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22.首謀者
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さて、噂によると、元夫とファジルカス伯爵は、神殿から浮気癖が相当悪質な『神との契約違反』と認定されたらしく、たんまりと罰金を取られた上、よく分からない更生プログラムを長期間受けることが決定したらしい。更生プログラムとは社会ボランティアだとか神学の受講とか、多岐にわたる活動が含まれるらしい。
元夫の場合、たぶん真っ先にあの『魔王スタイル』をやめるところからだろうと思うけど。
しかも、この違反に認定されたのにさらなる悪事を働くと「改心する気がない」というレッテルを神殿から貼られ、今までスムーズにいっていたことが神殿から茶々が入り色々滞ることになるので、貴族生命が危うくなる(貴族特権が使いづらくなる)。
そのため、元夫とファジルカス伯爵は、少なくとも数年は身を潔白にして過ごさねばならないはずだった。
ええ。これまで自由奔放にやってきた方にとっては神経を使う不便な生活が待っているでしょうね!
もちろん、元夫なんて、それくらい悔い改めた方がいいと思いますけど!
ちなみに、この違反に認定されたことはこの国の社交界ではかなり不名誉なことなので、エリンさんもファジルカス伯爵との離婚を切り出すきっかけになり得ると思われる。
まあそうなると、エリンさんの健闘を祈りますね、私としては。
とまあ、元夫の件はもうそれでいいのだけど、問題はリリーが神殿で姿を消して以来、帰ってきていないことだった。
もちろん、エリンさんの前にも特に白いふわふわ猫は現れていないようだった。
私はここ2週間、リリーが帰っていないことが辛くて仕方がなかった。
あの生暖かくて可愛らしい、私を振り回す小さな生き物!
猫相手だからこそ堂々とはっきりと言える、「愛してる」! だからとても寂しい……。
私は人手を雇い、あちらこちらに捜索の手を回したが、リリーは依然として見つからない。
スカイラー様はできるだけ私の傍にいるように努めてくれ、それはある種の慰めになったけれど、それでもリリーのいない穴はリリーにしか埋められない!
やっぱり、リリーはかけがえのない家族なのだった……。
私は憔悴しきり、でも2週間も経つとリリーのことをあきらめなくてはならないのかと徐々に絶望を感じはじめていたとき。
執事が私の居室の方に駆けてきた。
「ご主人様、リリー様が帰ってきましたよ!」
私は文字通り飛び上がった。
「まあっ! どこにいるの!?」
リリーは私のベッドの真ん中で、どーんと手足を投げ出し、あられもない姿で横たわっていた。私に気付くと、面倒くさそうな目でこちらを見る。
私は飛んで行ってリリーをぎゅうううっと抱きしめた。
リリーの体温が伝わってくる。
「リリー……。あなた、今までどこに行っていたの。それに、マリネットさんにスカイラー様、アンナリースさんにエリンさん、たくさんの人のところに行っていたわね? あれは、何だったの? ああ、もう聞きたいことがいっぱい! ほんと、あなたが喋れたらねえ」
私はリリーの額を何度も掌で撫でてやる。
「ニャーゴ」
と甘えた声でリリーが鳴いた。
しばらくすると、スカイラー様が執事に案内されるように部屋に入ってきた。
「あなたの猫が帰ってきたと連絡をもらったので」
スカイラー様はきっと私が喜んでいるだろうと思ってわざわざ訪ねてくれたのだった。
私はスカイラー様に微笑みかける。
この人は私のことをとても大切にしてくれる。安心の瞬間を共有できる人。
スカイラー様も横から手を伸ばしてきて、リリーの尻尾を撫でた。リリーがゆったりと尻尾を揺らし、気持ちよさそうに喉を鳴らす。
「あれ?」と急にスカイラー様が声をあげたので、私は何事かとスカイラー様の方を見た。
スカイラー様は指を伸ばして、リリーの首輪に縫い付けられた小さなロケットをつまんだ。
「なにこれ」
私も覗き込んだ。
ロケットをパチンと開けると、中に小さな小さなメモが入っていた。
「???」
私とスカイラー様は目を合わせた。
私が指先でそのメモを丁寧に広げてみる。
『一連の件はうまく解決したでしょうか。姉より』
私は飛び上がった。
姉!? 姉!
もう、あの人ったら!
