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執着旦那と愛の子作り&子育て編
うれしい1日。
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その日の目覚めはいつもと違い眠気もなくすっきりしていた。
それは気分が浮かれて眠れなかったからなのだが。
ふとぬくもりをくれる方へそろりと視線をやった。
目を閉じたままのガリウスに触れたくなるのを抑えながらベッドから出る。
毎日遅くまで働いているのに、もう間もなく起きる時間で起こすのは気が引けたのだ。
窓辺に近づきテラスの扉をそっと開くと外に出た。
早い時間に空気はしんと静まり、大地の音しか聞こえない。
それでも起きている人間を証明するかのように、城下街のところどころから炊事の煙が上がっているのが見える。
その光景を見ながら背伸びをした。
浅い眠りを繰り返し寝返りが出来ずにいた体は、いつも以上にパキパキと音が鳴ったように感じる。
外の清々しい空気も相まって気持ちよさを感じだが、朝の冷たい空気に肌寒さに腕をさすっていると音もなく暖かい腕に包まれる。
この気配以外なら驚いただろうが、シャリオンが唯一わかる気配に顔を上げると、美しいアメジストが朝日を浴びて一段と輝きを放っていた。
「風邪を引いてしまいますよ」
「ガリィ。・・・おはよう。
この状態ではガリィが寒いでしょう」
「シャリオンがいれば暖かいです」
「そう言うことではなくて」
「寒いですか?」
そう言うことでは無いのだが、そう覗き込んでくるガリウスはどこまでもシャリオンを心配している。
ガリウスはシャリオンの事に限っては、どこまでも甘く自分よりもシャリオンを優先する。
ここで言い合っても意味がないしそれよりも部屋の中にシャリオンが入った方が解決に繋がる。
それに、実際ガリウスに触れられていない頬なども暖かい。
「ううん。・・・起こしてしまった?ごめん」
目覚めてどんなに静かにベッドから出ても気づかれてしまう。
それはつまり、ガリウスがそれほど繊細なのだろうと思い寝室を分けることを提案をしてみたことがあるのだが、全力で拒否をされた。
沈痛な面持ちで『気配が邪魔なら気配を消しますから側に居させてください』と言われてしまっては、今まで通りでいいと言うしかないだろう。
それから今日まで変わらないでいるが、やはり起こしてしまうのは申し訳ない気持ちになる。
それでもガリウスはいつも通り笑顔で首を横に振った。
スッと視線を逸らしたのはシャリオンに罪悪感を感じさせない為だろう。
「いいえ。それよりも王都はやはり違いますね」
ガリウスの視線につられて街並みに戻す。
今まで忙しさと現実逃避から、王都にある事がわかる窓の外を見ないようにしていた。
貴族街が立ち並び堺のように緑が続いた後、建物が徐々に小さく数が多くなっていく。
それはハイシアよりもなだらかで広く続いている。
街並みを眺めながらいずれここを収めることになるアシュリーを思い浮かべた。
今日で一歳になるが、凄まじい成長をこれまでしてきた子供達。
それはまだまだ続くのだろう。
「そうだね。あまり窓の外は見ないけど」
アシュリーが女王となる日が来るのならば、彼女のために国全体のことを考える事が必要なのかもしれない。
そう思いシャリオンもガリウスのように、子供達に何かをしたいと思うのだが、考え始めて暫く経つがいい案が思いつかない。
金や土地があって困るものではないが、いざと言う時にしかさほど意味を成さない。
シャリオンはここにきて、上辺だけの付き合いに後悔した。
親友はライガーとルークしかいない。
最近はアンジェリーンとも仲良くはしてもらっているが、彼らに助けを求めるにはいかない。
友人は量より本当に親しい人間だけで良いと思っているのだが、それに困る日がくるとは思わなかった。
・・・いや、そもそも助けてもらう為に友になるというのはどうなのだろうか?
打算的に考えてしまった自分の思考が嫌になり、そしてまた振り出しに戻る。
自分が何も持っていないことにうんざりしながら遠くを眺めていると、抱きしめる腕が強くなった。
「肩の力を抜いて下さい」
「・・・ガリィ」
「眉間に皺が寄っていますよ」
「っ・・・ほんとう?」
恥ずかしくて思わず額を隠すと、素直な反応にクスリと笑った。
「冗談です。
・・・アシュリーのこと考えていたのではないですか?」
「!・・・ちょっとだけね。
でももう養子にすることを嘆いてたりするわけじゃないよ。
あの子達に何が出来るのだろう。・・・て」
アシュリーもガリオンも大切な子供達だ。
これから先の障害を取り去る事は当然出来ないが、なるべく苦労はさせたくない。
「頑張り屋ですね」
「そんな事ないよ」
そう答えるもあまり信じてくれて居なそうな表情に苦笑した。
「子供達はシャリオンらしくある事を望んでいると思います」
「・・・、」
「私の願望だけではありませんよ?」
クスリと笑ってみせるガリウスにシャリオンは苦笑した。正直なところ少し疑ってしまっていたからだ。
変に忙しくしてはガリウスの心配ごとが増えるのだろう。
「あの子達は貴方に形が残る何かをしてもらいたいとは思っていないでしょう
ハイシア家にいるなら尚更私達に力は欲さなくても、彼等の潜在能力を糧に十分な人材になります。
それに、素質だけでなく努力をすることを知っています。
それにあの子達が唯一欲しいのは貴方からの愛されている事実です」
「・・・そんなの、当たり前のことじゃない」
「つまり、そう言うことなんです。
そもそも私があれこれしているのは、シャリオンのためというの勿論ありますが、レオン様が言ってくるからです。
私としてはあの子達が助けを求めるまで見守るスタンスでいたのですが、初孫に浮かれているのです」
そう言って小さくため息をつくガリウスに過保護にあれこれ言ってる姿を思い浮かべて笑ってしまった。
「ですが、そのおかげでであの子達には幸い手助けをしてくれようとする人間が徐々に増えています」
それは解る。
しかし、それは全てレオンやガリウスの集めた人間だ。
そんな事を思っているのが分かったのだろう。
ガリウスはシャリオンを言い聞かせるように問う。
「なにか1つの作業・・・、そうですね。
例えば谷に橋を掛けるあたって、力がある作業員とそれの後方支援がいたとしたら、偉いのは作業員でしょうか」
「・・・それは・・・」
「後方支援はいつでも仕事があるわけでもありません。しかし、それはさぼっているわけでは有りません」
唐突に替えられた話題の真の意味はシャリオンにも通じ、シャリオンはコクリと頷いた。
「話は同じです。
・・・親として難しいことでしょうが、私がどれだけしてシャリオンがどれだけしたからどうと言う話ではないのです」
「っ・・・」
「それに以前も言いましたが、・・・私にはどうしてもないものがあります」
「え?」
なんでも出来てしまうガリウスに、そんな言葉が信じられない。
思わず体を捻り見上げると困ったように眉を下げている。
「シャリオンは嫌うと思いますが、公爵家の権力は貴方にしか使えません。
・・・そう言う意味で言えば、少し頑張ってたらわないといけませんね」
ガリウスの指摘通り人によって態度を変える人間が好きではない。
以前であれば遠ざけていたが、子供達の為にも避けてばかりでは居られないということなのだろう。
「それよりも出来ないことは、子供達を1番に考える事です」
「・・・、」
「私もあの子達を愛しています」
そう言いながら腕を回す強さがつよくなった。
「ですが・・・、貴方がなによりも大切である事は譲れません」
「・・・知っているよ」
もう何度も言われていることにシャリオンは苦笑した。
それなのに話題に出しシャリオンの反応を見ている。
だがそうさせているのは、やはりシャリオンなのだ。
「ありがとう」
「・・・すみません」
シャリオンがどう思うかなど解っているし嘘を吐き隠すことなど容易いだろうに。
嘘が嫌いなシャリオンの為にそう言ってくれているガリウスの頬を撫でる。
「謝らないで?冷静になれた。
あの子達が頼ってきたときに、万全にしておくのが僕の出来るかとだって」
やけになってるでもなくそういえばガリウスはホッとしているようである。
「もう一年・・・。あっと言う間だね」
何が?などと言わなくとも解っている。
「えぇ」
「あの子達にとって今日が楽しい日になれるように、最高の日にしてあげよう」
「えぇ」
それから2人で暫く王都を眺めていると、耳元でささやかれる。
「・・・そろそろ中に入りませんか?」
シャリオンはコクリと頷くと手を引かれるながら部屋の中に入っていった。
握られた手は離されることがなく、外から見えない所まで入ってくるとピタリとと止まったガリウスの瞳をみて何を求められているのか分かった。
シャリオンは笑みを浮かべながら背伸びをすると、ちゅっと口づけてくる。
甘えてくるそれに拒否をすることはなく、応えているとますます動きが大胆になる。
ガリウスに求めらえることにはすべて応えたいのだが、これ以上は止まらなくなってしまう。
「ぁっ・・・っ・・・・が・・・り」
もっとして欲しい気持ちと困ってしまうその気持ちに揺られながら、その名前を呼び留めるとシャリオンの表情にやり過ぎたと謝りながら額に口づけられるのだった。
★★★
それから数時間後。
王都にあるシャリオン達の屋敷に帰ってきた。
誕生パーティーの為にいつもより華やかに飾り付けられた屋敷。
夜会ではないことやささやかな規模で行われる為、出入りする人間は最低限である。
楽しげな音楽は録音された魔法石に、客人をもてなす手の込んだ料理を作る料理人も顔見知りの者のみ。
全てに手を抜かなずに迎えた誕生会。
来客は親しい者達を招待したのはおめでたい場に水を差されたくなかったからだ。
勿論警備の観点もある。
今日この日のパーティーにはお忍びで王家と大公家揃って参加するのだ。
騎士団から人間が派遣されたのだが、すべてハイシア家支給の制服に着替え警備に当たる。
普段、屋敷の周りにはウルフ家の者が2名で巡回をしている所に人数を1人ずつ増やす。
露骨に増やしたなら誰か来ているのかと推察される。
王城から近いこの場所は隣の屋敷も見える箇所があるほど近い。
屋敷内にも警備がつくがくれぐれも目立たないようにと伝達している。
アシュリーの周りには先日の騎士や、ハドリーから戻ったアリア達が付いている。
万全の準備をし迎えた誕生パーティー。
子供達はこの日の為に、ジャスミンに作ってもらった可愛らしい衣装に身を包む。
夜会のドレスとは違うのにキラキラ輝いているようだ。
間違いなく親馬鹿なのだろう。
眩しいものを見る目で2人をみつめる。
「初めて沢山の人と会うけれど怖くはないからね」
「「はい。ちちうえ」」
落ち着いて答えるが2人は楽しみしているのがわかる。
そんな2人にクスリと笑みを浮かべると、ガリウスと共に招待客を出迎えた。
暫くすると会場には招いた客人で満たされた。
そんな彼らも子供達の姿に気づくと微笑ましいものを見るようににこやかに笑みを浮かべている。
シャリオン達は子供達に手本を見せるようにもてなす。
初めて社交の場に出た時より緊張したかもしれない。
「今日はお忙しい中、子供達の為に足を運んでいただきありがとうございます。
我が公爵家に輝かしい希望が誕生し、早くも1年が経ちました。
本日は通常よりも大分早いですが皆様にご挨拶をさせていただきたいと思います」
デビュタントは勿論、身内以外に人に紹介するには大分早い年齢だ。
集まった客人達の多くは親馬鹿だと思っているだろう。
今日誕生を祝うパーティーをすることになったのはルークの計らいだ。
養子になると公表されたら、表向きアシュリーはルーク達の子供になり関係は他人になる。
その前に誕生会をするべきだとルークから提案してくれたのだ。
でなければ、家族だけで済ませていたし、やったとしてもホストは公爵であるレオンがする所だろう。
子供達の為に何かをしたという機会をくれたのだ。
「さぁ。2人とも。皆さんにご挨拶を」
赤子がそんなことを出来るわけがないだろうにと、そんなシャリオンの微笑ましい所を見てクスクスと笑う様子はそれまでだった。
「「はい。父上」」
「「「!!」」」
聞こえてきたのは赤子の発する意味のない言葉ではなく、はっきりとした言葉だった。
ピタリとざわめきが消え、皆が2人に視線が集まった。
「ハイシア公爵家、次期当主シャリオンの娘、アシュリー・ハイシアです」
「同じく、ガリオン・ハイシアです。
父上のような領民に愛される領主にれるように努めますので、宜しくお願いします」
どうやら、シャリオン達の前ではまだ甘えていたらしい。皆に向かって話すその言葉は一層にきびきびしている。
本当に将来が楽しみである。
シャリオンは2人の出来にすぐさま褒めてやりたいが、しんと静まる来客に視線を戻す。
その反応は解っていたことである。
ハイシア家やガーディナ家、それにアルアディア家の者以外は息を飲んだ。
2人はそんな反応に失敗をしたのかと不安気にした。
シャリオンは2人を覗き込むと微笑み視線だけで褒めてやると、少し落ち着いたようだ。
「みなさん。ご覧頂いた通りまだ拙い所もありますが、宜しくお願いします」
「「っ!」」
満点の挨拶だがシャリオンがそういうと、皆はっとしたように慌てて拍手が起きた。
「ご謙遜を。とても素晴らしい挨拶でした」
「ですが、本当に1歳なのですか?」
「いや、素晴らしい。ご両親に似て勤勉家なのでしょう」
上がる声の中には疑う者も居るが想定内だ。
寧ろシャリオンが逆の立場ならそう思ったいた。
子供達が話せるのは魔力が高い事もあるらしいが、
それを『神童』や『異常』という言葉で片付けられなかった事は嬉しく思った。
そう思いながらホッと胸を撫で下ろす。
王家とハイシアの両家と親しい家しか呼んでいないから、そんな露骨な態度を取るものはいないとわかっていても、やはり不安はあった。
シャリオンは我が子可愛さに素晴らしいとしか思えないが、冷静に一歩引いて見れば赤子が流暢に話していれば気持ち悪いと思う人間もいるだろう事はわかる。
人は自分より優れた能力を持った人間は2種類の感情を持つものだ。
その事から2人の才能は隠すことは何度も迷った。
王にしても公爵にしても人に怯えさせては、務まらないし、人を遠ざけることはより2人の生きる道を厳しい物にしてしまう。
だが、隠させて子供達に肩身の狭い思いをさせたくない。
そもそも素晴らしい能力を隠させるのは無意味だと思うのだ。
それならば周りに耐性をつけさせれば良い事。
今は偶然にも子供達の願いでガリウスの作った魔法道具を持ち魔力を抑えられふとした拍子に出てしまう事はない。
今後いつ外すかは子供達が決めるだろうが、そんなふうに子供達に考えさせる事が出来るのは、これは力を持ったガリウスがいるからである。
近しい者から慣れさせるのが本人達の目的であるが・・・。
シンと静まり返った場に再びヒソヒソとざわめきが広がる。
