっ」

咄嗟にその彼女の手を掴み後ろに倒れそうになるのを腰を抑えて引き留めた。
倒れないことにホッとしていると、彼女はこちらを凝視しているではないか。

「っお怪我はありませんか」
「・・・」

この女性も見覚えがある。
ショッキングピンクの髪に薄緑の瞳、髪型はトレードマークの縦ロール。
エリザベト・ヴレットブラード侯爵令嬢である。
彼女を自分で立たせ謝罪はそこそこに逃げ出そうとしたのだが、手を掴まれてしまった。

「お待ちになって」
「っ・・・申し訳ありません。どこかお怪我でもありますか?」

こんな風に追われることはなかったので気が動転してしまっていた。
ぶつかった令嬢に確かに不躾だったと、シャリオンは向き直る。

そこにまた見覚えのある女性、フィロメナ・ユングストレーム伯爵令嬢だ。
此方は甘栗色の髪と瞳を持ち、ハーフアップで後ろに流しており、トップにはふんわりと編み込まれた髪がまとめられているのがこだわりなようだ。

「いいえ。たいしたことはないわ。でも少々痛むの。・・・お詫びにお茶を楽しんでいきませんか?」
「あらあらまぁまぁ」

おっとりとした声色の女性・・・フィロメナがくすくすと笑いながら、こちらのやり取りを見てきていた。

「足が痛むわ・・・。でも一緒に居てくれたなら治る思うのだけれど」
「・・・、はい」

前方不注意でシャリオンのせいである。
結局それから5杯も飲まされてようやく解放されたが、そのころにはほとんどの人間が帰宅した後の様で、シャリオン達もこの日は帰る事にした。



★★★


王都にあるハイシア家の屋敷。

ついてすぐさま資料をかき集めた。
領地にいるゾルとの意見を交換しながら働き手を求めるような窓口に至急募集を掛けた。
それ共に、複数人雇い教えられる人間を探す。

・・・教える人間はアリアの所を頼れないかな

リジェネ・フローラルに入るには女性である必要があるからだ。
そして受け入れられる場所を作る事の為である。
第二のリジェネ・フローラルを王都に作る気でいたが、この分になるとハイシアで作る方が良いかもしれない。

「敷地がな・・・」

ジャスミンが作ってくれた案と、地図をみながらもんもんと悩むシャリオン。
そうしていると心配気なゾルが覗き込んできた。

「・・・休んだらどうだ」

眉間に皺を寄らせている。

「アシュリー様かガリオン様をお呼びしなければならないか?」
「!」

子を授かった時は魔力補給をしていたから自動的に休む時間があった。
産まれた後も気に詰めていると、子供達と触れ合わせて気を紛らわせたりしていたのを思いだす。
シャリオンにとことん甘いゾルは他に八つ当たるように悪態をつく。

「あの男にも困ったものだ。もっと止めてくれても良いものを」
「あー・・・僕が悪るかった。・・・ごめん」

そうさせてる自覚があるのでジャスミンに渡された魔法道具を置き手を止めた。
『休め』と言われれば、確かに疲れているのを思い出した。
疲れているのを忘れるくらい集中していたのだ。
休憩するためにソファーに行こうと立ち上がると、ふりふりとした袖の着いた服に気が付いた。

「あ」

すっかり着替えるのを忘れてしまっていた。
丁度いい。もう脱いでしまおうとストールを取る。
すると、そのあたりでシャリオンの様子にゾルが退出した。
それを何とも思わなかったのだが、衣裳部屋につくなり直ぐに呼び戻す事になる。

「ゾル。ごめん、ちょっと手伝ってもらいたいんだけど」

この服は自分で脱ぐ事が出来ないからだ。
ジャスミンを返してしまったのは失敗だったなんて思っているとゾルは思ってもみない返答をする。

「無理だ」
「え」

そんなこと言われたのは初めてで驚いてしまう。
聞き間違いはないようで、それもゾルは機嫌が悪そうだ。

「今手が離せない」
「え、あぁそう。・・・なら、もう1人出てきてくれないかな」

いつも1人は影となりシャリオンのそばにいてくれる。
そんな彼は背後に現れたようで背後で返答する。

「無理だな」
「わぁっ・・・びっくりした。。後ろから急に出てこないでっ」
「悪かった」

後ろに現れたゾルを見上げるとクスクスと笑った。

「ゾルも忙しいの?」
「あぁ」
「そうは見えないけど」
「俺はいついかなる時も、シャリオンを見ていなければならないからな」
「?ならそうしながらでもいいから」
「まぁどうしてもと言うなら良いが」
「!おい!」
「そうなると浮気した事になるんじゃないのか?」
「は?」

