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執着旦那と愛の子作り&子育て編

無理はできない。

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ただの地震ではないと証明する様に城中に警報が鳴り響く。

思わず浮いたままだった子供達をしっかりと抱き寄せると、ガリウスがそんなシャリオンの肩を抱き寄せた。
咄嗟に見上げれば安心させるようにこちらに微笑むガリウス。

「大丈夫です」
「でもっこれは」
「今確認させています」

その言葉と共に現れたのは2人のゾルだ。
つまりそれは緊急事態と言うこと。
王城の警報がなるという状態なのだから当然だが。

視界に使用人から報告を聞いているルークが写った。

「皆落ち着いてほしい」

魔法を使った事でふわふわしているシャリオンだったが、足に力を入れる。

「此処は危ないから一旦退避だ」

そんな時、ガッガッと聞いた事ない無い音が響いた。
まるで何かを叩きつけている様なそんな音だった。
確認はしていないが、この城も領地同様に各部屋に防音魔法がされているはずだろうに、これは一体何なのだろうか。
音が一つする度にパキパキと何かが割れる音がする。
得体のしれないものに恐怖を感じ何もない天井を見上げる。
一瞬ライガーはシャリオンを見たが、スッと視線を外し、落ち着けているルークの肩を掴んだ。

「ルーク、お前は皆を安全な所へ」
「は?」
「ミクラーシュ。任せられるな」

咄嗟の事にルークが間の抜けた反応を示すが、ミクラーシュにはライガーの意図が伝わったのかコクリと頷いた。

「はい」
「ちょ、なんで兄上が勝手に決めるのさッ」

いつもの余裕差が少し消え焦っている。

「王太子を護衛するのは当然だろう」

そして耳元で何かを囁かれると、ルークが俯いた。
そんな様子のルークにアンジェリーンはいらだった様に嗜める。

「こんな時にあまり我儘仰らないでください」

アンジェリーンは続いてこちらを見てきた。

「貴方もです。
大人しく護衛に守られていれば良いのです。
でなければ、ガリウスが自由に動けません」

特に何をするつもりはなかったが、シャリオンがしっかりせねばガリウスはシャリオンを心配するだろう。

「シャリオン。気にせずとも良いのですよ。
・・・我が家の事に口を出さないで頂けますか」

王太子の王配相手にも気にせずにいい返すガリウス。
特に何かをしようと思っていたわけではないが、ガリウスが動きやすいようにしなければと思う。

「事実を述べたまでです。貴方は宰相としてこれから動くのでしょう」

シャリオンが思ったことなどお見通しなのか、肩を抱き寄せる腕が強くなる。

「・・・僕は大丈夫だよ」

そう言って見上げれば、驚いた様に目を見開いた後、少し寂しそうに微笑んだ。

「物分かりが良すぎるのも困りますね。
・・・シャリオン。子供達が無茶しすぎないように見ていてください。
シュリィにリィン。貴方達は父上に不穏な何かが来たら守るのですよ。絶対に離れてはいけません」
「「はーい」」
「心配かけてごめんね」
「伴侶の心配は私しか出来ないことです。ですので」

気を遣って慰めてくれるガリウスの言葉を、苛立ったようなアンジェリーンが遮る。

「ガリウス。急いでいると言っているでしょう」

アンジェリーンの対応にルーク達もため息をついたが、実際悠長にしている時間はない。

「また後で」
「わかりました」

最後にガリウスに頬を撫でられると、シャリオンの周りに光のベールに包まれた。
魔法で何かをしてくれたのだと分かる。

「困ったときにはすぐに下さいね」
「うん。ガリィも」

シャリオンは子供達を抱き寄せながら、自分達を待つルークの元へと急ぐ。
宰相という仕事は誇れるものだ。
だが、こんな時表立って危険に立ち向かわねばならない事に不安を感じた。

しかし、シャリオンが信じなくてどうするのだろうか。
ここで不安そうにしてはガリウスの為にはならないのだから。


☆☆☆


王城の地下。
有事の際の為につくられた部屋に集まっていた。
流石にシャリオンもここに訪れたのは初めてだ。
少し籠った空気は息苦しくも感じるが、今はそんなことを言っている場合ではない。
部屋の中には自分達以外に、ルークの産みの親であるルーティと、シャリオンの産みの親であるシャーリーもきていた。
王都暮らしになったシャーリーはルーティの為に時折王城へ行っていると言っていたから、そのタイミングなのだろう。
シャーリーはルーティの傍らで慰めながらも、シャリオンに気付き一度だけコクリとうなづいた。
シャリオンと同じでたまたま王族の方と一緒に居た為こちらの部屋に避難しているのだ。
それにレオンも陛下も2人が仲が良いのは知っている。それ故に一緒なのだろう。

部屋の中は困惑していた。
突然な事に皆の顔色に不安が見える。
シャリオンも勿論不安ではあるが、唐突な緊急事態の時に大分免疫がある。
ここは状況把握をしたくて、腕の中の我が子に視線を下す。

