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執着旦那と愛の子作り&子育て編

誰の所為?

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以前の婚約者が去ってから空いていた王太子の王配の部屋。
扉の豪華賢覧な装飾はその奥にいる人間の力を伺い知るには十分だった。
昔のライガーの部屋に行った事はあるが、くらべものにはならないくらい華美なものだった。
・・・不要なものをすべてそぎ落とした様相になったのは、ライガーの性質からだろうが。
だから、端から端まで見てしまう。
もっと見ていたい気もするが、そんなことをしたら使用人に可笑しな目で見られてしまうだろう。

使用人に扉の前で止められらたが、それはほんの一瞬だった。

直ぐに通されるとかぐわしい花の香で部屋は満たされている。
その香りに包まれながらそのまま部屋を進んでいくと、アンジェリーンがいた。
謹慎を明けてからまだあっていなかった彼は、とても美しくなっていた。

シャリオンを見るなり極上の笑みを浮かべて迎えた。


・・・
・・


それから、ソファーを勧められるまま席に着くと、とても心配をかけていたようで謹慎中の事を聞かれた。
シャリオンから期間中の様子を聞くと、ホッとしたようだったがすぐにため息をつかれた。

「本当に。平民の生活がしたいだなんてどうかしてます」

シャリオンがそう強く言ったわけではない。
叶うわけがないと思っていたし、夢物語で終わらせるつもりだった。
けれど、アンジェリーンが提案したんじゃないかと出そうになった言葉をこらえた。

「おかげで楽しかったよ」
「そうでなくては困ります。
でもこれでもう平民の暮らしに憧れたりしませんね?」

そう言ったシャリオンに、アンジェリーンは即答した。
だが、それで疑念が確信した。

「今抱えている問題がクリアーになって、許されるなら良いなって思ってるよ」
「許されるわけないでしょう。
貴方は次期ハイシア公爵です。領地はどうするのです。
それに貴方は私達の相談役ですよ?」

勝手に据え置いたと言うのに随分強引な言い分だ。
シャリオンは困った様に苦笑を浮かべた。

「わかってるよ。
・・・けど、謹慎の事だけど、全然罰にならなかった」
ヴァルデマル防衛大臣は、あのままハイシア家・・・いえ。
レオン殿に不利益なことが無ければ、くどくどとしつこかったでしょう。
シャリオンは知らないかもしれないですけど・・・、レオン殿とヴァルデマル防衛大臣はとても仲が悪いのですよ。
・・・まぁ、ヴァルデマル殿防衛大臣の一方的な逆恨みの様ですけど」

フっと口角を上げて微笑むアンジェリーン。

「あの場でヴァルデマルがあっさり引いたのは『罰』があったからです。
シャリオンには信じられないかもしれませんが、普通の貴族なら平民と同じような暮らしを、使用人もつけることなくしろ言われたら、死刑を宣告された並みに騒ぐもの。
現に十分な罰だとヴァルデマルは認識したのか、あの時はご満悦そうでしたよ」

その言葉の節々はハイシア家の為にしてくれたことだと知る。

「・・・、そう・・・だけれど」
「なにか?」
「結果として王配になれたからいいけど、・・・ちょっと早かったんじゃない・・・?」

シャリオンが退出した後に、『王配になります』なんてそう言ったのも驚きだが、正式な返答がない状態だと言うのに、罰することを提案したりその内容を決めるなんて、まるでもう王族の一員のような振舞いだと思う。
普通の精神じゃ出来ないだろう。
少なくともシャリオンには出来ないものだからそう言ったが、アンジェリーンは上手だった。

「あら。断るわけないです」
「え」
「もう年頃の令息・令嬢は早々に結婚なり家督を継いだり、伴侶を迎えてます。
殿下の元婚約者でさえとっくに嫁いでいて、丁度いい年頃は数がない」

そう意地悪く微笑む。
確かにそうだとは思う。
彼等よりも年下のシャリオンも自分の婚約者探しに慌てていたのだ。
年上の彼等はもっと急いでいたと言うのは想像できる。

「それに、もし断られるようなことがあったとしても私にはちゃんと準備がありました」
「準備?」
「とある貴族と婚姻を結ぼうと思っていました」

ルーク以外にも結婚相手がいることに少し驚いた。
その相手は好いていたという事なのだろうか。

「その方とは何故・・・?」

アンジェリーンは確かに贅を凝らした生活に自然に染まれる。
しかし、無駄遣いをするというわけではない。
その相手がたとえ男爵であろうと、それに合った生活を出来るのではないだろうか。
それなら別に嫌いな相手の王配にならなくても良いだろうに。
シャリオンがそう尋ねればクスリと笑った。