そんな中、ルークとアンジェリーンが歩み寄ってきた。
近寄ってきたのが見知った人達で子供達も安心したようだった。
「とても立派な挨拶だった。話しかけても?」
「勿論です。アシュリー。ガリオン」
シャリオンがそう呼び掛けると、子供達は立ち上がろうとする。
それは勿論魔法で体を補助し立っているかのようにみせるのだが、それをルークが止めた。
「今日は公式の場ではないし、それは2人が自分達で歩けるようになってからで、無理しなくていい」
「「ありがとうございます」」
子供達は素直に頷いた。
「こんにちは。アシュリーにガリオン。
久しぶりだね」
「「ルーク王太子殿下。本日はお忙しい中ありがとうございます」」
それに、アンジェリーンも続く。
「こんにちは。アシュリー、ガリオン。
お誕生日おめでとうございます」
「「アンジェリーン王太子王配殿下。ありがとう存じます」」
「しばらくみないうちにすっかり立派になりましたね」
王城でレッスンを受けている間、毎日のようにあっているのに、そんな風に答えるアンジェリーン。
彼はアシュリーの成長を見守る役目がある。
アンジェリーンに褒められた2人は嬉しそうにしながらも、表面上に出さないように話す。
「「ありがとうございます」」
「それにしても随分素敵なドレスだ」
「シュリィとリィンの瞳の色に合わせて、色違いですね」
ルークもアンジェリーンもにこやかに子供達を覗き込む。
愛称で呼んでしまったのは間違いだろうか。
しかし、それを指摘することもないだろう。
2人は子供達に尋ねている為見守っていたが助けることもなくアシュリーが答える。
「ハイシアのデザイナーに依頼しました」
ハイシアのデザイナーについては何度か話をしたことがある。
聞き覚えのある事にアンジェリーンが子供達にふわりと微笑むと周りが「天使のようだ・・・」とざわめきが起きた。
アンジェリーンの容姿は昔から評判が良く、本人もそれを自覚し最大限に利用をしていた。
公爵家で自分の容姿は王族の証だと傲慢な態度を取らなければ、婚期が伸びることはなかっただろうと周りには言われていて、結婚した当初はルークに同情の声が集まった。
ところがシャリオンのアドバイスに、他の者に対して態度を改め丸くなったアンジェリーン。
それにはそこまで王家に入りたいのか?という冷めた声もあったが、今ではその名の通り天使のようなアンジェリーンはおおむね受け入れられたようだ。
そのことは良いことなのだが、改めてみていると『王家の血筋の証明』と誇っていた金色とサファイアの瞳は、アシュリーの血のつながりがあるように感じて少し嫉妬してしまう。
アシュリーの容姿は隔世遺伝の為、厳密に言えばルークともアンジェリーンともあるのだが。
「専属のデザイナーで、確かジャスミンでしたね」
「「はい」」
「私もあなた方のお父上とお揃いの衣装を作っていただいたのです。
なかなか着るタイミングがないのですけれど」
暗に夜会の約束は??と、チクチク刺さってくるように感じる。
サーベル国で作って貰った衣装はどうしてもミクラーシュを思いましてしまうから、別の衣装は作ってもらっているのだが、その暇がないこともあるがまだ聞けていない。
次の夜会でアンジェリーンが参加するものはあるだろうか?これが終わったら聞いておこう。
「それはいずれに致しましょう」
「約束ですよ?」
みんなの前で約束を取り付けるアンジェリーンの瞳は、『今度こそ言質をとりましたよ?』と言っているよう。
そう言わせてしまうほど待たせてしまっているのも事実だが、本当に暇がなかったのだ。
『前にも行くって言ったでしょう?』と、言いたくなるのを堪えシャリオンはコクリとうなづく。
「シュリィとリィンも父上が約束を守るように見てて下さいね」
そんな風に言うと2人は揃って答えた。
「「はい。父は必ず約束を守ってくれます。
アンジェリーン様のお約束も必ず守ってくれる事でしょう」」
「そうですね」
「「私も楽しみしています」」
子供達の反応ににこやかに微笑むアンジェリーン。
そんな様子にルークが庇うように口を挟んだ。
「シャリオンが多忙極めるのを知っているだろう?
あまり責めるようなことは良しなさい」
「あら。ですけれど、シャリオンが誰よりも約束を守る人だと言うのを知っているのは殿下ではありませんか?」
「それは・・・そうだが」
「それに殿下ばかりシャリオンを独り占めして狡いです」
確かに城にいるのだから毎日のようにあっているが挨拶程度であり、その言葉にルークは眉を顰めた。
「独占などしてないだろう。
アンジェリーンの方が色々相談をしている。
それに・・・そんな風に言うのはよしてくれないか?」
不満気にしたがルークこ視線の先を見て、アンジェリーンは納得したように頷いた。
「そうですね。
ガリウス。そのような目で見なくとも、シャリオンにおかしなことをしません」
やたら棘の含んだ物言い。
ガリウスを嫌いだとハッキリ言ったくらいだ。
他の家が見る前でそんなことは言わないだろうがヒヤヒヤしてしまう。
「えぇ。存じております。
アンジェリーン様はルーク様と言う伴侶がいらっしゃるので、そのようなことはあり得ないとわかっております。
それにシャリオンは魅力的な人ですから」
ニッコリと笑みを浮かべているガリウスに2人は慄いた。
その表情を見慣れているシャリオンは何も思わないが、外で笑顔を見せることは殆どないからだ。
「アンジェリーン。
・・・ガリウスがいるのだから言葉は気をつけるんだ」
「!」
「シャリオンがいると君はすぐはしゃぐ」
ルークが呆れた様に言えばムッとした様に言い返す。
「それは殿下も同じです。シャリオンと話す時は声色が違います」
「声色・・・はぁ。態度の違いは出してない」
ツンと返すアンジェリーンに困ったように返すルーク。シャリオンを取り合うようなその言い合いは、じゃれあいに皆が微笑ましそうに笑んだ。
そんな時、ガリウスが自分の胸に手を当ててニッコリと微笑む。
「仲がよろしいようで、私も嬉しく思います」
ガリウスがそう言うと、ルークとアンジェリーンはそれに一つ間をおいてから、2人ともにこやかに返す。
「「ありがとう」」
完璧な笑顔を浮かべているが何故か先程の笑みとは違っている?
不思議に思っていると、ライガーが暴走気味の2人に呼びかけた。
「親友達の可愛い子供だと言うのはわかるが。そろそろいいんじゃないか?」
他の家がいなければ止めているところだがそうもいかずライガーのその助け舟は助かった。
彼の言う通り集まった人達はみな子供達に興味心身の様だ。
ライガーの言葉にルークは後ろを振り返ると皆の顔を見て苦笑を浮かべて謝った。
「あぁ。アシュリーやガリオンも他の人と話したいね」
「気付かずにごめんなさい」
ルークとアンジェリーンはそう言うと客人達を見回して子供達の前から一歩引いた。
「皆もハイシア家の希望の光に興味があるだろう。
私達は少々友の子供の成長にはしゃぎすぎてしまったようだ」
「そうですね。殿下。・・・私共はあちらで皆さんを待ちましょう」
先ほどの口喧嘩の様子はなく、そのまま2人は人の集まりから外れ用意されたスペースへとむかう。
それにライガーは視線で見送った後、子供達に視線を向ける。
すぐに2人を追うと思っていたから不思議に思っていたのだが、ライガーは子供達に近寄ると腰をかがませた。
「誕生日おめでとう」
「「ライガー様。ありがとうございます」」
「・・・フッ。なんだかすっかり大人になった・・・と、1歳児に言うことではないか。
プレゼントはまた後で届けにくる」
少し寂し気に笑みを浮かべながら、2人を見るとライガーもルークの後を追った。
その表情に気になりつつも、客人達の視線に気付くとニコリと微笑んだ。
今は子供達の挨拶に集中しながら、そんな彼等と話をするのだった。
・・・
・・
・
子供達が皆と話せたのは30分ほどだ。
来客の中には魔力が高いと早熟である事を知っている者が居て子供達が魔力が高いことも早々に皆に知りわたったのは良いのだが、客人の1人が魔法を見たいと言い出たことをきっかけに、皆口々に子供達の魔法を見たがったのだ。
子供達はシャリオンに許可を得ると一般的な魔法である光な玉や水の玉を出してみせる。
それはシャリオンが以前見せてもらったものよりも大分小さい。
魔法道具で魔力を抑えているが、セレスに相手によって手加減をすることを守っているらしい。
普通なら気にしないで使える魔法もいつもより多くの人の前である事や、彼らを絶対に傷つけてはいけないというのは口にして言ってはいないが身に感じているようだ。
いつも以上に神経を使った魔法の行使に子供達は堂々と話してはいるが疲れてしまったようだ。
すると、乳母が子供達のミルクの時間を知らせると、まだ話したいと言う客人はいたが本来の年齢を思い出したようで残念にしながらも諦めてくれた。
それに彼らの目的は子供達を見に来ることよりも、情報交換だろう。
残った大人達は終わりの時間まで領地のことや最近の情勢の話で持ちきりになっていた。
夜会で良く見かける噂話大好きな人間はいないようだ。
シャリオンはいつもなら早々に引いてしまうのだが、気になる話題でもあっていつも以上に会話に参加した。
よりたくさんの人と話すように心がけ、やる気を出してるのは会話の内容だけではない。
疲れ始めていることはガリウスも気づいていただろうが、サポートに徹してくれていた。
それにガリウスがいるとなんだか疲れが薄れていくような気がする。
受け身の体勢ではなく自ら話し掛けることもしたりしてそろそろ辛さも感じてきた頃。
誕生会の終わりの時刻になった。
ハイシア家の主であるレオンとシャーリー、そこにシャリオンとガリウスも並び、招待客を見送っていた時だった。
一番に帰るブルーノとルーティを見送っている時。
レオンがブルーノに想定していなかったこと言った。
「私は公爵の座をシャリオンに譲ろうかと思います」
聞いていなかったシャリオンは内心驚く。
そもそもこんなお見送りの時に親友とは言えブルーノに失礼ではないのだろうか。
かろうじて敬語を使っている状態だ。
だが、2人は普段からこんな調子なのかもしれない。
不敬に感じている様子もなく、ブルーノがこちらを見て来るとニコリと微笑む。
「ふむ。シャリオンなら大丈夫だな。
シャリオン。これからも公爵として。
息子達の一番の友人として宜しく頼む」
「っ・・・はい。承知致しました」
そう答え馬車に乗り込むブルーノとルーティを見送る。
「ライガーとルーク。それにアンジェリーンはまだ残ると言っておりました。
長居をしないようには言いましたが・・・、もう少しだけ付き合ってやっていただけますか?」
3人は表向きの言葉ではなく、お祝いを言ってくれようとしているのだろう。
ルーティの言葉にコクリと頷いた。
「3人は私の為に残ってくれているのだと思います。
それよりも本日は娘と息子の為にありがとうございます」
「なに。シャリオンは私達のもう1人の息子ほようなものだ。
その息子の愛娘と愛息子の成長が嬉しくないわけないだろう。
・・・そんなことを私には言う資格がないが」
「そんなことは」
ブルーノは未だにシャリオンを囮にしてしまった事で、罪の意識にさいなまれているようだ。
正確に言えば囮にしようとして、囮にしたわけではなく囮になってしまったのだ。
すると、シャリオンが否定をしようとしたのを遮り、忌々しく言い放ったのはレオンだ。
臣下としての立場というよりも、友に対して苛立ったらしい。
「女々しい」
「っ・・・、いや。そうだな」
「お前がやったことは変わらない。
だが、シャリオンは許すと言ったのだから気にするな。・・・そして、わたしにも思い出させるな」
「父上。今日は2人の誕生会です。その様な(怖い)声は。
あの子達は気づいてしまいます」
人の心の機微に聡い子供達はレオンの怒りの気配に気づくかもしれない。
溺愛している愛息子であるシャリオンの呼び止めに、レオンは口をつぐんだ。
子供達を怯えさせたくないというのもあるだろう。
止まったレオンにホッとしつつ、視線をブルーノに向けると、人前で名前で呼ぶことがないシャリオンがほかの人間が聞こえない様にでも名前を呼ぶと、少し嬉しそうにブルーノは眉を下げる。
「ブルーノ様」
「水を差すようなことを。・・・すまない」
「そのことはお気になさらないで下さい。
・・・それより、私もブルーノ様やルーティ様のことを家族の様に思っております」
「シャリオン・・・。本当にお前は」
何か言いかけた言葉を飲み込んだ後、ブルーノは周りを見渡す。
「今日ここに集まった者達はアシュリーが養子になる事を知っている」
「左様でございますか」
今回招待する客は、シャリオンとガリウスと決めた。
ガリウスが指定してきた人物は王家と親密な家ばかりであったがそういう意図があったのだろう。
「ここにいる者達は特に信用がおける者だ。
私には直接言い難いことも、彼等なら必ず相談に乗ってくれる。
アシュリーの事もシャリオンの事も助けが必要な時は力になってくれるだろう。それは必ずだ」
「ありがとうございます」
「それではな。・・・今日は楽しかった」
「はい。お気を付けておかえりください」
その言葉を合図に揃ってお辞儀をすると、ブルーノは馬車に乗り込んでいく。
ルーティもそれに続いたが、乗り込む手前でこちらを見ると会釈をすると乗り込み2人は帰っていった。
ブルーノが言ったようにここにいる者は、信頼できる者なのだろう。
今の話を聞いても驚いた様子はない。それに安堵を感じながらもレオンが爆弾発言をする。
「あいつは王の器が無い」
「ち、父上っ」
「ここには王族だから慕っている者はいない。
つまり、それがどういうことかわかるか?」
今日集められた人間は若い世代もいるが、レオン達と同世代の者が多かった。
それは、ブルーノとも歳が近い。
「陛下の人柄に惹かれてという事ですね」
「あぁ。アイツは人は良い。
ここにいる者の殆どがそう思っている」
レオンの言葉に釣られて辺りを見渡せば、苦笑を浮かべている面々だ。
「ろくでもないことをしでかすこともある。
・・・しかし、困った事に放ってはおけないんだ」
そう言う隣でシャーリーが苦笑を浮かべている。
「はぁ」
深いため息をつくレオン。
レオンが宰相をしているのは親友のブルーノ為だ。
「優しすぎるのだ・・・おまけに優柔不断で押しに弱い」
「ち・・・父上」
「構わん。言ったであろう?ここに居るものは聞かれても構わない。
それに、シャリオンに不快なことを思い出させた罰は取らせる」
「えっ」
消せたと思った怒りの炎は消えていなかったらしい。
思わずシャリオンはシャーリーに助けを求めるように視線を向けると苦笑を浮かべている。
「レオ」
「!」
人前では呼ばない愛称にレオンはピタリと止まる。
シャリオンでさえかなり久しぶりに聞いた気がする。
「シャリオンの気持ちを一番に考えてあげて下さいね」
鶴の一声とはこのことだろうか。
たったそれだけでレオンは怒りを収めると、不服そうにしながらもそれ以上は親友のダメ出しをやめるのだった。
