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執着旦那と愛の子作り&子育て編

【別視点:ハイシア領領主のできる側近】

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【別視点:ゾル】

予想外のことで足止めをされ、いまだ馬車の中。
その事態にウルフ家の者たちは警戒態勢になった。
主の傍で表向きは落ち着いた様子だが、一族内で思考共有で情報のやり取りを行う。
そんな時に入手したガリウスの情報。
自分達が入手できなかった情報を持っていることに悔しさよりも、やはり使える男だと感心した。

ガリウスは絶対にシャリオンを裏切らない。

それは婚約前に様々なトラップを仕掛けすでに証明されている。
金もどんな女もどんな男も何をぶら下げても食いつかない。
唯一食いつくのはシャリオンの元婚約候補者達の情報だ。
絶対に止められるような質の悪い人間ばかりをリストに追加し婚約させない様にし、確実に自分と婚約する様に仕向けた。

結婚してからもガリウスはシャリオンを蔑ろにする様な事はなく、常にシャリオンを考えて行動している。

いつかガリウスが『私はシャリオンより一日だけ多く生きますよ』と言った。
相手がシャリオンでなければ、常軌を逸しているいると言っていた。
理由はこの世界に残して置くのは心配と、それにつけこむ輩に嫉妬で死んでも死にきれないと言ったのは呆れと同時にこの男なら大丈夫だと思った。

ガリウスがする何かには必ず理由がある。
その理由は全てシャリオンの為であり、それも最後にはシャリオンが笑顔になる事しかない。
出来れば馬鹿みたいずっと笑ってくれればいいが、そうもいかないのもわかっている。

今も人の存在を忘れこんな狭い空間でいちゃつく2人を見ながら、そんなことを思った。

足止めされていると言うのに不服そうなのは口だけで、この状況を楽しんでいる。・・・主にガリウスだが。

どうやら繋がれた手から流される魔力に、シャリオンが嫌がっているようだ。
それは本当に嫌という事ではなく、一応残っている理性で抵抗している。
伴侶に与えられる魔力は甘美で、もっと触れたくなるもの。

再会し目を覚ましてから2人が愛し合っていないことは、長くそばにいるゾルにはわかった。
他人の気配がする場所で、シャリオンを抱くのが嫌だったのだろう。
ガリウスも触れたいのだからなのかそんな悪戯(?)を仕掛けているが、余計触れたくならないのだろうか。

そんな意地の悪い伴侶に気の毒にも思うが、シャリオンが本心で嫌がっていないのは目に見えていて、ゾルはレオンや他人に会う前以外は止めなかった。
助けたとして、シャリオンが助かったというのはどうせ口だけだし、ガリウスに恨まれたくはない。
それ以前にガリウスがゾルで止まるわけがない。
それに、ガリウスを甘やかして焚きつけているのはシャリオン自身だ。

「ガリィ・・・」

シャリオンがついに少し怒った声色で呼び掛けると、わざとらしいガリウスは何を言われてるか分からないと言った様に首を傾げた。
悪戯をするガリウスをキッと睨み手を剥がそうとする。
当然ガリウスは逃さまいと絡める指をより力を籠める。

・・・ガリウスを煽るのが本当にうまいな

そんなことを顔には出さずにしみじみ思う。
あれで狙っていないから驚きである。
すると、・・・常に思考共有がされた兄弟たちが答えた。

そんなことシャリオンは永遠に気づかないだろう

少々呆れたように返してくる。
もう一人の兄弟がそれに肯定する

たとえ言っても無理じゃないか?

シャリオンやガリウスとの思考共有は彼らはそれぞれが、ゾルに共有したいと思った時につなげているが、ゾル達は常に繋がっているのだ。
最近はよく見ると違いがあるが、元々3人で1つという意識があるゾル達はそれぞれに隠し事はない。
まるで自問自答のような会話をしながらも納得する。

素直なシャリオンが例え意識的に反応しないようにしても、ガリウスを無視し続けるのは無理だ。
それに、ガリウスの嘘くさい殊勝な態度にシャリオンは自覚しているのに騙されてしまう。
今も困った表情のガリウスにシャリオンは息を飲んだ。

「不安なのです。・・・貴方に離れていたからか」
「っ」

シャリオンの手を握り、ジッと瞳を見つめると睨んでいた視線はすぐに解かれてしまう。

「っ・・・でも、・・・困る」

頬を赤く染め視線を逸らしたシャリオンだが、それくらいで逃がしてくれるわけがない。
言葉で視線で動きでシャリオンの心情を揺さぶるガリウス。

「・・・。私に触れられるのはもう嫌ですよね」
「!」

そんな風に言われたシャリオンは音がしそうな勢いで首を振り否定をする。

「そんなことないっ」
「・・・ですが、貴方を不安にさせてしまった私にはその資格は」

なんてそんなことをいけしゃあしゃあと言うガリウス。

「それは・・・ガリウスの意思のなかったところでしょう?」

ちなみにこういうやりとは既に数回している。
勿論まるきり同じではないが、そのたびにシャリオンは全力で否定をする。

「っ・・・さっきも言ったけれど、・・・ガリウスの魔力は触れたくなってしまうんだ」
「!・・・申し訳ありません。
魔力が流れていましたか。
・・・貴方に触れていると無意識に流してしまうようです」
「僕の魔力が少なくなってしまってガリウスが流していてくれたからかな」
「そうかもしれません」

