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婚約編

マリッジブルー?そんなんじゃない。・・・たぶん。

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結婚式まで1週間。

明日には領地へと戻るシャリオンはルークに呼ばれ、城のサロンに来ていた。
祝いの品を渡したいという話だったが、シャリオンも用事があったからだ。
本当は屋敷に来てくれるという話を断り、城に取りに来ていた。

祝いの品を受け取り、軽く話をしていたのだが、『誓約』が何だったのかルークは知りたがった。
アルベルト伯爵主催のパーティーで『誓約』の存在を知らせた時、シャリオンが嫌そうにしてたから気になったらしい。
シャリオンは隠すことなく言うと、ルークは必要以上にかかわりたくないという内容にケラケラと笑っていたのが、ハッと思い出したように止まった。

「撤回するとか言ってなかったっけ」
「言ってたけど」

言い渋るシャリオンに何か察知したらしい。

「まぁ、シャリオンがなくしたくないならなくさなくてもいいとは思うけど」

『誓約』というのは結婚生活を円滑にするためのものであり、ある状態で結婚することは問題があるわけではない。

「したいん、だけど」
「??撤回すればいいじゃない。仕方が分からないとか??」
「そういう、わけじゃないんだけど」

自分でも歯切れが悪いのは分かっている。
約束の『結婚前には何とかする』と言っていた件も出来てないことも。

・・・だけど、・・・

シャリオンはまだ迷っていた。


「それにしても、『お前なんか嫌いだ』って言ってるみたいな誓約の事項だね」
「・・・、」
「実際好きそうじゃなかったのに。今じゃメロメロって感じなのが可笑しいけど」
「ッ・・・ルーっ揶揄わないでよ」

そんなの改めて言わなくてもいいだろうに、そんなことを言うルークをキッと見るが、フッと笑みを浮かべた。


「何が不満だったの?シャリオンがそんなこと言うときなんて、なんか気になることがあったんでしょう?」

流石幼馴染と言うべきか。

「うん。・・・でもそのことは解決したんだ」
「そうなの?じゃ、新たな悩みが出てきたって感じか」
「・・・うん」

俯いているシャリオンにルークは苦笑をした後、テーブルの上に肘をつきシャリオンを覗き込んで視線を合わせてくる。

「・・・。仕方ない。お兄ちゃんが聞いてあげよう」
「・・・お兄ちゃんじゃないでしょ」
「俺のが年上なんだし、お兄ちゃんでも間違いないでしょ」
「一つ上なだけでしょう?」
「ゾルだってそうじゃない」
「ゾルは乳母兄弟だし」
「いいから揶揄わないから言ってごらん」

シャリオンは視線を逸らせたままポソリとつぶやいた。

「・・・ガリウスが、・・・モテるから」
「ん?」
「格好いいでしょう?・・・だから、浮気してほしくなくて」
「・・・」
「・・・契約結婚だし本当に好きな人が出来たらどうしようって」
「えっーと。それ、本気で言ってる・・・?」

いぶかし気なルークにシャリオンは首を傾げた。

「冗談を言うタイミングだった?」
「・・・いや」
「ガリウスの上げた項目に『浮気禁止』と言うのがあるんだ。
それには僕がとか指定が無いからガリウスにも有効で。
・・・あれがあるうちはガリウスを誓約で縛れることが出来る」
「シャリオン・・・」
「わかってる。そんなのは何にも役に立たない。
僕たちの誓約の成約レベルは一番低くて・・・魔法紙が証明してくれる程度で拘束力は発揮しない。
・・・けど、何もないのは怖い」
「・・・。シャリオン。『破棄』なんてそうそうあるもんじゃない。
それに、兄上とのアレだってシャリオンが悪いわけじゃないんだ」
「でも」
「何よりガリウスはそんな奴じゃないのはシャリオンが良く知っているでしょ」
「・・・、うん」
「それなら成約レベルが高いもので再誓約をする?」
「・・・なんか疑っているみたいでそれも嫌なんだ」

