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信じたくはなかった。
ルボミールを見ればモイスを見る目が見たことが無いほどに冷たい。

「ルル」

名前を呼べばこちらに向ける視線は、先ほどの冷たさはないが何を考えているかよくわからないもので、怖気づきそうになったが言葉を続ける。

「谷を破壊したと言うのは本当か?」
「あぁ」
「・・・、」

今更あの谷を使う気はなかった。
だが、破壊した事を黙っているのは何か意図があったのでは?と、勘繰ってしまう。
どういうつもりでしたのか、聞きたかったが今はすべきことがある。

「ほらみたことか!αとはそういう生き物なんだよ!」

ルボミールの評価を蹴落とすかのように指摘する。

「Ωにはこんな世界は危険だ!やはり元の世界に帰るべきなんだ!」

「っ」

そういう京の声は低く周りがびくついた。
余り不機嫌な様や、威圧があるような態度を見せたことが無いからだ。

「この島のことはまず我らで話しあいますので。本日はお引き取りください」
「っ・・・やだ」

駄々っ子の様にそういうモイスに眉を顰めそうになるのを耐えながら、言葉をつづけた。

「お願いします」
「っ」

延々に残ろうとするモイスに困っているところだった。
空間が裂けそこから男が現れた。
そんなことを見たことないトシマ区の民はざわめき出した。
カメラにも映っていた為、WEB上でも騒ぎ始める。

「そこまでだよ。モイス」
「!・・・コンラッドっ・・・お前には関係・・・こらっ!」

拒否をしようとするモイスをコンラッドは抱き上げた。
暴れて叩いたり引っかかれたりしているが、コンラッドは気にせず京に視線を合わせた。

「シリルが激怒してね。
こっちに来ようとしてたから私が迎えに来たんだ。
と言うか球使ってくれたらよかったのに」

言われた球は大切に身に着けている。
呼ぼうと思えば呼べたが、その存在を忘れていたのだ。

「保護者を呼ぶような歳じゃないと思いまして」
「!」
「あはは!・・・ククックっ」
「コンラッドっ笑いすぎだっ」
「この人私よりも100歳は違うのにこんな感じなんですよ」
「うるさいなー!お前に迷惑かけてないだろ!!」
「シリルにはかけて良いと?」
「っ」

好き放題している様に見えるが、シリルには一応気にしているのかと思ったところだった。

「あいつ・・・怒らせると面倒くさいんだよな・・・」
「お分かりでしたら今は帰りましょう。・・・それでは帰りますが、本当に何か困ったときにはあの球を使ってください」
「わかりました」
「では」

そう言うとコンラッドとモイスは来た時と同じように空間の裂け目に戻ると、そこにはもとの街並みに戻る。

混乱し騒がしくなった状況に、京はルボミールから聴衆やカメラへと視線を移した。
皆の視線は嫌悪とまでいかないが、疑心が込められている。
京はそんな彼等に頭を下げる。
周りから止められるまで続けていた。


☆☆☆


この島は京の島と言う事ではなく、他にも統率するものが居る。
その中に嵐山もいるのだが、その彼に今は引くように言われ屋敷に戻ってきていた。

トシマ区の中は混乱は止まらなかった。
公式のコメント欄を見ると困惑の声が多かった。
それを眺めていると、タブレットに影ができて見あげると、ルボミールがこちらを見下ろしていた。

「話を聞いてくれないか」

こんな弱弱しい声を出すルボミールは初めてだ。
京はタブレットをスリープにすると、立ち上がりルボミールに視線を合わせるとソファーへと移動した。

「あぁ」
「あの谷を壊したのは確かに俺だ」
「・・・あぁ」
「あの谷が存在することで、それに一縷の望みを掛けるようなことや、その話を聞いた人物が不確証なこと試したりさせないためだ」
「・・・」

ある程度の付き合いで、京がそんなことをするわけがないことは分かっているだろうに。
と言う事は、大分前に行ったと言う事なのだろうか。

「・・・これは後出しになってしまうが、京に聞かれてからでよいと判断した」
「そんなの・・・後から聞いたら余計に考えてしまうじゃないか」
「それはあっている。・・・さっきのは建前だ。本当は・・・キョウを還したくない一心だった」
「・・・ルル」

