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執着旦那と愛の子作り&子育て編
後悔しかない。
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背中にぬくもりを感じながら目を覚ます。
愛おしい熱にふわふわした覚醒状態でも幸せを感じていたのだが、ベッドシーツの上に動く黒い影に暗い気持ちになる。
シャリオンの手のひらを行ったり来たりしているのは、目の前に起きている事ではなく王都の上で起きている事だ。
「・・・」
ドラゴンの目的がなんなのか未だよくわかっていない。
領地へ戻る話も出たが警備が王都の方が厳重であることや、不安定なアンジェリーンとミクラーシュの為に残ってほしいと言われてしまった。
断りたくてもルークからそう言われてしまえば断れなかった。
何よりもドラゴンは今はハイシア領には見向きもしていない。
半身を起こして窓の外を見上げていると、そっと肩を抱き寄せられた。
見上げれば、ガリウスも起きていたようで、視線が絡むと人にキスを落とされる。
「大丈夫です。必ず領地へは帰れます」
「・・・うん」
シャリオンの不安を慰めるようにそう言うガリウスにコクリと頷いた。
☆☆☆
アルアディアの上空にドラゴンが旋回する様になり1週間の時が流れた。
その間に、カルガリアで聞いた『清らかな音色』を求めて聖歌隊を編成し聞かせてみたが効果はなかった。
『清らかな音色』では無いのか、そもそもその情報の正確性も、『清らかな音色』があれば本当に鎮まるのかも分からない。
なにせドラゴンは現存しているものは1匹しかいないとされていた上に、ある時からドラゴンを祀っていた里は、閉鎖的になってしまった為、カルガリアでもよく分かって居ないのが実情だ。
アルアディアに神獣とも言われるドラゴンが出現した事は、たった1週間しかたっていないのに、全世界に知らされた。
特に隣国のカルガリアからは祝福を贈られたが、アルアディアでは信仰宗教があるわけではなく、主たる神は居ない上に、上空を旋回するドラゴンのせいで流血が降り注ぎそうな状況に不快感が募った。
自国神獣ならしっかりと管理しろ
と、そう言いたいところだが、相手は神獣。
それにカルガリアのドラゴンかどうかも分からないため、抗議をするのは耐えた。
他国の神をペットの様に躾しろだなんて言うのは、反感を買い国際問題にも発展する。
カルガリア以外にも、ドラゴンを神として崇めている国もあるのもネックだ。
他国から入ってくる宗教は、規模を守れば禁止はしていないから、国民の中には上空に旋回するドラゴンを神の様に崇める様なものいるとはきいてるが、
0では無いだけで圧倒的に数は少ないそうだ。
1週間もたち、もう流血が国内に降り注ぐ事はないだろうが、結界を壊す行為は恐怖しかない。
それから、3日後のことだ。
突如、王都の空にドラゴンが消えた。
皆が一斉に胸を撫で下ろした所で、アルアディアにあるハイシア領を除く領地にある街が次々と結界が壊される。
それ以上の破壊攻撃はないが、低空で飛び威嚇の様に咆哮を撒き散らすそれは恐怖でしかない。
困惑が続く中、カルガリアの使徒がアルアディアに乗り込んできた。
☆☆☆
カルガリア国王とも面識があり、一番最初に襲われた領主として話を聞きたいとレオンに訴えたが駄目だと言われた。
しかし、側近であるガリウスの助手として発言をしない代わりに同席を許可してもらった。
宮廷で勤務している下級職員の衣服に着替えた。
城内勤務は久しぶりで、この服も久しぶりに袖を通す。
身分を隠し参加するのは緊張するが、聞いておきたい。
訪れたカルガリアの民は国の使者と言うより、彼等は神官服を身に纏ったもの達が多かった。
そして、国王や宰相よりも発言権があるのか、開口一番が女性神官の怒りの声だった。
「あのお姿はどう言うことです」
アルアディアの人間からしたらあり得ないことだ。
温厚なブルーノも流石にカチンと来た様に見えた。
「急な起こしゆえ、満足なおもてなしもできず申し訳ない」
問いかけてきた女の言葉には答えず、カルガリア国王に皮肉な挨拶を返すブルーノ。
それが分かったのだろうか、カルガリア国王の笑顔は引き攣っている。
癖のある宰相と、癖のある神官達に少々気の毒に思える。