再び全く思っても見なかった言葉に魔の抜けた声がでる。
これはそうなるのだろうか。
訝しそうにゾルをみる。

例えばもしガリウスだったら?と、置き換えて考えてみるがそれでもやはり浮気だと感じず眉を顰めた。
もしガリウスがシャリオンと同じ状況でもシャリオンはその事でゾルに嫉妬したりしない。
仲良さそうに話し肌をさらけ出し意味あり気に視線を交わす。・・・と、いうのなら別であるが。

ガリウスはやきもちやきだが、そこまではないだろう。

「大袈裟だな」

そう言うといつも着いてくれているゾルは溜息をつき、今しがた現れたゾルは苦笑した。

「まぁ。そうかも知れないがガリウスの奴を待っていた方が安全だ」
「こんな格好見せたくない・・・」
「そんな格好になりたがったのはシャリオンだろ」
「それは少し意味合いが違くなってくる」

意地悪気に言うゾルをキッと睨む。

「ちゃんと相談したシャリオンに自分を押し殺して、お前のお願いを聞いてくれたんだ。
これ以上ご機嫌を損ねると後々面倒になるのはシャリオンだ」

こう言う時のゾルは合っている。
だが、思わず袖を上げる。

「ひらひらして仕事しにくい」
「ふっ・・・ガリオン様のところに行くか?」
「なんでリィンの所に?・・・嫌だよ。・・・今回仕方なく着てるけど、僕は格好よくありたいんだ」

意地の悪いことばかり言うゾルを睨む。
しかし、この時ゾルの言う事を聞いていて良かったと心底思った。

★★★

城で働く人間の就業時間は大抵決まっている。
その時間にもう間もなくだと思った頃。
ガリウスが屋敷に着いた。
いつもより早い時間に驚きそちらに向かうが、何だか様子がおかしい。

「あー・・・やっぱり変だよね」
「えぇ。似合いません」

その言葉にホッとしつつガリウスに近寄った。

「疲れているのに変なもの見せてごめんね」
「いいえ」

ガリウスが手を伸ばすとシャリオンの髪を手に取ると口付けた。

「・・・、」
「誰にも触れられていませんか?」
「うん」
「どこにも?」

笑顔なのにどこか恐怖を感じてしまう。
真っ直ぐに見てくるアメジストに緊張しながら振り返る。

「誰にも、・・・」

そう言いかけて、ヴレットブラード侯爵家の令嬢とぶつかり手を握られたことを思い出す。
あれは不慮の事態であり、ガリウスが疑っているケースではないだろうと思いなおした。
しかし、そんなことを考えている時の目の動きを察知してガリウスがピクリと動く。

「本当に?」
「まぁ、かるく」
「・・・」
「ぶつかってしまって」
「したのですか」
「何を・・・?ち、違うよ!相手は女の子だよ?アリアよりすこし歳上くらいの子にぶつかっただけ!」
「小さかろうが、年寄りだろうが関係ありません」

ピシャリと言い放つガリウス。
これは不味い。
誤魔化したりはしたくないが嫉妬させてしまっては、次がなくなってしまう。

「怪我はさせてない・・・よ?」

小首を傾げながら尋ねれば目を細くされる。
そんなのじゃないのはわかっているのだが、なんて言っていいかわからなかった。
すると、ガリウスはシャリオンの前でしゃがみこみ後頭部が見えた。
どうしたのかと思っていると膝裏に腕をあて強く関節側に押されると、ふらついた体はガリウスの腕と胸に飛び込んでしまう形になり易々とたたておこ抱えられた。