★★★
全ての客人を返し、レオン達もそのまま帰るというのを見送ると、シャリオンは子供達の部屋に向かった。
待たせているルーク達に挨拶をするのに、子供達も連れて行こうと思ったのだ。
部屋にたどり着くと、そこには乳母とアリアがいて、その後ろにはベビーベッドがありジンの「あー」と言う声が聞こえてくる。
アリアは赤子に触れたことはあるが、貴族となるとまた違う。
そのために乳母からレクチャーを受けているようだ。
「シャリオン様。ガリウス様」
「2人は?」
「お部屋で休まれています」
「そう。・・・寝ちゃってるのか」
少し残念そうに言うと、乳母がそう言うので首を横に振った。
「確認して参ります」
部屋は隣にあり覗くくらいは自分で出来る。
「あーいいよ。・・・アリアに教えていたんでしょう?」
「はい」
「どう?」
アリアの方に尋ねれば、苦笑を浮かべている。
「一応、昔見たことがありますが、ここまで慎重にしていたことは・・・。
そのため一から教えてもらっています」
王都に戻ってから暫く立つが、それから子供達にアリアを含めた数人を乳母に教えてもらっているが彼女はにこやかに答えた。
「アリアはあちらのお屋敷にいたころから覚えはいいので、すぐに独り立ちします」
ウルフ家の者は出来ないことは言わない。
アリア自身の評価もあるが、彼女達がそう言うなら王城で働けるまでに仕上げるはずだ。
正直なところウルフ家の者達はアリア達に期待をしている。
いや・・・・そうせざる終えないのだ。
ウルフ家はサーベル人であることは、その体格を見るだけでわかる。
肌の色はかろうじて元貴族と言事でアルアディアと似ているが、やはり比べればどこか違う。
ハイシアでは信頼が出来るからウルフ家の者達に頼っているわけだが他家は違う。
血族主義の者は多く、王族に仕える者は身元わかる貴族でなければならないという思考を持った者がいるのだ。
そんな者にしたらアリアもNGであろうが、彼女にはアルアディアの王族だけが持つと言われる金髪と碧眼を持っている。しかし、そのことについて分別のつく貴族なら皆探求は出来ないだろう。
カインとアリアを引き取った時に、それぞれの素性は調べた。
カインはゾイドス家の息子だが、サーベル国とアルアディアのハーフで、アリアはこの容姿だ。
結局は彼女達の言い分が全てそれ以上の調査をやめた。
2人のやりたいようにさせたのである。
アリアの生まれは詳細を追おうと思えば探せたかもしれない。しかしそれをして何になるのだろうか。
失踪した王族はいないし、自由奔放にしていた王族も聞いたことが無い。
それに居たとして、そこでアリアが幸せになれるとは思えない。
だから新しい家に養女にと思ったが、彼女たちは自ら働くことを選んだ。
カインは今となってはハドリー家の次期侯爵となっているわけだが、どちらも自分達で選んでもらった。
それを一緒に見てきたのはウルフ家の者達であり、彼女達もアリア達のことを信用しているのだ。
「そう。それなら安心だ。
ジンはアシュリーにつかせるから、アリア。・・・城では2人の面倒をよろしくね」
「はい。承知いたしました」
安心できる返答を聞きながら、今度は乳母に視線を向ける。
「心配はあると思うけれど・・・」
「大丈夫にございます。お嬢様のお世話はアリア達にしてもらいますが、警護に私もつきます」
心配気にしているシャリオンにガリウスが抱き寄せた。
「王城は魔窟ではないですよ?」
「まっ!?・・・ふふふっ・・・確かに」
「それに私もいます。お忘れですか?」
「・・・正直、ちょっと忘れてた。ガリウスはいつもそばに居るって感じているし、朝と夜には会えるでしょう?」
「こう言っては何ですが。・・・アンジェリーン様の我儘も少しは役に立ちますね」
「我儘って・・・。でも・・・そうだね」
ここには身内しかいないから良いが、暴言にクスクスと笑った。
ガリウスの言っているのは相談役の事である。
それがある限り、シャリオンはハイシアや王都の屋敷に戻ったとしても、登城が出来るのだ。
「それとシャリオン。実はルーク様の予定が少々押しているのです。
すると側近たちがやきもきすることになると思うので早めに帰しましょう」
シャリオン以外に少し棘のある言い方はもうデフォルトだ。
クスクスと笑いながら返事をすると、シャリオン達は子供部屋に向かった。
2人の部屋の扉をそれぞれ開けるが、どちらも薄暗く静かであった。
それはつまり寝ているという事で諦めようと思ったところだった。
「「ちちうえーっ!」」
「!」
「「とうさまっ!」」
「おやおや・・・まぁ小うるさそうなお目付け役は帰った後だから良いですが」
すっかりと口調が戻った子供達が、それぞれの部屋のベッドから飛び起きたかと思うと、2人の腕の中に飛び込んできたのである。
シャリオンは驚きながら飛び込んできたアシュリーを抱きとめた。
最近は2人の前でも教えられた口調で話していたのだが、今はすっかり口調が解けている。
シャリオンはそれに怒るよりもクスクスと笑った。
切り替えられるなら自分達の前でいくらでも気が抜けてもいい。
「2人ともさっきのご挨拶上手だったよ。
お客様はもう帰っていただいたけれど、次はもっとお話ししたいって。
誘われたらお招きをしてもいいかな?」
流石に赤子を夜会や社交の場には連れていけない。
それにアシュリーには警備を厳重に掛けなければならないので、そう頻度は無いとは思うが。
シャリオンがそう尋ねると、子供達は両手を上げる。
「「はーい」」
「いいお返事ですね。・・・2人も疲れていると思うのですが、殿下たちがシュリィとリィンに会いたいようなのです。もう少し頑張れますか?」
「「!いきますー♪」」
『殿下たち』が誰を差しているのか解っているのか、子供達は嬉しそうにする。
あの家の人間たちは我が子を血のつながった姪や甥のように可愛がるので、特に2人はなついている。
元気な返事にホッとしながらも、4人は待たせているサロンへと向かった。
★★★
メイン会場ではないがこの部屋も彩られ、いつもよりも華やかなサロンにつくと、皆疲れているのかシンとしていた。
それぞれが、ライガーとルークは隣同士で座り、アンジェリーンは一人席に掛けている。
先ほどの仲睦まじさは微塵も感じない光景にシャリオンは苦笑した。
「シュリィ!リィン!お前達起きていたのか」
「「らい―!」」
部屋に入ってきた4人を見ると、ライガーが立ち上がり子供達に声を掛ける。
すると、子供達はぴゅーんと飛んでいく。
それに少し驚いたようだったが、ライガーは2人を抱きとめた。
ルークよりも少し背の低いライガーだが、体は鍛えており丈夫だ。
3人の嬉しそうな表情を見るとはしたないと叱る気にもならない。
それに・・・・ライガーはいつまでも人前で「リオ」と愛称で呼び続けていた男である。
「おきてた」
「らいがあとで、いってたから」
「そうか。・・・本当によく喋れるようになって。
俺はルーやアンジェリーンよりも会えていなかったからな・・・。
どうだった?頑張りすぎてないか?」
ライガーの言葉にルークは首を振った。
「それは俺の領分じゃないよ~」
「知っている。今のはアンジェリーンに聞いたんだ」
ライガーがそう言うと、ルークはずるっとこけた。
その様子がよくわからずにシャリオンは首を傾げた。
「シャリオンの子供で頑張らないわけがないでしょう。
そもそも貴方もつまらない話をうじうじ悩んでないで見に来ればいい話では?」
「シャリオンの子供だから2人が頑張るとか頑張らないとかそういう問題じゃないと思うが」
「っ」
ライガーのその言葉にアンジェリーンは罰が悪そうにしたが、視線を逸らした。
「しかし、・・・見に行っていいのか?」
「仕事をなさってからなら。貴方が城に出入りが自由な間なら関係ないでしょう」
「いや。君がだ。俺とは遭遇したくないだろう」
「したいか、したくないかと言ったらしたくありません。
・・・ですけれど・・・貴方そんな風に直接言う方でしたか」
訝し気に答えるアンジェリーン。
何故こうも棘のある話をするのだろうか。
困っているとルークがアンジェリーンに近い方の空いている席をシャリオンに視線で示した。
どうやらそこに座れという事らしい。
元々言われなくともそこしか席は空いていないので、シャリオンとガリウスはそこに座った。
「色々悩んで自分で結果を出してそれが間違っていることもあるからな。
俺は2人に会いたいが、それで以前の夜会のように君があたりに八つ当たりをしたら困る」
「っ・・・・」
「いや。冗談だ」
そう言ってライガーがクスクスと笑った。
隣のルークは余計なことを言ってしまったライガーにお手上げ状態だった。
しかし、アンジェリーンは一つ間をおいてから、首を横に振った。
「あの時は・・・申し訳なかったと思っています」
「・・・何か・・・あったの?」
「結婚する前で、ライガー様に大嫌いだと意思表示を示していた時の頃の話です」
「あー・・・そう」
ハッキリと言い切った様子にシャリオンは引きつりながら返事をし、言われたライガーは余程おかしかったのか笑いを噴き出している。
こういう時、ルークは面白そうに笑っているのだが、ルークはライガーに関してだけは心が狭くやはり面白くな下げだった。
「永遠に分かち合えることはないかと思っていましたけれど」
そう言った時である。
ライガーの腕の中にいたアシュリーとガリオンが、不安げな声をした。
「「らいのこと・・・きらい?」」
「っ」
眉間に皺を寄せて今にも泣いてしまいそうな子供達の表情にアンジェリーンは息を飲んだ。
すると、ライガーの方に体を寄せ子供達を覗き込んだ。
「今は・・・そうでもありません」
見直せた事ではあるが心の底ではそんなことは一切思っていない。
しかし、アンジェリーンはアシュリーとガリオンにとても弱い。
それが、あまり好きではない男の顔に瓜二つだとしても、シャリオンの子供たというだけで、大切にする理由なのだ。
2人を傷つけまいと、嘘ではない範囲で応える。
「「すきってこと・・・?」」
よくわからない返答に子供達は不思議そうにする。
シャリオン達や周りの人間は回りくどい教え方はしない。
勿論人の裏を読めとは教わるだろうが、それはもう少し先の話であろう。
子供達は純粋に好きな人と好きな人が喧嘩をするのが嫌なのだ。
ヴィンフリートの一見わかりずらいガリウスへの愛情に怒っていた時のことを思い出す。
あの時のように攻撃はしないだろうが、これは2人の為だ。
「シュリィ、リィン。人の思いは好きと嫌いだけじゃないんだよ」
「「・・・?」」
「それと今のは喧嘩をしていたわけじゃないから大丈夫。
2人のレッスンの時にライがシュリィとリィンのことを見に行っていいかアンジェリーンに聞いてたんだ」
「「!」」
「はい。だから明日からレッスンの時にたまに見えると思います」
「「はーい!」」
可愛らしい反応に皆が自然と笑顔になる。
先ほどとは違い、子供らしい反応。
このころにしか見れない尊いものだ。
「あぁ・・・。そしたら俺もちゃんと話さないとダメなんだな・・・。甘やかしてしまいそうだ」
「今のように時と場合を見て下さればいいと思います。レッスンの最中や他の口うるさい家の者がいなければ」
そう答える言葉は先ほど聞いた言葉で、シャリオンは見えないところでクスリと笑みを浮かべた。
ガリウスとアンジェリーンは仲が悪そうに見えるが、シャリオンが夜会に参加するにはガリウスの予定が必須で、その件について話をしているようなので、シャリオンが心配するほど実は仲が悪くないのかもしれない。と、少々勘違いをしていた。
「そうだな。気をつけよう。・・・あ。そうだ。2人にプレゼントを持ってきたんだ。
寝ていると聞いたから、ゾルに渡してあるから受け取って欲しい」
「わーい♪」
「ぷれぜんと???」
「手押し車だよ。音が鳴ったり光ったりするんだ。
・・・2人には子供だましかな?」
実際子供なのだが、2人が魔法を使えるためそう聞いてきているのだろう。
「そんなことないと思うよ。ライがくれたものなら喜ぶと思う」
「立って歩くのまだ危なくない?俺は念のためぬいぐるみにしておいたよ」
「「ぬいぐるみ?」」
「お人形だよ。2人のお部屋にたくさんあるでしょう?お友達が増えるって」
「「やったぁ♪」」
その人形たちは、祖父達からの贈り物である。
4人からは何かと送られてくるのだ。
「手押し車・・・危ないか・・・もう少し待ってからの方が良かったか」
「大丈夫です。こちらで、余程危険な時は重ね掛けしておきます。・・・子供達は乗り気なので取り上げるのも可哀そうでしょう」
「そうか。ガリウス。余計に気を使わせてすまない」
「子供達の為にと下さったのですからこちらがお礼を申し上げる方です。
ありがとうございます」
「そんなのあたり前だろう?リオとガリウスの子供なんだから」
そう言いながらライガーは自分の膝の子供達を愛おしそうに見る。
「部屋いっぱい・・・二部屋くらいは買うんじゃないかって焦っちゃったよ」
「あぁ。…そうなりそうだったんだが、付いている者が止めてくれたから気づけた。
1人でそんなに贈ったら迷惑になるかもしれないって。
・・・可笑しいよな・・・。
出掛ける前はそう思っていたはずなんだ。
だが、貴族街にある子供用の専門店に行ったら店員が良いものを次々紹介してくれるとどれも必要な気がしてくるんだ」
真顔で応えるライガーにアンジェリーンが呆れたようにつぶやいた。
「買ったらよいでありませんか」
「だから入らないって」
「ルーク様なら城に秘密の小部屋の一つや二つや三つくらい作れるんじゃありませんか」
「確かに」
ハイシアに入らないなら王城に居れればいいと言い出す2人にシャリオンがぎょっとする。
「ちょっ・・・あの・・・別にうちに入らないわけじゃないから、王城の部屋これ以上・・・」
「シャリオン。そんなこと言ったら我が家をベビー用品で満たされます」
「や・・・・屋敷中は流石に困るな・・・・。えっと・・・うーん」
なんて言いなだめようかと思っていると、どうやらシャリオンは揶揄われていたようだ。
ライガーやルーク、アンジェリーンがクスクスと笑っている。
「もう・・・酷いなぁ・・・」
「ごめんなさい」
「悪かった」
「ごめん」
それぞれがそんな風に謝ってくる。
「ですけれど、公爵になるのですからガリウスの人を疑う心を少し分けてもらった方が良いと思います」
「いや。リオはそのままでいいよ。ね?兄上」
「そのままが良いというか、シャリオンは人を疑う自分を疑いだすからな。
それだったらガリウスに相談した方が正確に状況を見ることが出来る。
適材適所だ。・・・・というか・・・すでにそうしているんだろう?」
そう言うとライガーはシャリオンとガリウスを交互に見てくるので、2人揃って頷いた。
それが良いことだとは思わないが、公爵として領主として決断を間違えるくらいなら、相談して正しい答えが導かれるならそれでいい。
それにしても、この兄弟はアンジェリーンが加わったことで、意地悪なところが少しうつったのだろうか?