「いえ。此度は急な訪問にも関わらずこの様な時間をお取りいただき、誠にありがとうございます」
「国王よ。
愚かな王に尋ねなさい。
崇高なる神の使いである神獣ヴィスタ様がなぜあの様なおいたわしい姿になっているのかを」
2人の間にバッと遮る様に入った女神官。
服装の装飾から皆より上の立場だと思われる。
それゆえか神官達は誰一人として止めようとしない。
「この者らが神に無礼を働いたのであれば当然の神罰が下ります。
神がお許しでも私が天誅を下しますわ」
がなりたてるタイプも苦手だが人の話を聞かないこのタイプはシャリオンの苦手なタイプだ。
自分達の大切な神を傷付けられたらこうもなるのだろうか。
考えても答えが出ないでいると、1人の男がこちらを見たかと思うと、女に耳打ちをした。
「・・・!!」
こちら、・・・正しくはガリウスになるが、ガリウスを見た途端、その女は駆け寄ってくると足元に跪いた。
そして。
「お迎えにあがりました・・・!」
「何を」
説明を求めようとした、ガリウスの手を握った。
そして次の瞬間。
女はシリアディアの転移の魔法石を取り出した。
「ガリィ!!!」
「っ!」
シャリオンが伸ばした腕をガリウスは咄嗟に払って、
ロイ達の方へと突き飛ばした。
「っ!!」
その唇は『大丈夫です』といつもの様に動いていた。
「っっっっ!!」
先程まで立っていた所に立つも、どこにもいない。
気付けばあたりには神官達も全て消えいたが、シャリオンはガリウスが目の前で消えた事にいっぱいいっぱいになっていた。
足が震えるのが止まらなくて、そんな様子のシャリオンをゾルが抱き寄せる。
「っ・・・っが、りぃ」
「息を吸え。シャリオン。しっかり前を見ろ。
じゃなければこの部屋をでるか?」
「!」
取り乱しても仕方がない。
それよりも何も知らされないのは嫌だ。
首を横に振り息を吸う。
「クッ・・・ガリウスを何処にやったのだ!!!」
「こ、これは」
血の気が一気に引いたカルガリア国王に、レオンもシャリオンも少し冷静になれた。
「来国の前触れもほぼないのと同様な上に、
唐突に人攫いをなさるとは・・・。
これは、開戦宣言をされにきたと受け取って宜しいでしょうか」
「違います!!」
「では」
ブルーノの低い声が部屋に響く。
ここまで不機嫌をあらわにしているブルーノの声は初めてだ。
ブルーノもまたレオン同様に、シャリオンには優しい面しか見せてこなかった。
「どう言う事なのか説明してもらおうか」
☆☆☆
攫った女性の神官はディアドラといい、ドラゴンを祀る末裔の者で今代の当主であること。
先日、アルアディアにドラゴンが出現した事を聞いて、それまで閉ざされていた村の門が開きカルガリアの王城までやって来て、アルアディアに使いを出せと要望を出してきた。
しかし、その矢先にカルガリアにもあのドラゴンはやってきたらしく、全ての結界を破壊しアルアディアに帰って行ったのだが、その時に体に刻まれ傷と血の汚れに気付いたディアドラは血相を変えてアルアディアに乗り込むと言い出したそうだ。
まずは訪問の知らせをせねばならないと言ったが、一切聞き入れなかった。
勝手に行かせては問題を起こすため、一緒についてきたらしい。
その苦労は先程の言動をする人間なのだから容易に想像できる。
しかし許せる事ではない。
「発言を宜しいでしょうか」
シャリオンのその声に一斉にこちらを向いた。
レオンはシャリオンを見た後に、ブルーノに視線をやる。
すると、ブルーノはコクリとうなづいた。
「あの方はガリウスを傷つけると言う事はないのですね」
「・・・。人だと気付かれない間は」
顔面蒼白で答えるカルガリア国王。
「わかりました。
では、以前教えていただいた『清らかな歌声』の正しい情報を教えてください」
すると、皆の視線がこちらに集まる。
「・・・。
ガリウスが『大丈夫』と言ったのだから、絶対に大丈夫です。
なら残された私達がする事は決まっています。
あのドラゴンにお帰りいただきたい。
そしたら、彼女もガリウスが人間だと理解出来るでしょう」
「「!」」
『清らかな歌声』とは、代々ドラゴンを祀る家の当主である事だと知らされる。
つまりはディアドラの歌声が必要になる。
しかし、文献には処女の娘の歌声で同等の効果があるとも知らされていたそうだ。
