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執着旦那と愛の子作り&子育て編
隠し事。
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薄く見える結界の中にはそのままでは入れないならしく、ガリウスが中にいるヴィンフリートに話しかける。
姿は見えないがシャリオンの知らない何かでやっているようだ。
しばらくして、許可がおりたらしく中に入ると、そこは別世界のようだった。
青くしげる木々。
そこには、外が死山とは思えないほどの動植物で溢れていた。
森の真ん中には大樹がある。
呆気に取られていると、ゴーレムが再び歩き出した。
歩みは止まることなく、中心の大樹に向かう。
暫く進み続けると漸くたどり着いた。
大樹の前には不自然に大きな水晶がおかれていた。
これは、中に入る装置だという。
説明してくれるガリウスに案内されながら、その水晶の前に立つと再び視点が変わった。
・・・
・・
・
森林から一瞬にして部屋に変わる。
その部屋は円柱なのか角が存在しない部屋で、生活に必要最低限のものが置かれている。
部屋の中は明るく心地が良い。
ここはどう言ったところなのだろうか。
次々と変わる非現実的な状況に困惑していると、ガリウスが上にむかって叫ぶ。
ヴィンフリートにおいてガリウスらしからぬぞんざいな扱いをするが、普段からそんなことをしそうにないので少々驚いた。
「ヴィンフリート様!」
「・・・~、」
ガリウスの視線の先を見れば子供達の様にヴィンフリートが宙に浮き何かを覗き込んでいる。
何を今見ているかはわからないが、下の方の壁にはすべて丸くくりぬいたところに埋め込まれた透明な球体がたくさんある。
声が反響し聞こえないという事はないだろうが、返事をしないヴィンフリートにガリウスはため息を吐いた。
「・・・すみません。
何か夢中になることを見つけてしまったみたいです」
「そうみたいだね」
「来ると言っていた筈なんですが」
今日ここに来た目的はヴィンフリートにセレスの魔力を元に戻して貰うためだった。
しかし、ガリウス曰くヴィンフリートがああなってしまうと長いらしい。
困ってしまいガリウスと顔を見合わせる。
ヴィンフリートと面識があるのはガリウスとシャリオンだけで、ガリウスもシャリオンも何日も王都や領地を開けられなかった。
困ってしまいながらセレスを見る。
今日ここまでくるまでに、セレスも望んでいることから元に戻そうと思っていた。
しかし、道中のやり取りを見てると、セレスの様子を見る限り悲観的には思ってなさそうに見えた。
それに今の状態でも十分に子供達に指導が出来ていたのではないだろうか。
どちらにしてもヴィンフリートが対応できないなら仕方がない。
「日を改めようか・・・。セレスそれでも」
「待ってください」
「ガリィ?」
「すみませんが、セレスには一日でも早く元に戻っていただきたいのです。
いえ。魔力はいいとしてもその姿はセレスに戻したい」
まさかガリウスがそんなことを言うとは思わなかった。
「貴方もそうでしょう?」
「はい」
表面上はそんな風には見えなかったが、セレスが元に戻りたいのは変わらないらしい。
そうとは思わず悪いことをしてしまった。
「貴方があの小生意気な青年であることに慣れてしまったのです。
今の貴方は卑屈でやりにくい」
「が・・・ガリィ」
そういうガリウスにシャリオンは苦笑を浮かべた。とはいえシャリオンも解らないでもない。
セレスと言ったらあの緩い感じである。
今のセレスが悪いわけじゃないのだが、セレスというよりもセレドニオだ。
「口調を直してもらえばいいのかもしれませんが、その低い声でセレスになられても違和感しかないので。
・・・なので早く戻したいのです」
その理由は笑ってしまうが、セレスもそうしたいなら直してもらいたいのだが。
そう思ったところだった。
盛大なため息が聞こえてくる。
「ほんに。・・・うるさいのぅ」
機嫌が悪そうに眉間に皺をよせガリウスを睨みながらヴィンフリートが降りてきた。
シャリオンは慌ててそちらに近寄ると謝る。
「!ヴィンフリート様、お邪魔して申し訳ありません」
「ん。よいよいシャリオン殿。今言ったのはこやつにじゃ。
聞こえておるに何度も何度も何度も・・・小うるさく呼びかけおって」
「ボケと難聴がより進んだのかと思ったのですよ。
それにこうなることも解っていて、来ることも事前にお伝えしていたはずなのにいつまでも降りてこないヴィンフリート様が悪いかと思いますが?」
「おぬしの知らせがあったから、あの程度の呼びかけで戻ってこれたんじゃろうが」
ところどころ不思議な言い回しがある。
それを不思議に思っても何故か質問をしようと言う気分にならなかった。
「それもそうでしょうか。
・・・まぁ良いです。それよりもセレスをお願いします」
「ガリィ・・・要件を言わないと」
イライラしていると言った様子では無いのだがガリウスのこれはどうしたのだろう。
見ているシャリオンはひやひやしてしまう。
「うむうむ。
しかし、大丈夫じゃ、シャリオン殿。
ありがとうのう」
まるで溺愛の孫と話をしている祖父のように優し気な声に、ガリウスは内心引いているが顔には出さずにそのやり取りを見ていた。
師匠であるヴィンフリートは自分には見せたことが無い態度に、嫉妬よりも薄気味悪さを感じてしまうのは仕方がない。
それにシャリオンを甘やかしたくなるのは人として仕方がない。
シャリオンの周りにいる、ライガーをはじめルークに、中でも同等に想いをこじらせたアンジェリーンも結局はシャリオンを甘やかしているのだ。
それに自分自身で幼いころの自分と、大人のシャリオンを置いたとしても間違いなくシャリオンの方が可愛いとガリウスは確信している。それは顔の造形ではなく本質のことだ。
だが、そう思ってはいてもヴィンフリートにそんな感情があったのが驚きで、まだシャリオンと話をするヴィンフリートには慣れていない。
ヴィンフリートはそんなことを思っているガリウスを見透かしているかのように呆れた眼差しを一瞬とったが、すぐに後ろに控えているセレスへと視線を向けた。
「無事にそこのを連れて帰れたようじゃな」
「はい。ご心配をお掛けしました」
ヴィンフリートはセレスがこうなることを予知し、おまけに同じ死山で戦い瀕死状態になっていながらも手助けしなかった。
ガリウスはそのことをシャリオンに気づいてほしくはなかった。
シャリオンを見れば、ヴィンフリートに好印象であるのは明らか。
その思いを壊し傷つけるようなことをしてほしくはなかった。
せめて、導きを授けてくれるのならわかりやすくくれればいいものを。
しかし、この男は昔からそんな甘いことをガリウスにはしてくれないのだ。
「あやつが世間知らずで、殆ど戦いをしたことが無かったことが幸いだったのう」
まるでヴィスタを知っている様な言い回しに驚いていると、不機嫌なガリウスの声がヴィンフリートに制止する。
「隠すのか曝け出すのかどちらかにして下さい。
どうせ答えないのに醸し出して何がしたいのかわかりません」
苛立ちを含んだガリウスにヴィンフリートは眉間に皺を寄せた。
ガリウスは自分が煩わし気に冷たくあしらわれてもなんとも思わない。
しかし、シャリオンに対して蔑ろな態度をするのであれば別である。
