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10.初恋相手と元夫との3人って気まずさ全開……!

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 私が、「この猫ったら、スカイラー様に抱っこされてどういうつもりなのかしら」と軽く思ってリリーを見つめていたら、リリーは何やら思惑がありそうな目つきで私を見返してきた。

 私は「えっ?」と思った。
 リリーが、こんな目で私を見るの?

 リリーの目の奥には何やら奇妙な光があって、何か私に語り掛けようとしているように見えた。
 そして「ニャーゴ」と甘えたような声を出した。
 もちろんリリーの気まぐれなのかもしれないけど、その時、リリーの目の中に、私は何かが見えたような気がしたのだった。

 もしかして、もしかしてだけど、この猫、何かたくらんでいる?

 しかし私はすぐに首を横に振った。
 いやいや、まさかね。相手は気まぐれな猫よ? 猫の気持ちを推測しようとするなんてほとんどの場合で無駄ですからね。

 その時、元夫が急にずいっと身を乗り出して、スカイラー様からリリーを奪い取ろうとした。
 私は「あっ」と小さく声をあげて、元夫を邪魔しようと、服のすそを引っ張る。

 私のその仕草しぐさにスカイラー様は驚いた顔をした。
 私はそのスカイラー様の顔にも「えっ?」と思った。
 なぜそんな顔をなさるの?

 スカイラー様は元夫からリリーをかばうように体をじった。
 元夫は私とスカイラー様に邪魔をされて怒った顔をした。

 スカイラー様は唐突とうとつに、
「離婚したと聞いていましたがね」
と元夫に向かって言った。すっごくとげのある言い方だった。

「離婚しましたよ。でも(リリーちゃんのことがあるから)復縁しようかと提案しているところです」
 元夫はいつも通りの身勝手さで飄々ひょうひょうと答えた。

「復縁……」
 スカイラー様が小声で復唱する。

 私は慌ててかぶりをふった。
「まさか! そんなことは絶対ありませんわ、スカイラー様! 私は復縁する気は一切ございません。今日だって、この人がリリーを探すのに同行させろと無理矢理ついてきただけなんですから!」

「無理やりとは何だ! リリーちゃんを心配する権利は私にもあるとはっきり言っただろう!」
 元夫は憤然とする。

「心配する権利?」
 スカイラー様はやっぱりあまり理解できないような顔をしている。
 私はその気持ちがよく分かった。私も元夫の理屈は全く理解できませんからね。

 スカイラー様は状況に少し戸惑っていたが、
「私は久しぶりにディアンナと二人っきりで会えると思ったのですけどね」
とぽつんと言った。

「えっ!?」
 私の胸が急にドキンドキンと高鳴り出した。
『二人っきり』って、今そう言った?

「えっ!?」
 元夫も驚いた顔をした。
「あなたとディアンナは知り合いだったのですか」

「ニャーゴ」
 リリーが可愛らしい鳴き声を上げた。

 スカイラー様は元夫の質問には答えなかった。
 ただじっと元夫の方を見ている。

「とんだお邪魔虫が付いてきたとびっくりしています。まあ、猫?があなたの目的のようなので、いいのかな? 状況がよく分かりませんが。ディアンナはまた別の機会に誘うことにしましょうかね」

 私の心臓が早鐘はやがねのように鳴り出した。
 私は浮気されたバツイチで、今日だって猫を引き取るのに元夫が付いてくるというわけ分かんないシチュエーションで、それでもスカイラー様は「会いたい」とか「別の機会」とか言ってくれるの?
 それってもしかして……。

 しかし元夫の方はぶすっとして腕を組んだ。
「何ですかその言い方。まさかデキてるのか? ん、んん? もしかして私とディアンナが結婚しているときから……?」

「あなたみたいな浮気人間と一緒にしないで!」
 私はとんでもない侮辱に叫んだ。
「どれだけ私があなたの浮気に悩んだと思っているの!」

「やはりね、辛い思いをしていたんだね、ディアンナ」
 スカイラー様は私に同情するように優しく言った。
「マクギャリティ侯爵と離婚したのは正解だ。良からぬ噂を聞くたびに胸を痛めていた」

「ニャーゴ」
 またもやリリーが可愛らしい鳴き声を上げた。

 元夫は顔を真っ赤にして怒った。
「ふんっ。ま、まあいいんだ。私はリリーちゃんさえ手元に戻ればな、ディアンナのことなんてどうでもいいんだ!」

 私は被せるように訂正する。
「リリーは私のものよ、何を言っているの。離婚の慰謝料なんですからね!」

 元夫はじろりと凄味すごみを含んだ目で私を睨んだ。
 そして、何も言い返さず、スカイラー様のこともじろりと睨むと、くるりときびすを返してその場を去っていった。

「お客様がお帰りだ」
 スカイラー様は冷たい声で執事に命じて、元夫をお見送りするように言いつけた。
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