「高齢ですからね」
「え」
「隠居しそのほかの財産はすべて子供達に相続しましたが、それでも金はあっても困りません。
子供達はその財産も狙っていて、後添えも快く思っているみたいです」
「えっと・・・年上が好みなの?」

その言葉にアンジェリーンは訝し気に眉を潜まれたが、可笑しそうに笑った。

「貴族が恋愛結婚のわけないでしょう。
レオン殿とシャーリー殿がイレギュラーなのですよ。
貴方だって最初は恋愛ではなかったでしょう」
「そ・・・そうだけど」
「あの方は美しいものが好きなのですよ。
その点私は彼のお眼鏡にかなった。
そして彼は私の望む願いを叶えてくれる力を持っていた。
利益が一致しただけです」
「願い?」
「えぇ。ただそれだけです。
ですが、安心してください。
あくまで予約という口約束で、彼や私に相手が出来たら自然解消という形でした」

そう笑うアンジェリーン。
貴族は婚約したら公にするから、それがあるまでということなのだろうが。

「殿下の中で、声を掛けた私や気に入っているミクラーシュは順位が高いと考えて間違いないでしょう。
これがあと10年程昔でしたら、時間に余裕もありますし公爵家と言えど切られていたでしょうが」
「・・・もし、ミクラーシュが手を貸さなかったらどうしたの」
「そんな道ないです」

そう言い切るアンジェリーンに、他に何か道があると感じ黙った。
ルークを好きではないが、王配になりたいと言うアンジェリーン。
だとしたら・・・もう少し慎重でよかったのではないだろうか。

「私を心配してくださっているのですか?」
「・・・、それは、・・・アドバイスをしたわけだし」
「シャリオンはミクラーシュになって貰いたいと思っていました」

シャリオンの言葉にクスリと笑みを浮かべた。
なんだか嬉しそうに見えたそれが不思議だった。
しかし、すぐにそれも引っ込むと、少し厳しい表情をした。

「ありがとうございます。
しかし、その問題はクリアーになったので大丈夫です。
そのことより、貴方は自分の身を考えて下さい」
「?・・・なんの事?」

指摘されるようなことは無くて、首を傾げたシャリオンに、アンジェリーンは失笑した。

「先ほど。・・・ヴァルデマル防衛大臣のところにいたのは間違いありませんか」
「?うん」

そういうと周りがピリピリと静電気が一瞬走ったが、すぐにおさまった。
不思議に思っているとアンジェリーンが続ける。

「貴方が魔法を使える様になったのですか」

そう、怒りを孕んだ眼差しでこちらで見てくるアンジャリーンに戸惑った。
魔術に関して『魔力がない』とシャリオンを日ごろから下に見ているところから、馬鹿にしている様だから彼が知らない魔法なのかもしれない。
黒魔術師が褒めてくれるほどだから余程素晴らしい魔法なのだろう。
しかし、それを知っているのは人数が知れている。
今知っているのは防衛大臣達とゾルくらいだ。

「伺っていたの?」

そんなの聞いてどうするのだろうか。
別に気かれて困る話はしていなかったから構わないが。

「相談役の貴方が登城したと言うのにいつまでたってもこちらに来ないので」
「え。・・・僕の所為・・・?」
「えぇ。・・・それより貴方の使える様になった魔法は禁止にしませんか」
「しないよ?」

使うたびに倒れるようでは1人で使えないし、城や領主にいたら使いどころがない困った魔法。
だが、使わなくなったらいつまでたっても上達しない。
シャリオンは可笑しそうに笑ったが、アンジェリーンは本気の様で・・・。
怒らせている事だけわかった。
結果として思い付きで発した魔法。

「シャリオン。私が怒っているのは分かっていますね」
「・・・まぁ」
「その理由は?」

状態を異常を治す魔法。
それに対して悪いところなど見つからなかった。

「貴方は、・・・はぁ」

何かを説明しようとしたが、アンジェリーンはため息をついた。
そして、間をおいてからつづけた。

「貴方の使うその魔法は争いが起きうる魔法だと言う事は分かって下さい」

言われた言葉を理解するのに少し時間がかかった。

「え?」
「当然でしょう。状態異常を正常化する魔法です。どんな状態になっても治療する魔法なんて誰が見ても欲するでしょう」
「けど治癒魔法だって」
「全体人数も多いです。
治癒魔法は傷を塞いだりしますが、無くなった腕も血液もなくなったものはなくなったままです。
昏睡や興奮、毒などの状態異常は治療できません。
それに・・・貴方のそれはおそらく洗脳も解けるでしょう」
「?・・・ミクラーシュは治療しているんじゃないの?」
「国屈指の魔術師達が術解を施してますが、それでも治せているかわからないのです」
「!?」