「成長したのは大きさだけじゃのう」
「私たちの時間は限られています。
用件がわかっているなら早くして頂けませんか。
無駄話なら貴方が答えられる範囲のものにして下さい」
意外にも無駄話をしてはダメとは言わないらしい。
「・・・あの、ガリウス?」
「なんでしょうか」
シャリオンには声色がガラリと変わり、いつもの優し気な声色とニコリと微笑んだ。
2人の間に何かあるのは当然で、こんな態度を取る理由もあるのだろう。
「その、・・・今は子供達の前だから言葉を・・・」
「!」
「僕だけなら良いんだけど・・・もう少し」
「すみません。シャリオン。・・・私としたことが」
解ってくれればそれでいい。
静かに首を横に振ると、ガリウスは乳母の腕の中にいる子供達に振り向く。
「シュリィにリィン。
今のは父様が悪かったです」
「とーさま?」
「わるいことしたの?」
「はい」
「「ごめんなさいするのー!」」
今日つけている使用人もウルフ家の者だけだから仕方がない。
勿論、王族に使える使用人たちはいい顔をしなかったが、ガリウスが許可をしなかったのだ。
普段なら家のことはシャリオンに決定権があるが、この場所はガリウスの方が詳しい。
そのためレオンに頼み事情を汲み取ってもらい、陛下に許可をもらった。
城の使用人たちも陛下からの命令では逆らうことは出来ず、おとなしく引き下がった。
ガリウスはハッキリとは言わなかったが、ヴィンフリートの存在を外には出そうとはしない。
レオンでさえも相手がヴィンフリートと知っているから必要以上の確認はなかったくらいだ。
ヴィンフリートが人嫌いだというのも関係しているかもしれない。
強大な力には人が寄ってくる。
そんなわけで身内しかいない状況で、運動をし昼寝から目覚めた子供達はすっかり気が抜けている様で、教わったばかりの口調はすっかり抜けている。
子供達の訴えにガリウスは止まり、そしてシャリオンが何も言わずに見ていると息を飲んだ後、小さくため息をついた。
ヴィンフリートの方に視線をすると、にまにまと笑っていて楽しそうだ。
これだけで2人の関係が察することが出来るような気がする・・・。
「・・・ヴィンフリート様・・・」
「ん?なんじゃ?」
楽しげなそれにガリウスは顔色を変えずに頭を下げた。
どうやらスイッチが切り替わった様だ。
「少々荒い物言いをいたしました。ご無礼をお許し下さい」
「ほんにのう。困ったやつじゃわい。
お主はそれで親が務まるのかのう」
「っ・・・」
あごひげに手をやり非難する様な眼差し。
ガリウスには意地悪なところがあるようだ。
本人はなんとも思っていない表情だったが、シャリオンはそうではない。
シャリオンもガリウスと同様に、たとえガリウスの師匠とて理由なく彼を悪く言うのは面白くないがこれに口を出すことは出来ない。
しかし、話を逸らすことは出来る。
シャリオンが話題を変えようとした時だった。
「とーさま、いまのも『ごめんなさい』?」
「『おゆるしください』も、『ごめんなさい?』」
ガリオンがガリウスに、アシュリーはシャリオンには飛んでくるとそう尋ねる。
「うん、そうだよ。父様はヴィンフリート様に謝ったんだよ」
子供達の愛らしさは城で証明されている。
皆の心を射止めている子供達に、この空気を和やかにしてほしかった。
ヴィンフリートもこれで機嫌を直してくれないだろうか。
・・・そんな風に甘い願いを抱いていたのだが。
子供達はヴィンフリートの所にビューンと飛んでいき、左右からやんや抗議し始めるではないか。
「っ・・・2人ともっ待ちなさい!」
しかし、それには止まらずに口撃がはじまる。
「とーさま『ごめんなさい』したもんー!」
「とーさま、いじめると『カチカチ』にする!」
「っ・・・?・・・『カチカチ』?」
ガリウスを責める言葉に過敏に反応しうなる子供達。
よく分からない言葉が飛び出して首を傾げると、ガリウスがクスクスと笑った。
「先程、アイスロックを覚えたからでしょう」
「アイスロック・・・あぁ、魔物を倒すための氷の岩を作ってたよね。
・・・て、シュリィ!リィン!」
すぐさま攻撃を仕掛けなかったのは成長したのかもしれないが、それはいただけない。
シャリオンが慌てて声を荒げるとこちらにきょとんとしてみてくる。
ガリウスはくすくすと笑いながら呼びかけた。
シャリオンとてガリウスの為に怒る様はとても愛らしく見えるが余裕の様子のガリウスに慌ててしまう。
そんなシャリオンに見かねてようやく止めてくれるようだ。
「2人とも、大丈夫だから戻って来てください」
「「むー」」
唸りながらもこちらに戻ってきながら、2人はヴィンフリートに吠える。
「とうさまいじめたらゆるさないんだからっ」
「ちちうえもだめだからねっ」
そう言いながらプリプリとしながらシャリオン達の元へ帰ってくる。
攻撃ではないにしても、脅そうとした事を叱ろうと思ったのだが、ガリウスが2人を抱き寄せた。
「2人ともありがとうございます。
今回は父様がヴィンフリート様に失礼を働いてしまったので。
ですが・・・脅しの様にそんな事を言ってはいけません」
「「でもっ」」
「2人に魔法を教えたのは人を傷つけるためではありません。
守る為と言ったはずです。
アシュリー。貴女は何のために覚えるのですか」
「っ・・・ちちうえと・・・とうさまのいる、あるあでぃあをまもる」
「ガリオン。貴方は何のために覚えるのですか」
「っ・・・ちちうえと・・・とうさま、しゅりぃのすきなはいしあをまもる」
「っ・・・!!」
いつの間にそんな話をしていたのだろうか。
叱らなければならないという気持ちは一気に消え去った。
子供達の普通とは異なることに、恐怖よりも胸が熱くなった。
まだ小さいのにそんなことを考えているなんて。
とても立派な考えだが、素直には喜べない。
沢山甘やかしたいと思っているのはシャリオンだけなのだろうか。
そう思いつつも子供達が安心して過ごせる領地や国を作ろうと思うシャリオン。
一方のガリウスはまだ子供達の注意が終わっていないようだ。
「相手を傷つけないと言うのは当然ですが、
貴方達はその覚悟はあるのでしょうか」
「「かくご?」」
「攻撃する意思を相手に見せたと言うことは、相手に攻撃をされても仕方がありません。
2人はヴィンフリート様に攻撃をされたら、己やセレスは守れるのですか?」
「「!!」」
「・・・ヴィンフリート様は父様やセレスよりも強いですよ」
そう言われると言われていることは解るのかくしゃりと顔を歪ませると、ヴィンフリートを睨む子供達。
「『カチカチ』しない・・・」
「「・・・ごめんなさい」」
言いたいことを飲み込み悔しげだが謝る子供達。
気は強いが話せばちゃんとわかってくれる。
ガリウスのためにそんな事をしたなんてなんて愛おしいのだろうか。
ガリウスの腕の中で今にも泣きだしそうな子供達を撫でてやりたくなるが、今は謝罪の最中でそのヴィンフリートに視線をやる。
すると、楽し気に笑った。
「フォッフォッ
・・・ガリウスの小生意気そうなところが、ほんににておるのう。
しかし、優しいところも似たようじゃのう。
よいよい。父の為にした事。今回は許そう。
・・・しかし、次は相手をよく見てから喧嘩を売るのじゃ」
そういうと魔力を持つ者にしかわからない威圧を張り巡らせると子供達はビクリとする。
力の差を理解した様だ。
ガリウスの腕にしがみつき、ガリウスの様に結界を張り出した。
