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執着旦那と愛の子作り&子育て編
【別視点:ガリウス】貴方の方が何倍も可愛いと言ったら怒るのでしょうね。
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ハイシア領の領主城。
この城にはガリウスの部屋も寝室もあるが殆ど使ったことはない。
辛うじて衣裳部屋くらいだ。
基本的に仕事は王都の城以外で仕事をしない。
領地の城では特にで、それはシャリオンに触れ合えるチャンスを逃さないためだ。
ガリウスが紙一枚でも持っていたら、シャリオンは書類と思い気を遣って邪魔をしないようにと離れて行くのが目に見えている。
ただでさえ多忙で帰宅するのも夜遅く、休日だって一ヵ月くらい取れていないのだから、屋敷に居られる時は邪魔をされたくない。
その現われのように、ガリウスは今日もシャリオンの部屋に来ていた。
本人が嫌がっている様子もなく、むしろ居てくれて嬉しそうにさえするからだ。
子達のことを話すシャリオンは幸せそうにガリウスに話してくる。
『ガリウスに目の形が似ているから綺麗な顔立ちになるね』
『きっと、2人とも婚約の申込があると思うんだけど。・・・ちょっと複雑だな・・・。
最終的にはガリウスになったわけだけど、「ハイシア家」と言うのに曰くがついて、変なのがきたら・・・。
アシュリーにもガリオンにもふさわしくなかったら僕が断っても良いよね』
『子達には僕が行けなかった学園に入れようと思うんだけど、・・・やっぱりやめた方が良いかな。
赤ん坊のころからこんなに綺麗な瞳を持った子達・・・大丈夫かな。心配になってきた』
あげたらきりがない。
きらきらとした眼差しでこちらを見てくるのは、子達の事ばかり。
いや。事態は分かっているのだ。
もう少し我慢しよう。
先日の魔術講師の件は少々早いと思いつつも、子達は魔力が高い。
もしかしたら自分以上の能力やセンスを持ってきそうな片鱗を見せた為、その心配はもっともである。
魔力の吸引を止めさせた方法も確立した手段ではなく、試してみて結果良かっただけだ。
だから、専門家に聞きたくなる気持ちは十分に分かるのだが、まだ産まれて数日。
ガリウスやシャリオンの言う事を聞くと言っても、言葉が返ってくるわけではなくふんわりとした雰囲気である。
そんな産まれたばかりの子を、誰が見れるというのだろうか。
ハイシア家の依頼で断る魔術師はそういないだろう。
幾ら魔術のスペシャリストである高位魔術師でも、乳児を見ているような人物聞いたことがない。
中途半端な魔術師に依頼をしても、最終的に嘆くのはシャリオンだ。
それでもちょうどいい人材を探さないわけにはいかない。
シャリオンはあの件を割り切っているのかセレドニオを指名したが、出来ればどんなにセレドニオが改心しシャリオンに尽くそうとも会わせたくはない。
あの男のしでかしたことは、到底許すことの出来ないことで、今でも処分しておけばよかったと思うことが、シャリオンがそれを望むなら会わせないわけにもいかない。
シャリオンはガリウスが遠ざけることに敏感に気づく。
隠せば余計に悩ませるためそれは得策ではないのだ。
魔法道具と言う言葉を避け、「装置」と言ったり「魔法を造った」と言い換えたりもしたが、やはり違和感を感じ取りシャリオンに悟らせてしまった。
ガリウスはシャリオンに話さない秘密は沢山あるが、嘘はつかない。
他人にこんなに気を使うなんて他にない。
何時だったか幼馴染であるルークに『シャリオンはたまに斜め45度の方向に歩き出すから見てやって』と、言われたことがあるがそれはあながち間違いではなく、おかしな方向に考えを向かせてしまう前に、共に考え答を導く必要があるわけだが、それさえも手間には感じず愛おしく思える。
考えてみれば、シャリオンに好意を抱いた瞬間。
その日からガリウスはシャリオンの事ばかりだ。
シャリオンがいやすいように宰相室を整えたり。
ハイシア家に戻った後も、シャリオンが気になりそうなところをすすんでこなした。
レオンを交えて夜に晩酌をするときでも、あまり洋酒が得意ではないシャリオンの為に好きな葡萄酒や果実酒を用意したりした。
辛いことに、自分は嫌われていると気づいた為、近寄りすぎないようにはしていたが。
嫌われていても適切な距離を保ち、自分の元へ転がり落ちてくるように、しっかりと周りをふさぎながら。
虎視眈々と狙っていた。
☆☆☆
シャリオンに恋に落ちたのは出会った瞬間。
失恋したのはその数秒後だった。
レオンは外で優秀な人材を見つけてはスカウトをしてくる。
ガリウスもそのうちの1人だ。
その当時、部屋の中でも歴代一の最年少であったガリウスは神童と言われていた。
その為にやっかみやひがみもあった。
皆笑顔を浮かべながらの『出来ない』と言うことを言わせない空気があった。
ガリウスはそれにいち早く気づき、くだらないと思いつつも、レオンの居ぬ間にこっそりと与えられる難題をすべてこなしていた。
先輩方は驚きながらも、何時しか初めのような態度はなくなった。
それでも気が抜けない状態が続いたのは、ガリウスよりも少し先に入った年上の同僚の所為だ。
彼はレオンが抜擢して来たわけではなく、知人からの紹介でレオンが許可しこの宰相室で修業をしている。
頭の良さはいたって普通。
しかし、回転は良く口が動く人間だった。
そんな彼は、崇拝しているレオンが抜擢したガリウスが年下で神童だとちやほやされるのが気に入らないようで、いつも突っかかってくる。
どうやら、彼はレオンに紹介を頼んだ人物にいくらか払ったようで、ガリウスにいくら大金を積んだのかとしつこく聞いてくる。
ちょっとした、言葉の足らなさも事細かに指摘してて『はぁ~これが神童とはねぇ?』などと、絡んでくる。
それも、レオンがいないところでだ。
その頃、歳も近いこともあってか、やたらとその年上の同僚と組まされることが多かったのだが、口だけでなく手も動かせと言いたくなるほどべらべらと話す。
そのくせ要領が良いため、見つからないし見つかったとしても愛嬌で怒られることは無かった。
そんな男にガリウスは心身を追い詰められたか?と、言ったら全くそんなことは無く、むしろその手の抜き方などは学んでいた。
やれと言われたことを100%でやらなくていいなんて事、神童と言われていてもまだ幼さの残るガリウスに分かるはずがなかったのだ。