「それは安心ですが、ガリウスが常にいるわけではないことは覚えていた方が良いと思います。
・・・それと、私からのあなたたちの贈物もゾルに渡してあります。
・・・喜んでくれるといいのですが」
その言葉に子供達は目を輝かせた。
「絵本をいくつか揃えました」
「「わーい!」」
「魔法道具で文字が浮き上がったりしゃべったりする本なので、きっと文字の勉強にもいいと思います」
そういうアンジェリーンに子供達は目を輝かせた。
ライガーの時もそうだったが『魔法道具』という言葉に反応する子供達。
やはり魔法が好きなのだろう。
そう言えば、ガディーナ家から、ガリウスが幼少期に呼んでいた魔法書の存在を思い出す。
アンジェリーンの本が読めるようになったら、読めるだろうか。
そんなことを思いながら皆にお礼を言う。
「ありがとう。子供達の為に。
シュリィ、リィン?皆さんにお礼は?」
「「ありがとうございます!」」
元気よく答える子供達に特にライガーは満面の笑みである。
先ほど人前で複雑そうにしたのは、きっと数日前のシャリオンと同じだ。
急な成長にもどかしさと寂しさを感じたのだろう。
「いや。ほかにも欲しいものがあれば言って欲しい」
「あぁ。流石に国は買えないが金で買えるものならな」
「っ!?」
「シャリオン。揶揄われているだけです」
アンジェリーンの言葉にシャリオンがホッとしたのもつかの間。
「半分は本気ですよ。この方々は」
彼らと長い付き合いであるガリウスには、ライガーとルークの本心を見ることなど朝飯前らしい。
呆れた声でそう言うガリウスにシャリオンは再び2人をぎょっとしてみる。
「そのような事よりも他のすべきことをしっかりしてくださいね」
「あぁ」
「それは勿論」
釘を差すガリウスに答える様子に2人は特に何も思っていないようで、・・・一体何を企んでいるのか怪しむ目で見る。
だが、それは心配しすぎだったようで、「何もない」と言われて安心していると、今度はアンジェリーンに話しかけられる。
「それで約束の夜会はいつなんですか?」
「あぁ・・・・実は衣装をもう別に作ってもらってるんだ。
帰国したばかりならサーベル国の文化を取り入れた衣装でも怪しまれないと思うけれど、これだけ日がたっているから邪推されてアシュリーに絡められたくないんだ」
ミクラーシュのことを思い出すから。とは、言えずにそう言うとアンジェリーンはこちらを見てくる。
「まぁそういうことにしておきます。ジャスミンの作る衣装は確かに優れているので、今から楽しみです」
「もう間もなく出来ると聞いて居るんだけど。
それでフィッティングの為に城に行きたいと言っているのだけど・・・良いかな?
多分僕も同席出来るから」
「えぇ。勿論です」
「良かった。僕のはサイズわかるけれど、アンジェリーンのは最終は着てもらいたいって言っていたんだ。
その日が解ったら連絡するよ」
「おねがいします」
そんな風に打ち合わせをしていた時である。
対角線沿いに座ったルークから拗ねた一声が掛かる。
「ほらやっぱり。アンジェリーンの方が構っているじゃないか」
「殿下・・・。貴方は子供ですか。私とのこれは以前からの約束です」
「アンジェリーンに言われたくない」
また始まったかと思っているとそれを止めたのはガリウスだ。
「どちらも変わらないですよ」
と、それはもうにっこりと張り付いた笑みを浮かべると、それまで言い合っていたルークとアンジェリーンはピタリと口喧嘩をやめるのだった。
それからしばらくすると、ルークの使いの者がしびれを切らして乗り込んできた。
子供達もライガーの腕の中ですやすやと寝始めていたため、今日の誕生会は今度こそ幕が落ちるのだった。
★★★
その日の夜。
寝ている子供達のためにルークの指示により数名の騎士を残し、今夜はシャリオン一家はそのまま屋敷で休むことになった。
既に食事と湯あみで体を清めたシャリオンはソファーに体を沈めた。
隣には同様にガリウスが掛けている。
疲れもあって口数は少ないが、心地よい疲れだ。
「皆に受け入れて貰って良かったですね」
「・・・うん」
その言葉に今思い返しても子供達の成長は胸が熱くなる。
パーティーの時は我慢していた感情は、ガリウスの隣で再び湧いてきそうだ。
誕生パーティーは最高だった。
目的だった子供達を他人へのファーストコンタクトもそうだが、立派に挨拶をし受け答えをする子供達。
シャリオンが5歳くらいで初めてライガーやルークと会った時とはくらべものにならないくらい立派にこなせていた。セレスの作った魔法道具で子供達の状況は常に記録をしていると聞いたが、今度過去の記録を見れたらいいのだが。あのセレスのことだからそうしてくれているとは思うのだが。
客人は皆『これでアルアディア王家もハイシア家も安泰だ』と口々にしながら帰っていたのが成功の証であると思いたい。
今日の出来事を思い返しながらホッと息をついた。
やはり、自分が公爵になる事よりも、子供達の成長の方が嬉しく思う。
すると、ガリウスが優しく肩を抱き寄せられた。
この幸せは間違いなくガリウスとでなければうまれなかったものだ。
輝くアメジストを見つめながら感謝の気持ちが溢れる。
きっと何度も言っているはずの言葉。
「・・・ありがとう」
「私が貴方の傍にいたかったのです」
「傍にいてくれたことだけではないよ。・・・僕を選んでくれて。・・・だよ」
何度言っても足らない。
今の幸せはどれ一つ取ってもガリウスがいなければならなかった。
朝の出来事もそうだが・・・依存しすぎなのだろうか。
そうは思うが今更離れることなど出来ない。
「子供達のことだけではないからね」
子供達にでさえ嫉妬するガリウスにそう言うと、抱き締められる腕の力が強くなる。
「それは私の方です」
甘くとろけるような甘えた声に可愛いと思うシャリオンだった。
★★★
昂った感情は抑えようとすると燃え上がる。
重なる肌の熱も。甘い吐息も。したる汗も。どちらのともわからなくなった体液も。
核からの振動も。
何もかもが滾らせた。
向き合うように抱きかかえられ、シャリオンはガリウスの剛直を飲み込んでいる。
「っ・・・あぁっ」
「っ」
自分の様子をうかがいながら動いてくれるガリウスだが、いつもより余裕がなさそうに腰を動かされる。
そんな風にされたらすぐにイッてしまいそうで視線で待ってほしいと訴えた。
「が・・・りぃ・・・っ・・・んっ」
「・・・シャリオン」
動きが緩やかになったと思ったが、腰を抱きかかえられ交わりが深くなるとたまらず声をあげた。
「んあぁっ」
「っ・・・」
「ぁっんっひぃぁっ・・・だめぇっ」
「なにが・・・駄目なんですか?」
「っ」
「ここは私のものに絡みついて、・・・『もっと』と言ってるようです」
そう言いながら繋がっている淵を指でツウッと撫でられると、どれだけ広がりガリウスを飲み込んでいるのかがわかる。
そんなに大きく開いてるのが恥ずかしくて、きゅぅっと締め付けてしまう。しかしそれはガリウスをせがむ行為で頬が熱くなった。
欲しくないわけではない。
そういう事ではなく、奔放に求められないだけだ。
なんて言って良いか分からずにハクハクと口を動かすとクスリと笑った。
「シャリオンはどうしたいですか?」
「っどう、・・・て・・・」
「貴方が駄目だと言うなら・・・ここまでにしますが」
「っ・・・」
返事をしないシャリオンにガリウスは困ったように苦笑をした。
「・・・分かりました」
シャリオンの腰を掴み持ち上げられる。
抜こうとする動作に慌てて反動で自ら腰を落とした。
「っっ・・・ぃぁっ」
勢い余ったあまり深く入ってしまう。
内臓まで圧迫するものは苦しさもあるのに、快感を思い出してしまう。
止まらなければと思うのに、ここまで受け入れた体はもっと欲しくなってしまう。
「っ・・・がりぃ・・・」
外そうとした体にぎゅうっと抱きしめる。
今度こそ呆れられてしまうかもしれないが、これでおしまいには出来なかった。
「明日・・・辛くなるのは困る・・・」
まっすぐ向けられる視線の意味を考える余裕はない。
「けど、・・・・ガリィも欲しい」
羞恥と欲望に苛まれながら訴えれば体を抱きしめ返された。
「・・・ダメ・・・?」
「大丈夫・・・すべて望み通りに」
耳元でささやかれる熱っぽい吐息に胸が高鳴る。
ガリウスの体を重ねられると重みでより深く交わる。
ますます奥に入ってくるのと同時に震える核。
シャリオンが快感を感じ始めるとより強くなっていき・・・。
「んぁぁっ・・・っ・・ぁっ・・・っぁぁっ」
甲高い声が止まらなくなった。
快感を逃がす間もなくすぐに達してしまいそうになり、どうにか体を逃がそうと体を捻る。
しかしガリウスに耳元でささやかれる。
「良いですよ。・・・逝ってください」
「っ・・・だっ・・・がり・・・っもぉっ」
自分だけ逝くのは嫌でそう言うが、フッと吐息が聞こえてくる。
「・・・では・・・もう少し我慢できますか・・・?
「・・・!」
そんなのは無理だ。今でも逝ってしまいそうなのに、ガリウスは止まってくれない。
それどころか腰の打ち付けが早くなる。
深い所を熱く凶暴なもので擦られる度に理性が削られていき、もう我慢が出来なくなっていく。
シャリオンの喘ぎ声と肉のぶつかる音で部屋が満たされた。
「ゃっ・・・・はぁっ・・・んっぁぁっ・・・いいっ・・・やぁっ・・・、も・・・っ」
「えぇ・・・逝って下さい」
「っ・・・!」
見つめたアメジストは嬉し気に輝かせながら、その言葉通り逝かせるようにシャリオンを追い上げた。
「んぁぁぁっっ・・・ぁぁっ」
全身をビクつかせながらガリウスの腕の中で絶頂を感じるシャリオン。
まるで運動をした後に荒い呼吸。
ふわふわとした思考の中で、落とされる口づけに無意識に応えていると中でまた大きくなるガリウス。
熱く硬いままのそれに気づくと、きゅうっと締め付けてしまった。
「っ・・・」
刺激にガリウスの吐息が漏れた。
シャリオンはガリウスを逃がさない様に腰に足を絡ませた。
「まだ・・・」
「っ」
見上げると少し驚いたが、笑みを浮かべた後、再び口づけられた。
「えぇ・・・。シャリオンもまだこちらで逝ってないですからね」
そう言いながら、2人の間にあるシャリオンのモノをゆるゆると扱かれた。
それは確かに硬いままで、濡れてはいるが透明な体液だけだ。
「・・・ぇ?」
確かに逝ったはずなのに困惑した。
これまではガリウスだったり自分でだったりでせき止めたりはしていたが、今日はそんなようなことはなかったため困惑していると、ガリウスが紛らわす様に緩く動きだした。
「シャリオン。・・・すみません」
「!・・・んっ・・・・ぅ・ん」
余裕がないのは本当のようだ。
最奥に入れる気はないものかと思っていたのだが、本能で入れたいと思っているのか手前のあたりを行ったり来たりを繰り返す。
そんなことを繰り返されるとたまらなくなっていった。
もしかしたらこのまま最奥まで愛されてしまうかもしれない・・・
そんなことになったら明日はうまく動けない。
そう思うのに、もしそんなことになったら?