すると、そんな子供達にヴィンフリートは目を細めた。
「ふむ。ガリウス・・・ちと甘やかしすぎではないかのう」
「王族と貴族になるのです。
そこまで戦闘に特化させなくても良いでしょう。
・・・しかし、思考が足りないのは困りものですね」
「王も公爵も愚かな者では、その下の者が苦しむ。
・・・ワシは準備があるからのう。
お前たちは訓練してくるがよい。
セレス・・・じゃったかのう。
お主もガリウスと共についていき、見てくるのじゃ。必ず役に立つ」
シャリオンをあえて含めなかったことは解る。
危険なところに行くというのだろうか。
心配気にヴィンフリートに視線をやる。
「僕は・・・」
「シャリオン殿はワシと一緒に準備してくれんかのう?」
「駄目です」
そんなことを許すわけもなく、間髪置かずに止めるガリウス。
しかし、ヴィンフリートは呆れたように眉を顰めた。
「シャリオン殿がいかに魅力的だとしても手を出さんわい」
そして、何か言いかけたガリウスの言葉は聞かず、ヴィンフリートが手を掲げたかと思うと、次の瞬間ガリウス達の姿は消えていた。
「!」
ガリウスが目の前から消えるなんて事、もう二度としたくない。
しかし、唐突に消えたことは驚いたが、あの時のようにかき乱されることはなかった。
それは慣れとかそういう事ではなく直感。
とはいっても、話の前後を見ていたのもある。
姿を消した後すぐにヴィンフリートがフォローするようにこちらを見てきた。
「あやつらは安全なところにいるから大丈夫じゃ」
「はい」
「あまり驚いてないようじゃな」
疑問も持たずに返事をすれば驚いた様にするヴィンフリート。
「ガリウスのお師匠様がガリウスに危険な事をするとは思えません」
口が悪いとしてもガリウスはヴィンフリートのことを信じている。
そう言ったのと同時にガリウスから思考共有がされてきた。
『シャリオン』
『ガリィ!大丈夫?』
『えぇ。・・・困った方です。・・・、すぐ戻るので相手をしてやっていただけませんか?
自ら隠居しているというのに、人と話せるのが嬉しいのかもしれません』
先ほど反対をしていたが、引き離されることで諦めがついたようでクスリと笑った。
シャリオンは『わかった』と返す。
恐らくさっきの様子だと怒っているようだが、ヴィンフリートは護衛のゾル達を残した。
そういったこともあり譲ったのかもしれない。
しかしそう答えたヴィンフリートは目を細めた。
「随分懐かしい術を使っているようじゃな」
一瞬なんのことを言っているかわからなかったが、術とつくものは一つしかない。
「この秘術をご存知なのですか?」
「それはかつての友が作ったものだからのう」
「!?」
「すまんが、詳しいことは言えんのじゃ。
聞いてもらえんで貰えると助かる」
先ほどのガリウスとのやり取りを思い出し、シャリオンはコクリと頷いた。
「わかりました」
「城ではいろんなのが煩くてのう。
結界を張っているから気づかなかったわい」
「・・・うるさい?」
以前城に来た時にはウルフ家の術に気付かなかったことを教えてくれるが、それよりも城の部屋には防音の魔法が張られている。
ガリウスの師匠であるヴィンフリートならガリウス同様に魔法で聞くことは出来るだろうが、なのであれば解かなければいいのではないのだろうか。
「あ、・・・いえ」
シャリオンがそうそう尋ねてしまい慌てて疑問形を直すと、ヴィンフリートの目元が優しく微笑んだ。
「シャリオン殿には手伝いをしてもらおうかのう」
「はい」
歩き出したヴィンフリートに慌てててシャリオンはついていく。
大きな籠を手渡され、ゾルが代わりに持ってくれようとしたが、その籠は不思議なことに羽のように軽かった。
ここが領地や城であればゾルに任せるが、ここはヴィンフリートの棲み処で他の目はない。
シャリオンはゾルの手伝いを断ると、ヴィンフリートを追いかける。
先ほどの部屋からつながる小さな通路を経て、今度は天井まで高くそびえる棚に、たくさんの物がおかれた部屋にたどり着いた。
それは瓶や小物、人形やコイン。様々なものがおかれている。
ヴィンフリートはいくつかの瓶を手に取り、最後に取った瓶には不思議なことに植物な芽が出したものだった。
薄暗い部屋でそれも小瓶に入っているというのにその状態であるという事は魔力が宿っているあかしだ。
シャリオンはそれらを受け取り、渡されたバスケットに詰めていく。
「城はのう。いろんな思惑が交差しておるじゃろう?」
「?それは・・・そうですね」
「今は大分ましになったがのう。
それでも煩いもんは煩いし、余計なことも聞こえてくる」
「人の心が分かるのですか・・・?」
「うむ」
意外にも肯定されるとは思わなかった。
しかしそれはウルフ家の秘術と似たようなものなのだろうかと考える。
「違うのう。それは互いに許容しなければいけないじゃろう」
「そう・・・なのですか?」
「無意識に信用しているという事かのう。
それか、アヤツがてこいれした可能性もあるが」
「それは解りませんが、話しかけなければ相手に繋がることはないですね」
「その方がいい」
そういうヴィンフリートは何かを思い出しているのか、眉間に皺を寄せた後急に明るく笑いだした。
「ふぉっふぉっふぉ。
ただ面倒なだけという事もあるがのう。
そうそうヴィスタはまだその存在に気づいてないから安心するが良い」
「それはいつかはそうなるってことですか?」
「アヤツが人を支配したいと考えた時にそうなるかもしれんのう」
その言葉にシャリオンはドキリとした。
いずれは人の考えを読めるようになるというのだろうか。
神獣つまりは神だ。
しかし、彼には心が幼いという危うさがある。
そんなヴィスタが人間の心を見れるようになったら、あの約束は反故されてしまうのでないだろうか。
それにヴィンフリートも以前そうだったという事か?
困惑しているとヴィンフリートは笑った。
「ワシの場合はこの世界に記憶を持った時からだから大丈夫じゃ」
「そう、なんですか?」
「うむ。初めて流れてきた他人の思考は産みの親じゃったかのう」
魔力の高い子供は生まれてからすぐは親の感情を読みとれることがあり得るようだが覚えているのも凄い。
親が初めだという事は、『生まれてきてありがとう』とかだろうか。
なんだか暖かい気持ちになりながら、ヴィンフリートに尋ねた。
「どのようなことを思われていたのですか?」
「んー・・・。どうじゃったかのう。・・・随分と大昔のこと故忘れてしまったわい」
「そうなのですか?」
「シャリオン殿。その隣にある時計を取ってくれんかのう」
「はい」
棚を探して古びれているが動いている時計を手に取ると籠の中に入れた。
それからもたわいもない話をしながら、次々に籠を埋めていくとヴィンフリートは腰をたたきながら息を吐いた。
「ふぅー。久しぶりに歩いたから疲れたのう」
「っ・・・申し訳ありません」
「いやいや。シャリオン殿と話ができたのじゃ。
それに年寄りにはいい運動じゃった」
そう言いながら笑うヴィンフリート。
ヴィンフリートの一挙手一投足におびえているというわけはないが、やはりご老人を動かすのは気が引けていたのは事実だ。
こんなことだったら、メモをもらってシャリオンがこの棚の迷路から探し出せばよかったと思っていると、ヴィンフリートは再び優しく微笑む。
好印象のようではあるが何故そんなにもしてくれるのだろうか?