そんな気はしていた。
むしろそれくらいしか考えられなかった。
京は小さくため息をついたのち、ルボミールをキッと睨む。

「それだとしても谷ごと破壊するなんてやりすぎだ。
せめて俺だけ呼んでくれればよかったのに」

シリルは京達が来た理由は偶然だと言っていた。
つまり、あの爆破で異世界にはつながることは想定したが地球につながったのはたまたまなんだとしたら、その上で京だけを地球から呼ぶのは無理だというのは分かっている。
だが、思わずそんな風に言えばルボミールは驚いたようにしている。

「・・・。キョウはこの世界に不服はないのか・・・?」
「ここにはルルがいるからな」
「キョウ」

そう言うと繋いでいた手をルボミールは重ねていた手の上にもう一方の手をのせ両手で包み込んだ。

「・・・すまない。・・・本当に」

申し訳なさそうな声に、ルボミールの瞳を見つめる。
言ってくれなかったのは不満に感じたが、彼はそうすることによってトシマ区ごと召喚してしまったことを知らなかったようだ。
それをいつまでも咎めても仕方がない。
京はコクリと頷いた。

「あぁ」
「許してくれるのか・・・?」
「知らなかったんだろう?」
「あぁ・・・」

そういうとルボミールは一度頬を撫でた後、京を力強く抱きしめる。

「でも、俺はもうトシマ区に居られないかもしれない。
・・・ただのΩになるかもしれないけど」

抱きしめていたルボミールは憤慨して体を離すと、キョウに厳しい視線を向けてくる。

「そんな理由でキョウと番たいわけじゃない!」
「だけど、ルボミール以外の人間はそれで認めたところもあるんじゃないのか」
「そんな言葉はあげさせない。キョウの宮殿を造りそこに籠ればいい」
「・・・」

寵愛を受ける愛妾のような待遇に京は素直に喜べなかったが、コクリと頷いた。

「だが、・・・そうならないと思うがな」
「どういう事だ・・・?」
「あの島の者達はキョウを慕っている様に見える。そしてあの時頭を下げた時もだれも野次を投げなかった。
少し異常にも感じたが・・・トシマクの人間はそう言う気質なのか・・・?」

確かに少なくとも声が上がっても可笑しくないだろう。
京の所為で呼ばれてしまったことをなじっても良いはずなのに、そんな不満が上がらなかった。

「突然のことで困惑してたのかもしれないな。
・・・はぁ。・・・効率よく魔力を生産できるシステムでも作れればいいんだけど」

そんなことが出来そうな人物は未だに寝たままである。
スミオリル家なら出来るのだろうか。

「そういう事を考えるのは流石だな」
「そうかな?魔力が無いからそう思うのかもな。
それに・・・やっぱり還せない者達を読んでしまったのは心苦しい。
まぁ・・・どちらにしても、モイスを説得しないと還せないんだが」
「・・・、」

一番の問題はモイスしか出来ないこと、足りない魔力があることだ。
100人程度は三賢者の力でどうにかなると言っていたが、『力』と言い表したのが気になっている。
何かを犠牲にしているんじゃないかと思ってしまうのだ。
それを聞きたくとも忙しそうなシリルに聞く間もなさそうだし、あの物腰柔らかい雰囲気に騙されそうだが彼は・・・いや。あの三人は人と関係を持つのは良くないのだと思う。

そう思っているところだった。

「キョウ」
「ん?」
「・・・どうしても還したいか?」
「うん・・・そうだな。家族もいるし」

そう言うとルボミールは何か考えるように目を伏せた。
そして、再び開き京を見る目は何か覚悟している様だった。

「その魔力には見当がある」
「え?」
「恐らく、トシマクごと還すことが出来る」
「え??」
「谷を破壊時と同等の魔力なら準備が出来る」
「でも」
「犠牲は無い。・・・魔術師を1万人規模で集めれば容易いことだ」