「っ」

驚き見上げるがガリウスはこちらには視線をくれず真っ直ぐ見ている。

「が、ガリィ?あのっおろしてっ」

急な事に驚きそう言うがガリウスの腕は強くなる。

「重くない?」

普段簡単に抱き上げられてるが、今日はたくさん着込んでいるしいつもより大変だろうに。
気を使ってそう言うと、「まったく」と帰ってきた。それはそれで複雑である。

寝室に連れていかれるとベッドの前におろされた。胸元からハンカチを取り出しこちらをみてくる。

「どこに触られたのですか」
「触られてないよ。
肩にぶつかって、倒れそうだったから手を掴んで腰を支えただけ」

両肩をハンカチで拭き、その後は手を拭かれる。
ゴシゴシと拭くそれにガリウスを覗き込む。

「彼女達からしたら同性に見えたのだからそこまで気にしなくとも」
「・・・」
「はぁい」

どうやらガリウスはそう思ってないようだ。
その視線に抵抗はそこまでして素直に受け入れる返事をした。
今度はその手を取ると手のひらに口付けられる。

「!」

キスを繰り返し時折舐められる。
こちらをじっと見つめながらそうされるとぞくりと震えた。
ガリウスが女の感触を消そうとしてるものだと気づきもせず、その唇に触れられるたびに震えた。

「・・・が・・・りぃ」

名前を呼べば漸く止まってくれる。
こちらをみてくる視線にシャリオンは震える。

「キス・・・するなら、ちゃんとしたい」
「・・・」

そう訴えるとガリウスはシャリオンの唇に少し強引に口づける。
いつものような甘いキスとは違い余裕のない様子に慰めたくとも、逆にその荒々しさに余裕のなくなっていくシャリオン。

「はっ・・・ふっ」
「・・・着替えは1人でしましたか?」 
「コルセットを・・・絞めてもらうのだけ」
「・・・・」
「けど、コルセットはいらないって話になったから、・・・もう大丈夫」

そのセリフは二度目があるという事で、それを察知したガリウスの眉がピクリと動いた。

何か言わなければ

そう思ったのだが、ガリウスの顔を見た瞬間その気も失せた。
強引にしたキスの所為かガリウスの唇に当たりに口紅がべっとりついていたのである。
それは間違いなく自分のものだと解っているのに、女性がつけることが多いこのアイテムに不快に感じた。
自分でも制御できない感情で咄嗟に自分の服の袖でそれを拭こうとする。

「どうしたのですか?」

しかしその腕は寸前の所でガリウスに止められてしまった。

「・・・口紅がついてしまったんだ」
「・・・、・・・、・・・」

長い沈黙を使った後、ガリウスはフッと笑った。
自分はぶつかった相手にすら嫉妬したというのに!

「笑いごとじゃないよ!」
「でも。・・・これは貴方のでしょう?
・・・、・・・キスをされてその相手のものというのなら別ですが」

そう言いながら徐々に怒りを滾らせ、瞳孔を開かせシャリオンに嘘がないか探るようにじっと見てくる様に、沸いたはずの怒りもなくなってしまう。

「してない。良いから・・・それ拭いて欲しい」

それでも、ムぅっと拗ねた様に言うとハンカチでそれを拭い取った。
何度か繰り返しハンカチにつかなくなるのを確認する。

「どうでしょう。とれましたか?」
「・・・うん」

そう返事をすると再びシャリオンを抱き上げる。
そしてそっとベッドに下した。
どうやら機嫌は直ったようなのだが。

「っ・・・そんなひょいひょい持ち上げたりしなくても」
「この方が早いので」

たった数歩だと言うのにおかしな話である。
頬を撫で襟の隙間から手を差し込んできた。
わざと敏感な皮膚を悪戯する。

「ん・・・っ」

触れられるだけでその気になっていく。
ぞくぞくと震えながら期待の眼差しを向ける。
たったこれだけでガリウスを求める自分はなんてあさましいのだろう。
なんだか恥ずかしくなってくる。
ちらりと見上げるとガリウスの様子が少し違い、装飾の下の隠しボタンを外していく。

「が・・・ガリィ・・・あの、その前に体を清めていきたいのだけど」

しかし、にっこりと微笑むガリウスはボタンを外し続ける。

「シャリオンにお願いがあるのです」
「え?・・・あ・・・うん」

昂った体を隠したいのと、昼間いつもより動いた為体を清めたいのだが沐浴したいというシャリオンには華麗に無視をする。
しかし、シャリオンは『お願い』という言葉に耳を傾けた。