良く思ってもらうのは嬉しいが、不思議である。
少々戸惑いを感じヴィンフリートに見つめ返していると、先ほどガリウスにしたような意地悪気な笑みを浮かべた。
「これこれ。年寄りをそんな熱い目でみておると、口うるさい伴侶に叱られるぞ?」
「っそ、・・・そういうわけではっ・・・ぁ」
確かに見すぎていた。
咄嗟に視線を逸らしたのだが、その先に懐かしいゴブレットが映った。
そのゴブレットはシャリオン達が初夜を迎えた時に、甘い蜜が注がれていた入れものだ。
あの蜜があったからこそ、初めての夜も緊張でおかしくならずに済んだもの。
確かに人にいうものではないが、それは愛し合った思い出でもありシャリオンが目を奪われていると、ヴィンフリードが動きを止めたシャリオンに気が付いた。
「ん?なにか気になるものがあったのかのう?
・・・おぉそれか。そのピンクの小瓶の中身はリラックスが出来るものじゃ」
あのゴブレットに気を奪われ、なにを思い出していたのかを知られるのは恥ずかしい。
心が読めることもすっかり忘れて、シャリオンは必死に平常心を装う。
幸い・・・と言うよりもヴィンフリートが気を利かせて別の物を差したのだが、その小瓶の方にシャリオンは視線を向けた。
確かにたくさんのピンク色系の小瓶がたくさん並んでいるではないか。
シャリオンはそれを訂正せずに続けた。
「っ・・・きれいな瓶ですね」
「そうじゃな。どれ。飲んでみるか?
少々気が動転しているようじゃ」
「っ・・・はい」
「では持ってくるのじゃ」
シャリオンはその言葉に瓶を棚からとると籠に入れると、ヴィンフリートを追いかけ先ほどの部屋へと戻った。
・・・
・・
・
それから2人だけのお茶会が始まったのだが、それはすぐに終わる。
どんなに体調が悪くとも気丈にふるまい、退出の挨拶をしてから下がるのが貴族のマナー。
勿論そうではない時もあるが、人前で恥をさらすわけには行かない。
シャリオンが体調のおかしさに気が付き、少し休ませてもらおうと思った時には手からするりとカップが滑り落ち、床に激しい音を立てる。
熱い。
思考は定まらず、熱さと・・・この熱を止めてくれる人をしか考えられなかった。
「っ・・・っ・・・が・・・りっ」
熱っぽい呼吸を繰り返しながら、吐息のように呼び掛ける。
唐突にそんな状態になったゾルは瞬時に警戒態勢に入り、シャリオンを抱き寄せた。
「っ・・・シャリオンッ・・・何をしたんです!!」
シャリオンを抱きかかえるゾルの周りには姿を消していた2人のゾルが立ち並ぶ。
今日は少数のウルフ家しか連れて来れなかった。
それも、ガリウスの師匠だからだけでなくレオンも信頼している人物だからである。
しかし、この状況は由々しき事態。
ゾル兄弟達は自分達がこの人物に勝てないことは理解しており、どれだけ安全にシャリオンをここから連れ出しガリウスの元へ連れていくかを考えた時だった。
脅威をもたらした人物は、策にはまりこちらが慌てていることに笑っている。・・・と、思ったのだが紫色の小瓶を手に取り凝視している。
そのことにゾルもハッとする。
棚にあった時は確かにピンクだったのだはずだが、それは紫色にしか見えない。
「これは・・・まずいのう」
「っ・・・!」
落ち着いたままにいうヴィンフリートにカッと手を出そうとするのは、3人の中で修行に出たゾルだ。
3人の中で確実に強くはなったが、沸点も短くなってしまった。
2人のゾルはそんなゾルを止める。
「「まて!落ちつけ」」
「わかってるっ」
その言葉にホッとしながら、そのうちの1人がヴィンフリートに尋ねる。
「っ・・・ヴィンフリート様。それはどういう意味でしょうか」
「間違えて籠に入れてきてしまったようだ」
「この効果は一体」
「安心するのじゃ。毒ではない」
それは本当なのだろうか。
訝し気にヴィンフリートを見ていると、鋭い眼差しをこちらに向け、懐から何かを取り出すと此方に投げ渡してきた。
ゾル達はそれに見覚えがあったが、ここにはないはずのものだ。
それも色が以前見た物よりも色鮮やかに見える。
「っ・・・!」
「何をしておる。さっさとガリウスのやつを呼んでくるのじゃ。
その魔法石はここであれば繰り返し使えるものじゃ。
それで迎えに・・・いや。おぬしらだけでは扱えんかのう・・・と、どうやら戻ってきたようじゃわい。
ほんに鼻が利くようじゃ」
呆れたように言った後で、ゾル達が困惑をしていたのだがその考える間も与えずに、ガリウスが戻ってくるとゾル達は入れ替わりで姿を消す。
その拍子に支えのなくなったシャリオンをガリウスが抱きとめた。
「が・・・りぃ」
「・・・シャリオン」
意識のもうろうとしているのに、ガリウスだとわかるのかすり寄るシャリオンに目を細めた。
「状況は彼らに聞いたので結構です」
「ほう。で、あればその石を使いさっさと戻ったらどうじゃ。
どうせ、ワシの用意した空間では嫌なのじゃろう」
この死山は不思議なことに普通のシディアリアの魔法石を持ってしても、ここに転移出来ない。
出来るのはシディアリアのディディが持つ特殊な転移の魔法石と、ヴィンフリートに渡された石だけだ。
威力はヴィンフリートの石の方が優れているのだが、それはつまりあの石よりも多くの魔力を使う。
ヴィンフリートは手をかざすと、その手から光が紡がれガリウスの周りから何かをはぎ取っていく。
「これで良いじゃろう。常に結界を忘れる出ないぞ。理性はなくすな」
「そんな事よりも『忘れて』下さい」
「・・・お主のう・・・」
シャリオンは意識がはっきりしないうえ、今は子供達もおらずガリウスは端的に言う。
それでもヴィンフリートには伝わっており呆れたようにため息を吐いた。
「シャリオンのこの姿を忘れろ」
地を這うように声色は低く怒りをみなぎらせるガリウスに、ヴィンフリートは大げさにため息を吐くと手をひらつかせた。
怒りで命令形ではあるが、これは許可を求めているのだ。
ヴィンフリートは仕方なしに手で合図をする。
「しかしのう。・・・あまり人の記憶を操るようなことをするでない」
「・・・。していませんよ」
「言葉が違ったな。あまり偽るな」
「・・・」
「おぬしなら、あんな小娘の魔法に掛かるわけなかろう」
「それはシャリオンに話しましたか」
「あの国での出来事など話しておらん。
賢い子じゃ。ワシが答えないことを察してヴィスタのことは聞かんかった」
「・・・。説教をなさるなら、初めからもっとわかりやすく教えて下さい」
「それが出来ないことも解っているのに聞く出ない」
「・・・ッチ」
ガリウスは短く舌打ちを打つ。
シャリオンには絶対に見せない態度だ。
ヴィンフリートに忘却の魔法を掛けると、この会話は無駄である。
シャリオンの顔を再び見せないようにしっかりと抱きしめた。
「子供達は頼みます」
「心得ておる」
そう言うとガリウスとシャリオンは姿を消した。
姿は見えないがシャリオンの知らない何かでやっているようだ。
しばらくして、許可がおりたらしく中に入ると、そこは別世界のようだった。
青くしげる木々。
そこには、外が死山とは思えないほどの動植物で溢れていた。
森の真ん中には大樹がある。
呆気に取られていると、ゴーレムが再び歩き出した。
歩みは止まることなく、中心の大樹に向かう。
暫く進み続けると漸くたどり着いた。
大樹の前には不自然に大きな水晶がおかれていた。
これは、中に入る装置だという。
説明してくれるガリウスに案内されながら、その水晶の前に立つと再び視点が変わった。
・・・
・・
・
森林から一瞬にして部屋に変わる。
その部屋は円柱なのか角が存在しない部屋で、生活に必要最低限のものが置かれている。
部屋の中は明るく心地が良い。
ここはどう言ったところなのだろうか。