しかしそれは恐怖や懸念ではなく、期待してしまう自分がいる。
そんなシャリオンの気持ちなど見通しているのだろうか。
ジッとこちらを見ながら、ついに最奥でガリウスは止まった。
それは腰が動かなくなっただけで、核の振動は続いている。
「っ・・・っ・・・」
ゆっくりと入ってくるようなそんな感覚についにシャリオンが折れた。
「っ・・・ぃ・・・れて」
既に挿入されている状態で、どこに?と言わなくともガリウスには通じた。
「・・・良いのですか?」
「っ・・・がまん、・・・でき・・・っ」
欲望に流されることを止められず、くうしゃりと顔をゆがませると、ガリウスは笑顔を浮かべながらシャリオンの気が変わらないうちにゆっくりと押し入ってくる。
「愛し合う事に・・・我慢など・・・必要ないのです」
「ひぃぁぁっ・・・ぁっ・・・ぁぁっ」
「おかしくなるほど・・・私を求めて下さい」
固く閉じたそこをこじ開けながら、シャリオンは喘ぎながらガリウスの願望が耳に届くが、もうシャリオンにはそれを正しく聞き取れる程の余裕はない。
ただ快感とガリウスからの愛情を受け止めるしかできない。
それから2人が愛を囁きあい眠りにつくまで、その間止まることなく2人は愛し合ったのだった。
それは気分が浮かれて眠れなかったからなのだが。
ふとぬくもりをくれる方へそろりと視線をやった。
目を閉じたままのガリウスに触れたくなるのを抑えながらベッドから出る。
毎日遅くまで働いているのに、もう間もなく起きる時間で起こすのは気が引けたのだ。
窓辺に近づきテラスの扉をそっと開くと外に出た。
早い時間に空気はしんと静まり、大地の音しか聞こえない。
それでも起きている人間を証明するかのように、城下街のところどころから炊事の煙が上がっているのが見える。
その光景を見ながら背伸びをした。
浅い眠りを繰り返し寝返りが出来ずにいた体は、いつも以上にパキパキと音が鳴ったように感じる。
外の清々しい空気も相まって気持ちよさを感じだが、朝の冷たい空気に肌寒さに腕をさすっていると音もなく暖かい腕に包まれる。
この気配以外なら驚いただろうが、シャリオンが唯一わかる気配に顔を上げると、美しいアメジストが朝日を浴びて一段と輝きを放っていた。
「風邪を引いてしまいますよ」
「ガリィ。・・・おはよう。
この状態ではガリィが寒いでしょう」
「シャリオンがいれば暖かいです」
「そう言うことではなくて」
「寒いですか?」
そう言うことでは無いのだが、そう覗き込んでくるガリウスはどこまでもシャリオンを心配している。
ガリウスはシャリオンの事に限っては、どこまでも甘く自分よりもシャリオンを優先する。
ここで言い合っても意味がないしそれよりも部屋の中にシャリオンが入った方が解決に繋がる。
それに、実際ガリウスに触れられていない頬なども暖かい。
「ううん。・・・起こしてしまった?ごめん」
目覚めてどんなに静かにベッドから出ても気づかれてしまう。
それはつまり、ガリウスがそれほど繊細なのだろうと思い寝室を分けることを提案をしてみたことがあるのだが、全力で拒否をされた。
沈痛な面持ちで『気配が邪魔なら気配を消しますから側に居させてください』と言われてしまっては、今まで通りでいいと言うしかないだろう。
それから今日まで変わらないでいるが、やはり起こしてしまうのは申し訳ない気持ちになる。
それでもガリウスはいつも通り笑顔で首を横に振った。
スッと視線を逸らしたのはシャリオンに罪悪感を感じさせない為だろう。
「いいえ。それよりも王都はやはり違いますね」
ガリウスの視線につられて街並みに戻す。
今まで忙しさと現実逃避から、王都にある事がわかる窓の外を見ないようにしていた。
貴族街が立ち並び堺のように緑が続いた後、建物が徐々に小さく数が多くなっていく。
それはハイシアよりもなだらかで広く続いている。
街並みを眺めながらいずれここを収めることになるアシュリーを思い浮かべた。
今日で一歳になるが、凄まじい成長をこれまでしてきた子供達。
それはまだまだ続くのだろう。
「そうだね。あまり窓の外は見ないけど」
アシュリーが女王となる日が来るのならば、彼女のために国全体のことを考える事が必要なのかもしれない。
そう思いシャリオンもガリウスのように、子供達に何かをしたいと思うのだが、考え始めて暫く経つがいい案が思いつかない。
金や土地があって困るものではないが、いざと言う時にしかさほど意味を成さない。
シャリオンはここにきて、上辺だけの付き合いに後悔した。
親友はライガーとルークしかいない。
最近はアンジェリーンとも仲良くはしてもらっているが、彼らに助けを求めるにはいかない。
友人は量より本当に親しい人間だけで良いと思っているのだが、それに困る日がくるとは思わなかった。
・・・いや、そもそも助けてもらう為に友になるというのはどうなのだろうか?
打算的に考えてしまった自分の思考が嫌になり、そしてまた振り出しに戻る。
自分が何も持っていないことにうんざりしながら遠くを眺めていると、抱きしめる腕が強くなった。
「肩の力を抜いて下さい」
「・・・ガリィ」
「眉間に皺が寄っていますよ」
「っ・・・ほんとう?」
恥ずかしくて思わず額を隠すと、素直な反応にクスリと笑った。
「冗談です。
・・・アシュリーのこと考えていたのではないですか?」
「!・・・ちょっとだけね。
でももう養子にすることを嘆いてたりするわけじゃないよ。
あの子達に何が出来るのだろう。・・・て」
アシュリーもガリオンも大切な子供達だ。
これから先の障害を取り去る事は当然出来ないが、なるべく苦労はさせたくない。
「頑張り屋ですね」
「そんな事ないよ」
そう答えるもあまり信じてくれて居なそうな表情に苦笑した。
「子供達はシャリオンらしくある事を望んでいると思います」
「・・・、」
「私の願望だけではありませんよ?」
クスリと笑ってみせるガリウスにシャリオンは苦笑した。正直なところ少し疑ってしまっていたからだ。
変に忙しくしてはガリウスの心配ごとが増えるのだろう。
「あの子達は貴方に形が残る何かをしてもらいたいとは思っていないでしょう
ハイシア家にいるなら尚更私達に力は欲さなくても、彼等の潜在能力を糧に十分な人材になります。
それに、素質だけでなく努力をすることを知っています。
それにあの子達が唯一欲しいのは貴方からの愛されている事実です」
「・・・そんなの、当たり前のことじゃない」
「つまり、そう言うことなんです。
そもそも私があれこれしているのは、シャリオンのためというの勿論ありますが、レオン様が言ってくるからです。
私としてはあの子達が助けを求めるまで見守るスタンスでいたのですが、初孫に浮かれているのです」
そう言って小さくため息をつくガリウスに過保護にあれこれ言ってる姿を思い浮かべて笑ってしまった。
「ですが、そのおかげでであの子達には幸い手助けをしてくれようとする人間が徐々に増えています」
それは解る。
しかし、それは全てレオンやガリウスの集めた人間だ。
そんな事を思っているのが分かったのだろう。
ガリウスはシャリオンを言い聞かせるように問う。
「なにか1つの作業・・・、そうですね。
例えば谷に橋を掛けるあたって、力がある作業員とそれの後方支援がいたとしたら、偉いのは作業員でしょうか」
「・・・それは・・・」
「後方支援はいつでも仕事があるわけでもありません。しかし、それはさぼっているわけでは有りません」
唐突に替えられた話題の真の意味はシャリオンにも通じ、シャリオンはコクリと頷いた。
「話は同じです。
・・・親として難しいことでしょうが、私がどれだけしてシャリオンがどれだけしたからどうと言う話ではないのです」
「っ・・・」
「それに以前も言いましたが、・・・私にはどうしてもないものがあります」
「え?」
なんでも出来てしまうガリウスに、そんな言葉が信じられない。
思わず体を捻り見上げると困ったように眉を下げている。
「シャリオンは嫌うと思いますが、公爵家の権力は貴方にしか使えません。
・・・そう言う意味で言えば、少し頑張ってたらわないといけませんね」
ガリウスの指摘通り人によって態度を変える人間が好きではない。
以前であれば遠ざけていたが、子供達の為にも避けてばかりでは居られないということなのだろう。
「それよりも出来ないことは、子供達を1番に考える事です」
「・・・、」
「私もあの子達を愛しています」
そう言いながら腕を回す強さがつよくなった。
「ですが・・・、貴方がなによりも大切である事は譲れません」
「・・・知っているよ」
もう何度も言われていることにシャリオンは苦笑した。
それなのに話題に出しシャリオンの反応を見ている。
だがそうさせているのは、やはりシャリオンなのだ。
「ありがとう」
「・・・すみません」
シャリオンがどう思うかなど解っているし嘘を吐き隠すことなど容易いだろうに。
嘘が嫌いなシャリオンの為にそう言ってくれているガリウスの頬を撫でる。
「謝らないで?冷静になれた。
あの子達が頼ってきたときに、万全にしておくのが僕の出来るかとだって」
やけになってるでもなくそういえばガリウスはホッとしているようである。
「もう一年・・・。あっと言う間だね」
何が?などと言わなくとも解っている。
「えぇ」
「あの子達にとって今日が楽しい日になれるように、最高の日にしてあげよう」
「えぇ」
それから2人で暫く王都を眺めていると、耳元でささやかれる。
「・・・そろそろ中に入りませんか?」
シャリオンはコクリと頷くと手を引かれるながら部屋の中に入っていった。
握られた手は離されることがなく、外から見えない所まで入ってくるとピタリとと止まったガリウスの瞳をみて何を求められているのか分かった。
シャリオンは笑みを浮かべながら背伸びをすると、ちゅっと口づけてくる。
甘えてくるそれに拒否をすることはなく、応えているとますます動きが大胆になる。
ガリウスに求めらえることにはすべて応えたいのだが、これ以上は止まらなくなってしまう。
「ぁっ・・・っ・・・・が・・・り」
もっとして欲しい気持ちと困ってしまうその気持ちに揺られながら、その名前を呼び留めるとシャリオンの表情にやり過ぎたと謝りながら額に口づけられるのだった。
★★★
それから数時間後。
王都にあるシャリオン達の屋敷に帰ってきた。
誕生パーティーの為にいつもより華やかに飾り付けられた屋敷。
夜会ではないことやささやかな規模で行われる為、出入りする人間は最低限である。
楽しげな音楽は録音された魔法石に、客人をもてなす手の込んだ料理を作る料理人も顔見知りの者のみ。
全てに手を抜かなずに迎えた誕生会。
来客は親しい者達を招待したのはおめでたい場に水を差されたくなかったからだ。
勿論警備の観点もある。
今日この日のパーティーにはお忍びで王家と大公家揃って参加するのだ。
騎士団から人間が派遣されたのだが、すべてハイシア家支給の制服に着替え警備に当たる。
普段、屋敷の周りにはウルフ家の者が2名で巡回をしている所に人数を1人ずつ増やす。
露骨に増やしたなら誰か来ているのかと推察される。
王城から近いこの場所は隣の屋敷も見える箇所があるほど近い。
屋敷内にも警備がつくがくれぐれも目立たないようにと伝達している。
アシュリーの周りには先日の騎士や、ハドリーから戻ったアリア達が付いている。
万全の準備をし迎えた誕生パーティー。
子供達はこの日の為に、ジャスミンに作ってもらった可愛らしい衣装に身を包む。
夜会のドレスとは違うのにキラキラ輝いているようだ。
間違いなく親馬鹿なのだろう。
眩しいものを見る目で2人をみつめる。
「初めて沢山の人と会うけれど怖くはないからね」
「「はい。ちちうえ」」
落ち着いて答えるが2人は楽しみしているのがわかる。
そんな2人にクスリと笑みを浮かべると、ガリウスと共に招待客を出迎えた。
暫くすると会場には招いた客人で満たされた。
そんな彼らも子供達の姿に気づくと微笑ましいものを見るようににこやかに笑みを浮かべている。
シャリオン達は子供達に手本を見せるようにもてなす。
初めて社交の場に出た時より緊張したかもしれない。
「今日はお忙しい中、子供達の為に足を運んでいただきありがとうございます。
我が公爵家に輝かしい希望が誕生し、早くも1年が経ちました。
本日は通常よりも大分早いですが皆様にご挨拶をさせていただきたいと思います」
デビュタントは勿論、身内以外に人に紹介するには大分早い年齢だ。
集まった客人達の多くは親馬鹿だと思っているだろう。
今日誕生を祝うパーティーをすることになったのはルークの計らいだ。
養子になると公表されたら、表向きアシュリーはルーク達の子供になり関係は他人になる。
その前に誕生会をするべきだとルークから提案してくれたのだ。
でなければ、家族だけで済ませていたし、やったとしてもホストは公爵であるレオンがする所だろう。
子供達の為に何かをしたという機会をくれたのだ。
「さぁ。2人とも。皆さんにご挨拶を」
赤子がそんなことを出来るわけがないだろうにと、そんなシャリオンの微笑ましい所を見てクスクスと笑う様子はそれまでだった。
「「はい。父上」」
「「「!!」」」
聞こえてきたのは赤子の発する意味のない言葉ではなく、はっきりとした言葉だった。
ピタリとざわめきが消え、皆が2人に視線が集まった。
「ハイシア公爵家、次期当主シャリオンの娘、アシュリー・ハイシアです」
「同じく、ガリオン・ハイシアです。
父上のような領民に愛される領主にれるように努めますので、宜しくお願いします」
どうやら、シャリオン達の前ではまだ甘えていたらしい。皆に向かって話すその言葉は一層にきびきびしている。
本当に将来が楽しみである。
シャリオンは2人の出来にすぐさま褒めてやりたいが、しんと静まる来客に視線を戻す。
その反応は解っていたことである。
ハイシア家やガーディナ家、それにアルアディア家の者以外は息を飲んだ。
2人はそんな反応に失敗をしたのかと不安気にした。
シャリオンは2人を覗き込むと微笑み視線だけで褒めてやると、少し落ち着いたようだ。
「みなさん。ご覧頂いた通りまだ拙い所もありますが、宜しくお願いします」
「「っ!」」
満点の挨拶だがシャリオンがそういうと、皆はっとしたように慌てて拍手が起きた。
「ご謙遜を。とても素晴らしい挨拶でした」
「ですが、本当に1歳なのですか?」
「いや、素晴らしい。ご両親に似て勤勉家なのでしょう」
上がる声の中には疑う者も居るが想定内だ。
寧ろシャリオンが逆の立場ならそう思ったいた。
子供達が話せるのは魔力が高い事もあるらしいが、
それを『神童』や『異常』という言葉で片付けられなかった事は嬉しく思った。
そう思いながらホッと胸を撫で下ろす。
王家とハイシアの両家と親しい家しか呼んでいないから、そんな露骨な態度を取るものはいないとわかっていても、やはり不安はあった。
シャリオンは我が子可愛さに素晴らしいとしか思えないが、冷静に一歩引いて見れば赤子が流暢に話していれば気持ち悪いと思う人間もいるだろう事はわかる。
人は自分より優れた能力を持った人間は2種類の感情を持つものだ。
その事から2人の才能は隠すことは何度も迷った。
王にしても公爵にしても人に怯えさせては、務まらないし、人を遠ざけることはより2人の生きる道を厳しい物にしてしまう。