「私の心が狭いことは知っていますね」
「?・・・うん」

頬を撫でながらアメジストの瞳が光る。

「ですから私が安心できるようにしていただきたいのです。・・・ダメですか?」
「・・・何をしたら良いの?」
「していただけますか?」
「うん・・・」

『何を』とは言わないガリウス。
しかし、シャリオンに対して悪いことをしないのは解っているから疑う事はなかった。

「特にリジェネ・フローラルに行くときは2つのことをしていただきたいのです。
・・・本当はいつもしてもらいたいのですが」
「何をしたらいいの・・・?」

そう言うとニコリと微笑む。

「まず。帰ってきたら今日のようにそのままの衣装で居て下さい」
「え?・・・、・・・ドレスを着たまま・・・ということ?」
「えぇ」
「何故・・・?さっき似合わないって言ってくれてたから気に入っていたわけじゃないよね?」
「・・・申し訳ありません。嘘を吐きました。
正直なところ貴方がどのような格好でも愛してしまいます」
「・・・、」
「先ほど何故あのように言ったのかは・・・、・・・他の人間がこの姿を見ていることに、我慢ならなかったのです。
それで・・・貴方にもうこの姿にはなって欲しくなかったのです」

つまり嫉妬したからというガリウスに苦笑を浮かべた。

「似合ってないよ」
「本当に?美しいだとか綺麗だとか言い寄られなかったですか?」
「それはリップサービスだよ」

頑なに認めないシャリオンだが、ガリウスがニコリと微笑んだ。
・・・先ほどから浮かべられている笑顔はなぜか怖い。

「・・・ごめん」
「シャリオンが謝る事ではないです。それに事実なのだから仕方がないですよ」

あまり容姿の事や、家を意識した露骨なすり寄りが嫌いなシャリオンは、ガリウス以外に褒められても苦痛なだけであり話を逸らした。

「それで・・・なんでドレスのままでなければならないの?」
「悪戯されていないか確かめるためですよ」
「はい?悪戯?」
「はい。・・・して下さるんですよね?」

念押しで行ってくるガリウスに、断れる雰囲気はなくしぶしぶコクリと頷いた。

「けど・・・ドレスでいることで安心が出来るの?」

そう言いながらガリウスは服の上から撫で始める。
シャリオンは何をされているか全くわからなかったが、布に汚れが無いか確かめているのだ。
痕跡が残っていないかじっくりと撫で、上半身を脱がすガリウス。
着重ねられたドレスを脱がしながら、コルセットの留め具に手を掛けるとゆっくりと引いた。
少しずつ緩まっていく感覚になぜかゾクリと震える。
それから紐を緩ませられるとホックをすべてはずされ、徐々に裸にされていくとうっすらと跡がついていてその後をガリウスに撫でられる。

「!!?」
「どうしたのですか?」
「っ・・・なんでも・・・ない」

咄嗟にそう答えるが、困惑してしまう。
何故なら感じてしまったからだ。
その後も跡を撫でられながらから首筋や背中、二の腕や腹などをくまなく見られる。
この時点でも『女性にされる悪戯=性的な悪戯』だと気付いていないシャリオンは体をくすぐったいとくねらせた。
しかし、ガリウスは止まってはくれず次は下半身にうつった。

ドレスを撫でていく。
簡易的なドレスな為スカートをふんわりとさせるクリノリンは無く、布を手繰り寄せめくっていくとニコリと微笑みながら見えない圧を与えつつシャリオンに裾を差し出した。

「持っていて下さい」
「え」
「確認するのに布があると邪魔なのです。お願いします」

そう言われて何を確かめているのかわからないまま裾を抱きかかえた。
ガリウスはシャリオンの足を開かせた間に入ると靴を脱がし、つま先からゆっくりと撫でまわしていく。

「っ・・・くすぐったい」
「もう少し我慢してください」
「っそれに・・・汚いから」
「貴方に汚い所なんてありませんよ」

膝に口付けながらガーターベルトがパチンと外される。
ストッキングを脱がされながら跡を探しながら撫でまわされることに、我慢するというのは敏感なシャリオンにとっては拷問に近い。