次々と変わる非現実的な状況に困惑していると、ガリウスが上にむかって叫ぶ。
ヴィンフリートにおいてガリウスらしからぬぞんざいな扱いをするが、普段からそんなことをしそうにないので少々驚いた。
「ヴィンフリート様!」
「・・・~、」
ガリウスの視線の先を見れば子供達の様にヴィンフリートが宙に浮き何かを覗き込んでいる。
何を今見ているかはわからないが、下の方の壁にはすべて丸くくりぬいたところに埋め込まれた透明な球体がたくさんある。
声が反響し聞こえないという事はないだろうが、返事をしないヴィンフリートにガリウスはため息を吐いた。
「・・・すみません。
何か夢中になることを見つけてしまったみたいです」
「そうみたいだね」
「来ると言っていた筈なんですが」
今日ここに来た目的はヴィンフリートにセレスの魔力を元に戻して貰うためだった。
しかし、ガリウス曰くヴィンフリートがああなってしまうと長いらしい。
困ってしまいガリウスと顔を見合わせる。
ヴィンフリートと面識があるのはガリウスとシャリオンだけで、ガリウスもシャリオンも何日も王都や領地を開けられなかった。
困ってしまいながらセレスを見る。
今日ここまでくるまでに、セレスも望んでいることから元に戻そうと思っていた。
しかし、道中のやり取りを見てると、セレスの様子を見る限り悲観的には思ってなさそうに見えた。
それに今の状態でも十分に子供達に指導が出来ていたのではないだろうか。
どちらにしてもヴィンフリートが対応できないなら仕方がない。
「日を改めようか・・・。セレスそれでも」
「待ってください」
「ガリィ?」
「すみませんが、セレスには一日でも早く元に戻っていただきたいのです。
いえ。魔力はいいとしてもその姿はセレスに戻したい」
まさかガリウスがそんなことを言うとは思わなかった。
「貴方もそうでしょう?」
「はい」
表面上はそんな風には見えなかったが、セレスが元に戻りたいのは変わらないらしい。
そうとは思わず悪いことをしてしまった。
「貴方があの小生意気な青年であることに慣れてしまったのです。
今の貴方は卑屈でやりにくい」
「が・・・ガリィ」
そういうガリウスにシャリオンは苦笑を浮かべた。とはいえシャリオンも解らないでもない。
セレスと言ったらあの緩い感じである。
今のセレスが悪いわけじゃないのだが、セレスというよりもセレドニオだ。
「口調を直してもらえばいいのかもしれませんが、その低い声でセレスになられても違和感しかないので。
・・・なので早く戻したいのです」
その理由は笑ってしまうが、セレスもそうしたいなら直してもらいたいのだが。
そう思ったところだった。
盛大なため息が聞こえてくる。
「ほんに。・・・うるさいのぅ」
機嫌が悪そうに眉間に皺をよせガリウスを睨みながらヴィンフリートが降りてきた。
シャリオンは慌ててそちらに近寄ると謝る。
「!ヴィンフリート様、お邪魔して申し訳ありません」
「ん。よいよいシャリオン殿。今言ったのはこやつにじゃ。
聞こえておるに何度も何度も何度も・・・小うるさく呼びかけおって」
「ボケと難聴がより進んだのかと思ったのですよ。
それにこうなることも解っていて、来ることも事前にお伝えしていたはずなのにいつまでも降りてこないヴィンフリート様が悪いかと思いますが?」
「おぬしの知らせがあったから、あの程度の呼びかけで戻ってこれたんじゃろうが」
ところどころ不思議な言い回しがある。
それを不思議に思っても何故か質問をしようと言う気分にならなかった。
「それもそうでしょうか。
・・・まぁ良いです。それよりもセレスをお願いします」
「ガリィ・・・要件を言わないと」
イライラしていると言った様子では無いのだがガリウスのこれはどうしたのだろう。
見ているシャリオンはひやひやしてしまう。
「うむうむ。
しかし、大丈夫じゃ、シャリオン殿。
ありがとうのう」
まるで溺愛の孫と話をしている祖父のように優し気な声に、ガリウスは内心引いているが顔には出さずにそのやり取りを見ていた。
師匠であるヴィンフリートは自分には見せたことが無い態度に、嫉妬よりも薄気味悪さを感じてしまうのは仕方がない。
それにシャリオンを甘やかしたくなるのは人として仕方がない。
シャリオンの周りにいる、ライガーをはじめルークに、中でも同等に想いをこじらせたアンジェリーンも結局はシャリオンを甘やかしているのだ。
それに自分自身で幼いころの自分と、大人のシャリオンを置いたとしても間違いなくシャリオンの方が可愛いとガリウスは確信している。それは顔の造形ではなく本質のことだ。
だが、そう思ってはいてもヴィンフリートにそんな感情があったのが驚きで、まだシャリオンと話をするヴィンフリートには慣れていない。
ヴィンフリートはそんなことを思っているガリウスを見透かしているかのように呆れた眼差しを一瞬とったが、すぐに後ろに控えているセレスへと視線を向けた。
「無事にそこのを連れて帰れたようじゃな」
「はい。ご心配をお掛けしました」
ヴィンフリートはセレスがこうなることを予知し、おまけに同じ死山で戦い瀕死状態になっていながらも手助けしなかった。
ガリウスはそのことをシャリオンに気づいてほしくはなかった。
シャリオンを見れば、ヴィンフリートに好印象であるのは明らか。
その思いを壊し傷つけるようなことをしてほしくはなかった。
せめて、導きを授けてくれるのならわかりやすくくれればいいものを。
しかし、この男は昔からそんな甘いことをガリウスにはしてくれないのだ。
「あやつが世間知らずで、殆ど戦いをしたことが無かったことが幸いだったのう」
まるでヴィスタを知っている様な言い回しに驚いていると、不機嫌なガリウスの声がヴィンフリートに制止する。
「隠すのか曝け出すのかどちらかにして下さい。
どうせ答えないのに醸し出して何がしたいのかわかりません」
苛立ちを含んだガリウスにヴィンフリートは眉間に皺を寄せた。
ガリウスは自分が煩わし気に冷たくあしらわれてもなんとも思わない。
しかし、シャリオンに対して蔑ろな態度をするのであれば別である。
「成長したのは大きさだけじゃのう」
「私たちの時間は限られています。
用件がわかっているなら早くして頂けませんか。
無駄話なら貴方が答えられる範囲のものにして下さい」
意外にも無駄話をしてはダメとは言わないらしい。
「・・・あの、ガリウス?」
「なんでしょうか」
シャリオンには声色がガラリと変わり、いつもの優し気な声色とニコリと微笑んだ。
2人の間に何かあるのは当然で、こんな態度を取る理由もあるのだろう。
「その、・・・今は子供達の前だから言葉を・・・」
「!」
「僕だけなら良いんだけど・・・もう少し」
「すみません。シャリオン。・・・私としたことが」
解ってくれればそれでいい。
静かに首を横に振ると、ガリウスは乳母の腕の中にいる子供達に振り向く。
「シュリィにリィン。
今のは父様が悪かったです」
「とーさま?」
「わるいことしたの?」
「はい」
「「ごめんなさいするのー!」」
今日つけている使用人もウルフ家の者だけだから仕方がない。
勿論、王族に使える使用人たちはいい顔をしなかったが、ガリウスが許可をしなかったのだ。
普段なら家のことはシャリオンに決定権があるが、この場所はガリウスの方が詳しい。
そのためレオンに頼み事情を汲み取ってもらい、陛下に許可をもらった。
城の使用人たちも陛下からの命令では逆らうことは出来ず、おとなしく引き下がった。
ガリウスはハッキリとは言わなかったが、ヴィンフリートの存在を外には出そうとはしない。
レオンでさえも相手がヴィンフリートと知っているから必要以上の確認はなかったくらいだ。
ヴィンフリートが人嫌いだというのも関係しているかもしれない。