だが、隠させて子供達に肩身の狭い思いをさせたくない。
そもそも素晴らしい能力を隠させるのは無意味だと思うのだ。
それならば周りに耐性をつけさせれば良い事。
今は偶然にも子供達の願いでガリウスの作った魔法道具を持ち魔力を抑えられふとした拍子に出てしまう事はない。
今後いつ外すかは子供達が決めるだろうが、そんなふうに子供達に考えさせる事が出来るのは、これは力を持ったガリウスがいるからである。
近しい者から慣れさせるのが本人達の目的であるが・・・。
シンと静まり返った場に再びヒソヒソとざわめきが広がる。
そんな中、ルークとアンジェリーンが歩み寄ってきた。
近寄ってきたのが見知った人達で子供達も安心したようだった。
「とても立派な挨拶だった。話しかけても?」
「勿論です。アシュリー。ガリオン」
シャリオンがそう呼び掛けると、子供達は立ち上がろうとする。
それは勿論魔法で体を補助し立っているかのようにみせるのだが、それをルークが止めた。
「今日は公式の場ではないし、それは2人が自分達で歩けるようになってからで、無理しなくていい」
「「ありがとうございます」」
子供達は素直に頷いた。
「こんにちは。アシュリーにガリオン。
久しぶりだね」
「「ルーク王太子殿下。本日はお忙しい中ありがとうございます」」
それに、アンジェリーンも続く。
「こんにちは。アシュリー、ガリオン。
お誕生日おめでとうございます」
「「アンジェリーン王太子王配殿下。ありがとう存じます」」
「しばらくみないうちにすっかり立派になりましたね」
王城でレッスンを受けている間、毎日のようにあっているのに、そんな風に答えるアンジェリーン。
彼はアシュリーの成長を見守る役目がある。
アンジェリーンに褒められた2人は嬉しそうにしながらも、表面上に出さないように話す。
「「ありがとうございます」」
「それにしても随分素敵なドレスだ」
「シュリィとリィンの瞳の色に合わせて、色違いですね」
ルークもアンジェリーンもにこやかに子供達を覗き込む。
愛称で呼んでしまったのは間違いだろうか。
しかし、それを指摘することもないだろう。
2人は子供達に尋ねている為見守っていたが助けることもなくアシュリーが答える。
「ハイシアのデザイナーに依頼しました」
ハイシアのデザイナーについては何度か話をしたことがある。
聞き覚えのある事にアンジェリーンが子供達にふわりと微笑むと周りが「天使のようだ・・・」とざわめきが起きた。
アンジェリーンの容姿は昔から評判が良く、本人もそれを自覚し最大限に利用をしていた。
公爵家で自分の容姿は王族の証だと傲慢な態度を取らなければ、婚期が伸びることはなかっただろうと周りには言われていて、結婚した当初はルークに同情の声が集まった。
ところがシャリオンのアドバイスに、他の者に対して態度を改め丸くなったアンジェリーン。
それにはそこまで王家に入りたいのか?という冷めた声もあったが、今ではその名の通り天使のようなアンジェリーンはおおむね受け入れられたようだ。
そのことは良いことなのだが、改めてみていると『王家の血筋の証明』と誇っていた金色とサファイアの瞳は、アシュリーの血のつながりがあるように感じて少し嫉妬してしまう。
アシュリーの容姿は隔世遺伝の為、厳密に言えばルークともアンジェリーンともあるのだが。
「専属のデザイナーで、確かジャスミンでしたね」
「「はい」」
「私もあなた方のお父上とお揃いの衣装を作っていただいたのです。
なかなか着るタイミングがないのですけれど」
暗に夜会の約束は??と、チクチク刺さってくるように感じる。
サーベル国で作って貰った衣装はどうしてもミクラーシュを思いましてしまうから、別の衣装は作ってもらっているのだが、その暇がないこともあるがまだ聞けていない。
次の夜会でアンジェリーンが参加するものはあるだろうか?これが終わったら聞いておこう。
「それはいずれに致しましょう」
「約束ですよ?」
みんなの前で約束を取り付けるアンジェリーンの瞳は、『今度こそ言質をとりましたよ?』と言っているよう。
そう言わせてしまうほど待たせてしまっているのも事実だが、本当に暇がなかったのだ。
『前にも行くって言ったでしょう?』と、言いたくなるのを堪えシャリオンはコクリとうなづく。
「シュリィとリィンも父上が約束を守るように見てて下さいね」
そんな風に言うと2人は揃って答えた。
「「はい。父は必ず約束を守ってくれます。
アンジェリーン様のお約束も必ず守ってくれる事でしょう」」
「そうですね」
「「私も楽しみしています」」
子供達の反応ににこやかに微笑むアンジェリーン。
そんな様子にルークが庇うように口を挟んだ。
「シャリオンが多忙極めるのを知っているだろう?
あまり責めるようなことは良しなさい」
「あら。ですけれど、シャリオンが誰よりも約束を守る人だと言うのを知っているのは殿下ではありませんか?」
「それは・・・そうだが」
「それに殿下ばかりシャリオンを独り占めして狡いです」
確かに城にいるのだから毎日のようにあっているが挨拶程度であり、その言葉にルークは眉を顰めた。
「独占などしてないだろう。
アンジェリーンの方が色々相談をしている。
それに・・・そんな風に言うのはよしてくれないか?」
不満気にしたがルークこ視線の先を見て、アンジェリーンは納得したように頷いた。
「そうですね。
ガリウス。そのような目で見なくとも、シャリオンにおかしなことをしません」
やたら棘の含んだ物言い。
ガリウスを嫌いだとハッキリ言ったくらいだ。
他の家が見る前でそんなことは言わないだろうがヒヤヒヤしてしまう。
「えぇ。存じております。
アンジェリーン様はルーク様と言う伴侶がいらっしゃるので、そのようなことはあり得ないとわかっております。
それにシャリオンは魅力的な人ですから」
ニッコリと笑みを浮かべているガリウスに2人は慄いた。
その表情を見慣れているシャリオンは何も思わないが、外で笑顔を見せることは殆どないからだ。
「アンジェリーン。
・・・ガリウスがいるのだから言葉は気をつけるんだ」
「!」
「シャリオンがいると君はすぐはしゃぐ」
ルークが呆れた様に言えばムッとした様に言い返す。
「それは殿下も同じです。シャリオンと話す時は声色が違います」
「声色・・・はぁ。態度の違いは出してない」
ツンと返すアンジェリーンに困ったように返すルーク。シャリオンを取り合うようなその言い合いは、じゃれあいに皆が微笑ましそうに笑んだ。
そんな時、ガリウスが自分の胸に手を当ててニッコリと微笑む。
「仲がよろしいようで、私も嬉しく思います」
ガリウスがそう言うと、ルークとアンジェリーンはそれに一つ間をおいてから、2人ともにこやかに返す。
「「ありがとう」」
完璧な笑顔を浮かべているが何故か先程の笑みとは違っている?
不思議に思っていると、ライガーが暴走気味の2人に呼びかけた。
「親友達の可愛い子供だと言うのはわかるが。そろそろいいんじゃないか?」
他の家がいなければ止めているところだがそうもいかずライガーのその助け舟は助かった。
彼の言う通り集まった人達はみな子供達に興味心身の様だ。
ライガーの言葉にルークは後ろを振り返ると皆の顔を見て苦笑を浮かべて謝った。
「あぁ。アシュリーやガリオンも他の人と話したいね」
「気付かずにごめんなさい」
ルークとアンジェリーンはそう言うと客人達を見回して子供達の前から一歩引いた。
「皆もハイシア家の希望の光に興味があるだろう。
私達は少々友の子供の成長にはしゃぎすぎてしまったようだ」
「そうですね。殿下。・・・私共はあちらで皆さんを待ちましょう」
先ほどの口喧嘩の様子はなく、そのまま2人は人の集まりから外れ用意されたスペースへとむかう。
それにライガーは視線で見送った後、子供達に視線を向ける。
すぐに2人を追うと思っていたから不思議に思っていたのだが、ライガーは子供達に近寄ると腰をかがませた。
「誕生日おめでとう」
「「ライガー様。ありがとうございます」」
「・・・フッ。なんだかすっかり大人になった・・・と、1歳児に言うことではないか。
プレゼントはまた後で届けにくる」
少し寂し気に笑みを浮かべながら、2人を見るとライガーもルークの後を追った。
その表情に気になりつつも、客人達の視線に気付くとニコリと微笑んだ。
今は子供達の挨拶に集中しながら、そんな彼等と話をするのだった。
・・・
・・
・
子供達が皆と話せたのは30分ほどだ。
来客の中には魔力が高いと早熟である事を知っている者が居て子供達が魔力が高いことも早々に皆に知りわたったのは良いのだが、客人の1人が魔法を見たいと言い出たことをきっかけに、皆口々に子供達の魔法を見たがったのだ。
子供達はシャリオンに許可を得ると一般的な魔法である光な玉や水の玉を出してみせる。
それはシャリオンが以前見せてもらったものよりも大分小さい。
魔法道具で魔力を抑えているが、セレスに相手によって手加減をすることを守っているらしい。
普通なら気にしないで使える魔法もいつもより多くの人の前である事や、彼らを絶対に傷つけてはいけないというのは口にして言ってはいないが身に感じているようだ。
いつも以上に神経を使った魔法の行使に子供達は堂々と話してはいるが疲れてしまったようだ。
すると、乳母が子供達のミルクの時間を知らせると、まだ話したいと言う客人はいたが本来の年齢を思い出したようで残念にしながらも諦めてくれた。
それに彼らの目的は子供達を見に来ることよりも、情報交換だろう。
残った大人達は終わりの時間まで領地のことや最近の情勢の話で持ちきりになっていた。
夜会で良く見かける噂話大好きな人間はいないようだ。
シャリオンはいつもなら早々に引いてしまうのだが、気になる話題でもあっていつも以上に会話に参加した。
よりたくさんの人と話すように心がけ、やる気を出してるのは会話の内容だけではない。
疲れ始めていることはガリウスも気づいていただろうが、サポートに徹してくれていた。
それにガリウスがいるとなんだか疲れが薄れていくような気がする。
受け身の体勢ではなく自ら話し掛けることもしたりしてそろそろ辛さも感じてきた頃。
誕生会の終わりの時刻になった。
ハイシア家の主であるレオンとシャーリー、そこにシャリオンとガリウスも並び、招待客を見送っていた時だった。
一番に帰るブルーノとルーティを見送っている時。
レオンがブルーノに想定していなかったこと言った。
「私は公爵の座をシャリオンに譲ろうかと思います」
聞いていなかったシャリオンは内心驚く。
そもそもこんなお見送りの時に親友とは言えブルーノに失礼ではないのだろうか。
かろうじて敬語を使っている状態だ。
だが、2人は普段からこんな調子なのかもしれない。
不敬に感じている様子もなく、ブルーノがこちらを見て来るとニコリと微笑む。
「ふむ。シャリオンなら大丈夫だな。
シャリオン。これからも公爵として。
息子達の一番の友人として宜しく頼む」
「っ・・・はい。承知致しました」
そう答え馬車に乗り込むブルーノとルーティを見送る。
「ライガーとルーク。それにアンジェリーンはまだ残ると言っておりました。
長居をしないようには言いましたが・・・、もう少しだけ付き合ってやっていただけますか?」
3人は表向きの言葉ではなく、お祝いを言ってくれようとしているのだろう。
ルーティの言葉にコクリと頷いた。
「3人は私の為に残ってくれているのだと思います。
それよりも本日は娘と息子の為にありがとうございます」
「なに。シャリオンは私達のもう1人の息子ほようなものだ。
その息子の愛娘と愛息子の成長が嬉しくないわけないだろう。
・・・そんなことを私には言う資格がないが」
「そんなことは」
ブルーノは未だにシャリオンを囮にしてしまった事で、罪の意識にさいなまれているようだ。
正確に言えば囮にしようとして、囮にしたわけではなく囮になってしまったのだ。
すると、シャリオンが否定をしようとしたのを遮り、忌々しく言い放ったのはレオンだ。
臣下としての立場というよりも、友に対して苛立ったらしい。
「女々しい」
「っ・・・、いや。そうだな」
「お前がやったことは変わらない。
だが、シャリオンは許すと言ったのだから気にするな。・・・そして、わたしにも思い出させるな」
「父上。今日は2人の誕生会です。その様な(怖い)声は。
あの子達は気づいてしまいます」
人の心の機微に聡い子供達はレオンの怒りの気配に気づくかもしれない。
溺愛している愛息子であるシャリオンの呼び止めに、レオンは口をつぐんだ。
子供達を怯えさせたくないというのもあるだろう。
止まったレオンにホッとしつつ、視線をブルーノに向けると、人前で名前で呼ぶことがないシャリオンがほかの人間が聞こえない様にでも名前を呼ぶと、少し嬉しそうにブルーノは眉を下げる。
「ブルーノ様」
「水を差すようなことを。・・・すまない」
「そのことはお気になさらないで下さい。
・・・それより、私もブルーノ様やルーティ様のことを家族の様に思っております」
「シャリオン・・・。本当にお前は」
何か言いかけた言葉を飲み込んだ後、ブルーノは周りを見渡す。
「今日ここに集まった者達はアシュリーが養子になる事を知っている」
「左様でございますか」
今回招待する客は、シャリオンとガリウスと決めた。
ガリウスが指定してきた人物は王家と親密な家ばかりであったがそういう意図があったのだろう。
「ここにいる者達は特に信用がおける者だ。
私には直接言い難いことも、彼等なら必ず相談に乗ってくれる。
アシュリーの事もシャリオンの事も助けが必要な時は力になってくれるだろう。それは必ずだ」
「ありがとうございます」
「それではな。・・・今日は楽しかった」
「はい。お気を付けておかえりください」
その言葉を合図に揃ってお辞儀をすると、ブルーノは馬車に乗り込んでいく。
ルーティもそれに続いたが、乗り込む手前でこちらを見ると会釈をすると乗り込み2人は帰っていった。
ブルーノが言ったようにここにいる者は、信頼できる者なのだろう。
今の話を聞いても驚いた様子はない。それに安堵を感じながらもレオンが爆弾発言をする。
「あいつは王の器が無い」
「ち、父上っ」
「ここには王族だから慕っている者はいない。
つまり、それがどういうことかわかるか?」
今日集められた人間は若い世代もいるが、レオン達と同世代の者が多かった。
それは、ブルーノとも歳が近い。
「陛下の人柄に惹かれてという事ですね」
「あぁ。アイツは人は良い。
ここにいる者の殆どがそう思っている」
レオンの言葉に釣られて辺りを見渡せば、苦笑を浮かべている面々だ。
「ろくでもないことをしでかすこともある。
・・・しかし、困った事に放ってはおけないんだ」
そう言う隣でシャーリーが苦笑を浮かべている。
「はぁ」
深いため息をつくレオン。
レオンが宰相をしているのは親友のブルーノ為だ。
「優しすぎるのだ・・・おまけに優柔不断で押しに弱い」
「ち・・・父上」
「構わん。言ったであろう?ここに居るものは聞かれても構わない。
それに、シャリオンに不快なことを思い出させた罰は取らせる」
「えっ」
消せたと思った怒りの炎は消えていなかったらしい。
思わずシャリオンはシャーリーに助けを求めるように視線を向けると苦笑を浮かべている。
「レオ」
「!」
人前では呼ばない愛称にレオンはピタリと止まる。