術解出来ればそれで良いと思っていた。
しかし、掛けた術者が解くのとは違い、別の者が解く場合は無理やり解く為、ミクラーシュに負担がかかるそうなのだ。また、ミクラーシュの洗脳のトリガーは良くわかっていない。
セレスの作ったタリスマンを渡しているが、セレス曰くそれも完璧ではないようなのだ。
今は正常だが、何時洗脳を掛けた術師が強化してくるかわからないからだ。

「洗脳まで治せてしまうその魔法を、他国が欲さないわけないでしょう?」
「・・・、」
「幸い今は他国との関係は良好ですが、それは永遠ではないのです」

言いたいことは分かった。
確かに、重要なことは分かる。一番の強敵は海の向こう。
そう言ったシャリオンにアンジェリーンは微妙に眉を顰めた。

「貴方・・・先日魔物に襲われたのを忘れたのですか」
「覚えてるけど」
「どこかの誰かが魔物を使って貴方を攫いに来たと言う思考はないのですか」
「!」
「・・・、貴方を見ていた・・・。あながち間違ってないかもしれません」
「・・・、」

それは、あの時呟いた言葉だ。

「でも・・・あの時は、まだ」
「そうですね。可能性の話。・・・あの魔物が気まぐれで襲撃したのか、何故なのかたとえここに居ようとも確かめようがありません」

言葉が話せるような生き物ではなかったからだ。

「あの魔物が貴方を狙ったとしても貴方の所為ではありません。
それはあくまで私が思った事です。
・・・貴方のその魔法を今後どうするかは、伴侶と良く話し合って決めることです」
「・・・。うん」

コクリと頷くシャリオンに困った様にアンジェリーンは困った様に笑みを浮かべた。

「私はただ貴方が心配なだけで、意地悪を言っているわけではないのですよ?」
「うん・・・ありがとう」

もし、シャリオンを狙ったとしたなら・・・。

そう思うとセレスの表情が脳裏に映る。

「・・・、・・・すみません」
「え?」
「失言でした。・・・自分の事には楽観的な貴方にもっと注意してもらいたかったのです」
「・・・、」
「貴方は人の事は考えられるのに何故自分の事になると無頓着になるのでしょうか。
ゾル。わかりますか」
「・・・。知っているのなら事前に止められております」
「そうですね。はぁ・・・」

とても呆れたようにため息をつかれた。
なんだか悔しくなってしまって、落ち込んでたのが少し浮上しキっとアンジェリーンを見た。

「アンジェリーンだって」
「なんです」
「王配になりたいと言ったのにもっとそれがどういうものか考えるべきだと思う」
「考えてます」
「足らないよ。王太子との結婚。豪華な式と言ったら幸せの象徴じゃないか」
「・・・。・・・殿下も不要だと」

シャリオンが何を言いたいかわかったのか、とても嫌そうに顔を歪ませてため息をついた。
話しは終わりだと言う様に手をひらひらと振るアンジェリーンに構わずつづけた。

「それを説得するのも王配としての務めでしょう?
何も豪華絢爛で贅沢にしろと言っているんじゃないよ。
けど王太子と王配の式を挙げないなんてありえないでしょう」
「今までなかっただけで、それなら私達が初となればいいでしょう」
「なにを屁理屈を言っているの???」
「っ・・・、・・・あの男の入れ知恵ですか」
「ガリィから聞いてなくたって式を挙げてなかったら普通思うでしょう」

そう言うと深いため息をつかれた。

「・・・。・・・、わかりました。・・・でも条件があります」
「条件?ルーに何を頼むの?」
「いいえ。貴方にです」
「僕・・・?」
「えぇ。貴方は相談役なのですから、王配である私が心健やかに暮らせるように努めるのも貴方の仕事です」
「・・・わかったよ。何?」

随分な物言いにあきれながらも応諾すると満足そうに微笑んだ。

「先日仕立てて下さった衣装を来て夜会に来てください」
「夜会・・・?」
「えぇ」

そんな事でよければ出るが。

「式の条件、それでいいの?」
「はい」

なんだかよくわからないが、シャリオンは思ったより簡単に返事がもらえて良かったと思うのだった。
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