16 / 22
16.復讐を疑われても仕方ないんですよ……
しおりを挟む
私は、さっきまで元夫の訪問を撃退するためにスカイラー様と控えていた部屋に、当局の派遣員を呼び入れた。なぜだか、元夫が当然の顔をして同席している。
「あの、何が起こったのでしょうか。どういった経緯で?」
私は当局の派遣員におずおずと尋ねた。
当局の派遣員は固い表情のまま、次のようなことを説明した。
本日午後、アンナリース・テルマン子爵令嬢から通報があった。
内容はラングストン伯爵家のご息女ディアンナ様(※私のこと)の飼い猫が手の甲を引っ掻いたため、謝罪などを希望する、とのことだった。
「もう少し詳しくお聞かせください。猫に引っ掻かれたとき、そのときアンナリースさんはどちらにいらっしゃったのですか? うちの猫がアンナリースさんのお邸まで行ったということでしょうか。それから、うちの猫だと分かった理由は? 首輪でしょうか。では、アンナリースさんは猫を保護してくださったというわけですかね?」
私は状況がいまいちよく分からなかったので聞き返してみた。
すると当局の派遣員は途端に困った顔になって、「それがね、こちらが詳細を聞いてもアンナリース様は誤魔化すばっかりであまり要領を得なかったのですよ」とため息交じりに応えた。
「えっ、では真偽のほどは……」
私が思わず疑いの声をあげると、私の隣のスカイラー様も目が鋭くなった。
当局の派遣員も申し訳なさそうな顔をした。
「ですから、これは私どもからのお願いと申しますか。どこまで本当か分からない案件をそのままこちらに持ってきたのは非常に申し訳ないと思うのですが、とりあえず先方はあなたの謝罪を強く要求していますので、話を聞いてやってもらえませんかね? その、あんまり質の悪い内容でしたら当局ももちろん介入いたしますから」
私とスカイラー様はどうしたものかと顔を見合わせた。
しかし、そこで当局の派遣員は言いにくそうな顔で私を見た。
「ところでね、世間では、マクギャリティ侯爵と婚約していたマリネット・ソダーバーグ男爵令嬢が事故で怪我をしたことが知られています。そして、この度、その……マクギャリティ侯爵と交際の事実があったアンナリース嬢が怪我をしたということであれば、復讐とか……そんな何かしらの関与がね、疑われても仕方ないんですよ……」
「ああ……」
私はげんなりした。
しかし、それまで一言もしゃべらなかった元夫が、急に大真面目な顔で腕を組みなおした。
「何、アンナリースのところにリリーちゃんがいるかもしれないってことだろう!? なら『行く』の一択だな! ディアンナが行かないというなら私だけで行くぞ」
「そんなっ! あなただけで行かせるわけにはいきませんよ」
私が思わず言うと、元夫はうんうんと頷いた。
「そりゃそうだな。おまえに謝れと言っているのだから、おまえも行かないと話にならないからな」
私は呆れて元夫の顔をしげしげと眺めた。
「あなたねえ。元浮気相手のところに、いったいどんな顔して訪ねるというの。気まずいなあ、とかそういうのはないんですか」
「ないぞ。もう別れたのだから。過去の女だ」
元夫はあっけらかんと答える。
私は唖然としてしまった。なにこの強靭な心臓……頭のネジが一本足りないんじゃないかしら。
が、まあ、リリーがアンナリースさんに怪我をさせたというのが本当なら、放っておいてよい案件ではない。
私は当局の要請通りにアンナリースさんの元を訪ねることにした。
スカイラー様も心配そうについてくると言ったけれど、それはきっぱりと固辞した。加害疑惑である以上、バーニンガム伯爵家を巻き込んではいけない。
「あの、何が起こったのでしょうか。どういった経緯で?」
私は当局の派遣員におずおずと尋ねた。
当局の派遣員は固い表情のまま、次のようなことを説明した。
本日午後、アンナリース・テルマン子爵令嬢から通報があった。
内容はラングストン伯爵家のご息女ディアンナ様(※私のこと)の飼い猫が手の甲を引っ掻いたため、謝罪などを希望する、とのことだった。
「もう少し詳しくお聞かせください。猫に引っ掻かれたとき、そのときアンナリースさんはどちらにいらっしゃったのですか? うちの猫がアンナリースさんのお邸まで行ったということでしょうか。それから、うちの猫だと分かった理由は? 首輪でしょうか。では、アンナリースさんは猫を保護してくださったというわけですかね?」