「ぁ・・・、」

膝を立てられ開かれる。
くすぐったさと恥ずかしさに内股が震えるが、それを止めるように手で押さえられた。

「よく見えないのでこうしていて下さい」
「っ」

勃ち始めたモノが下着を押し上げている様はなんともいやらしい。
ガリウスの視線がそこに釘付けになっているのが解ると恥ずかしくてたまらなかった。
抑えようとするのにシャリオンのモノはヒクンと震え、あまつ濡れてきているではないか。
それを目視した時は羞恥のあまり頬が急激に熱くなった。

「・・・。下着も女性ものを付けているのですね」
「っ・・・これ・・・そうなの!?・・・そういう・・・物だって言われて」
「そうなのですか。・・・しかし、大きくして濡らしては駄目です」
「っ・・・がりぃが・・・そんな風にさわるから・・・っ」
「確認中なのにわからなくなってしまうでしょう?」

そういいながら股間の奥に手を伸ばせられ下着越しに撫でられる。
痛くはないが少し強く手を動かされると腰がぴくぴくと動く。

「・・・なに、確かめてる・・・の?」
「・・・悪戯されていないか。・・・ですよ」
「!??!?」

そこまで言われてようやく何なのかわかって驚いてガリウスを見つめるが、いたって本気そうな表情に呆気にとられてしまった。

「じょ・・・・女性がそんなことするわけっ」
「女性とは言え欲望があるものですよ。それに女性同士でも子を成せるのですから、それにあたりもとめられる可能性だってあります」
「!?」
「シャリオンを疑っているわけではなく、すべてを疑っているのです」
「な・・・そんな・・・本気で、・・・言ってるの?」

言葉が途切れたのはガリウスの手がシャリオンのモノを下着越しに握り始めたからだ。
短い駆動でゆっくりと動かされる。

「本気です」
「っ・・・っ・・・がりぃっ・・・する前に・・・まって」
「なんでしょうか?」
「確認して・・・どうだったの?」
「勿論大丈夫でした。しかし行くたびにチェックをしますよ?」
「ぅ・・・うん・・・、・・・わかった。
それで・・・あともう一つは?」
「簡単です。この下着の下に貞操帯を付けて下さい」
「てい?!・・・っ・・・そ・・・そんなもの・・・」
「大丈夫です。ドレスなので気にする必要はありませんし、痛い事もありません。・・・普通なら」

不穏なそのセリフである。

「普通なら?」
「・・・ここを大きくしなければ大丈夫です」

そう良いながらガリウスの手の中のままにあるモノにチュッと口付けた。

「そんなこと、・・・ガリウスとじゃなきゃならないよ」
「なら大丈夫ですね。
それに貞操観念の低い輩がいなければ大丈夫な話です」

貞操帯の意味はわかるが見たことがなく、本当は付けたくない。
付けるという事はつまり女性に襲われる事を警戒していると言っているようなものだ。
だが・・・ガリウスが安心すると言うならば頷いた。

「・・・わかった」
「鍵はその夜に外しましょう」
「うん・・・」

不安気に頷くシャリオンに体を起こすとちゅっと口付けた。
ペロリと唇を舐められて薄く口を開けば入ってくる舌。
そして、ゆるゆると扱き始めるとあっという間に硬度を増していく。
ドレスの裾を抱き抱えながら、自ら足を開きガリウスに扱かれる度に喜ぶ体は、なんて恥ずかしい体なのだろう。
そう思うと余計に興奮する。

「はぁ・・・ふぅっ・・・っこれっやだぁ!」
「何故ですか?・・・可愛いですよ」
「どこがっ・・・んっふぅっ」
「では・・・やめましょうか」
「!」

ジッと見つめてくるその意地悪な視線。
きっとガリウスの目には落胆している自分が映っているのだろう。
悔しくてふいっと顔を晒すとその首筋を食まれた。

「ぁっふぁ・・・ぁ」

舐めたり吸ったり。時折当たる歯にさえゾクゾクとする。

「が、りぃ」
「好きに動かして下さい。・・・腰動かせるでしょう?」
「っ・・・」

その言葉に動かしてくれないことに絶望しながらも、熱くなった体はこの状況を楽しむかのように求めた。
動かし慣れてない動きにぎこちない。
でもガリウスの手に突き上げるように動かすと気持ちよかった。