だが、それが良い手本ではないことは分かっていたから、ガリウスもまた要領よく手を抜くことを覚えていった。
それでもストレスがないと言ったら違うわけで。
その同僚からも、先輩からも要求はエスカレートしていった。
自分はレオンに魔術を認められて、てっきり王宮魔術師団に推薦されるのかと思っていた。
しかし、蓋を開けてみたら宰相の側近見習い。
100歩譲って向いているからまだマシだとは思ったが、不満は満載だった。
何よりもこの部屋の仕事の流れは効率が悪かった。
全て殆どこの部屋にいないレオン待ちで仕事が溜まっていく一方で、改善しようともしない。
レオンが溜まるころになると、まるで見ていたかのように戻ってきてこなすため、一応回っているからだ。
そんな状態を見るに見かねてついにガリウスがレオンにそのことについて、業務改善を進めた。
リーダーをつくり、その人物がある程度采配したらどうだ。と。
レオンが最終印をしているが、別にレオンがしなければならないことではない物まで含まれていたからだ。
・・・そして、それが運の尽きだった。
そう指摘したガリウスにレオンはニヤリと笑い、『やっというやつが出てきたか』と言い放ったのだ。
今ではそんなことは無いと分かっているが、当時は思わずそれを聞いた時、外に出ているのは自覚させるためだったのか?!と思ってしまったほど。
レオンは声を高らかにこの部屋の室長代理としてガリウスに任命した。
ガリウスが指摘したのは些細なことだ。
きっと誰しもがそう思っていたが、上長印と言ったらこの部屋ではレオンであったためレオンに依頼をしていただけだ。
しかし、そのレオンがガリウスを任命したなら仕方がないことである。
その日からより一層にガリウスは『神童なんだから出来て当然』そうやって僻まれるのが多くなっていったのだ。
そんな妬みややっかみで殺伐とした中。
ある日、天使のようなシャリオンが宰相室にあらわれた。
普段、会話しながらも仕事をしている彼らが一斉に手を止めて、シャリオンの周りに集まる。
シャリオンとは4歳差でその頃の歳の差は大人の今では大分違う。
自分よりもはるかに幼く見えたが、それでも大人の彼等に臆することなく、美しいボウ・アンド・スクレープを見せ挨拶をする。
「こんにちは、皆さま。お手を止め申し訳ありません」
人々の合間からシャリオンが周りの大人に笑顔を向けているのが見える。
その笑顔もあどけなさのなかにも、品の良さが見える不思議な感覚だ。
黒い絹糸などあったのだろうか?と思うほどに美しい髪を後ろで結び、風や人々の動きだけで揺れ動く髪はキラキラと反射し星空のようだ。
その双眸はレオンとシャーリーの瞳を受け継いでいるかのように、グレー掛かった落ち着いた緑色を持ち、例える宝石など存在しない程優しくそして美しく輝いていた。
正直なところ、ガリウスの顔は整っており、人から好印象を得る顔だというのは十分に感じ取っていた。
通称アイスプリンスと陰で呼ばれているらしい。
アイスの由来は笑わないからだそうだが、何故他人に微笑んでやらなければならないのか。
それに、そんなことをしなくても動いてくれるのだから十分だ。
その武器を存分に使い、仕事を回していたのも事実だ。
妬ましい子供でも、この顔には皆弱いらしく。
いや、ガリウスに正論で論破できるような人物がいないのもあるから、皆いう事を聞いてくれているのである。
そう考えると、子供に指示され動く大人は、出来た大人だったのだろう。
これが単なる子供だったら子供扱いのままだが、ガリウスはレオンがする指示と差して変わらない。
勿論。執務室にいる人間は現段階では出来るだろう。
だが、入ってきて数か月の子供が出来てしまうのがすごいのだ。
ここでは、幼くても仕事が出来れば問題ない。
おまけにガリウスはその顔立ちはなんだかんだで、好かれていた。
この顔のお陰でそれほど、大きな問題が起きなかったところもあると思っている。
大人のに随分簡単だ。顔なんてただの物体な抱けなのにと。そう思っていた。
だから、まさか自分がその他を見て心を奪われるなんて事無いと思ったのに。
人をみて可愛らしいと思ったのは初めてだった。
初恋なんてものは『可愛い』だけでなるのは十分で、それから『もっと話したい』『もっと知りたい』と思った。
しかしながら先輩たちをかき分けて行くのもスマートではない。
どうしようかと思っているうちに、彼は用事に向かって部屋を退室してしまったではないか。
先輩方に彼は誰なのかと聞いてみるとレオンの愛息子だと知った。
それを聞いた時、レオンの息子なのならまた会える。そう、思ったのだが・・・。
次の瞬間に『ライガー殿下の婚約者だ』と、残酷な言葉が投下された。
ショックだった。
初めて美しいと思えた人間だったのに。
自分よりも幼い彼は、すでに誰かのものだったなんで。
初恋をし失恋を同時に知った。
今から振り返れば『美しさ』だけで、そう感じるには材料が足りないと思うのだが、その時は衝撃が勝り話してもいないシャリオンに恋をしてしまったのだ。
・・・
・・
・
王族の婚約者。
それがいわくつきの第一王子だとしても、王族は王族だ。
どんなにあがいても、自分は手が届く存在じゃない。
そうは分かっていても「好きになるな」という、気持ちの制御など利かなかった。
予測通り、まだ大公を賜って無かったライガーの元に、・・・つまり城に、シャリオンは頻繁に来ていた。
何でも、行儀見習いをしているらしく、その帰りに執務室に顔を出すようにレオンに言われていたらしい。
次第にシャリオンはガリウスに面識を持つようになっていった。
こちらも挨拶をしていないが、シャリオンはこちらを知っている様だった。
しかし、その視線は他に向ける笑顔をはちょっと違う。
複雑そうな表情でガリウスを見てくる。
勿論、貴族なのっで露骨に顔には出さないが、その目を見ればわかる。
ガリウスのこれまでは、声をこちらからかけなくてもあちらからかけてくるので、シャリオンが声を掛けてこないことに戸惑っていた。
話しかけてくれたらいくらでも話せるのに。
頭の中に『相手は次期侯爵』『殿下の婚約者』そんな言葉が浮かぶのに『話したい』気持ちが沸き立つのにあと一歩が踏み出せない。
ガリウスはけして人見知りなどではないのだが、この時ばかりは話しかけることが出来なかった。
そして、今日も又会釈だけをして去っていくシャリオンを見ながら一日を終える。
よく考えてみれば、恋に恋していてアレはただの自己満足にすぎなかった。
・・・
・・
・
そんな、ある日。
大臣に書簡を届ける最中に城を分断する様にわたっている通路を歩いていた時だった。
すぐそこには中庭があり、そこにシャリオンが居た。
それだけで一気に心拍数が上がり、体温が上がる。
「ライ、それ本当~?」
「!」
「あぁ。本当」
「っ・・・」
思わず仲睦まじく話しているシャリオンとライガーの2人に、上がった体温は一気に下がった。
いつも執務室で聞くような、上品な話し方ではなく、年相応とでもいうのだろうか。
少し甘えたような声で話すシャリオンの声。
それに返事をするライガーもまた、とろけたような声色と視線をシャリオンに送っている。
思わず咄嗟に柱の後ろに隠れたガリウス。
隠れても仕方がない。
そ知らぬふりで通路を渡ってしまえばいいのに、地面に足が張り付いたように動けない。
幼さの残る声は、普段のはきはきとした貴族らしい話し方を知っている為、ちりちりと焼け付きそうだった。
「っ・・・」
シャリオンがライガーやルークと幼馴染という事は知っているのに。
その距離の近さに、・・・嫉妬した。
相手は公爵だ。
例え、王族の婚約者でなかったとしても、おいそれと話かけられるわけではない。
「・・・、」
そう思うと、執務室の先輩方もあそこでしか話せないから、あんな風に明かりに集まる蛾のようにシャリオンへと集まったのだろう。
先輩方を害虫扱いしているが、所詮自分も同じ。
それどころか声すらも掛けられないみじめな害虫だ。
子爵の生まれを初めて恨んだ。
これが伯爵家ならまだ可能性があっただろうに。
お門違いな八つ当たりを胸に抱いている時だった。
「ところで、『神童』の話を聞いた?」
ライガーのその問いかけに、思わず自分がここに居るのがばれているのではないかと思ったが、どうやら違うようだ。
噂話をシャリオンに話し始めた。
「・・・あー・・・うん」
しかし、その声は沈んだ。
自分の話題をしたくないのだろうか。
「俺もこないだあったよ」
「そうなんだ?・・・ぼくはまだ、話したことないや」
「そうなのか?執務室にいなかったのかな」
「いつもいるよ」
「?・・・挨拶しなかったのか?シャリオン、いつもみんなに挨拶しにいくじゃないか。シャーリー殿の教えなんだろう?」
その言葉にドクリと心臓が脈打つ。
自分に来たことなど一回も来たことが無いからだ。
ドロドロした気分が足元から這い上がってくるようだった。
幼いならがに嫉妬や独占欲に似たものだ。
「・・・うん」
「なにか・・・あったのか?」
「!・・・ううん。・・・ぼくがしちゃったんだ」
慌てて弁明するシャリオンに、聞いているライガーだけでなくガリウスも「?」が浮かんだ。
「どういう意味だ?」
「っ・・・ひみつ。それより、その彼ががどうしたの?」
「?・・・本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ。・・・知ってるか知りたかっただけ?」
それ以上言いたくないようでシャリオンは話しを勧めようとすると、ライガーは苦笑を浮かべた。
「リオはあんまり同年代の知り合いがいないからな」
「ライやルーだって同じでしょう?・・・父上が学園にいくのを許可してくれなかったんだからしかたないじゃないか」
「レオン殿は、『心配性』て父上が言ってたぞ」
「父様もそう言ってた。・・・父上と父様は学園で出会ったのに狡い」
そう拗ねたように言うシャリオンにライガーがクスクスと笑った。
「まぁ仕方ないよ。リオは可愛いから」
「・・・。可愛いって嬉しくないってば。ぼくはカッコいいがいいの。
将来父上のようなカッコイイ大人になるんだもん」
「あー・・・うん。なれるといいな?」
ライガーは無理だと分かっているのか優しくシャリオンの頭を撫でる。
それにシャリオンは嬉しそうに頷いた。
それを見ても辛さしかない。
もうこれ以上はやめよう。
そう思い、去ろうと思った時だった。
「『神童』の」
ライガーが話しを始めるのと同時にシャリオンの不満げな声が上がる。
「それやめない?」
「え?」
「ガリウス・ガディーナ様でしょ?」
「うん」
「ぼくも『宰相の倅』て、呼ばれるのいやなんだ」
そう言ったシャリオンに、ライガーもガリウスも息を飲んだ。
シャリオンをそういう人間がいるの問題だが、同じように思っているとは思わなかった。
ガリウスのことをレオン以外は皆『神童』と呼ぶ。
それがまるで名前かのように。
「ガディーナ様がどうしたの」
「ぁ、・・・あぁ。ガディーナ様が」
「アハ。・・・ぼく怒ってないよ?ライはガディーナ殿でいいんだよ」
そう言うと、困った様に笑うライガー。
「なんか、小さい講師が傍に居るみたいだ」
「小さいは余計っ!」
「ごめんごめん。・・・その、ガディーナ殿なんだけど、レオン殿が偉く褒めていたよ」
「父上が?」
「聞いたことない?」
「父上はどちらかと言うと、その日のぼくの出来事を知りたがるんだ」
「あー・・・」
「それに、父上いつ行っても宰相のお部屋にいないから、ガディーナ殿と話したことあるのかな」
「それはあるとおもうよ?なんてったって、ガディーナ殿を側近に置いたのはレオン殿だし。
最近は室長代理にまでなったらしくて最年少が役職を得られるのも近いかもなって」
「へぇ・・・すごい人なんだね」
一般的な感想だ。
シャリオンが感心したように言うそれに、嬉しく感じる。
だが、シャリオンはつづけてこうも続けた。
「・・・お仕事いっぱいだからかな」
「え?」
「いつも怒ってるみたいでしょう?」
「!」
その言葉に浮かんだ微笑みがピシリと固まった。
そして、思わず自分の口元に手を置いた。
続く言葉や、与えている印象が予測できたからだ。
これはレオンのことを言っているのではない。
ガリウスをさしているのだと分かった。
「怒って無いよ。話してみればちゃんと応えてくれるよ」
「それはライが王族だからだよ。・・・そもそもぼくのことも、知らないと思う」
「そうなの?あぁ挨拶してないんだっけ。まずはしてみたら?」
「っ・・・ぅ・・・でも、忙しいかも」
確かに忙しい。
本当なら今も大分時間をロスをしている。
しかしながら、シャリオンと話をするのに比べたら優先度は下がる。
「大丈夫だよ。忙しかったらちゃんと言ってくれる子だよ」
ライガーの方が年下だが、この時ばかりは思わず感謝した。
そういうライガーにシャリオンも納得したのかコクリと頷く。
「っ・・・ぅ・・・、今度・・・ちゃんと、・・・する」
なんだか自信なさげにいうシャリオンに、ガリウスは今すぐにでも出て行きたくなるがこらえる。
まずは、この表情を変えなくては。
次にシャリオンが来るまでには完ぺきな微笑みが浮かべられるように。
その日からである。
ガリウスがいつもにこやかな微笑みを浮かべるようになったのは。
何かあればシャリオンのため。
大きな感謝は望んでいない。
でも、小さな感謝・・・いや。
シャリオンが少しでも笑ってくれるように。
ライガーの隣でいつも穏やかにほほ笑んでいられるように、尽くそうと誓ったのだった。
☆☆☆
過去の思い出にガリウスはくすりと笑う。
すると、その声に気が付いたのかシャリオンが不思議そうにこちらを見た。
「どうかした?」
「貴方と初めて会った時のことを思い出しました」
「・・・あの、唐突に跪いた日・・・?」
「えぇ」
シャリオンが「『神童』は名前じゃない」と言わなかったら、あれはストレスのままだった。
あの日、部屋に帰って早々ガリウスがしたのは彼等に『神童』と呼ばれ、初めて笑みを浮かべながらどきつい嫌味を垂れた。
『未だに名前を覚えられないんですか?』と。
その日までいつも言われっぱなしだったガリウスだったが、年下だからと考慮するのをやめられる切っ掛けになったのだ。
シャリオンも挨拶をした、その日のことを思い出したのか、クスクスと笑った。
「今思い返すと笑っちゃうけど。・・・あの時は怖かったんだよ?」
「すみません。・・・貴方にずっと話しかけたかったんです。
ですが、意気地がなくてやっと勇気がもてた瞬間だったんですよ」
決心をしたガリウスの元に・・・いや。
宰相室にシャリオンがあらわれたのは翌日だった。
扉が開くなり、シャリオンはライガーに宣言したからなのか、視線がこちらに向かっていたのが見えた。
ガリウスは咄嗟に周りに結界を張り、先輩方の足を止めるとシャリオンの元へ向かう。
上から見下ろしていることに気付き、怖がらせまいと膝をついてシャリオンにほほ笑み見上げる。
そんなことをされるとは思っていなかったらしいシャリオンはいつもの貴族らしいふるまいも忘れ、驚きガリウスを見下ろしてきた。
そっとその手を取ると、シャリオンの手に手を添える。
婚約者がいるのだから、口づけは無しだ。
シャリオンに要らぬ誤解で波風をたたせるわけにはいかない。
そして、最上級の微笑みをシャリオンに向けると『ご挨拶が遅れました。ガディーナ子爵家の次男。ガリウスです』と、挨拶をしたのだ。
シャリオンもその時のことを思い出したのか、頬を赤く染める。
「っ・・・ガリウスに意気地がないなんて、絶対嘘だよっ」
「嘘ではありません。・・・現にあれまでは貴方に笑顔を向けられなかったでしょう?」
「!・・・本当に・・・?」
「えぇ」
驚いたように目を見開いた後、シャリオンは苦笑を浮かべ小首をかしげた。
どうやら、あの時微妙な表情を浮かべていたのは、あまりない反応にシャリオンも怖がっていいたようだ。
過去の自分の事ながらとても悔やまれる。
「僕、何か怒らせちゃったのかなって思ってた。
父上はどんなに忙しくても屋敷に帰ってきてくれていたから、そのことで仕事を滞らせたりしているのかも?とか」
「すみません。そんなことは全くありません。・・・過去の私がしたことはいえ、申し訳ありませんでした」
「ううん。僕だって言われるまで忘れていたし。
でも何故そんなことを思い出したの・・・?」
シャリオンの疑問はもっともだ。
それ以前は子達の将来について語っていたからだ。
ガリウスとしては話は繋がっている。
通常なら面倒だと感じることでも、シャリオンの為ならそれも厭わないということだ。
ガリウスはクスリと笑みを浮かべるとシャリオンの額に口づける。
「最初の挨拶は大切で、子達にもしっかりとおしえないとと思ったのですよ」
「うん。そうだね。ちゃんとそこはしようと思う」
「シャーリー様の教えですもんね」
「うん。・・・・、・・・?あれ父様の話したことあったっけ?」
「はい。・・・大切なことなのでもう一度教えていただけますか?」
「いいよ。えーっとね」
そう言うと、シャリオンは昔を懐かしむように話始める。
その愛しい横顔を見つめながら、シャリオンの昔話を聞くガリウスだった。
☆☆☆
ベッドヘッドに枕を積み重ね背もたれにし、その上にシャリオンが乗りガリウスの胸板に手を置き快感に体を震わせる。
「ひぃぅっ・・・・ぁっ・・・ふっ」
既に互いに生まれたままの姿で、ガリウスはしたから快感に悶えるシャリオンをしたから見つめている。
片方の手で尻を揉み、少し膝を立たせ体を浮かせた隙間から手を滑り込ませ、ガリウスの濡れた指が行き来するのに合わせてぱくぱくと開く入口を撫でた。
物欲し気に動くそこは、ガリウスを咥えたがっているようで可愛いらしい。
先ほどからたっぷり濡らした指でそこを広げ、抜いてを繰り返しているのだが、シャリオンはついに焦れたよう手を追うように腰を動かしてきた。
「っ・・・がりぃ」
「なんですか?シャリオン」
「っ・・・っ」
軽く指を突っ込み2本の指を開いたり閉じたりすると、シャリオンが息を飲んだ。
「っ・・・っ・・・ぁっ・・・ゆ・び」
「指、・・・気持ちいですよね」
「!・・・ぁぁぁっ・・・あっぁっ」
ようやく進入してきた指に嬉しそうにきゅうきゅう締め付けてくるのに、指にまとった潤滑油のすべりをかりて、一気に指の付け根まで入れて抜いてを数度くりかえす。
「っ・・・・っ・・・やぁっ・・・・もっ・・・がりぃっ・・・・っ」
「・・・なんですか・・・?」
その瞳は涙と欲望で濡れている。
自分を求めて焦れた熱にうなされているのか、シャリオンの細い指がガリウスの熱く猛ったものに絡んだ。
シャリオンにそんなことをしたら、すぐに逝ってしまいそうだが、精一杯耐えると意地悪く微笑む。
「・・・そんなに強く握られては逝ってしまいます」
「!」
「貴方の中で出させてくれないのですか・・・?」
いやらしいことを耳元で囁くとシャリオンは羞恥と期待で小刻みに震える。
・・・あぁ・・・本当に可愛いらしい・・・
思わずその耳を舐める。
「ひぃあぁっ」
「・・・貴方の中に・・・こんな風に」
ちゅぽちゅぽと耳穴を舐めるとびくびくと体を震わせる。
そんなシャリオンを見ながら、今日も出来るだけ我慢しようと思いつつも、その体を堪能するのだった。
この城にはガリウスの部屋も寝室もあるが殆ど使ったことはない。
辛うじて衣裳部屋くらいだ。
基本的に仕事は王都の城以外で仕事をしない。
領地の城では特にで、それはシャリオンに触れ合えるチャンスを逃さないためだ。
ガリウスが紙一枚でも持っていたら、シャリオンは書類と思い気を遣って邪魔をしないようにと離れて行くのが目に見えている。
ただでさえ多忙で帰宅するのも夜遅く、休日だって一ヵ月くらい取れていないのだから、屋敷に居られる時は邪魔をされたくない。
その現われのように、ガリウスは今日もシャリオンの部屋に来ていた。
本人が嫌がっている様子もなく、むしろ居てくれて嬉しそうにさえするからだ。
子達のことを話すシャリオンは幸せそうにガリウスに話してくる。
『ガリウスに目の形が似ているから綺麗な顔立ちになるね』
『きっと、2人とも婚約の申込があると思うんだけど。・・・ちょっと複雑だな・・・。
最終的にはガリウスになったわけだけど、「ハイシア家」と言うのに曰くがついて、変なのがきたら・・・。
アシュリーにもガリオンにもふさわしくなかったら僕が断っても良いよね』
『子達には僕が行けなかった学園に入れようと思うんだけど、・・・やっぱりやめた方が良いかな。
赤ん坊のころからこんなに綺麗な瞳を持った子達・・・大丈夫かな。心配になってきた』
あげたらきりがない。
きらきらとした眼差しでこちらを見てくるのは、子達の事ばかり。
いや。事態は分かっているのだ。
もう少し我慢しよう。
先日の魔術講師の件は少々早いと思いつつも、子達は魔力が高い。
もしかしたら自分以上の能力やセンスを持ってきそうな片鱗を見せた為、その心配はもっともである。
魔力の吸引を止めさせた方法も確立した手段ではなく、試してみて結果良かっただけだ。
だから、専門家に聞きたくなる気持ちは十分に分かるのだが、まだ産まれて数日。
ガリウスやシャリオンの言う事を聞くと言っても、言葉が返ってくるわけではなくふんわりとした雰囲気である。
そんな産まれたばかりの子を、誰が見れるというのだろうか。
ハイシア家の依頼で断る魔術師はそういないだろう。
幾ら魔術のスペシャリストである高位魔術師でも、乳児を見ているような人物聞いたことがない。
中途半端な魔術師に依頼をしても、最終的に嘆くのはシャリオンだ。
それでもちょうどいい人材を探さないわけにはいかない。
シャリオンはあの件を割り切っているのかセレドニオを指名したが、出来ればどんなにセレドニオが改心しシャリオンに尽くそうとも会わせたくはない。
あの男のしでかしたことは、到底許すことの出来ないことで、今でも処分しておけばよかったと思うことが、シャリオンがそれを望むなら会わせないわけにもいかない。
シャリオンはガリウスが遠ざけることに敏感に気づく。
隠せば余計に悩ませるためそれは得策ではないのだ。
魔法道具と言う言葉を避け、「装置」と言ったり「魔法を造った」と言い換えたりもしたが、やはり違和感を感じ取りシャリオンに悟らせてしまった。
ガリウスはシャリオンに話さない秘密は沢山あるが、嘘はつかない。
他人にこんなに気を使うなんて他にない。
何時だったか幼馴染であるルークに『シャリオンはたまに斜め45度の方向に歩き出すから見てやって』と、言われたことがあるがそれはあながち間違いではなく、おかしな方向に考えを向かせてしまう前に、共に考え答を導く必要があるわけだが、それさえも手間には感じず愛おしく思える。
考えてみれば、シャリオンに好意を抱いた瞬間。
その日からガリウスはシャリオンの事ばかりだ。
シャリオンがいやすいように宰相室を整えたり。
ハイシア家に戻った後も、シャリオンが気になりそうなところをすすんでこなした。
レオンを交えて夜に晩酌をするときでも、あまり洋酒が得意ではないシャリオンの為に好きな葡萄酒や果実酒を用意したりした。
辛いことに、自分は嫌われていると気づいた為、近寄りすぎないようにはしていたが。
嫌われていても適切な距離を保ち、自分の元へ転がり落ちてくるように、しっかりと周りをふさぎながら。
虎視眈々と狙っていた。
☆☆☆
シャリオンに恋に落ちたのは出会った瞬間。
失恋したのはその数秒後だった。
レオンは外で優秀な人材を見つけてはスカウトをしてくる。
ガリウスもそのうちの1人だ。
その当時、部屋の中でも歴代一の最年少であったガリウスは神童と言われていた。
その為にやっかみやひがみもあった。
皆笑顔を浮かべながらの『出来ない』と言うことを言わせない空気があった。
ガリウスはそれにいち早く気づき、くだらないと思いつつも、レオンの居ぬ間にこっそりと与えられる難題をすべてこなしていた。
先輩方は驚きながらも、何時しか初めのような態度はなくなった。
それでも気が抜けない状態が続いたのは、ガリウスよりも少し先に入った年上の同僚の所為だ。
彼はレオンが抜擢して来たわけではなく、知人からの紹介でレオンが許可しこの宰相室で修業をしている。
頭の良さはいたって普通。
しかし、回転は良く口が動く人間だった。
そんな彼は、崇拝しているレオンが抜擢したガリウスが年下で神童だとちやほやされるのが気に入らないようで、いつも突っかかってくる。
どうやら、彼はレオンに紹介を頼んだ人物にいくらか払ったようで、ガリウスにいくら大金を積んだのかとしつこく聞いてくる。
ちょっとした、言葉の足らなさも事細かに指摘してて『はぁ~これが神童とはねぇ?』などと、絡んでくる。
それも、レオンがいないところでだ。
その頃、歳も近いこともあってか、やたらとその年上の同僚と組まされることが多かったのだが、口だけでなく手も動かせと言いたくなるほどべらべらと話す。
そのくせ要領が良いため、見つからないし見つかったとしても愛嬌で怒られることは無かった。
そんな男にガリウスは心身を追い詰められたか?と、言ったら全くそんなことは無く、むしろその手の抜き方などは学んでいた。
やれと言われたことを100%でやらなくていいなんて事、神童と言われていてもまだ幼さの残るガリウスに分かるはずがなかったのだ。
だが、それが良い手本ではないことは分かっていたから、ガリウスもまた要領よく手を抜くことを覚えていった。
それでもストレスがないと言ったら違うわけで。