「シュリィにリィン。少しゾr」
「「いや」」

ゾルに見たてもらおうとしたのだが、
ヒシッとしがみつく子供達に苦笑をする。

「父上は仕事の話をしてきたいんだ」

いつもこう言えば諦めてくれるのだが、ガリウスのさっきの言葉からか離れようとしない。

「とーさま、とやくそくした」
「ちちうえ、まもるの」
「ここは安全なところで」
「「ちちうえ・・・おねがい」」
「ぅっ」

ガリウスもたまにする、おねだりの表情にシャリオンはすこぶる弱い。
きっぱりと駄目だと言わなければならないが、言いよどんでいるとゾルがそんな子供達を褒めた。

「シャリオンが無茶しない様にするにはこれが最善なのかもしれないな。
アシュリー様ガリオン様、ありがとうございます」

などと言うゾルを思わずジト目で見るが、2人のゾルは3つ子らしく同じ笑みを口元に浮かべていた。
しかし、無茶(を、しているつもりはないが)して3人には迷惑をかけている自覚はある。

「なら、静かにしているんだよ?」
「「はーい」」
「そこは止めて頂きたいのですが・・・」

ゾルの呟きに『残念だったね』と、笑いながらもシャリオンはルークの隣に立った。
ルークとミクラーシュも緊張した表情のままだったが、シャリオンに気がつくこちらに視線を向けた。

「情報が聞きたいのだけど」

しかし。

「シャリオン。今他の者が動いています。
貴方の出る幕などありません」

そう冷たく止めたのはアンジェリーンだ。

「私達はルーティ様とシャーリー様と共に皆の帰りを待ちましょう」
「そうは行かないよ」
「何故です?」
「そもそも警報がなり避難になったと言う事は、何かの襲撃があったって事でしょう」
「なら貴方は余計に」
「ここから一番近い領は僕の領地だ」

そう言うとアンジェリーンは言葉を飲んだ。

「なんにしたって、今は冷静に正しい情報を得る事が重要だよ」
「ッ・・・殿下!お止めください」

アンジェリーンはルークにそう縋るが、首を横に振った。
どうやら、2人の間で何かあるようにも見えた。

「それは聞けない。
リオはハイシア領の領主だ。
知る権利がある」
「っく」
「ありがとうございます」

そう言いながらシャリオンがお辞儀をすると、子供達がキャキャっと笑った。
大人しくとは言ったが、笑うなと言ってはないから仕方がない。
しかし、そのお陰で場の空気が和らぐ。

「どうする。下がるか?」

ルークがそう尋ねたのはアンジェリーンにだ。
しかし、アンジェリーンはキッとルークを睨むと『いいえ』と、答えた。
それに、小さくため息をついたが切り替えてこちらに視線を向けた。

「おそらくリオの考えている通りだ」
「・・・それは、つまり」
「ハイシア領に現れた魔物と同じ魔物が此処にきているようだ」
「・・・、」

思わずあの虹色が脳裏に浮かぶ。
それよりも、あの魔物が此処にいると言う事は、セレスはどうなったのだろうか。
子供達は何も言わないから、まだ寝ていると言う事だと思いたい。

「報告を受けているものと変わりはない。
そして、問題の瞳も角度によって違う色になっているそうだ。
・・・ほぼ、ハイシア領に現れた巨大魔物と見て間違いないそうだ。
ただし、魔物は大きな損傷があるらしく、流血をしながら城上空を旋回したり城を攻撃しているようだ」
「!」

それはセレスがつけた傷なんだろうか。
シャリオンは目視できなかったが、セレスは傷を負っていた聞いた。
そんな状態でまた戦闘が起きたと言うことか。

「そう。・・・何故王都なんだろう」
「それはまだわからない」
「・・・、」

そう口にしながらも、一つの可能性を考えてしまう。
領主城に来た魔物はシャリオンと目があった気がした。
眼球しか見ていないのだから、あの部屋にいた全員がそうなのだろうが、それでもそう感じたのだ。

「貴方が情報が聞きたいのは領地のためでしょう」

厳しい視線を送ってくるアンジェリーンにハッとする。

「殿下。その魔物は他に飛び出そうとしている気配は無いのですか」
「今のところは。
先ほど王都全体にかけられた結界を破る音がしていたが、やめてしまった様だ」

パキパキという音は結界を破る音だったらしい。
結界はすべて壊されたわけでは無いが、内側に今はいると言うことだろうか。

「民には影響は無いの?」
「今のところ報告は受けていない。
だが、魔物が直接的に襲っている事はないが、旋回し飛び散った血に問題がありそうだ」
「瘴気か」

この世界の魔物は大人しい。
それでも疎まれている理由は、人間がその血に触ると予測できない何かが起きるのだ。
ある者は病にかかったり、体が腐り落ちたり、言葉が話せなくなり人では無い様な行動をする様になったりする。