強大な力には人が寄ってくる。
そんなわけで身内しかいない状況で、運動をし昼寝から目覚めた子供達はすっかり気が抜けている様で、教わったばかりの口調はすっかり抜けている。
子供達の訴えにガリウスは止まり、そしてシャリオンが何も言わずに見ていると息を飲んだ後、小さくため息をついた。
ヴィンフリートの方に視線をすると、にまにまと笑っていて楽しそうだ。
これだけで2人の関係が察することが出来るような気がする・・・。
「・・・ヴィンフリート様・・・」
「ん?なんじゃ?」
楽しげなそれにガリウスは顔色を変えずに頭を下げた。
どうやらスイッチが切り替わった様だ。
「少々荒い物言いをいたしました。ご無礼をお許し下さい」
「ほんにのう。困ったやつじゃわい。
お主はそれで親が務まるのかのう」
「っ・・・」
あごひげに手をやり非難する様な眼差し。
ガリウスには意地悪なところがあるようだ。
本人はなんとも思っていない表情だったが、シャリオンはそうではない。
シャリオンもガリウスと同様に、たとえガリウスの師匠とて理由なく彼を悪く言うのは面白くないがこれに口を出すことは出来ない。
しかし、話を逸らすことは出来る。
シャリオンが話題を変えようとした時だった。
「とーさま、いまのも『ごめんなさい』?」
「『おゆるしください』も、『ごめんなさい?』」
ガリオンがガリウスに、アシュリーはシャリオンには飛んでくるとそう尋ねる。
「うん、そうだよ。父様はヴィンフリート様に謝ったんだよ」
子供達の愛らしさは城で証明されている。
皆の心を射止めている子供達に、この空気を和やかにしてほしかった。
ヴィンフリートもこれで機嫌を直してくれないだろうか。
・・・そんな風に甘い願いを抱いていたのだが。
子供達はヴィンフリートの所にビューンと飛んでいき、左右からやんや抗議し始めるではないか。
「っ・・・2人ともっ待ちなさい!」
しかし、それには止まらずに口撃がはじまる。
「とーさま『ごめんなさい』したもんー!」
「とーさま、いじめると『カチカチ』にする!」
「っ・・・?・・・『カチカチ』?」
ガリウスを責める言葉に過敏に反応しうなる子供達。
よく分からない言葉が飛び出して首を傾げると、ガリウスがクスクスと笑った。
「先程、アイスロックを覚えたからでしょう」
「アイスロック・・・あぁ、魔物を倒すための氷の岩を作ってたよね。
・・・て、シュリィ!リィン!」
すぐさま攻撃を仕掛けなかったのは成長したのかもしれないが、それはいただけない。
シャリオンが慌てて声を荒げるとこちらにきょとんとしてみてくる。
ガリウスはくすくすと笑いながら呼びかけた。
シャリオンとてガリウスの為に怒る様はとても愛らしく見えるが余裕の様子のガリウスに慌ててしまう。
そんなシャリオンに見かねてようやく止めてくれるようだ。
「2人とも、大丈夫だから戻って来てください」
「「むー」」
唸りながらもこちらに戻ってきながら、2人はヴィンフリートに吠える。
「とうさまいじめたらゆるさないんだからっ」
「ちちうえもだめだからねっ」
そう言いながらプリプリとしながらシャリオン達の元へ帰ってくる。
攻撃ではないにしても、脅そうとした事を叱ろうと思ったのだが、ガリウスが2人を抱き寄せた。
「2人ともありがとうございます。
今回は父様がヴィンフリート様に失礼を働いてしまったので。
ですが・・・脅しの様にそんな事を言ってはいけません」
「「でもっ」」
「2人に魔法を教えたのは人を傷つけるためではありません。
守る為と言ったはずです。
アシュリー。貴女は何のために覚えるのですか」
「っ・・・ちちうえと・・・とうさまのいる、あるあでぃあをまもる」
「ガリオン。貴方は何のために覚えるのですか」
「っ・・・ちちうえと・・・とうさま、しゅりぃのすきなはいしあをまもる」
「っ・・・!!」
いつの間にそんな話をしていたのだろうか。
叱らなければならないという気持ちは一気に消え去った。
子供達の普通とは異なることに、恐怖よりも胸が熱くなった。
まだ小さいのにそんなことを考えているなんて。
とても立派な考えだが、素直には喜べない。
沢山甘やかしたいと思っているのはシャリオンだけなのだろうか。
そう思いつつも子供達が安心して過ごせる領地や国を作ろうと思うシャリオン。
一方のガリウスはまだ子供達の注意が終わっていないようだ。
「相手を傷つけないと言うのは当然ですが、
貴方達はその覚悟はあるのでしょうか」
「「かくご?」」
「攻撃する意思を相手に見せたと言うことは、相手に攻撃をされても仕方がありません。
2人はヴィンフリート様に攻撃をされたら、己やセレスは守れるのですか?」
「「!!」」
「・・・ヴィンフリート様は父様やセレスよりも強いですよ」
そう言われると言われていることは解るのかくしゃりと顔を歪ませると、ヴィンフリートを睨む子供達。
「『カチカチ』しない・・・」
「「・・・ごめんなさい」」
言いたいことを飲み込み悔しげだが謝る子供達。
気は強いが話せばちゃんとわかってくれる。
ガリウスのためにそんな事をしたなんてなんて愛おしいのだろうか。
ガリウスの腕の中で今にも泣きだしそうな子供達を撫でてやりたくなるが、今は謝罪の最中でそのヴィンフリートに視線をやる。
すると、楽し気に笑った。
「フォッフォッ
・・・ガリウスの小生意気そうなところが、ほんににておるのう。
しかし、優しいところも似たようじゃのう。
よいよい。父の為にした事。今回は許そう。
・・・しかし、次は相手をよく見てから喧嘩を売るのじゃ」
そういうと魔力を持つ者にしかわからない威圧を張り巡らせると子供達はビクリとする。
力の差を理解した様だ。
ガリウスの腕にしがみつき、ガリウスの様に結界を張り出した。
すると、そんな子供達にヴィンフリートは目を細めた。
「ふむ。ガリウス・・・ちと甘やかしすぎではないかのう」
「王族と貴族になるのです。
そこまで戦闘に特化させなくても良いでしょう。
・・・しかし、思考が足りないのは困りものですね」
「王も公爵も愚かな者では、その下の者が苦しむ。
・・・ワシは準備があるからのう。
お前たちは訓練してくるがよい。
セレス・・・じゃったかのう。
お主もガリウスと共についていき、見てくるのじゃ。必ず役に立つ」
シャリオンをあえて含めなかったことは解る。
危険なところに行くというのだろうか。
心配気にヴィンフリートに視線をやる。
「僕は・・・」
「シャリオン殿はワシと一緒に準備してくれんかのう?」
「駄目です」
そんなことを許すわけもなく、間髪置かずに止めるガリウス。
しかし、ヴィンフリートは呆れたように眉を顰めた。
「シャリオン殿がいかに魅力的だとしても手を出さんわい」
そして、何か言いかけたガリウスの言葉は聞かず、ヴィンフリートが手を掲げたかと思うと、次の瞬間ガリウス達の姿は消えていた。
「!」
ガリウスが目の前から消えるなんて事、もう二度としたくない。
しかし、唐突に消えたことは驚いたが、あの時のようにかき乱されることはなかった。
それは慣れとかそういう事ではなく直感。
とはいっても、話の前後を見ていたのもある。
姿を消した後すぐにヴィンフリートがフォローするようにこちらを見てきた。
「あやつらは安全なところにいるから大丈夫じゃ」
「はい」
「あまり驚いてないようじゃな」
疑問も持たずに返事をすれば驚いた様にするヴィンフリート。
「ガリウスのお師匠様がガリウスに危険な事をするとは思えません」
口が悪いとしてもガリウスはヴィンフリートのことを信じている。
そう言ったのと同時にガリウスから思考共有がされてきた。
『シャリオン』
『ガリィ!大丈夫?』
『えぇ。・・・困った方です。・・・、すぐ戻るので相手をしてやっていただけませんか?