姉というのは、クラッセン伯爵のところに嫁いだ私の実の姉、メアリーのこと。
父と母は今領地の方で忙しくしているので私は王都の邸で一人暮らし状態なのだが、クラッセン家の姉が私の近所に住んでいるため、何か問題が起これば父や母の代わりに面倒を見てくれることがあった。
私は「ああ~」と合点がいった。
あの人、こういう手の込んだことするの、好きなのよねえ……。あんまり表立っては動かないの、いつもやることがちょっと悪戯っぽくなるの。
あの姉のことだから、元夫とマリネットさんの結婚の噂を聞いて、俄然変なやる気を起こし行動し始めたに違いないわ。
絶対うちの邸の使用人の誰かを買収して、要所要所でリリーをマリネットさん邸やスカイラー様邸やらに連れて行かせたのよ、きっと。
誰が買収されたかって? そりゃあ、どうせうちの執事でしょうけれど。
あとできっちりと吐かせてやるわ。具体的なところまでしっかりとね。
だって、リリーがどうやって姉の思惑通りに行動したかまでは謎だもの。本当、どんな手を使ったのやら……。
私はスカイラー様を振り返った。
スカイラー様も何やら事情を呑み込んだようで、苦笑している。
姉からのメモには追伸があった。
『とりあえずリリーにはご褒美にたらふくおいしいものを食べさせたので、太っているかもしれません』
私はリリーのおなかをタプタプ揺らしてみた。
うん、前より少し貫禄がある気がする!
この2週間、姉のクラッセン伯爵家で、よっぽどおいしものを食べさせてもらっていたに違いない!
でも、でもひどいわっ!
私がリリーなしで2週間、どんな気持ちで過ごしていたと思っているの! どんなに心配したか!
一報くらいくれてもいいじゃない、姉よ! 後で文句を言いに行ってやろう!
「あなたもねえ。知らない間に変な計画の片棒を担がされて」
私は呆れ顔でリリーの頭を両掌で包み込み、目を覗き込んだ。
すると、リリーの目が怪しく光った。そしてもの言いたげに「ニャーゴ」と鳴いた。
「えっ!?」
私はリリーの目の光に気圧されてちょっとたじろいだ。
え? ……まさか、あなた、やっぱり何か企んで?
いやいや、そんなはずはない。リリーは猫。普通の猫よ。
離婚の慰謝料にもらった、私の大事な猫。
私とスカイラー様を繋いでくれた、大事な猫。
私はまた、リリーの額を何度も掌で撫でてやった。
(終わり)
元夫の場合、たぶん真っ先にあの『魔王スタイル』をやめるところからだろうと思うけど。
しかも、この違反に認定されたのにさらなる悪事を働くと「改心する気がない」というレッテルを神殿から貼られ、今までスムーズにいっていたことが神殿から茶々が入り色々滞ることになるので、貴族生命が危うくなる(貴族特権が使いづらくなる)。
そのため、元夫とファジルカス伯爵は、少なくとも数年は身を潔白にして過ごさねばならないはずだった。
ええ。これまで自由奔放にやってきた方にとっては神経を使う不便な生活が待っているでしょうね!
もちろん、元夫なんて、それくらい悔い改めた方がいいと思いますけど!
ちなみに、この違反に認定されたことはこの国の社交界ではかなり不名誉なことなので、エリンさんもファジルカス伯爵との離婚を切り出すきっかけになり得ると思われる。
まあそうなると、エリンさんの健闘を祈りますね、私としては。
とまあ、元夫の件はもうそれでいいのだけど、問題はリリーが神殿で姿を消して以来、帰ってきていないことだった。
もちろん、エリンさんの前にも特に白いふわふわ猫は現れていないようだった。
私はここ2週間、リリーが帰っていないことが辛くて仕方がなかった。
あの生暖かくて可愛らしい、私を振り回す小さな生き物!
猫相手だからこそ堂々とはっきりと言える、「愛してる」! だからとても寂しい……。
私は人手を雇い、あちらこちらに捜索の手を回したが、リリーは依然として見つからない。
スカイラー様はできるだけ私の傍にいるように努めてくれ、それはある種の慰めになったけれど、それでもリリーのいない穴はリリーにしか埋められない!