シャリオンでさえかなり久しぶりに聞いた気がする。
「シャリオンの気持ちを一番に考えてあげて下さいね」
鶴の一声とはこのことだろうか。
たったそれだけでレオンは怒りを収めると、不服そうにしながらもそれ以上は親友のダメ出しをやめるのだった。
★★★
全ての客人を返し、レオン達もそのまま帰るというのを見送ると、シャリオンは子供達の部屋に向かった。
待たせているルーク達に挨拶をするのに、子供達も連れて行こうと思ったのだ。
部屋にたどり着くと、そこには乳母とアリアがいて、その後ろにはベビーベッドがありジンの「あー」と言う声が聞こえてくる。
アリアは赤子に触れたことはあるが、貴族となるとまた違う。
そのために乳母からレクチャーを受けているようだ。
「シャリオン様。ガリウス様」
「2人は?」
「お部屋で休まれています」
「そう。・・・寝ちゃってるのか」
少し残念そうに言うと、乳母がそう言うので首を横に振った。
「確認して参ります」
部屋は隣にあり覗くくらいは自分で出来る。
「あーいいよ。・・・アリアに教えていたんでしょう?」
「はい」
「どう?」
アリアの方に尋ねれば、苦笑を浮かべている。
「一応、昔見たことがありますが、ここまで慎重にしていたことは・・・。
そのため一から教えてもらっています」
王都に戻ってから暫く立つが、それから子供達にアリアを含めた数人を乳母に教えてもらっているが彼女はにこやかに答えた。
「アリアはあちらのお屋敷にいたころから覚えはいいので、すぐに独り立ちします」
ウルフ家の者は出来ないことは言わない。
アリア自身の評価もあるが、彼女達がそう言うなら王城で働けるまでに仕上げるはずだ。
正直なところウルフ家の者達はアリア達に期待をしている。
いや・・・・そうせざる終えないのだ。
ウルフ家はサーベル人であることは、その体格を見るだけでわかる。
肌の色はかろうじて元貴族と言事でアルアディアと似ているが、やはり比べればどこか違う。
ハイシアでは信頼が出来るからウルフ家の者達に頼っているわけだが他家は違う。
血族主義の者は多く、王族に仕える者は身元わかる貴族でなければならないという思考を持った者がいるのだ。
そんな者にしたらアリアもNGであろうが、彼女にはアルアディアの王族だけが持つと言われる金髪と碧眼を持っている。しかし、そのことについて分別のつく貴族なら皆探求は出来ないだろう。
カインとアリアを引き取った時に、それぞれの素性は調べた。
カインはゾイドス家の息子だが、サーベル国とアルアディアのハーフで、アリアはこの容姿だ。
結局は彼女達の言い分が全てそれ以上の調査をやめた。
2人のやりたいようにさせたのである。
アリアの生まれは詳細を追おうと思えば探せたかもしれない。しかしそれをして何になるのだろうか。
失踪した王族はいないし、自由奔放にしていた王族も聞いたことが無い。
それに居たとして、そこでアリアが幸せになれるとは思えない。
だから新しい家に養女にと思ったが、彼女たちは自ら働くことを選んだ。
カインは今となってはハドリー家の次期侯爵となっているわけだが、どちらも自分達で選んでもらった。
それを一緒に見てきたのはウルフ家の者達であり、彼女達もアリア達のことを信用しているのだ。
「そう。それなら安心だ。
ジンはアシュリーにつかせるから、アリア。・・・城では2人の面倒をよろしくね」
「はい。承知いたしました」
安心できる返答を聞きながら、今度は乳母に視線を向ける。
「心配はあると思うけれど・・・」
「大丈夫にございます。お嬢様のお世話はアリア達にしてもらいますが、警護に私もつきます」
心配気にしているシャリオンにガリウスが抱き寄せた。
「王城は魔窟ではないですよ?」
「まっ!?・・・ふふふっ・・・確かに」
「それに私もいます。お忘れですか?」
「・・・正直、ちょっと忘れてた。ガリウスはいつもそばに居るって感じているし、朝と夜には会えるでしょう?」
「こう言っては何ですが。・・・アンジェリーン様の我儘も少しは役に立ちますね」
「我儘って・・・。でも・・・そうだね」
ここには身内しかいないから良いが、暴言にクスクスと笑った。
ガリウスの言っているのは相談役の事である。
それがある限り、シャリオンはハイシアや王都の屋敷に戻ったとしても、登城が出来るのだ。
「それとシャリオン。実はルーク様の予定が少々押しているのです。
すると側近たちがやきもきすることになると思うので早めに帰しましょう」
シャリオン以外に少し棘のある言い方はもうデフォルトだ。
クスクスと笑いながら返事をすると、シャリオン達は子供部屋に向かった。
2人の部屋の扉をそれぞれ開けるが、どちらも薄暗く静かであった。
それはつまり寝ているという事で諦めようと思ったところだった。
「「ちちうえーっ!」」
「!」
「「とうさまっ!」」
「おやおや・・・まぁ小うるさそうなお目付け役は帰った後だから良いですが」
すっかりと口調が戻った子供達が、それぞれの部屋のベッドから飛び起きたかと思うと、2人の腕の中に飛び込んできたのである。
シャリオンは驚きながら飛び込んできたアシュリーを抱きとめた。
最近は2人の前でも教えられた口調で話していたのだが、今はすっかり口調が解けている。
シャリオンはそれに怒るよりもクスクスと笑った。
切り替えられるなら自分達の前でいくらでも気が抜けてもいい。
「2人ともさっきのご挨拶上手だったよ。
お客様はもう帰っていただいたけれど、次はもっとお話ししたいって。
誘われたらお招きをしてもいいかな?」
流石に赤子を夜会や社交の場には連れていけない。
それにアシュリーには警備を厳重に掛けなければならないので、そう頻度は無いとは思うが。
シャリオンがそう尋ねると、子供達は両手を上げる。
「「はーい」」
「いいお返事ですね。・・・2人も疲れていると思うのですが、殿下たちがシュリィとリィンに会いたいようなのです。もう少し頑張れますか?」
「「!いきますー♪」」
『殿下たち』が誰を差しているのか解っているのか、子供達は嬉しそうにする。
あの家の人間たちは我が子を血のつながった姪や甥のように可愛がるので、特に2人はなついている。
元気な返事にホッとしながらも、4人は待たせているサロンへと向かった。
★★★
メイン会場ではないがこの部屋も彩られ、いつもよりも華やかなサロンにつくと、皆疲れているのかシンとしていた。
それぞれが、ライガーとルークは隣同士で座り、アンジェリーンは一人席に掛けている。
先ほどの仲睦まじさは微塵も感じない光景にシャリオンは苦笑した。
「シュリィ!リィン!お前達起きていたのか」
「「らい―!」」
部屋に入ってきた4人を見ると、ライガーが立ち上がり子供達に声を掛ける。
すると、子供達はぴゅーんと飛んでいく。
それに少し驚いたようだったが、ライガーは2人を抱きとめた。
ルークよりも少し背の低いライガーだが、体は鍛えており丈夫だ。
3人の嬉しそうな表情を見るとはしたないと叱る気にもならない。
それに・・・・ライガーはいつまでも人前で「リオ」と愛称で呼び続けていた男である。
「おきてた」
「らいがあとで、いってたから」
「そうか。・・・本当によく喋れるようになって。
俺はルーやアンジェリーンよりも会えていなかったからな・・・。
どうだった?頑張りすぎてないか?」
ライガーの言葉にルークは首を振った。
「それは俺の領分じゃないよ~」
「知っている。今のはアンジェリーンに聞いたんだ」
ライガーがそう言うと、ルークはずるっとこけた。
その様子がよくわからずにシャリオンは首を傾げた。
「シャリオンの子供で頑張らないわけがないでしょう。
そもそも貴方もつまらない話をうじうじ悩んでないで見に来ればいい話では?」
「シャリオンの子供だから2人が頑張るとか頑張らないとかそういう問題じゃないと思うが」
「っ」
ライガーのその言葉にアンジェリーンは罰が悪そうにしたが、視線を逸らした。
「しかし、・・・見に行っていいのか?」
「仕事をなさってからなら。貴方が城に出入りが自由な間なら関係ないでしょう」
「いや。君がだ。俺とは遭遇したくないだろう」
「したいか、したくないかと言ったらしたくありません。
・・・ですけれど・・・貴方そんな風に直接言う方でしたか」
訝し気に答えるアンジェリーン。
何故こうも棘のある話をするのだろうか。
困っているとルークがアンジェリーンに近い方の空いている席をシャリオンに視線で示した。
どうやらそこに座れという事らしい。
元々言われなくともそこしか席は空いていないので、シャリオンとガリウスはそこに座った。
「色々悩んで自分で結果を出してそれが間違っていることもあるからな。
俺は2人に会いたいが、それで以前の夜会のように君があたりに八つ当たりをしたら困る」
「っ・・・・」
「いや。冗談だ」
そう言ってライガーがクスクスと笑った。
隣のルークは余計なことを言ってしまったライガーにお手上げ状態だった。
しかし、アンジェリーンは一つ間をおいてから、首を横に振った。
「あの時は・・・申し訳なかったと思っています」
「・・・何か・・・あったの?」
「結婚する前で、ライガー様に大嫌いだと意思表示を示していた時の頃の話です」
「あー・・・そう」
ハッキリと言い切った様子にシャリオンは引きつりながら返事をし、言われたライガーは余程おかしかったのか笑いを噴き出している。
こういう時、ルークは面白そうに笑っているのだが、ルークはライガーに関してだけは心が狭くやはり面白くな下げだった。
「永遠に分かち合えることはないかと思っていましたけれど」
そう言った時である。
ライガーの腕の中にいたアシュリーとガリオンが、不安げな声をした。
「「らいのこと・・・きらい?」」
「っ」
眉間に皺を寄せて今にも泣いてしまいそうな子供達の表情にアンジェリーンは息を飲んだ。
すると、ライガーの方に体を寄せ子供達を覗き込んだ。
「今は・・・そうでもありません」
見直せた事ではあるが心の底ではそんなことは一切思っていない。
しかし、アンジェリーンはアシュリーとガリオンにとても弱い。
それが、あまり好きではない男の顔に瓜二つだとしても、シャリオンの子供たというだけで、大切にする理由なのだ。
2人を傷つけまいと、嘘ではない範囲で応える。
「「すきってこと・・・?」」
よくわからない返答に子供達は不思議そうにする。
シャリオン達や周りの人間は回りくどい教え方はしない。
勿論人の裏を読めとは教わるだろうが、それはもう少し先の話であろう。
子供達は純粋に好きな人と好きな人が喧嘩をするのが嫌なのだ。
ヴィンフリートの一見わかりずらいガリウスへの愛情に怒っていた時のことを思い出す。
あの時のように攻撃はしないだろうが、これは2人の為だ。
「シュリィ、リィン。人の思いは好きと嫌いだけじゃないんだよ」
「「・・・?」」
「それと今のは喧嘩をしていたわけじゃないから大丈夫。
2人のレッスンの時にライがシュリィとリィンのことを見に行っていいかアンジェリーンに聞いてたんだ」
「「!」」
「はい。だから明日からレッスンの時にたまに見えると思います」
「「はーい!」」
可愛らしい反応に皆が自然と笑顔になる。
先ほどとは違い、子供らしい反応。
このころにしか見れない尊いものだ。
「あぁ・・・。そしたら俺もちゃんと話さないとダメなんだな・・・。甘やかしてしまいそうだ」
「今のように時と場合を見て下さればいいと思います。レッスンの最中や他の口うるさい家の者がいなければ」
そう答える言葉は先ほど聞いた言葉で、シャリオンは見えないところでクスリと笑みを浮かべた。
ガリウスとアンジェリーンは仲が悪そうに見えるが、シャリオンが夜会に参加するにはガリウスの予定が必須で、その件について話をしているようなので、シャリオンが心配するほど実は仲が悪くないのかもしれない。と、少々勘違いをしていた。
「そうだな。気をつけよう。・・・あ。そうだ。2人にプレゼントを持ってきたんだ。
寝ていると聞いたから、ゾルに渡してあるから受け取って欲しい」
「わーい♪」
「ぷれぜんと???」
「手押し車だよ。音が鳴ったり光ったりするんだ。
・・・2人には子供だましかな?」
実際子供なのだが、2人が魔法を使えるためそう聞いてきているのだろう。
「そんなことないと思うよ。ライがくれたものなら喜ぶと思う」
「立って歩くのまだ危なくない?俺は念のためぬいぐるみにしておいたよ」
「「ぬいぐるみ?」」
「お人形だよ。2人のお部屋にたくさんあるでしょう?お友達が増えるって」
「「やったぁ♪」」
その人形たちは、祖父達からの贈り物である。
4人からは何かと送られてくるのだ。
「手押し車・・・危ないか・・・もう少し待ってからの方が良かったか」
「大丈夫です。こちらで、余程危険な時は重ね掛けしておきます。・・・子供達は乗り気なので取り上げるのも可哀そうでしょう」
「そうか。ガリウス。余計に気を使わせてすまない」
「子供達の為にと下さったのですからこちらがお礼を申し上げる方です。
ありがとうございます」
「そんなのあたり前だろう?リオとガリウスの子供なんだから」
そう言いながらライガーは自分の膝の子供達を愛おしそうに見る。
「部屋いっぱい・・・二部屋くらいは買うんじゃないかって焦っちゃったよ」
「あぁ。…そうなりそうだったんだが、付いている者が止めてくれたから気づけた。
1人でそんなに贈ったら迷惑になるかもしれないって。
・・・可笑しいよな・・・。
出掛ける前はそう思っていたはずなんだ。
だが、貴族街にある子供用の専門店に行ったら店員が良いものを次々紹介してくれるとどれも必要な気がしてくるんだ」
真顔で応えるライガーにアンジェリーンが呆れたようにつぶやいた。
「買ったらよいでありませんか」
「だから入らないって」
「ルーク様なら城に秘密の小部屋の一つや二つや三つくらい作れるんじゃありませんか」
「確かに」
ハイシアに入らないなら王城に居れればいいと言い出す2人にシャリオンがぎょっとする。
「ちょっ・・・あの・・・別にうちに入らないわけじゃないから、王城の部屋これ以上・・・」
「シャリオン。そんなこと言ったら我が家をベビー用品で満たされます」
「や・・・・屋敷中は流石に困るな・・・・。えっと・・・うーん」
なんて言いなだめようかと思っていると、どうやらシャリオンは揶揄われていたようだ。
ライガーやルーク、アンジェリーンがクスクスと笑っている。
「もう・・・酷いなぁ・・・」
「ごめんなさい」
「悪かった」
「ごめん」
それぞれがそんな風に謝ってくる。
「ですけれど、公爵になるのですからガリウスの人を疑う心を少し分けてもらった方が良いと思います」
「いや。リオはそのままでいいよ。ね?兄上」
「そのままが良いというか、シャリオンは人を疑う自分を疑いだすからな。
それだったらガリウスに相談した方が正確に状況を見ることが出来る。
適材適所だ。・・・・というか・・・すでにそうしているんだろう?」
そう言うとライガーはシャリオンとガリウスを交互に見てくるので、2人揃って頷いた。
それが良いことだとは思わないが、公爵として領主として決断を間違えるくらいなら、相談して正しい答えが導かれるならそれでいい。
それにしても、この兄弟はアンジェリーンが加わったことで、意地悪なところが少しうつったのだろうか?