シャリオンはそんな嘘を信じこくりと頷きながら、頬を染めた。

「触れ合っているだけなら・・・大丈夫だから」
「気を付けます。・・・誓いのキスをしても?」
「っ・・・~!」

頬だけでなく首筋まで赤く染めたシャリオンにクスリと笑った後、繋いだままの手を持ち上げると、きざったらしく手の甲に口付けた。

「唇には屋敷に帰ってからにしましょう。
・・・私も我慢できなくなってしまいます」
「っ~!」

すると、あまりの羞恥とからかいに再び手を引き抜こうとしていたが、ガリウスがそれを逃がすわけなく引き寄せると覗き込んだ。

「離したくありません」
「っわ、わかったから!」

完全に遊ばれているようだ。
しかし、こんな空気になったのはシャリオンが隣にいるガリウスに安心するのか、無意識で体を密着させたのが始まりだ。公爵家の広い馬車だというのに。
愛している相手にそんなことをされて、その気にならないわけがないのだ。

シャリオンの機嫌を直すようにバードキスを繰り返すガリウスに笑ってやりたくなるが、そんな事をしたら反応するのはシャリオンで、ゾルに笑われたことにより自分の存在を思い出し、あまりの羞恥にガリウスを強く拒否をしてしまった日には・・・ガリウスに恨まれる。
しつこいくらいの嫌味が応酬されるだろう。

「んっ・・・っ・・・ふふっ・・・んっ・・・が・・・りぃっ・・・これ、いじょ・・・は」

くすぐったげに声を上げるシャリオンにガリウスは満足そうに微笑む。
シャリオンに対しては欲望に素直な男なのでアルアディアに入った今、ワープリングを使った強行も考えただろうが同行している人間を置いていったらシャリオンが怒るからそうしないだけ。

「・・・えぇ。・・・・」

するとガリウスはシャリオンの耳元で何かを囁く。
どうやらそれはゾルにも聞かせたくないらしい。
言われたシャリオンは驚いた様にしつつ頷いた。

今にも始まってしまいそうな雰囲気を醸し出しているが、嫉妬深いガリウスがこの後ワープゲートに向かうのに、色っぽいシャリオンを他の人間に見せるわけが無い。
ゾルとしても2人で仲睦まじくしている分には止めないが、余計な虫が付くのは面倒なので避けたい。
・・・あとシャリオンを溺愛しているレオンに見せるのは父親にはかわいそうなのでそれも避けるべきだろう。

困りつつも嬉しそうにするシャリオンを見ながら、今まで以上に仲睦まじくなりそうな2人に口角を上げた。
シャリオンの幸せがゾルの喜び。

それなのに・・・それを邪魔する気配を感じ眉をぴくりとうごかした。
ガリウスが攫われた後、シャリオンは見てわかるほど落ち込んでいるのに、頑張っている姿は痛々しかった。
それなのに、面倒事はまだ遠ざけたいのだが・・・それもできない人物が馬車に訪れたのだ。
舌打ちを打ちたい気分だ。

その人物に苛立ちを感じながら2人に声をかけた。

「・・・シャリオン。ガリウス。お目当てのミクラーシュが来た様だ」

ゾルの言葉にシャリオンは体を魚籠つかせる。
やはり自分の存在を忘れていたらしく、自分の顔を見るなりパクパクと口を動かしたが、視線を落としながら襟元をぱたつかせ服の間に空気を入れて熱をさまそうとするシャリオン。
ガリウスは涼やかな風をシャリオンの周りに魔法で吹かせながら、こちらに視線を向けてきた。

『適当に伸ばせなかったのですか』
『出来たならとっくにしている。
むしろ会わせずにこのままお前たちをハイシアに送ってしまいたいくらいなのに』
『帰ったと言う事にして貰いたいところですがね。面倒臭い』

口調が崩れたところを見ると心底そう思っているのだろう。

『そうするか?』

ゾルはシャリオンが許せばそれ以上はない。
・・・というのは体裁で罵倒をしたことも、シャリオンに無理をさせたことも嫌悪している。
危険がある人物だったらゾルでも説得ができるが、それは難しい・・・相手だ。
相手は王太子ルークの側室という立場のミクラーシュ。
シャリオンは許していなかったというのに、・・・ミクラーシュの事情を聴いたら許してしまった。
それどころか、あの男の所為ではないと言い出し始末だ。
人が良すぎるにも程がある。

『・・・どうしたんですか』

ウルフ家のゾルが自らガリウスの言葉に自ら動こうとする事に驚いた様だ。

『お前のする事は全てシャリオンの為だろう』
『・・・』
『どうする』
『・・・いいえ。今回はもうシャリオンに知らせてしまいましたし。
もう片付けたい気分なので良いですよ』
『わかった』

口には出さずに可笑しなことをいうガリウスに返せば、それはそれで満足したのか威圧するような空気がなくなり口元に笑みが浮かんでいるのを見て、呆れた表情をしてしまう。

「もうしばらくしたらこちらに来る」
「っ・・・分かった」

そういうと、シャリオンはガリウスに引き寄せられていた体を離すと手を引こうとするが、ガリウスの方はそのつもりがないようだ。
どうするのかとシャリオンの方を見れば困ったようにしながらも許可が出た。
ゾルはその意思に従い馬車の扉を開けた。

「・・・、・・・お久しぶりにございます。ミクラーシュ様」

ガリウスが他人に厳しい態度であることを、ゾルも言えない。
冷たい視線を男に向けながらそんなことを思った。
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