自ら隠居しているというのに、人と話せるのが嬉しいのかもしれません』
先ほど反対をしていたが、引き離されることで諦めがついたようでクスリと笑った。
シャリオンは『わかった』と返す。
恐らくさっきの様子だと怒っているようだが、ヴィンフリートは護衛のゾル達を残した。
そういったこともあり譲ったのかもしれない。
しかしそう答えたヴィンフリートは目を細めた。
「随分懐かしい術を使っているようじゃな」
一瞬なんのことを言っているかわからなかったが、術とつくものは一つしかない。
「この秘術をご存知なのですか?」
「それはかつての友が作ったものだからのう」
「!?」
「すまんが、詳しいことは言えんのじゃ。
聞いてもらえんで貰えると助かる」
先ほどのガリウスとのやり取りを思い出し、シャリオンはコクリと頷いた。
「わかりました」
「城ではいろんなのが煩くてのう。
結界を張っているから気づかなかったわい」
「・・・うるさい?」
以前城に来た時にはウルフ家の術に気付かなかったことを教えてくれるが、それよりも城の部屋には防音の魔法が張られている。
ガリウスの師匠であるヴィンフリートならガリウス同様に魔法で聞くことは出来るだろうが、なのであれば解かなければいいのではないのだろうか。
「あ、・・・いえ」
シャリオンがそうそう尋ねてしまい慌てて疑問形を直すと、ヴィンフリートの目元が優しく微笑んだ。
「シャリオン殿には手伝いをしてもらおうかのう」
「はい」
歩き出したヴィンフリートに慌てててシャリオンはついていく。
大きな籠を手渡され、ゾルが代わりに持ってくれようとしたが、その籠は不思議なことに羽のように軽かった。
ここが領地や城であればゾルに任せるが、ここはヴィンフリートの棲み処で他の目はない。
シャリオンはゾルの手伝いを断ると、ヴィンフリートを追いかける。
先ほどの部屋からつながる小さな通路を経て、今度は天井まで高くそびえる棚に、たくさんの物がおかれた部屋にたどり着いた。
それは瓶や小物、人形やコイン。様々なものがおかれている。
ヴィンフリートはいくつかの瓶を手に取り、最後に取った瓶には不思議なことに植物な芽が出したものだった。
薄暗い部屋でそれも小瓶に入っているというのにその状態であるという事は魔力が宿っているあかしだ。
シャリオンはそれらを受け取り、渡されたバスケットに詰めていく。
「城はのう。いろんな思惑が交差しておるじゃろう?」
「?それは・・・そうですね」
「今は大分ましになったがのう。
それでも煩いもんは煩いし、余計なことも聞こえてくる」
「人の心が分かるのですか・・・?」
「うむ」
意外にも肯定されるとは思わなかった。
しかしそれはウルフ家の秘術と似たようなものなのだろうかと考える。
「違うのう。それは互いに許容しなければいけないじゃろう」
「そう・・・なのですか?」
「無意識に信用しているという事かのう。
それか、アヤツがてこいれした可能性もあるが」
「それは解りませんが、話しかけなければ相手に繋がることはないですね」
「その方がいい」
そういうヴィンフリートは何かを思い出しているのか、眉間に皺を寄せた後急に明るく笑いだした。
「ふぉっふぉっふぉ。
ただ面倒なだけという事もあるがのう。
そうそうヴィスタはまだその存在に気づいてないから安心するが良い」
「それはいつかはそうなるってことですか?」
「アヤツが人を支配したいと考えた時にそうなるかもしれんのう」
その言葉にシャリオンはドキリとした。
いずれは人の考えを読めるようになるというのだろうか。
神獣つまりは神だ。
しかし、彼には心が幼いという危うさがある。
そんなヴィスタが人間の心を見れるようになったら、あの約束は反故されてしまうのでないだろうか。
それにヴィンフリートも以前そうだったという事か?
困惑しているとヴィンフリートは笑った。
「ワシの場合はこの世界に記憶を持った時からだから大丈夫じゃ」
「そう、なんですか?」
「うむ。初めて流れてきた他人の思考は産みの親じゃったかのう」
魔力の高い子供は生まれてからすぐは親の感情を読みとれることがあり得るようだが覚えているのも凄い。
親が初めだという事は、『生まれてきてありがとう』とかだろうか。
なんだか暖かい気持ちになりながら、ヴィンフリートに尋ねた。
「どのようなことを思われていたのですか?」
「んー・・・。どうじゃったかのう。・・・随分と大昔のこと故忘れてしまったわい」
「そうなのですか?」
「シャリオン殿。その隣にある時計を取ってくれんかのう」
「はい」
棚を探して古びれているが動いている時計を手に取ると籠の中に入れた。
それからもたわいもない話をしながら、次々に籠を埋めていくとヴィンフリートは腰をたたきながら息を吐いた。
「ふぅー。久しぶりに歩いたから疲れたのう」
「っ・・・申し訳ありません」
「いやいや。シャリオン殿と話ができたのじゃ。
それに年寄りにはいい運動じゃった」
そう言いながら笑うヴィンフリート。
ヴィンフリートの一挙手一投足におびえているというわけはないが、やはりご老人を動かすのは気が引けていたのは事実だ。
こんなことだったら、メモをもらってシャリオンがこの棚の迷路から探し出せばよかったと思っていると、ヴィンフリートは再び優しく微笑む。
好印象のようではあるが何故そんなにもしてくれるのだろうか?