「それは安心ですが、ガリウスが常にいるわけではないことは覚えていた方が良いと思います。
・・・それと、私からのあなたたちの贈物もゾルに渡してあります。
・・・喜んでくれるといいのですが」
その言葉に子供達は目を輝かせた。
「絵本をいくつか揃えました」
「「わーい!」」
「魔法道具で文字が浮き上がったりしゃべったりする本なので、きっと文字の勉強にもいいと思います」
そういうアンジェリーンに子供達は目を輝かせた。
ライガーの時もそうだったが『魔法道具』という言葉に反応する子供達。
やはり魔法が好きなのだろう。
そう言えば、ガディーナ家から、ガリウスが幼少期に呼んでいた魔法書の存在を思い出す。
アンジェリーンの本が読めるようになったら、読めるだろうか。
そんなことを思いながら皆にお礼を言う。
「ありがとう。子供達の為に。
シュリィ、リィン?皆さんにお礼は?」
「「ありがとうございます!」」
元気よく答える子供達に特にライガーは満面の笑みである。
先ほど人前で複雑そうにしたのは、きっと数日前のシャリオンと同じだ。
急な成長にもどかしさと寂しさを感じたのだろう。
「いや。ほかにも欲しいものがあれば言って欲しい」
「あぁ。流石に国は買えないが金で買えるものならな」
「っ!?」
「シャリオン。揶揄われているだけです」
アンジェリーンの言葉にシャリオンがホッとしたのもつかの間。
「半分は本気ですよ。この方々は」
彼らと長い付き合いであるガリウスには、ライガーとルークの本心を見ることなど朝飯前らしい。
呆れた声でそう言うガリウスにシャリオンは再び2人をぎょっとしてみる。
「そのような事よりも他のすべきことをしっかりしてくださいね」
「あぁ」
「それは勿論」
釘を差すガリウスに答える様子に2人は特に何も思っていないようで、・・・一体何を企んでいるのか怪しむ目で見る。
だが、それは心配しすぎだったようで、「何もない」と言われて安心していると、今度はアンジェリーンに話しかけられる。
「それで約束の夜会はいつなんですか?」
「あぁ・・・・実は衣装をもう別に作ってもらってるんだ。
帰国したばかりならサーベル国の文化を取り入れた衣装でも怪しまれないと思うけれど、これだけ日がたっているから邪推されてアシュリーに絡められたくないんだ」
ミクラーシュのことを思い出すから。とは、言えずにそう言うとアンジェリーンはこちらを見てくる。
「まぁそういうことにしておきます。ジャスミンの作る衣装は確かに優れているので、今から楽しみです」
「もう間もなく出来ると聞いて居るんだけど。
それでフィッティングの為に城に行きたいと言っているのだけど・・・良いかな?
多分僕も同席出来るから」
「えぇ。勿論です」
「良かった。僕のはサイズわかるけれど、アンジェリーンのは最終は着てもらいたいって言っていたんだ。
その日が解ったら連絡するよ」
「おねがいします」
そんな風に打ち合わせをしていた時である。
対角線沿いに座ったルークから拗ねた一声が掛かる。
「ほらやっぱり。アンジェリーンの方が構っているじゃないか」
「殿下・・・。貴方は子供ですか。私とのこれは以前からの約束です」
「アンジェリーンに言われたくない」
また始まったかと思っているとそれを止めたのはガリウスだ。
「どちらも変わらないですよ」
と、それはもうにっこりと張り付いた笑みを浮かべると、それまで言い合っていたルークとアンジェリーンはピタリと口喧嘩をやめるのだった。
それからしばらくすると、ルークの使いの者がしびれを切らして乗り込んできた。
子供達もライガーの腕の中ですやすやと寝始めていたため、今日の誕生会は今度こそ幕が落ちるのだった。
★★★
その日の夜。
寝ている子供達のためにルークの指示により数名の騎士を残し、今夜はシャリオン一家はそのまま屋敷で休むことになった。
既に食事と湯あみで体を清めたシャリオンはソファーに体を沈めた。
隣には同様にガリウスが掛けている。
疲れもあって口数は少ないが、心地よい疲れだ。
「皆に受け入れて貰って良かったですね」
「・・・うん」
その言葉に今思い返しても子供達の成長は胸が熱くなる。
パーティーの時は我慢していた感情は、ガリウスの隣で再び湧いてきそうだ。
誕生パーティーは最高だった。
目的だった子供達を他人へのファーストコンタクトもそうだが、立派に挨拶をし受け答えをする子供達。
シャリオンが5歳くらいで初めてライガーやルークと会った時とはくらべものにならないくらい立派にこなせていた。セレスの作った魔法道具で子供達の状況は常に記録をしていると聞いたが、今度過去の記録を見れたらいいのだが。あのセレスのことだからそうしてくれているとは思うのだが。
客人は皆『これでアルアディア王家もハイシア家も安泰だ』と口々にしながら帰っていたのが成功の証であると思いたい。
今日の出来事を思い返しながらホッと息をついた。
やはり、自分が公爵になる事よりも、子供達の成長の方が嬉しく思う。
すると、ガリウスが優しく肩を抱き寄せられた。
この幸せは間違いなくガリウスとでなければうまれなかったものだ。
輝くアメジストを見つめながら感謝の気持ちが溢れる。
きっと何度も言っているはずの言葉。
「・・・ありがとう」
「私が貴方の傍にいたかったのです」
「傍にいてくれたことだけではないよ。・・・僕を選んでくれて。・・・だよ」
何度言っても足らない。
今の幸せはどれ一つ取ってもガリウスがいなければならなかった。
朝の出来事もそうだが・・・依存しすぎなのだろうか。
そうは思うが今更離れることなど出来ない。
「子供達のことだけではないからね」
子供達にでさえ嫉妬するガリウスにそう言うと、抱き締められる腕の力が強くなる。
「それは私の方です」
甘くとろけるような甘えた声に可愛いと思うシャリオンだった。
★★★
昂った感情は抑えようとすると燃え上がる。
重なる肌の熱も。甘い吐息も。したる汗も。どちらのともわからなくなった体液も。
核からの振動も。
何もかもが滾らせた。
向き合うように抱きかかえられ、シャリオンはガリウスの剛直を飲み込んでいる。
「っ・・・あぁっ」
「っ」
自分の様子をうかがいながら動いてくれるガリウスだが、いつもより余裕がなさそうに腰を動かされる。
そんな風にされたらすぐにイッてしまいそうで視線で待ってほしいと訴えた。
「が・・・りぃ・・・っ・・・んっ」
「・・・シャリオン」
動きが緩やかになったと思ったが、腰を抱きかかえられ交わりが深くなるとたまらず声をあげた。
「んあぁっ」
「っ・・・」
「ぁっんっひぃぁっ・・・だめぇっ」
「なにが・・・駄目なんですか?」
「っ」
「ここは私のものに絡みついて、・・・『もっと』と言ってるようです」
そう言いながら繋がっている淵を指でツウッと撫でられると、どれだけ広がりガリウスを飲み込んでいるのかがわかる。
そんなに大きく開いてるのが恥ずかしくて、きゅぅっと締め付けてしまう。しかしそれはガリウスをせがむ行為で頬が熱くなった。
欲しくないわけではない。
そういう事ではなく、奔放に求められないだけだ。
なんて言って良いか分からずにハクハクと口を動かすとクスリと笑った。
「シャリオンはどうしたいですか?」
「っどう、・・・て・・・」
「貴方が駄目だと言うなら・・・ここまでにしますが」
「っ・・・」
返事をしないシャリオンにガリウスは困ったように苦笑をした。
「・・・分かりました」
シャリオンの腰を掴み持ち上げられる。
抜こうとする動作に慌てて反動で自ら腰を落とした。
「っっ・・・ぃぁっ」
勢い余ったあまり深く入ってしまう。
内臓まで圧迫するものは苦しさもあるのに、快感を思い出してしまう。
止まらなければと思うのに、ここまで受け入れた体はもっと欲しくなってしまう。
「っ・・・がりぃ・・・」
外そうとした体にぎゅうっと抱きしめる。
今度こそ呆れられてしまうかもしれないが、これでおしまいには出来なかった。
「明日・・・辛くなるのは困る・・・」
まっすぐ向けられる視線の意味を考える余裕はない。
「けど、・・・・ガリィも欲しい」
羞恥と欲望に苛まれながら訴えれば体を抱きしめ返された。
「・・・ダメ・・・?」
「大丈夫・・・すべて望み通りに」
耳元でささやかれる熱っぽい吐息に胸が高鳴る。
ガリウスの体を重ねられると重みでより深く交わる。
ますます奥に入ってくるのと同時に震える核。
シャリオンが快感を感じ始めるとより強くなっていき・・・。
「んぁぁっ・・・っ・・ぁっ・・・っぁぁっ」
甲高い声が止まらなくなった。
快感を逃がす間もなくすぐに達してしまいそうになり、どうにか体を逃がそうと体を捻る。
しかしガリウスに耳元でささやかれる。
「良いですよ。・・・逝ってください」
「っ・・・だっ・・・がり・・・っもぉっ」
自分だけ逝くのは嫌でそう言うが、フッと吐息が聞こえてくる。
「・・・では・・・もう少し我慢できますか・・・?
「・・・!」
そんなのは無理だ。今でも逝ってしまいそうなのに、ガリウスは止まってくれない。
それどころか腰の打ち付けが早くなる。
深い所を熱く凶暴なもので擦られる度に理性が削られていき、もう我慢が出来なくなっていく。
シャリオンの喘ぎ声と肉のぶつかる音で部屋が満たされた。
「ゃっ・・・・はぁっ・・・んっぁぁっ・・・いいっ・・・やぁっ・・・、も・・・っ」
「えぇ・・・逝って下さい」
「っ・・・!」
見つめたアメジストは嬉し気に輝かせながら、その言葉通り逝かせるようにシャリオンを追い上げた。
「んぁぁぁっっ・・・ぁぁっ」
全身をビクつかせながらガリウスの腕の中で絶頂を感じるシャリオン。
まるで運動をした後に荒い呼吸。
ふわふわとした思考の中で、落とされる口づけに無意識に応えていると中でまた大きくなるガリウス。
熱く硬いままのそれに気づくと、きゅうっと締め付けてしまった。
「っ・・・」
刺激にガリウスの吐息が漏れた。
シャリオンはガリウスを逃がさない様に腰に足を絡ませた。
「まだ・・・」
「っ」
見上げると少し驚いたが、笑みを浮かべた後、再び口づけられた。
「えぇ・・・。シャリオンもまだこちらで逝ってないですからね」
そう言いながら、2人の間にあるシャリオンのモノをゆるゆると扱かれた。
それは確かに硬いままで、濡れてはいるが透明な体液だけだ。
「・・・ぇ?」
確かに逝ったはずなのに困惑した。
これまではガリウスだったり自分でだったりでせき止めたりはしていたが、今日はそんなようなことはなかったため困惑していると、ガリウスが紛らわす様に緩く動きだした。
「シャリオン。・・・すみません」
「!・・・んっ・・・・ぅ・ん」
余裕がないのは本当のようだ。
最奥に入れる気はないものかと思っていたのだが、本能で入れたいと思っているのか手前のあたりを行ったり来たりを繰り返す。
そんなことを繰り返されるとたまらなくなっていった。
もしかしたらこのまま最奥まで愛されてしまうかもしれない・・・
そんなことになったら明日はうまく動けない。
そう思うのに、もしそんなことになったら?
しかしそれは恐怖や懸念ではなく、期待してしまう自分がいる。
そんなシャリオンの気持ちなど見通しているのだろうか。
ジッとこちらを見ながら、ついに最奥でガリウスは止まった。
それは腰が動かなくなっただけで、核の振動は続いている。
「っ・・・っ・・・」
ゆっくりと入ってくるようなそんな感覚についにシャリオンが折れた。
「っ・・・ぃ・・・れて」
既に挿入されている状態で、どこに?と言わなくともガリウスには通じた。
「・・・良いのですか?」
「っ・・・がまん、・・・でき・・・っ」
欲望に流されることを止められず、くうしゃりと顔をゆがませると、ガリウスは笑顔を浮かべながらシャリオンの気が変わらないうちにゆっくりと押し入ってくる。
「愛し合う事に・・・我慢など・・・必要ないのです」
「ひぃぁぁっ・・・ぁっ・・・ぁぁっ」
「おかしくなるほど・・・私を求めて下さい」
固く閉じたそこをこじ開けながら、シャリオンは喘ぎながらガリウスの願望が耳に届くが、もうシャリオンにはそれを正しく聞き取れる程の余裕はない。
ただ快感とガリウスからの愛情を受け止めるしかできない。
それから2人が愛を囁きあい眠りにつくまで、その間止まることなく2人は愛し合ったのだった。
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