魔物の血は穢れが多い。
その為、触れると病気状態になる。
思わず子供達に視線を落とす。

自分だけで使えたなら、すぐにでも行くのに

美しく輝くタンザナイトとエメラルドが見上げてくる。
自領の民だけでなく、力のない民は心配だ。

「貴方に魔力がない事、そして使うのにガリウスと子供達の力を必要としてくれたのが神なら、初めて感謝します」

まるで、シャリオンの考えを読んだのかアンジェリーンがそういう。

「アンジェリーン。言葉がすぎる」
「お言葉ですけど、殿下。
シャリオンにもし魔力があるなら今にでも街に出て負傷者を全て治すといいかねません」
「そうだよ。
それがリオだからね。
そうじゃなくて、俺が言ってるのは言い方だ」
「事実を和らげて伝えてもシャリオンは理解しません」
「だからって傷つける様な言い方をするな」

周りに身内しか居ないからなのだろうか。
唯一仲のいい2人しか知らないシャーリーとルーティは呆気に取られている。
ここはシャリオンが止めなければ益々加速しそうだ。

「えっと・・・、僕の魔法試す?
興奮状態を抑えるのも効果的みたいだよ」

先日、防衛大臣のチージョヴァーに使って、これくらいの興奮状態ならタリスマンだけでどうにかなりそうだ。
軽いものなら打てるだろう。
そう思っての発言だったのだが、ルークとアンジェリーン、2人のゾルに厳しく止められる。

「駄目」
「駄目に決まっているでしょう」
「「駄目だ」」

仲が良いのか悪いのかわからない反応に、シャリオンは苦笑を浮かべた。

☆☆☆

【別視点:ガリウス】


シャリオンの元についていたいところだが、自分が宰相の側近であることは確かだ。
次期宰相と言う立場を利用ししてきた数々の事を考えると、自分を突き通しシャリオンの元に何が何でも居たいとは言えない。
権利を主張するなら義務を怠るわけにはいかない。
幸いなことにシャリオンは王族の使う避難用の部屋に行ける事になった。
そこにはルーク達は勿論、おそらくルーティやシャーリーがいることは想像できる。
と言う事は、安全な場所であることは間違いない。
子供達も一緒になることでシャリオンは絶対無理をしないし、念のための結界を張った。
自分に出来うる最善を行ったガリウスは、宰相の執務室に向かう。
すると、陛下の元へ向かうと思われたライガーが付いてくるではないか。
足を止めないままそちらに視線を向けた。

「陛下のところでなくて宜しいのですか」
「あぁ。今はそっちに用がある」
「そうですか」

来たいなら構わないし、大公を止められるわけがない。
しかし、ルークの影に徹しようとしていた人間がまさか此処で表に出てくるとは思わなかった。
現段階で世継ぎがいないから、わかると言えばわかるが。

「本当ならガリウスも『次期』というポジションなのだから向こうに残したかったんだが。
レオン殿は恐らくガリウスを呼ぶだろう」

足を止めたライガーにガリウスは振り返った。

「だがガリウス。お前は絶対最前には立つな」
「・・・、」
「国・・・いや。国民は大事だが、お前はリオの伴侶だ。
身の危険になる様な事は、絶対に許さない」

まっすぐとこちらを見てくるライガーは本気の様だった。
言われなくとも自身を傷つけるようなことはしない。
そんなことをすればシャリオンが悲しむからだ。

そして、同様に他の人間の影響でシャリオンが心を囚われるのも許しがたい。

「・・・。それは貴方もです。
貴方の身に何かあれば、シャリオンがどうなるかは・・・もうご存じですね」

セレスがセレドニオだった頃。
アボッドやゾイドスの行方が知れなくなったため、サーベル国へ協力要請をしに行った帰りの事だ。
ライガーはセレスを庇い負傷したが、ライガーは子供を授かったと言うシャリオンに心配かけまいと負傷したことを伏せた。
その結果、シャリオンは酷く心配していた。
心の狭い自分の心の機微を拾い、最低限の気遣いにとどめていたが、ガリウスが嫉妬深くなければもっと親身にしていただろう。
それでも、あの時のシャリオンはライガーの負傷を聞いた時、血の気が一気に引き真っ青だった。
最悪なケースを思い浮かべたのか体を震わせていた。
表面上では気丈に振舞っていたが、隣にいるガリウスには無理をしているのが一目瞭然だ。

もう、あのような思いをシャリオンにはさせたくない。

「・・・。・・・あぁ」

それに、ガリウス自身ライガーの事は気に入っているのだから。
困った様に言う返事をするライガーをじっと見つめるガリウスだった。


☆☆☆


執務室に向かうと同僚のザハリアーシュと後輩にあたるロイがこちらを見ると、ホッとしたように息をついた。
ライガーにお辞儀をした後に、こちらに駆けよってくる。
作戦会議室を設営したというので、そこに向かいながら話を聞いた。

音の正体が魔物の襲撃であり、その魔物はハイシア領の城を襲った物であったものだと言うのが分かった。

そして、防衛大臣のチージョヴァーからはずれて欲しいことが伝えられる。

「ハイシア領を襲い、今王都上空を旋回している魔物は、ドラゴンであることがカルガリアの協力で分かりました」
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