たったそれだけで谷を破壊出来るとは思わなかった。
王太子であるルボミールだからそれだけの魔術師を動かせるのかもしれないが・・・。

「でも、モイスは俺が還らないとと言っていた」
「キョウも還るんだ」


「え・・・・?」


瞬時には理解が出来なかった。




「でも、ルルは・・・」
「大丈夫だ」
「っ」
「・・・考えていたんだ。
賢者シリルの言葉を聞いたときから。
本当はあの島の人間を全員還したいのだろう?」

それはそうだ。
特に今となっては殊更思っている。
呼んだのは過去のルボミールだが、結局出会ってしまえばこの人に会えたことに幸せを感じている。
会えなかった地球での暮らしなど今更考えられない程に。

「けどっ」
「きっとキョウはこの先悩む。還せなかった人間を見た時に。
開島し観光地化した時に。万一なことが起きた時に。
そして、・・・キョウの所為ではないのに今の様に自分を責めるだろう」
「っ・・・」

そこまでわかっているなら、京のルボミールへの思う気持ちだってわかるはずなのに、そんなことを言うルボミールを思わず睨んでしまう。

「っ・・・でもっ」
「俺なら大丈夫だ」
「なんで!・・・俺が地球に戻った後、ちゃんと『運命の番』が外れるかわからないんだぞ!?」
「あぁ」
「そんなの『ルミールの谷』の言い伝えよりも不確だっ
それにっお前は王太子だ・・・!それなのに」

離れようとしている気配が心がぎゅぅっと掴まれるような感覚に陥る。
なぜそんなことを言うのか。
京は必死に訴える。

「大丈夫だ。・・・言っただろう?
ルーカスがいる。
そのためにアストリアにも連れて行ったのだからな」
「っ!?」

あんなに還したくないと言っていたのに、そんな前から準備していたのだろうか。
そう思うと辛い。
想像だけでもこんなに苦しいというのに、こんな思いルボミールにさせるかもしれないと思うとそれも嫌だった。

視界が次第にぼやけて行く。
思い通りにいかないと泣いてしまう子供の様に、感情があらぶっていくのが分かる。

「っ・・・俺が嫌だ!俺がルルから離れたくないんだ・・・!」

叫ぶようにそう言うとルボミールの胸に抱き着いた。
ポロリと流れた涙はとめどなく流れていく。
そんな京の体を強く抱きしめてくれる。

「・・・すまない。勘違いさせてしまったか?そうではない」
「っ」


「俺もついて行く」


「!」
「モイスが京を還すのが条件だというのなら京も還るしかないだろう?
それなら俺がチキュウにいけば問題がないことだ」

いろんなことを考えなければならないのに、身を犠牲にして離れたがっているわけじゃないことに、涙が止まらなかった。
そんな京が落ち着くまで撫でてくれる。


「・・・陛下は・・・」
「話は通している」
「なにも言われなかったのか」
「陛下はこの国が残ればいいからな。
それにあの人たちには俺以外に王位継承権が無いが子供が複数いるからな。
可愛げが無い長男が消えてもなんとも思わないさ。
・・・『運命』なら仕方ないと言われているから安心しろ」

両陛下はルボミールのためにそう言ってくれたのだろうか。
そう思うとまた泣けてきてしまって、そんな京の額に口づけた。

「永遠に共に生きてくれ」
「・・・うんっ」

ピシリッ


そんな音が背後でしたかと思った時だった。
部屋が一気に冷気で満たされる。
驚き視線をあげると部屋が氷結されていた。
しかし、体の周りは温かく、ルボミールに守られているのだと分かる。

「ルル・・・!」
「大丈夫だ。同じ攻撃は二度目は聞かないさ。・・・姿を現したらどうだ。モイス」
「生意気なクソガキだね」
「賢者シリル様にまた叱られるんじゃないか?」

ルボミールの煽るようなそんな言葉に、モイスは無視をすると京へと視線を合わせた。

「京。そんなに言うなら2人で地球に戻ったらいい」
「・・・え?」
「それで『運命』ではなくなったこの男がどうなるか確かめてくればいい」
「!」

そういうとモイスは2人に向かって手をかざした。
そして、淡い光が自分達を包み込み、・・・気づいたら谷の底にいた。

┬┬┬
明後日の今頃には完成しているか不安になってきた。。。
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