まだ、絶望を感じる時ではない。
そう自分に言い聞かせた。
・・・
・・
・
夜。
満月の黒い点が徐々に大きくなる。
ガリウスが消えた原因が帰ってきたのだ。
なぜ、ディアドラはガリウスをあのドラゴンと勘違いしたのだろうか。
そんなことは分かるわけがないがないが、今はただその黒い点がカルガリアに引き返して欲しいと願うばかりだった。
『大丈夫です』
『!・・・ガリィ』
『必ずここから抜け出します。
ですから、心配しないで待っていてください』
『そんなことよりも、
酷いこと、されてない?』
今すぐ戻って来れないのは、ガリウスの魔法力でも敵わないからなのだろう。
もしや、もう人間だとわかり酷い仕打ちなどされてはいないだろうか。
自分のことよりもガリウスを心配するシャリオンにガリウスはフッと笑みを浮かべた。
『まだ勘違いしているようです。
熱心に私に催眠の歌を歌ってきますよ』
『催眠の歌?』
『彼女は魔力がある様です。音色に術式が載っています。こんなこと出来るんですね。
魔術について勉強しましたがこんな事は書物にありませんでした』
『!それって、どうやるの?』
『すみません。流石にそこまではわかりません』
『そう・・・』
それがわかれば、あのドラゴンと交渉が出来ると思ったのだが。
思わずがっかりした声になる。
『こちらの事は大丈夫。
直ぐに戻ります。
そしたら、一緒にあのドラゴンをどうにかしましょう』
『・・・僕も、頑張るから』
『・・・』
『無理しないで。お願い』
一刻も早く会いたい。
けれど、それで怪我などして欲しくない。
シャリオンが切実にそう願うと苦笑が聞こえた。
『えぇ。勿論です。確実ではないことを私はしません』
『うん。ごめんね』
『謝らないで下さい。・・・私のためでしょう?』
『あたりまえでしょう』
嬉しそうなガリウスの笑う声が響く。
『愛してます。シャリオン』
『僕もガリィを愛してる』
愛を囁きあいながらシャリオンは酷い後悔をしていた。
あの時手を離さなければ、もしかしたらもっと良い違う未来があったのではないかと、思ってしまうのだった。
そう思うのは、次の日の朝だった。
ガリウスから一方的に囁かれた。
『申し訳ありません。
しばらくはカルガリアに居たいです。
なので思考共有も解除します』
愛おしい熱にふわふわした覚醒状態でも幸せを感じていたのだが、ベッドシーツの上に動く黒い影に暗い気持ちになる。
シャリオンの手のひらを行ったり来たりしているのは、目の前に起きている事ではなく王都の上で起きている事だ。
「・・・」
ドラゴンの目的がなんなのか未だよくわかっていない。
領地へ戻る話も出たが警備が王都の方が厳重であることや、不安定なアンジェリーンとミクラーシュの為に残ってほしいと言われてしまった。
断りたくてもルークからそう言われてしまえば断れなかった。
何よりもドラゴンは今はハイシア領には見向きもしていない。
半身を起こして窓の外を見上げていると、そっと肩を抱き寄せられた。
見上げれば、ガリウスも起きていたようで、視線が絡むと人にキスを落とされる。
「大丈夫です。必ず領地へは帰れます」
「・・・うん」
シャリオンの不安を慰めるようにそう言うガリウスにコクリと頷いた。
☆☆☆
アルアディアの上空にドラゴンが旋回する様になり1週間の時が流れた。
その間に、カルガリアで聞いた『清らかな音色』を求めて聖歌隊を編成し聞かせてみたが効果はなかった。
『清らかな音色』では無いのか、そもそもその情報の正確性も、『清らかな音色』があれば本当に鎮まるのかも分からない。
なにせドラゴンは現存しているものは1匹しかいないとされていた上に、ある時からドラゴンを祀っていた里は、閉鎖的になってしまった為、カルガリアでもよく分かって居ないのが実情だ。
アルアディアに神獣とも言われるドラゴンが出現した事は、たった1週間しかたっていないのに、全世界に知らされた。
特に隣国のカルガリアからは祝福を贈られたが、アルアディアでは信仰宗教があるわけではなく、主たる神は居ない上に、上空を旋回するドラゴンのせいで流血が降り注ぎそうな状況に不快感が募った。
自国神獣ならしっかりと管理しろ
と、そう言いたいところだが、相手は神獣。
それにカルガリアのドラゴンかどうかも分からないため、抗議をするのは耐えた。