やっぱり、リリーはかけがえのない家族なのだった……。
私は憔悴しきり、でも2週間も経つとリリーのことをあきらめなくてはならないのかと徐々に絶望を感じはじめていたとき。
執事が私の居室の方に駆けてきた。
「ご主人様、リリー様が帰ってきましたよ!」
私は文字通り飛び上がった。
「まあっ! どこにいるの!?」
リリーは私のベッドの真ん中で、どーんと手足を投げ出し、あられもない姿で横たわっていた。私に気付くと、面倒くさそうな目でこちらを見る。
私は飛んで行ってリリーをぎゅうううっと抱きしめた。
リリーの体温が伝わってくる。
「リリー……。あなた、今までどこに行っていたの。それに、マリネットさんにスカイラー様、アンナリースさんにエリンさん、たくさんの人のところに行っていたわね? あれは、何だったの? ああ、もう聞きたいことがいっぱい! ほんと、あなたが喋れたらねえ」
私はリリーの額を何度も掌で撫でてやる。
「ニャーゴ」
と甘えた声でリリーが鳴いた。
しばらくすると、スカイラー様が執事に案内されるように部屋に入ってきた。
「あなたの猫が帰ってきたと連絡をもらったので」
スカイラー様はきっと私が喜んでいるだろうと思ってわざわざ訪ねてくれたのだった。
私はスカイラー様に微笑みかける。
この人は私のことをとても大切にしてくれる。安心の瞬間を共有できる人。
スカイラー様も横から手を伸ばしてきて、リリーの尻尾を撫でた。リリーがゆったりと尻尾を揺らし、気持ちよさそうに喉を鳴らす。
「あれ?」と急にスカイラー様が声をあげたので、私は何事かとスカイラー様の方を見た。
スカイラー様は指を伸ばして、リリーの首輪に縫い付けられた小さなロケットをつまんだ。
「なにこれ」
私も覗き込んだ。
ロケットをパチンと開けると、中に小さな小さなメモが入っていた。
「???」
私とスカイラー様は目を合わせた。
私が指先でそのメモを丁寧に広げてみる。
『一連の件はうまく解決したでしょうか。姉より』
私は飛び上がった。
姉!? 姉!
もう、あの人ったら!
姉というのは、クラッセン伯爵のところに嫁いだ私の実の姉、メアリーのこと。
父と母は今領地の方で忙しくしているので私は王都の邸で一人暮らし状態なのだが、クラッセン家の姉が私の近所に住んでいるため、何か問題が起これば父や母の代わりに面倒を見てくれることがあった。
私は「ああ~」と合点がいった。
あの人、こういう手の込んだことするの、好きなのよねえ……。あんまり表立っては動かないの、いつもやることがちょっと悪戯っぽくなるの。
あの姉のことだから、元夫とマリネットさんの結婚の噂を聞いて、俄然変なやる気を起こし行動し始めたに違いないわ。
絶対うちの邸の使用人の誰かを買収して、要所要所でリリーをマリネットさん邸やスカイラー様邸やらに連れて行かせたのよ、きっと。
誰が買収されたかって? そりゃあ、どうせうちの執事でしょうけれど。
あとできっちりと吐かせてやるわ。具体的なところまでしっかりとね。
だって、リリーがどうやって姉の思惑通りに行動したかまでは謎だもの。本当、どんな手を使ったのやら……。
私はスカイラー様を振り返った。
スカイラー様も何やら事情を呑み込んだようで、苦笑している。
姉からのメモには追伸があった。
『とりあえずリリーにはご褒美にたらふくおいしいものを食べさせたので、太っているかもしれません』
私はリリーのおなかをタプタプ揺らしてみた。
うん、前より少し貫禄がある気がする!
この2週間、姉のクラッセン伯爵家で、よっぽどおいしものを食べさせてもらっていたに違いない!
でも、でもひどいわっ!
私がリリーなしで2週間、どんな気持ちで過ごしていたと思っているの! どんなに心配したか!
一報くらいくれてもいいじゃない、姉よ! 後で文句を言いに行ってやろう!
「あなたもねえ。知らない間に変な計画の片棒を担がされて」
私は呆れ顔でリリーの頭を両掌で包み込み、目を覗き込んだ。
すると、リリーの目が怪しく光った。そしてもの言いたげに「ニャーゴ」と鳴いた。
「えっ!?」
私はリリーの目の光に気圧されてちょっとたじろいだ。
え? ……まさか、あなた、やっぱり何か企んで?
いやいや、そんなはずはない。リリーは猫。普通の猫よ。
離婚の慰謝料にもらった、私の大事な猫。
私とスカイラー様を繋いでくれた、大事な猫。
私はまた、リリーの額を何度も掌で撫でてやった。
(終わり)
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もしや、
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