「ぁっ・・・ガリィっ」
「あそこにいる人間の手ではこんな風に出来ませんからね」
「っ・・・わかってっひぃぁ!」

なんてこと言うのかと反論しようと思ったのに乳首に口付けられた。

「ここにも・・・付けましょうね」
「!?!」
「前に言ってくださったでしょう?付けて良いと」
「い、た・・・けど」

人前で恥ずかしい事になるのは嫌だ。
そう訴えるシャリオンにガリウスはニコリと微笑む。

「大丈夫です。私以外に感じないように練習をしましょう」
「?!い、嫌だ!誰かに見せるなんてっ」
「そんな事あり得ません」

それにはホッとしつつもこんな風に感じる様にしたのはガリウスだ。
抵抗しようとしたのだが。

「一緒に頑張りましょうね」
「・・・ぅん・・・」

なんて言われてうなづくしかなかった。
その練習とやらが始まったのだが、それが少し大変だった。

いつもは尿道を愛撫する触手を使い男根を戒め、乳首を弾いたり叩いたりする。
触手でもガリウスの作り出す魔力であり、動かしているのはガリウスである。
その為に感じてしまうのは当然だ。

「私ではなく他人にされてると思ってください」
「!・・・や、だぁ」

思い浮かべると半泣きになるシャリオン。
しかし、続いてどこから取り出したのか手に持っているのは男根を模した張り方だった。たっぷりと香油をぬりたくられたものを手渡される。
それを渡された嫌でもわかった。
後ろも自らの手でなんとか解した。
ガリウスのものじゃないと思うだけで心が冷める。
無意識にガリウス胸に擦り寄ってしまって、ハッとした。
今にも泣きそうになりながら体を避けた。

「離れて・・・」
「・・・、」
「側にいたら、・・・感じちゃう」
「!・・・すみません」

そういうとそろりと離れたガリウス。
遠ざかる熱にこれが本当に必要なのかと、今更になって悩んでしまう。
だが、ガリウス以外に感じたくないと言うのは、シャリオンも同じである。

硬くて冷たいモノを捻り込むと香油の力を借りて簡単に入っていく。
ゾワゾワと鳥肌がたった。
ガリウスだったら入れただけで溶けてしまう程感じているのに。
挿れて抜き出して、また挿れかけて、そこで手が止まってしまう。
すると、ガリウスがギュッと抱きしめてきた。

「もう十分です。よく頑張りました」
「っ」

その言葉に縋り付くように抱きついた。
しっかりと抱きしめられると安心した。

「・・・この練習は辞めましょうか」
「ぇ・・・?」

辞めてくれるのは嬉しい。
ベッドの上の抜け落ちた張り型に目をやる。

「・・・いいの?」
「えぇ。貴方が私以外には感じないと言うのはわかりました。それに、貴方が他のものを入れているのも、他の人間に抱かれていると想像していると思うのも、想像以上に神経がすり減るのがよくわかりました」
「・・・もー」

張り型を使うように言ったのも、ガリウス以外を想像するように言ったのもガリウスだ。
苦笑を浮かべながらその唇に口付けた。

「ガリィ・・・」
「えぇ。今からはシャリオンの好きな事をしましょう」

そう言うと口付けられる。
舌を絡められ吸われると声が甘くなっていく。

「はっ・・・ふっ・・・!、もう、解し、た」

キスをしながら下着を指でよけながら、シャリオンの尻の穴に触れる。

「熱くなってます」
「っ」
「ここはもっと優しくほぐしてあげないと駄目なんです。
・・・痛くはないですか?」
「な、・・・いよっ、・・・それに、ガリウスの方がしてるのだから、当たり前っ」
「そうでしたね。・・・ここはどうしたら良いのか知っているのは私だけで良いですね」

上機嫌に言いながら縦に指を動かしそこを何度もなでた。
ヒクヒクと忙しなく動き出す穴は、ガリウスに与えられる刺激を欲しがる。
ガリウスの上に跨ると再びドレスの裾を持つように言われた。
そうすると前をくつろげ始めるガリウスに息を飲んだ。

「そんな、に」
「貴方のそんな姿をみて何も思わない筈ないでしょう」

そう言いながらその猛ったものをシャリオンの穴に擦り付けられる。

「はぁぅっ・・・」
「シャリオン。ショーツを抑えて頂けませんか。・・・これでは挿れられないようです」
「!」

恥ずかしいが片方の手を股間に伸ばすと、ガリウスのモノが入りやすくするために下着をずらした。
するとすぐさまあてられたのだが、指の近くに熱く硬いものが当てられた。
それに興奮して吸い付くようにガリウスのモノに動くのがわかる。