他国の神をペットの様に躾しろだなんて言うのは、反感を買い国際問題にも発展する。
カルガリア以外にも、ドラゴンを神として崇めている国もあるのもネックだ。
他国から入ってくる宗教は、規模を守れば禁止はしていないから、国民の中には上空に旋回するドラゴンを神の様に崇める様なものいるとはきいてるが、
0では無いだけで圧倒的に数は少ないそうだ。
1週間もたち、もう流血が国内に降り注ぐ事はないだろうが、結界を壊す行為は恐怖しかない。
それから、3日後のことだ。
突如、王都の空にドラゴンが消えた。
皆が一斉に胸を撫で下ろした所で、アルアディアにあるハイシア領を除く領地にある街が次々と結界が壊される。
それ以上の破壊攻撃はないが、低空で飛び威嚇の様に咆哮を撒き散らすそれは恐怖でしかない。
困惑が続く中、カルガリアの使徒がアルアディアに乗り込んできた。
☆☆☆
カルガリア国王とも面識があり、一番最初に襲われた領主として話を聞きたいとレオンに訴えたが駄目だと言われた。
しかし、側近であるガリウスの助手として発言をしない代わりに同席を許可してもらった。
宮廷で勤務している下級職員の衣服に着替えた。
城内勤務は久しぶりで、この服も久しぶりに袖を通す。
身分を隠し参加するのは緊張するが、聞いておきたい。
訪れたカルガリアの民は国の使者と言うより、彼等は神官服を身に纏ったもの達が多かった。
そして、国王や宰相よりも発言権があるのか、開口一番が女性神官の怒りの声だった。
「あのお姿はどう言うことです」
アルアディアの人間からしたらあり得ないことだ。
温厚なブルーノも流石にカチンと来た様に見えた。
「急な起こしゆえ、満足なおもてなしもできず申し訳ない」
問いかけてきた女の言葉には答えず、カルガリア国王に皮肉な挨拶を返すブルーノ。
それが分かったのだろうか、カルガリア国王の笑顔は引き攣っている。
癖のある宰相と、癖のある神官達に少々気の毒に思える。
「いえ。此度は急な訪問にも関わらずこの様な時間をお取りいただき、誠にありがとうございます」
「国王よ。
愚かな王に尋ねなさい。
崇高なる神の使いである神獣ヴィスタ様がなぜあの様なおいたわしい姿になっているのかを」
2人の間にバッと遮る様に入った女神官。
服装の装飾から皆より上の立場だと思われる。
それゆえか神官達は誰一人として止めようとしない。
「この者らが神に無礼を働いたのであれば当然の神罰が下ります。
神がお許しでも私が天誅を下しますわ」
がなりたてるタイプも苦手だが人の話を聞かないこのタイプはシャリオンの苦手なタイプだ。
自分達の大切な神を傷付けられたらこうもなるのだろうか。
考えても答えが出ないでいると、1人の男がこちらを見たかと思うと、女に耳打ちをした。
「・・・!!」
こちら、・・・正しくはガリウスになるが、ガリウスを見た途端、その女は駆け寄ってくると足元に跪いた。
そして。
「お迎えにあがりました・・・!」
「何を」
説明を求めようとした、ガリウスの手を握った。
そして次の瞬間。
女はシリアディアの転移の魔法石を取り出した。
「ガリィ!!!」
「っ!」
シャリオンが伸ばした腕をガリウスは咄嗟に払って、
ロイ達の方へと突き飛ばした。
「っ!!」
その唇は『大丈夫です』といつもの様に動いていた。
「っっっっ!!」
先程まで立っていた所に立つも、どこにもいない。
気付けばあたりには神官達も全て消えいたが、シャリオンはガリウスが目の前で消えた事にいっぱいいっぱいになっていた。
足が震えるのが止まらなくて、そんな様子のシャリオンをゾルが抱き寄せる。
「っ・・・っが、りぃ」
「息を吸え。シャリオン。しっかり前を見ろ。
じゃなければこの部屋をでるか?」
「!」
取り乱しても仕方がない。
それよりも何も知らされないのは嫌だ。
首を横に振り息を吸う。
「クッ・・・ガリウスを何処にやったのだ!!!」
「こ、これは」
血の気が一気に引いたカルガリア国王に、レオンもシャリオンも少し冷静になれた。
「来国の前触れもほぼないのと同様な上に、
唐突に人攫いをなさるとは・・・。
これは、開戦宣言をされにきたと受け取って宜しいでしょうか」
「違います!!」
「では」
ブルーノの低い声が部屋に響く。
ここまで不機嫌をあらわにしているブルーノの声は初めてだ。