良く思ってもらうのは嬉しいが、不思議である。
少々戸惑いを感じヴィンフリートに見つめ返していると、先ほどガリウスにしたような意地悪気な笑みを浮かべた。
「これこれ。年寄りをそんな熱い目でみておると、口うるさい伴侶に叱られるぞ?」
「っそ、・・・そういうわけではっ・・・ぁ」
確かに見すぎていた。
咄嗟に視線を逸らしたのだが、その先に懐かしいゴブレットが映った。
そのゴブレットはシャリオン達が初夜を迎えた時に、甘い蜜が注がれていた入れものだ。
あの蜜があったからこそ、初めての夜も緊張でおかしくならずに済んだもの。
確かに人にいうものではないが、それは愛し合った思い出でもありシャリオンが目を奪われていると、ヴィンフリードが動きを止めたシャリオンに気が付いた。
「ん?なにか気になるものがあったのかのう?
・・・おぉそれか。そのピンクの小瓶の中身はリラックスが出来るものじゃ」
あのゴブレットに気を奪われ、なにを思い出していたのかを知られるのは恥ずかしい。
心が読めることもすっかり忘れて、シャリオンは必死に平常心を装う。
幸い・・・と言うよりもヴィンフリートが気を利かせて別の物を差したのだが、その小瓶の方にシャリオンは視線を向けた。
確かにたくさんのピンク色系の小瓶がたくさん並んでいるではないか。
シャリオンはそれを訂正せずに続けた。
「っ・・・きれいな瓶ですね」
「そうじゃな。どれ。飲んでみるか?
少々気が動転しているようじゃ」
「っ・・・はい」
「では持ってくるのじゃ」
シャリオンはその言葉に瓶を棚からとると籠に入れると、ヴィンフリートを追いかけ先ほどの部屋へと戻った。
・・・
・・
・
それから2人だけのお茶会が始まったのだが、それはすぐに終わる。
どんなに体調が悪くとも気丈にふるまい、退出の挨拶をしてから下がるのが貴族のマナー。
勿論そうではない時もあるが、人前で恥をさらすわけには行かない。
シャリオンが体調のおかしさに気が付き、少し休ませてもらおうと思った時には手からするりとカップが滑り落ち、床に激しい音を立てる。
熱い。
思考は定まらず、熱さと・・・この熱を止めてくれる人をしか考えられなかった。
「っ・・・っ・・・が・・・りっ」
熱っぽい呼吸を繰り返しながら、吐息のように呼び掛ける。
唐突にそんな状態になったゾルは瞬時に警戒態勢に入り、シャリオンを抱き寄せた。
「っ・・・シャリオンッ・・・何をしたんです!!」
シャリオンを抱きかかえるゾルの周りには姿を消していた2人のゾルが立ち並ぶ。
今日は少数のウルフ家しか連れて来れなかった。
それも、ガリウスの師匠だからだけでなくレオンも信頼している人物だからである。
しかし、この状況は由々しき事態。
ゾル兄弟達は自分達がこの人物に勝てないことは理解しており、どれだけ安全にシャリオンをここから連れ出しガリウスの元へ連れていくかを考えた時だった。
脅威をもたらした人物は、策にはまりこちらが慌てていることに笑っている。・・・と、思ったのだが紫色の小瓶を手に取り凝視している。
そのことにゾルもハッとする。
棚にあった時は確かにピンクだったのだはずだが、それは紫色にしか見えない。
「これは・・・まずいのう」
「っ・・・!」
落ち着いたままにいうヴィンフリートにカッと手を出そうとするのは、3人の中で修行に出たゾルだ。
3人の中で確実に強くはなったが、沸点も短くなってしまった。
2人のゾルはそんなゾルを止める。
「「まて!落ちつけ」」
「わかってるっ」
その言葉にホッとしながら、そのうちの1人がヴィンフリートに尋ねる。
「っ・・・ヴィンフリート様。それはどういう意味でしょうか」
「間違えて籠に入れてきてしまったようだ」
「この効果は一体」
「安心するのじゃ。毒ではない」
それは本当なのだろうか。
訝し気にヴィンフリートを見ていると、鋭い眼差しをこちらに向け、懐から何かを取り出すと此方に投げ渡してきた。
ゾル達はそれに見覚えがあったが、ここにはないはずのものだ。
それも色が以前見た物よりも色鮮やかに見える。
「っ・・・!」
「何をしておる。さっさとガリウスのやつを呼んでくるのじゃ。
その魔法石はここであれば繰り返し使えるものじゃ。
それで迎えに・・・いや。おぬしらだけでは扱えんかのう・・・と、どうやら戻ってきたようじゃわい。
ほんに鼻が利くようじゃ」
呆れたように言った後で、ゾル達が困惑をしていたのだがその考える間も与えずに、ガリウスが戻ってくるとゾル達は入れ替わりで姿を消す。
その拍子に支えのなくなったシャリオンをガリウスが抱きとめた。
「が・・・りぃ」
「・・・シャリオン」
意識のもうろうとしているのに、ガリウスだとわかるのかすり寄るシャリオンに目を細めた。
「状況は彼らに聞いたので結構です」
「ほう。で、あればその石を使いさっさと戻ったらどうじゃ。
どうせ、ワシの用意した空間では嫌なのじゃろう」
この死山は不思議なことに普通のシディアリアの魔法石を持ってしても、ここに転移出来ない。
出来るのはシディアリアのディディが持つ特殊な転移の魔法石と、ヴィンフリートに渡された石だけだ。
威力はヴィンフリートの石の方が優れているのだが、それはつまりあの石よりも多くの魔力を使う。
ヴィンフリートは手をかざすと、その手から光が紡がれガリウスの周りから何かをはぎ取っていく。
「これで良いじゃろう。常に結界を忘れる出ないぞ。理性はなくすな」
「そんな事よりも『忘れて』下さい」
「・・・お主のう・・・」
シャリオンは意識がはっきりしないうえ、今は子供達もおらずガリウスは端的に言う。
それでもヴィンフリートには伝わっており呆れたようにため息を吐いた。
「シャリオンのこの姿を忘れろ」
地を這うように声色は低く怒りをみなぎらせるガリウスに、ヴィンフリートは大げさにため息を吐くと手をひらつかせた。
怒りで命令形ではあるが、これは許可を求めているのだ。
ヴィンフリートは仕方なしに手で合図をする。
「しかしのう。・・・あまり人の記憶を操るようなことをするでない」
「・・・。していませんよ」
「言葉が違ったな。あまり偽るな」
「・・・」
「おぬしなら、あんな小娘の魔法に掛かるわけなかろう」
「それはシャリオンに話しましたか」
「あの国での出来事など話しておらん。
賢い子じゃ。ワシが答えないことを察してヴィスタのことは聞かんかった」
「・・・。説教をなさるなら、初めからもっとわかりやすく教えて下さい」
「それが出来ないことも解っているのに聞く出ない」
「・・・ッチ」
ガリウスは短く舌打ちを打つ。
シャリオンには絶対に見せない態度だ。
ヴィンフリートに忘却の魔法を掛けると、この会話は無駄である。
シャリオンの顔を再び見せないようにしっかりと抱きしめた。
「子供達は頼みます」
「心得ておる」
そう言うとガリウスとシャリオンは姿を消した。
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