そういうと、シャリオンはテーブルに突っ伏した。
そんなシャリオンにルークはクスクスと笑った。

「疑ってるんだよ」
「ぅ・・・」

口に出して言われてしまうと、ショックだ。
ガリウスを信じているのに、浮気するかもしれないと思うのは疑っていると言うほか無い。

「でも。・・・羨ましいけど」
「?・・・なんか言った?」
「ううん」

聞き取れなくて顔をあげたが、ルークは首を振った。

「もっと気軽に考えればいいんだよ。
あっちだって、シャリオンの浮気を疑ってそんなことを言ってきたんだからさ。
もし浮気してきたら、ガリウスみたいに浮気相手とは隔離して閉じ込めれば?」
「浮気・・・するかな」
「いや、だからね?・・・はぁ・・・もう、しょうがないな」

浮気が怖いと思い出したのはもう一つある。
ガリウスが最近、夜に『練習』をしないのだ。
あの件で休みを取ってしまったため、忙しいのは分かるけどあの件からめっきり減った。
一緒に夜は寝ているのに、だ。
話している時には何の違和感はないが、それは少し不安を募らせる。

・・・それに、僕・・・ガリウスに好きって言われてない・・・

助け出されたときに、もう後悔したくなくて勢いで言ってしまったが、ガリウスからは未だに言われていない。

やはり、契約結婚だからだろうか。

だが、長く想っていたということを思い出しては、混乱するの繰り返しだ。
ただ一言返してくればいいだけなのだが。
するとわしゃわしゃと頭を撫でられる。

「とりあえず、シャリオンのそれは『マリッジブルー』だね」
「・・・結婚生活に不安なんて思ってないよ。そうじゃなくて・・・誓約を外すのが怖いんだもん」
「はっはっは!・・・おんなじでしょう?そんなありもしない未来を気にするくらいなら、今を大切にするべきだと思うけど」
「・・・たしかに」
「それにね。ガリウスは絶対に浮気しないよ。シャリオンは知らないだろうけど、彼ずっとシャリオンの事好きだったみたいだし」

それは、本人から聞いて知っている。人から言われるとなんだか頬が熱くなった。

「シャリオンが頑張ってメロメロにしたら浮気する気も失せるでしょう」
「けど、・・・僕は子を成したら領地に引きこもる予定だし」
「おまけにシャリオンは子を成したら1人以上作らないとかいう項目あるし、そしたらそういうことも出来なくなるな」
「っ」

『そんなに好きなら早く外しなよ』と、視線で訴えてくる。
離れることに寂しさもあるが、離れることによって気持ちが薄くなるのでは?と、思うと不安だった。

「・・・。というか・・・あれ?聞いてないの?」
「え?」
「実験段階だからかな」
「・・・何の話?」

うーん、と悩むルーク。

「まぁ。大丈夫か」
「ルー・・・教えてよ。そこまで言うなら」
「えー?シャリオンにとってガリウスは伴侶だけど、俺にとってガリウスは俺の右腕だよ?」
「・・・、・・・、・・・」
「そんなガリウスを裏切るようなこと出来るわけないでしょう~」

ルークが即位したらその時の宰相は右腕になる。
今のレオンと陛下のような関係であるわけで、ルークの言葉はあっているのだが。
じっとりとした目でルークを見ると、ニマニマと笑みを浮かべるルーク。

「へぇ~。シャリオンに嫉妬される日がくるとはなぁ~」
「っ・・・、ガ・・・ガリウスに手を出したらだめだからね」

しかし、そういうとルークはにやけた表情を引っ込めて真顔になった。

「ほんっっとにやめて?絶っっ対あり得ないから」
「え」
「俺がガリウスをとか、・・・天変地異が起きてもあり得ないから。ガリウスなんて本当にあり得ない」
「・・・。ちょっと。ガリウスは」
「ガリウスを好きになりえないって、言ってるんだから安心するところでしょうが」

その声色は本当に嫌だという気配を全面に出されている。
ルークが言う通りいいことのはずなのに、ガリウスが魅力的ではないと言われているようでなんだかおもしろくなく感じてしまった。

「そうだけど」
「確かに。次期宰相であの顔でたくさんの好意を寄せてはいるようだけど。俺の好みじゃないから。わかった?」
「・・・わかった」
「・・・。はぁ面白いけど」
「僕は全然面白くない」

そういうとぷっと吹き出すルーク。

「ところで、何時領地に戻るんだっけ?」
「明日。僕だけ領地に戻って準備をしようと思ってる」
「そっか。・・・ガリウスは戻らないのか」
「うん。・・・心配してくれてありがとう。大丈夫だよ」
「一週間くらい・・・あぁそっか。ガリウスは例の件で父上から結婚後一週間の休みをもぎ取ってたな」