「が・・・りぃっ」
「えぇ。もう、良いですよ」
「んっ・・・っぁ・・・あぁぁ」

熱く猛ったモノがシャリオンの体重の力を借りてズズズっと入ってくる。
ゆっくりと押し入れ漸くガリウスの腹の上でペタリと座り込むと、へにゃりと笑った。
入れるだけで満たされる幸福感。
シャリオンはドレスを持っていた手を離すと、体を伸ばしガリウスの唇を啄む。

「はっ・・・ふぅっ」

キスに夢中になりながら腰をくねらせ、快感を感じ取ると腰を上下させた。
あまりうまくは出来ないが、素直に感じて良いと思ったらいつもよりも甘えた声がでた。

「ぁっんっ・・・っ・・・が、りぃっ・・・気持ち、いい・・・は・・・ふっ」

腰を動かすたびににちゅにちゅと音が響く。
淫らに甘えるシャリオンは可愛くてたまらない。
理性などとっくにすり減ってきていた。
ガリウスはシャリオンの背後に腕を回すとドレスの裾を手繰り寄せ、その柔らかい尻を鷲掴むと抜けるくらいの抜いた後、一気に差し込み最奥の入り方をグリグリと捏ねられた。

それに全身に快感が巡りピュッとドレスの内側を汚したが、シャリオンは気付かなかった。
ちかちかと目の前が光り快感に揺れていると、強い締め付けにガリウスが待ってくれたのは数秒だった。
リズム良く前立腺を怒張で擦り付けてくる。

「ひぃぁぁっ」
「いいですか、シャリオン。
私以外にこんな風になったら絶対に駄目ですよ」
「んんんっわか、わかったからぁっまっうごかっ」
「約束、出来ますか?」
「っ出来るっ・・・出来るからぁっ」
「破ったら・・・練習を終えて、リジェネ・フローラルに行かなくなっても、貞操器具を着けますからね」
「!?っ・・・
「わかりましたか?」
「んっつけて、いいっ・・・っだからぁっ」
「もっと奥を愛して欲しいのですね」

そう言うとグンと腰を突き上げる。

「~~~っ!」

ハクハクと口を動かしている小刻みに腰を打ち付け、そして振動を始めるそこに堪らなくなった。

「ひぃあぁぁぁっやぁっ・・・ぶるぶるっまたぁっ」

逃げそうな腰を押さえつけられてしまい快感から逃げられない。
核が振動を始め今日もシャリオンの快感を煽った。

「ぁぁっんっ・・・ぁ!・・・ひぃあ!」

止まらない甘い鳴き声。

「・・・核に感じてるのですか?」
「ぁっ・・・はぁ・・・くぅ」

尋ねられても最奥に入っていくるのに、答えられる訳がなかった。

「ぁっ・・・ぁっぁぁぁぁっ」

大きなカリがメリメリと押し込まれるとたまらなかった。


「が、りぃっ・・・」
「シャリオン。教えて下さい」
「ちがうっ・・・違うからぁ!」
「本当に?」
「ガリィのだからっっ」

その言葉に喜ぶような微笑む姿にホッとした。
その瞬間、最後の太いところがズッポリと嵌め込まれた。

「っ~~くぅぅぁっ」
「っ」

いつもこの瞬間は怖いのに、それを超えた途端押し寄せる快感。
体勢を変えられシャリオンがベッドに押し倒されると、ガリウスの動きが止まらなくなった。

「ぁっ・・・んっあぁぁ・・・ひぃぁっ」
「シャリオン・・・っ・・・愛しています」
「!っぼ、くもっすきっ」

愛を囁きあいながら絶頂に向かって動き続けた。
ガリウスの腹に精を吐き出すのと同時、自分の中に注がれる熱に幸福を感じてるシャリオンの耳元で囁く。

「まだ終わらないですよ」
「!」
「大丈夫。・・・明日一緒に魔法を掛けますから」
「っ・・・ん」

愛液と精液でドロドロになった下着の中で、再びシャリオンのモノは硬くなり始めるのに時間は掛からなかった。


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