私は状況がいまいちよく分からなかったので聞き返してみた。
すると当局の派遣員は途端に困った顔になって、「それがね、こちらが詳細を聞いてもアンナリース様は誤魔化すばっかりであまり要領を得なかったのですよ」とため息交じりに応えた。
「えっ、では真偽のほどは……」
私が思わず疑いの声をあげると、私の隣のスカイラー様も目が鋭くなった。
当局の派遣員も申し訳なさそうな顔をした。
「ですから、これは私どもからのお願いと申しますか。どこまで本当か分からない案件をそのままこちらに持ってきたのは非常に申し訳ないと思うのですが、とりあえず先方はあなたの謝罪を強く要求していますので、話を聞いてやってもらえませんかね? その、あんまり質の悪い内容でしたら当局ももちろん介入いたしますから」
私とスカイラー様はどうしたものかと顔を見合わせた。
しかし、そこで当局の派遣員は言いにくそうな顔で私を見た。
「ところでね、世間では、マクギャリティ侯爵と婚約していたマリネット・ソダーバーグ男爵令嬢が事故で怪我をしたことが知られています。そして、この度、その……マクギャリティ侯爵と交際の事実があったアンナリース嬢が怪我をしたということであれば、復讐とか……そんな何かしらの関与がね、疑われても仕方ないんですよ……」
「ああ……」
私はげんなりした。
しかし、それまで一言もしゃべらなかった元夫が、急に大真面目な顔で腕を組みなおした。
「何、アンナリースのところにリリーちゃんがいるかもしれないってことだろう!? なら『行く』の一択だな! ディアンナが行かないというなら私だけで行くぞ」
「そんなっ! あなただけで行かせるわけにはいきませんよ」
私が思わず言うと、元夫はうんうんと頷いた。
「そりゃそうだな。おまえに謝れと言っているのだから、おまえも行かないと話にならないからな」
私は呆れて元夫の顔をしげしげと眺めた。
「あなたねえ。元浮気相手のところに、いったいどんな顔して訪ねるというの。気まずいなあ、とかそういうのはないんですか」
「ないぞ。もう別れたのだから。過去の女だ」
元夫はあっけらかんと答える。
私は唖然としてしまった。なにこの強靭な心臓……頭のネジが一本足りないんじゃないかしら。
が、まあ、リリーがアンナリースさんに怪我をさせたというのが本当なら、放っておいてよい案件ではない。
私は当局の要請通りにアンナリースさんの元を訪ねることにした。
スカイラー様も心配そうについてくると言ったけれど、それはきっぱりと固辞した。加害疑惑である以上、バーニンガム伯爵家を巻き込んではいけない。
42
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
離婚から玉の輿婚~クズ男は熨斗を付けて差し上げます
青の雀
恋愛
婚約破棄から玉の輿の離婚版
縁あって結婚したはずの男女が、どちらかの一方的な原因で別れることになる
離婚してからの相手がどんどん落ちぶれて行く「ざまあ」話を中心に書いていきたいと思っています
血液型
石女
半身不随
マザコン
略奪婚
開業医
幼馴染
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
竜神に愛された令嬢は華麗に微笑む。〜嫌われ令嬢? いいえ、嫌われているのはお父さまのほうでしてよ。〜
石河 翠
恋愛
侯爵令嬢のジェニファーは、ある日父親から侯爵家当主代理として罪を償えと脅される。
それというのも、竜神からの預かりものである宝石に手をつけてしまったからだというのだ。
ジェニファーは、彼女の出産の際に母親が命を落としたことで、実の父親からひどく憎まれていた。
執事のロデリックを含め、家人勢揃いで出かけることに。
やがて彼女は別れの言葉を告げるとためらいなく竜穴に身を投げるが、実は彼女にはある秘密があって……。
虐げられたか弱い令嬢と思いきや、メンタル最強のヒロインと、彼女のためなら人間の真似事もやぶさかではないヒロインに激甘なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:4950419)をお借りしています。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる