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執着旦那と愛の子作り&子育て編

おかえり。

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部屋に緊張した空気が流れた。
ガリウスの表情は普段と変わらないのに怒りを纏った様子は、隣にいても思わず息を飲む。
それなのに、そんなシャリオンに気付くと詫びて『シャリオンにではないですよ』と器用に笑顔を向けた。
幾ら、ガリウスの笑顔に弱いシャリオンだって、この状況で素直には受け取れなくて苦笑を浮かべた。

・・・叱りたいのはガリウスじゃないの・・・?

思わずそんなことを思ってしまうが、ガリウスの言いたいことも分かるのだ。
シャリオンも次期宰相として父であるレオンの元で側近の一人として、勉強していた時はそんな甘い考えではなかった。
ゾルもそのつもりで、シャリオンが正常の生活に戻るころには、その怪我があっても戻るつもりなのだろう。
おまけにシャリオンは再び子を自分に宿すため、その頃は行動は狭められている。
次期領主として側近になったゾルだが、実質その他の使用人よりは動かないはずだ。
けれど、万全を期してない。

それに、ガリウスの言う通り名誉の傷なんかではない。
今回のケースがと言う事ではなく、誘拐や暴漢に襲われて守るために出来た傷なんて名誉なわけがないからだ。

「・・・その、君もそうなの?」

そう呼びかけたのは、シャーリーのサポートをしているゾルにだ。
彼は、幼い頃シャリオンの不注意で怪我を負わせてしまった。
その言葉に尋ねられたゾルは、他のゾル達と視線を合わせたが黙りこんでしまう。
それは肯定のように受け取れる。
何故、そんな傷を残しておきたいのか良くわからなかった。

「僕がもし、・・・逆の立場だったら・・・同じ風の思うのかな。
・・・兄を傷つけてしまった傷を」

そう言いながら、ふと自分の手を見た。
ゾルを守りきれたとしても、その傷を残しておきたいと思える・・・?
考えてみたけれど、やはりそうは思えず考え込んでしまうと、ガリウスがそっと肩を抱き寄せる。

「言ったでしょう?・・・シャリオンには理解しがたい感情だと」
「・・・。・・・僕が弱いからだよ。
その傷を見ても助けられて良かったと思うよりも、たぶん危険な目に合わせてしまったことをいつまでも思ってしまうだろうし、ジジのように戒めにと残してもたぶん苦しい」
「「「!」」」
「貴方は、それがなくても忘れないでしょう」
「忘れないのは、あってもなくても変わらないよ」

残したいと言った人々の考えを否定するような物言いに、シャリオンは苦笑した。
理解は出来なかったが、それを否定するつもりはない。

「ゾルがその傷を見ても辛くなったりはしないならいい」
「!」

シャリオンがそう言うとゾルは驚いたように目を見開いた。
今の流れで治せと言われると思ったのだろう。
痛い思いを長引かせるのは嫌だけど、本人が残したいというのなら仕方がない。

「シャリオン」

ガリウスの声色は余り納得いってないようだ。
それに首を横に振った。
ガリウスは厳しくは言うが、結局はシャリオンが良しとすればそれが結果だ。
ゾルの主人はシャリオンなのだから。

「まぁ。僕も動けないし、・・・それに、ゾルが自分を通すなんて珍しいもの」
「・・・、」
「出来ればもっと別なことで通して欲しかったよ。
お休みが欲しいとか、何が欲しいとか」

苦笑を浮かべると、ゾルはなんだか微妙な表情を浮かべてしまう。
特に難しいことを言っているわけではないのだが。

「でも暫くお休みね。
僕は今夜にも子を僕に宿してもらうけど、お医者様からちゃんと動いて良いって許可をもらってからね」
「!!俺はっ」
「絶対ダメ」
「っ」
「ゾルは隠すから。そして僕はそれを見逃してしまう。
だから、お休みね。分かった?」

そう言うと、怪我をしたゾルはクシャリと顔をゆがめてしまう。
どれだけ、この仕事に誇りをもっているのだろうか。

「大丈夫だよ・・・。怪我が治ったらまたお願いね・・・?」
「・・・あぁ」

悔しそうにそう呟くゾルに困ってしまう。
先ほどから苦笑しか出てこない。

「ぁっ・・・。そうだ。僕、ゾルにちゃんとお礼を言ってなかったね。
あの古城から逃げ出せたのはゾルのお陰だよ」
「俺は、何も」
「あの時、・・・瞬時に僕とガリウスに掛けている術を解いて・・・僕たちにまで隷属の魔法を掛からないようにしてくれたのでしょう?」

思考共有は繋がっている人物に、全体の意識を共有を出来るのが強みだが、それが弱みでもある。
ファングスの件でシャリオンの情緒が安定しなくなった後、ゾルによってガリウスと意思疎通が出来るようにしてくれていた。あの古城でそれが出来なくなったという事は、おそらくシャリオンやガリウスもそれが掛かってしまう可能性があったからだ。
ゾルにはその隷属魔法の影響を受けない程の、昏睡出来る術があったようだが、あの男の前でシャリオンにもそれが掛けられていたらと思うと、今思い返しても恐怖だ。

「子供たちに僕もそしてジジも。
無事にあの古城から抜け出すにはゾルが居なかったら絶対に無理だった。
ゾル・・・本当に助けてくれてありがとう」

早く傷を治させてだとか、謝罪とか。
そう言ったものは我慢した。
きっとゾルはそんなものよりも『ありがとう』と、言われた方が嬉しいと思ったからだ。

「っ・・・シャリオン・・・。・・・、・・・次はもっと、・・・ちゃんと守る」
「ありがとう。・・・でも出来ればもう誘拐はこりごりなんだけど・・・」

そう言うとゾルは苦笑を浮かべる。
すると、肩をポンと叩かれて、後ろを振り向けばの2人のゾルも少し困った様に笑みを浮かべていた。

「そんなのは当たり前だ。でも、そう思いたいんだ。
・・・そいつが治るまでだけど、今度は俺がシャリオンにつくから」

そう口にしたゾルは、どうやらガリウスの元パイプ役だったゾルらしい。

「そう。あんまり仕事なくて退屈かもしれないけど」
「だからと言って、・・・外に出掛けたいだとか言わないで下さいね。
・・・ゾル、頼みますよ」
「あぁ」
「買い物したいなら、ゾルに頼めば信頼のおける行商人を呼んでくれます」
「行商人・・・」

『行商人』という言葉で、ふとセレドニオが浮かんだ。
不運な男だった彼は、今一体どうしているのだろうか。
少し間を置くとガリウスがこちらをじっと見てきていた。

「ぁ。いや。
怖いとかじゃなくて、・・・ガリウスもちゃんとしてくれてるから、そこらへんは気にしていないんだ。
そうじゃなくて、・・・元気にしてるのかなって思っただけ」

彼も十分に苦しんだうちの1人だ。
幸いにも魔力があったから生き長らえたが、弱かったならもっと道具のように使われていたかもしれない。
だが、父であるはずのあの男と対峙したときの目を思い出すと、力がありすぎるのも問題だったのだろうかと、よくわからなくなるが。

「・・・貴方って人は・・・。
はぁ・・・。元気にしてますよ。貴方の為に身を粉にして働かせてます」

呆れたような物言いだったが、シャリオンはホッとする。

「そう?ちゃんとお休みあげてね」
「本人が欲しいと言ったらそうしましょう」
「微妙な言い回しだなぁ・・・。まぁわかったよ」

不安が残ることもあるが、人を動かすのはガリウスの方が得意である。
それから、少し話をすると、傷に触るためシャリオン達は早々に部屋を出た。


・・・
・・



廊下を歩きながら、ホッとしたように息をついた。
本当はここに来るまで少し緊張していた。
けれど、ゾル達は辞めたいわけじゃないようで安心した。

「僕、呆れられたのかと思った」
「それはあり得ません」
「!」

ガリウスではないハスキーな声が響いた。
思わず振り返ると、そこにはゾル達の父親が音もなく佇んでいた。
シャリオンが驚くと、頭を下げる。

「失礼いたしました。坊ちゃん」
「その呼び方懐かしいな」
「シャリオンはそう呼ばれていたのですか?」
「うん。数少ないけどね。
彼と、ゾル達の母親で僕の乳母をしてくれていた人、それと今領地にある屋敷の執事だよ。
父様はいたけど、やっぱり父上はいなかったから、時には父上のように接してくれたりしてたんだ」

彼等はシャリオンが生まれる前からいるから、当然可愛がられた。
シャリオンがそう言うと、ゾルの父親は懐かしそうに眼を細めた。

「レオン様の代わりとは恐れ多いです。
・・・シャリオン様は小さいころから手のかからない可愛らしいわんぱくなお子さまでしたので」

なんだが、相反する言葉が入ってきたような気もするが・・・。
確かにライガーとの婚約が決まる前は領地に居て、元気に走り回っていた記憶はある。
危ないことをしたら止められるが、基本誰もシャリオンがすることに怒らなかった。
まぁ、そんな危険なことも悪戯もするような子供ではなかったからなのだが。

「ぅっ・・・それより、どうしたの?」
「シャリオン様がおかえりになると、ゾルから連絡がありましたので」
「迎えに来てくれたの?ありがとう」

ここはレオンの屋敷だが、使用人の居住区であまり得意ではないから助かる。
ガリウスでさえもここにはあまり立ち入らない。
2人はゾルの父に案内されながら、帰る挨拶を両親にするために部屋へと向かう。
すると、来るだろうと思っていたところ彼が謝罪を口にする。

「この度は」
「ストップ。・・・僕を守ってくれたゾルを怪我させてしまった謝罪を受け取ってくれるなら続きを言っても良いよ」
「使用人と同等にしてはいけません」
「ゾルは僕の兄なんだからただの使用人ではない」

そう言い切るシャリオン。
とは言ってもウルフ家の人間すべてにそう言うだろうが。
それが分かっているのか、ガリウスが苦笑を漏らす。

「ゾルをお許しいただきありがとうございます」
「許すも何も僕が助けてもらったんだけど」
「・・・シャリオン」

諦めろと言わんばかりのガリウスに、シャリオンはムゥっと拗ねたように見る。

「わかってます。わかってますけど、彼等のこともわかるでしょう?」
「・・・うん」
「納得いってなさそうですけどねぇ。
・・・まぁ、相手が特にゾルだから仕方がないとは思いますが。
・・・。
ですが、そろそろ良いのでは?」
「・・・、」

立場を考えても彼等の方が正しいのは、ガリウスの言う通り良く分かっている。
けれど、ゾルに助けてもらったのも事実で、それに謝罪されるのはやはり納得できない。
そう、・・・言おうと思ったのだが、ひやりとした声色に感じてソロりと顔を見上げると、ガリウスがこちらを見下ろしてきていた。

「・・・。わかったよ」

そう返事をすると、見られていないのを確認しながら、やきもち焼きのガリウスの手にご機嫌を取る様に、するりと指を絡ませたのだった。

ちょっと・・・ずるいかな?

そう思ったのだが、ガリウスは少し驚いたようだったが、口元に笑みを浮かべた。
完全にではないが、今はこれでごまかされてくれるらしい。


☆☆☆


その日の夜。
シャリオン達は自分たちの屋敷の自室で休んでいる。


レオンの屋敷から次に向かったのはディディとジジの宿泊先だ。
2人はシャリオン達の屋敷に来てくれると言ってくれたが、午前はレオンの屋敷に向かっていた為、宿泊先に向かうと伝えた。
ジジはシャリオンからガリウスへ子達を送ってくれた時、ガリウスの魔力の込められたタリスマンと指輪がなければきっと倒れていた。
元からの魔力が低いこともあるらしいのだが、人を移すというのはそれだけ対価が必要なのだ。
だから、彼等が魔法を使った後に直ぐに休めるように彼等の宿泊先である方が都合がいいのだ。

シャリオンに戻してくれたのは怪我しているジジの代わりに、ディディが行ってくれた。
その間もジジは『ディディ様なら、大丈夫』と、安心する様にシャリオンに語りかけてくれていた。
もしかしたら、不安げな表情をしていたのかもしれない。
イレギュラーなことに、完全に気にしないなんてことはとても出来ないが、それでも隣にガリウスが居てくれたから心強かった。


再びシャリオンに子が戻ってくると、ガリウスが言っていた騒がしいというのが初めて分かった気がする。
どちらかと言うと、きゃっきゃと喜んでいるように感じる。
屋敷に戻り暫くたってもそれは続いていた。
以前は枯渇してしまい、ガリウスの魔力を求めるようなことはあっても、こんなにも子の存在を感じたことは無かった。たった2・3日でこんなに変わるとは思ってなかったから、少々驚いてしまう。

「フッ・・・貴方の中が余程嬉しいようですね。・・・ですが、そこは本来私の場所ですよ?」

ソファーに掛けながら二人でゆったりと過ごしているのだが、シャリオンが子供たちの様子を話すと、ガリウスはシャリオンの腹の上に手を乗せた。

「ガ・・・ガリィ・・・」

呆れたように名前を呼べば、ごまかすようにシャリオンに口づけた。

「ですが・・・必要だと思うのです。
・・・私の予感が外れればいいのですけど」
「何が・・・?」
「子はきっと貴方のことを愛してしまうでしょう」
「・・・、・・・」
「なので、貴方が親であるという事をしっかりと教える必要がある」
「・・・がりぃ・・・?」
「そのために、一番いいのは貴方に一番ふさわしいのが誰か?と言うのが解かれば余計なこともしなくて済むと思います」
「・・・、」

真顔で言うガリウスに呆気にとられた後、苦笑を浮かべた。
嘘だとは思いたかったが、その表情は全く冗談を言っているような顔には見えないからだ。

「っ・・・もう。ガリィってば。・・・僕が愛しているのは君だけだって言ってるじゃない」
「当たり前です。家族愛以外の意味で愛している人間が出来たら・・・私はどうなってしまうのでしょうねぇ」


そう言う目は、なんだか怖い。

だけどこれだけは分かる。


「・・・僕はそんなに器用じゃないから、君だけで十分。
と言うか、・・・わかっててそう言うこと聞いているでしょう?」


じっとりと見つめるとガリウスはクスリと笑った。
そして、シャリオンの唇に口づけた。
ちゅちゅと、キスを重ねながらアメジストの瞳が誘うように妖しく光る。


「そんな事ないですよ。
言ったでしょう?
・・・私は何時だって貴方を自分に縛り付けて置くことを考えるような心の狭い男なんです。
貴方が兄と慕うゾルに嫉妬するくらい」


もっと言ったら自分の子供にすら嫉妬しているじゃないか。とは、言えなかった。
でもなんだかおかしくてクスクスと笑ってしまう。

「酷いですね・・・。私は本気ですのに」
「っ・・ごめん。・・・愛しているよ。ガリィ」

シャリオンが大好きなキスを重ねると、ガリウスはそれに応えてくれる。
本当はそれほど魔力は枯渇してはいなかったが、なんだか触れたい気分だ。
重なりあう手に指を絡め、誘うようにねだるシャリオンだった。
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