ガリウスは先日の件で、式後一日置いたら領地にある別荘に一週間籠ることになっている。
もぎ取ったのは休みだけではない。
直接的なガリウスの所有ではないが、カインをハドリー伯爵家の次男に養子へ入れ、そのハドリー伯爵を侯爵に爵位をあげた後、元アボット侯爵の領地を納めさせた。

領地をハイシア家の賠償としてもらいたいところではあったそうだが、賠償金として犯罪に手を染めていた貴族からの罰金の7割をハイシア家で受けとることになっている。
その上で、侯爵家の領地も賠償として受け取ったら、他貴族からの文句は避けられないからである。

聞かされているだけでも、かなりのものでシャリオンは驚いてしまったくらいだ。
だが、レオンもそれを許容しているようだから、シャリオンは何も言わなかった。

「ゾルもいるし、大丈夫だよ」
「そうか。・・・まぁ。じゃぁ次会うときは式でだね」
「うん」

シャリオンの側近がルークに合図を送る。どうやら時間が来てしまったようだ。

「とりあえず、シャリオンの悩んでいることは無駄だから。考えないこと。王命ね」

その言葉に吹き出してしまう。

「そんな軽い王命聞いたことないよ」

そう笑うシャリオンにルークは優し気に微笑むと、部屋を出て行った。



☆☆☆


帰りにそっと宰相室の前まで来た。
扉は当然しまっているから中は伺ないのだが、その扉を見ているとゾルに声を掛けられた。

「入らないのですか?」
「うん」
「そのために王太子殿下の願いをわざわざ城で受けられたのでしょう?」
「・・・分かる?」
「えぇ」

『わからない訳ないだろう』と言った様子で頷かれた。
なかなか夜に会えないから一目見たいなとは思っていたが、手を止めたいわけではない。
以前アルベルトのところに行くときは、宰相室に来てほしいと言われ浮かれていたのだけど、実際は相手を思うとままならないものだと実感した。

「部屋の中に居りますよ」
「そっか。・・・まぁ今日はこのまま帰るよ」
「左様でございますか。・・・」

そう踵を返したところだった。
ゾルはまだ扉の方を見ていて、シャリオンは止める。

「ゾル?呼びかけなくていいからね?」

彼等は禁術で心の中で会話が出来るため、わざわざ呼びかけないように注意したところだった。
宰相の執務室の扉が開き現れた姿に目を見開いた。

「!ガリウス・・・声が、・・・うるさかったかな?」
「せっかく城に来ているのに、私のところへは寄ってくれないのは浮気ですか?」
「そんなことあるわけない」

苦笑してそういえば、ガリウスは執務室を閉めこちらに歩み寄ってきてくれた。

「この部屋には防音魔法が掛けられているので、外からの音は遮断されておりますよ」
「でも、ガリウスには防音魔法効かないじゃないか」
「えぇ。まぁ。・・・、・・・私が透視魔法を得たことは言いませんでしたか?」

その言葉に驚き目を見開いた。
防音魔法もそうだが、透視魔法も魔力が高くなければ使いこなせない魔術だからだ。
なお、この能力を持っているからあの事件の時に、ファングスの屋敷からいち早くシャリオン居場所を探し出せたのだ。

「聞いてない。・・・すごいな、ガリウスは」
「ありがとうございます。・・・すみません。さすがに一緒には帰れないのですが、城門までお送りしますよ」
「えっ・・・いいよ」

ぶんぶんと首を振るシャリオンにガリウスはクスリと笑った後に耳元で囁く。

「結婚式までしばらく会えないのですから。
・・・少しでも傍に居たいと思う私のわがままにお付き合いいただけませんか?」
「っ」

そう言いながら甘い視線を向けるガリウスに、シャリオンは視線を絡ませる。

「そんなのっ・・・わがままじゃないし、断るわけない・・・っ」

その言葉に満足そうに笑みを浮かべる、シャリオンに手を差し伸べた。
その手を取ると二人は短い逢瀬を大切にするように歩き始める。

馬車までもっと遠ければいいのに。
そう思うと歩みはゆっくりになる。
だがそれをせかされる事もなかった。
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