その同僚からも、先輩からも要求はエスカレートしていった。
自分はレオンに魔術を認められて、てっきり王宮魔術師団に推薦されるのかと思っていた。
しかし、蓋を開けてみたら宰相の側近見習い。
100歩譲って向いているからまだマシだとは思ったが、不満は満載だった。
何よりもこの部屋の仕事の流れは効率が悪かった。
全て殆どこの部屋にいないレオン待ちで仕事が溜まっていく一方で、改善しようともしない。
レオンが溜まるころになると、まるで見ていたかのように戻ってきてこなすため、一応回っているからだ。
そんな状態を見るに見かねてついにガリウスがレオンにそのことについて、業務改善を進めた。
リーダーをつくり、その人物がある程度采配したらどうだ。と。
レオンが最終印をしているが、別にレオンがしなければならないことではない物まで含まれていたからだ。
・・・そして、それが運の尽きだった。
そう指摘したガリウスにレオンはニヤリと笑い、『やっというやつが出てきたか』と言い放ったのだ。
今ではそんなことは無いと分かっているが、当時は思わずそれを聞いた時、外に出ているのは自覚させるためだったのか?!と思ってしまったほど。
レオンは声を高らかにこの部屋の室長代理としてガリウスに任命した。
ガリウスが指摘したのは些細なことだ。
きっと誰しもがそう思っていたが、上長印と言ったらこの部屋ではレオンであったためレオンに依頼をしていただけだ。
しかし、そのレオンがガリウスを任命したなら仕方がないことである。
その日からより一層にガリウスは『神童なんだから出来て当然』そうやって僻まれるのが多くなっていったのだ。
そんな妬みややっかみで殺伐とした中。
ある日、天使のようなシャリオンが宰相室にあらわれた。
普段、会話しながらも仕事をしている彼らが一斉に手を止めて、シャリオンの周りに集まる。
シャリオンとは4歳差でその頃の歳の差は大人の今では大分違う。
自分よりもはるかに幼く見えたが、それでも大人の彼等に臆することなく、美しいボウ・アンド・スクレープを見せ挨拶をする。
「こんにちは、皆さま。お手を止め申し訳ありません」
人々の合間からシャリオンが周りの大人に笑顔を向けているのが見える。
その笑顔もあどけなさのなかにも、品の良さが見える不思議な感覚だ。
黒い絹糸などあったのだろうか?と思うほどに美しい髪を後ろで結び、風や人々の動きだけで揺れ動く髪はキラキラと反射し星空のようだ。
その双眸はレオンとシャーリーの瞳を受け継いでいるかのように、グレー掛かった落ち着いた緑色を持ち、例える宝石など存在しない程優しくそして美しく輝いていた。
正直なところ、ガリウスの顔は整っており、人から好印象を得る顔だというのは十分に感じ取っていた。
通称アイスプリンスと陰で呼ばれているらしい。
アイスの由来は笑わないからだそうだが、何故他人に微笑んでやらなければならないのか。
それに、そんなことをしなくても動いてくれるのだから十分だ。
その武器を存分に使い、仕事を回していたのも事実だ。
妬ましい子供でも、この顔には皆弱いらしく。
いや、ガリウスに正論で論破できるような人物がいないのもあるから、皆いう事を聞いてくれているのである。
そう考えると、子供に指示され動く大人は、出来た大人だったのだろう。
これが単なる子供だったら子供扱いのままだが、ガリウスはレオンがする指示と差して変わらない。
勿論。執務室にいる人間は現段階では出来るだろう。
だが、入ってきて数か月の子供が出来てしまうのがすごいのだ。
ここでは、幼くても仕事が出来れば問題ない。
おまけにガリウスはその顔立ちはなんだかんだで、好かれていた。
この顔のお陰でそれほど、大きな問題が起きなかったところもあると思っている。
大人のに随分簡単だ。顔なんてただの物体な抱けなのにと。そう思っていた。
だから、まさか自分がその他を見て心を奪われるなんて事無いと思ったのに。
人をみて可愛らしいと思ったのは初めてだった。
初恋なんてものは『可愛い』だけでなるのは十分で、それから『もっと話したい』『もっと知りたい』と思った。
しかしながら先輩たちをかき分けて行くのもスマートではない。
どうしようかと思っているうちに、彼は用事に向かって部屋を退室してしまったではないか。
先輩方に彼は誰なのかと聞いてみるとレオンの愛息子だと知った。
それを聞いた時、レオンの息子なのならまた会える。そう、思ったのだが・・・。
次の瞬間に『ライガー殿下の婚約者だ』と、残酷な言葉が投下された。
ショックだった。
初めて美しいと思えた人間だったのに。
自分よりも幼い彼は、すでに誰かのものだったなんで。
初恋をし失恋を同時に知った。
今から振り返れば『美しさ』だけで、そう感じるには材料が足りないと思うのだが、その時は衝撃が勝り話してもいないシャリオンに恋をしてしまったのだ。
・・・
・・
・
王族の婚約者。
それがいわくつきの第一王子だとしても、王族は王族だ。
どんなにあがいても、自分は手が届く存在じゃない。
そうは分かっていても「好きになるな」という、気持ちの制御など利かなかった。
予測通り、まだ大公を賜って無かったライガーの元に、・・・つまり城に、シャリオンは頻繁に来ていた。
何でも、行儀見習いをしているらしく、その帰りに執務室に顔を出すようにレオンに言われていたらしい。
次第にシャリオンはガリウスに面識を持つようになっていった。
こちらも挨拶をしていないが、シャリオンはこちらを知っている様だった。
しかし、その視線は他に向ける笑顔をはちょっと違う。
複雑そうな表情でガリウスを見てくる。
勿論、貴族なのっで露骨に顔には出さないが、その目を見ればわかる。
ガリウスのこれまでは、声をこちらからかけなくてもあちらからかけてくるので、シャリオンが声を掛けてこないことに戸惑っていた。
話しかけてくれたらいくらでも話せるのに。
頭の中に『相手は次期侯爵』『殿下の婚約者』そんな言葉が浮かぶのに『話したい』気持ちが沸き立つのにあと一歩が踏み出せない。
ガリウスはけして人見知りなどではないのだが、この時ばかりは話しかけることが出来なかった。
そして、今日も又会釈だけをして去っていくシャリオンを見ながら一日を終える。
よく考えてみれば、恋に恋していてアレはただの自己満足にすぎなかった。
・・・
・・
・
そんな、ある日。
大臣に書簡を届ける最中に城を分断する様にわたっている通路を歩いていた時だった。