ブルーノもまたレオン同様に、シャリオンには優しい面しか見せてこなかった。
「どう言う事なのか説明してもらおうか」
☆☆☆
攫った女性の神官はディアドラといい、ドラゴンを祀る末裔の者で今代の当主であること。
先日、アルアディアにドラゴンが出現した事を聞いて、それまで閉ざされていた村の門が開きカルガリアの王城までやって来て、アルアディアに使いを出せと要望を出してきた。
しかし、その矢先にカルガリアにもあのドラゴンはやってきたらしく、全ての結界を破壊しアルアディアに帰って行ったのだが、その時に体に刻まれ傷と血の汚れに気付いたディアドラは血相を変えてアルアディアに乗り込むと言い出したそうだ。
まずは訪問の知らせをせねばならないと言ったが、一切聞き入れなかった。
勝手に行かせては問題を起こすため、一緒についてきたらしい。
その苦労は先程の言動をする人間なのだから容易に想像できる。
しかし許せる事ではない。
「発言を宜しいでしょうか」
シャリオンのその声に一斉にこちらを向いた。
レオンはシャリオンを見た後に、ブルーノに視線をやる。
すると、ブルーノはコクリとうなづいた。
「あの方はガリウスを傷つけると言う事はないのですね」
「・・・。人だと気付かれない間は」
顔面蒼白で答えるカルガリア国王。
「わかりました。
では、以前教えていただいた『清らかな歌声』の正しい情報を教えてください」
すると、皆の視線がこちらに集まる。
「・・・。
ガリウスが『大丈夫』と言ったのだから、絶対に大丈夫です。
なら残された私達がする事は決まっています。
あのドラゴンにお帰りいただきたい。
そしたら、彼女もガリウスが人間だと理解出来るでしょう」
「「!」」
『清らかな歌声』とは、代々ドラゴンを祀る家の当主である事だと知らされる。
つまりはディアドラの歌声が必要になる。
しかし、文献には処女の娘の歌声で同等の効果があるとも知らされていたそうだ。
まだ、絶望を感じる時ではない。
そう自分に言い聞かせた。
・・・
・・
・
夜。
満月の黒い点が徐々に大きくなる。
ガリウスが消えた原因が帰ってきたのだ。
なぜ、ディアドラはガリウスをあのドラゴンと勘違いしたのだろうか。
そんなことは分かるわけがないがないが、今はただその黒い点がカルガリアに引き返して欲しいと願うばかりだった。
『大丈夫です』
『!・・・ガリィ』
『必ずここから抜け出します。
ですから、心配しないで待っていてください』
『そんなことよりも、
酷いこと、されてない?』
今すぐ戻って来れないのは、ガリウスの魔法力でも敵わないからなのだろう。
もしや、もう人間だとわかり酷い仕打ちなどされてはいないだろうか。
自分のことよりもガリウスを心配するシャリオンにガリウスはフッと笑みを浮かべた。
『まだ勘違いしているようです。
熱心に私に催眠の歌を歌ってきますよ』
『催眠の歌?』
『彼女は魔力がある様です。音色に術式が載っています。こんなこと出来るんですね。
魔術について勉強しましたがこんな事は書物にありませんでした』
『!それって、どうやるの?』
『すみません。流石にそこまではわかりません』
『そう・・・』
それがわかれば、あのドラゴンと交渉が出来ると思ったのだが。
思わずがっかりした声になる。
『こちらの事は大丈夫。
直ぐに戻ります。
そしたら、一緒にあのドラゴンをどうにかしましょう』
『・・・僕も、頑張るから』
『・・・』
『無理しないで。お願い』
一刻も早く会いたい。
けれど、それで怪我などして欲しくない。
シャリオンが切実にそう願うと苦笑が聞こえた。
『えぇ。勿論です。確実ではないことを私はしません』
『うん。ごめんね』
『謝らないで下さい。・・・私のためでしょう?』
『あたりまえでしょう』
嬉しそうなガリウスの笑う声が響く。
『愛してます。シャリオン』
『僕もガリィを愛してる』
愛を囁きあいながらシャリオンは酷い後悔をしていた。
あの時手を離さなければ、もしかしたらもっと良い違う未来があったのではないかと、思ってしまうのだった。
そう思うのは、次の日の朝だった。
ガリウスから一方的に囁かれた。
『申し訳ありません。
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