すぐそこには中庭があり、そこにシャリオンが居た。
それだけで一気に心拍数が上がり、体温が上がる。
「ライ、それ本当~?」
「!」
「あぁ。本当」
「っ・・・」
思わず仲睦まじく話しているシャリオンとライガーの2人に、上がった体温は一気に下がった。
いつも執務室で聞くような、上品な話し方ではなく、年相応とでもいうのだろうか。
少し甘えたような声で話すシャリオンの声。
それに返事をするライガーもまた、とろけたような声色と視線をシャリオンに送っている。
思わず咄嗟に柱の後ろに隠れたガリウス。
隠れても仕方がない。
そ知らぬふりで通路を渡ってしまえばいいのに、地面に足が張り付いたように動けない。
幼さの残る声は、普段のはきはきとした貴族らしい話し方を知っている為、ちりちりと焼け付きそうだった。
「っ・・・」
シャリオンがライガーやルークと幼馴染という事は知っているのに。
その距離の近さに、・・・嫉妬した。
相手は公爵だ。
例え、王族の婚約者でなかったとしても、おいそれと話かけられるわけではない。
「・・・、」
そう思うと、執務室の先輩方もあそこでしか話せないから、あんな風に明かりに集まる蛾のようにシャリオンへと集まったのだろう。
先輩方を害虫扱いしているが、所詮自分も同じ。
それどころか声すらも掛けられないみじめな害虫だ。
子爵の生まれを初めて恨んだ。
これが伯爵家ならまだ可能性があっただろうに。
お門違いな八つ当たりを胸に抱いている時だった。
「ところで、『神童』の話を聞いた?」
ライガーのその問いかけに、思わず自分がここに居るのがばれているのではないかと思ったが、どうやら違うようだ。
噂話をシャリオンに話し始めた。
「・・・あー・・・うん」
しかし、その声は沈んだ。
自分の話題をしたくないのだろうか。
「俺もこないだあったよ」
「そうなんだ?・・・ぼくはまだ、話したことないや」
「そうなのか?執務室にいなかったのかな」
「いつもいるよ」
「?・・・挨拶しなかったのか?シャリオン、いつもみんなに挨拶しにいくじゃないか。シャーリー殿の教えなんだろう?」
その言葉にドクリと心臓が脈打つ。
自分に来たことなど一回も来たことが無いからだ。
ドロドロした気分が足元から這い上がってくるようだった。
幼いならがに嫉妬や独占欲に似たものだ。
「・・・うん」
「なにか・・・あったのか?」
「!・・・ううん。・・・ぼくがしちゃったんだ」
慌てて弁明するシャリオンに、聞いているライガーだけでなくガリウスも「?」が浮かんだ。
「どういう意味だ?」
「っ・・・ひみつ。それより、その彼ががどうしたの?」
「?・・・本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ。・・・知ってるか知りたかっただけ?」
それ以上言いたくないようでシャリオンは話しを勧めようとすると、ライガーは苦笑を浮かべた。
「リオはあんまり同年代の知り合いがいないからな」
「ライやルーだって同じでしょう?・・・父上が学園にいくのを許可してくれなかったんだからしかたないじゃないか」
「レオン殿は、『心配性』て父上が言ってたぞ」
「父様もそう言ってた。・・・父上と父様は学園で出会ったのに狡い」
そう拗ねたように言うシャリオンにライガーがクスクスと笑った。
「まぁ仕方ないよ。リオは可愛いから」
「・・・。可愛いって嬉しくないってば。ぼくはカッコいいがいいの。
将来父上のようなカッコイイ大人になるんだもん」
「あー・・・うん。なれるといいな?」
ライガーは無理だと分かっているのか優しくシャリオンの頭を撫でる。
それにシャリオンは嬉しそうに頷いた。
それを見ても辛さしかない。
もうこれ以上はやめよう。
そう思い、去ろうと思った時だった。
「『神童』の」
ライガーが話しを始めるのと同時にシャリオンの不満げな声が上がる。
「それやめない?」
「え?」
「ガリウス・ガディーナ様でしょ?」
「うん」
「ぼくも『宰相の倅』て、呼ばれるのいやなんだ」
そう言ったシャリオンに、ライガーもガリウスも息を飲んだ。
シャリオンをそういう人間がいるの問題だが、同じように思っているとは思わなかった。
ガリウスのことをレオン以外は皆『神童』と呼ぶ。
それがまるで名前かのように。
「ガディーナ様がどうしたの」
「ぁ、・・・あぁ。ガディーナ様が」
「アハ。・・・ぼく怒ってないよ?ライはガディーナ殿でいいんだよ」
そう言うと、困った様に笑うライガー。
「なんか、小さい講師が傍に居るみたいだ」
「小さいは余計っ!」
「ごめんごめん。・・・その、ガディーナ殿なんだけど、レオン殿が偉く褒めていたよ」
「父上が?」
「聞いたことない?」
「父上はどちらかと言うと、その日のぼくの出来事を知りたがるんだ」
「あー・・・」
「それに、父上いつ行っても宰相のお部屋にいないから、ガディーナ殿と話したことあるのかな」
「それはあるとおもうよ?なんてったって、ガディーナ殿を側近に置いたのはレオン殿だし。
最近は室長代理にまでなったらしくて最年少が役職を得られるのも近いかもなって」
「へぇ・・・すごい人なんだね」
一般的な感想だ。
シャリオンが感心したように言うそれに、嬉しく感じる。
だが、シャリオンはつづけてこうも続けた。
「・・・お仕事いっぱいだからかな」
「え?」
「いつも怒ってるみたいでしょう?」
「!」
その言葉に浮かんだ微笑みがピシリと固まった。
そして、思わず自分の口元に手を置いた。
続く言葉や、与えている印象が予測できたからだ。
これはレオンのことを言っているのではない。
ガリウスをさしているのだと分かった。
「怒って無いよ。話してみればちゃんと応えてくれるよ」
「それはライが王族だからだよ。・・・そもそもぼくのことも、知らないと思う」
「そうなの?あぁ挨拶してないんだっけ。まずはしてみたら?」
「っ・・・ぅ・・・でも、忙しいかも」
確かに忙しい。
本当なら今も大分時間をロスをしている。
しかしながら、シャリオンと話をするのに比べたら優先度は下がる。
「大丈夫だよ。忙しかったらちゃんと言ってくれる子だよ」
ライガーの方が年下だが、この時ばかりは思わず感謝した。
そういうライガーにシャリオンも納得したのかコクリと頷く。
「っ・・・ぅ・・・、今度・・・ちゃんと、・・・する」
なんだか自信なさげにいうシャリオンに、ガリウスは今すぐにでも出て行きたくなるがこらえる。
まずは、この表情を変えなくては。
次にシャリオンが来るまでには完ぺきな微笑みが浮かべられるように。
その日からである。
ガリウスがいつもにこやかな微笑みを浮かべるようになったのは。
何かあればシャリオンのため。
大きな感謝は望んでいない。
でも、小さな感謝・・・いや。
シャリオンが少しでも笑ってくれるように。
ライガーの隣でいつも穏やかにほほ笑んでいられるように、尽くそうと誓ったのだった。
☆☆☆
過去の思い出にガリウスはくすりと笑う。
すると、その声に気が付いたのかシャリオンが不思議そうにこちらを見た。
「どうかした?」
「貴方と初めて会った時のことを思い出しました」
「・・・あの、唐突に跪いた日・・・?」
「えぇ」
シャリオンが「『神童』は名前じゃない」と言わなかったら、あれはストレスのままだった。
あの日、部屋に帰って早々ガリウスがしたのは彼等に『神童』と呼ばれ、初めて笑みを浮かべながらどきつい嫌味を垂れた。
『未だに名前を覚えられないんですか?』と。
その日までいつも言われっぱなしだったガリウスだったが、年下だからと考慮するのをやめられる切っ掛けになったのだ。
シャリオンも挨拶をした、その日のことを思い出したのか、クスクスと笑った。
「今思い返すと笑っちゃうけど。・・・あの時は怖かったんだよ?」
「すみません。・・・貴方にずっと話しかけたかったんです。
ですが、意気地がなくてやっと勇気がもてた瞬間だったんですよ」
決心をしたガリウスの元に・・・いや。
宰相室にシャリオンがあらわれたのは翌日だった。
扉が開くなり、シャリオンはライガーに宣言したからなのか、視線がこちらに向かっていたのが見えた。
ガリウスは咄嗟に周りに結界を張り、先輩方の足を止めるとシャリオンの元へ向かう。
上から見下ろしていることに気付き、怖がらせまいと膝をついてシャリオンにほほ笑み見上げる。
そんなことをされるとは思っていなかったらしいシャリオンはいつもの貴族らしいふるまいも忘れ、驚きガリウスを見下ろしてきた。
そっとその手を取ると、シャリオンの手に手を添える。
婚約者がいるのだから、口づけは無しだ。
シャリオンに要らぬ誤解で波風をたたせるわけにはいかない。
そして、最上級の微笑みをシャリオンに向けると『ご挨拶が遅れました。ガディーナ子爵家の次男。ガリウスです』と、挨拶をしたのだ。
シャリオンもその時のことを思い出したのか、頬を赤く染める。
「っ・・・ガリウスに意気地がないなんて、絶対嘘だよっ」
「嘘ではありません。・・・現にあれまでは貴方に笑顔を向けられなかったでしょう?」
「!・・・本当に・・・?」
「えぇ」
驚いたように目を見開いた後、シャリオンは苦笑を浮かべ小首をかしげた。
どうやら、あの時微妙な表情を浮かべていたのは、あまりない反応にシャリオンも怖がっていいたようだ。
過去の自分の事ながらとても悔やまれる。
「僕、何か怒らせちゃったのかなって思ってた。
父上はどんなに忙しくても屋敷に帰ってきてくれていたから、そのことで仕事を滞らせたりしているのかも?とか」
「すみません。そんなことは全くありません。・・・過去の私がしたことはいえ、申し訳ありませんでした」
「ううん。僕だって言われるまで忘れていたし。
でも何故そんなことを思い出したの・・・?」
シャリオンの疑問はもっともだ。
それ以前は子達の将来について語っていたからだ。
ガリウスとしては話は繋がっている。
通常なら面倒だと感じることでも、シャリオンの為ならそれも厭わないということだ。
ガリウスはクスリと笑みを浮かべるとシャリオンの額に口づける。
「最初の挨拶は大切で、子達にもしっかりとおしえないとと思ったのですよ」
「うん。そうだね。ちゃんとそこはしようと思う」
「シャーリー様の教えですもんね」
「うん。・・・・、・・・?あれ父様の話したことあったっけ?」
「はい。・・・大切なことなのでもう一度教えていただけますか?」
「いいよ。えーっとね」
そう言うと、シャリオンは昔を懐かしむように話始める。
その愛しい横顔を見つめながら、シャリオンの昔話を聞くガリウスだった。
☆☆☆
ベッドヘッドに枕を積み重ね背もたれにし、その上にシャリオンが乗りガリウスの胸板に手を置き快感に体を震わせる。
「ひぃぅっ・・・・ぁっ・・・ふっ」
既に互いに生まれたままの姿で、ガリウスはしたから快感に悶えるシャリオンをしたから見つめている。
片方の手で尻を揉み、少し膝を立たせ体を浮かせた隙間から手を滑り込ませ、ガリウスの濡れた指が行き来するのに合わせてぱくぱくと開く入口を撫でた。
物欲し気に動くそこは、ガリウスを咥えたがっているようで可愛いらしい。
先ほどからたっぷり濡らした指でそこを広げ、抜いてを繰り返しているのだが、シャリオンはついに焦れたよう手を追うように腰を動かしてきた。
「っ・・・がりぃ」
「なんですか?シャリオン」
「っ・・・っ」
軽く指を突っ込み2本の指を開いたり閉じたりすると、シャリオンが息を飲んだ。
「っ・・・っ・・・ぁっ・・・ゆ・び」
「指、・・・気持ちいですよね」
「!・・・ぁぁぁっ・・・あっぁっ」
ようやく進入してきた指に嬉しそうにきゅうきゅう締め付けてくるのに、指にまとった潤滑油のすべりをかりて、一気に指の付け根まで入れて抜いてを数度くりかえす。
「っ・・・・っ・・・やぁっ・・・・もっ・・・がりぃっ・・・・っ」
「・・・なんですか・・・?」
その瞳は涙と欲望で濡れている。
自分を求めて焦れた熱にうなされているのか、シャリオンの細い指がガリウスの熱く猛ったものに絡んだ。
シャリオンにそんなことをしたら、すぐに逝ってしまいそうだが、精一杯耐えると意地悪く微笑む。
「・・・そんなに強く握られては逝ってしまいます」
「!」
「貴方の中で出させてくれないのですか・・・?」
いやらしいことを耳元で囁くとシャリオンは羞恥と期待で小刻みに震える。
・・・あぁ・・・本当に可愛いらしい・・・
思わずその耳を舐める。
「ひぃあぁっ」
「・・・貴方の中に・・・こんな風に」
ちゅぽちゅぽと耳穴を舐めるとびくびくと体を震わせる。
そんなシャリオンを見ながら、今日も出来るだけ我慢しようと思いつつも、その体を堪能するのだった。
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