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5.浮気相手の自殺未遂!?
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とりあえず、私と元夫はマリネットさんの実家の男爵家へと急いだ。
元夫の浮気相手のマリネットさん。男爵家のご令嬢。自殺未遂だなんて、さぞかし大騒ぎになっているはずだった。
元夫の邸を追い出されたというが、一応元夫との結婚の約束はまだそのままなはず。
婚約している元夫はともかく、元嫁の私がついて行くのはなんか変だなと思ったけれど、先ほどのリリーがマリネットさんに誘拐されたという話が否定できない以上、私もついていくことにしたのだった。
案の定、男爵家の方々は私の顔を見て大変嫌そうな顔をした。
ええ、分かりますよ、この状況。私だってバカじゃありませんからね。
元夫が私とよりを戻したせいで、娘は婚約者(※元夫のこと)の邸を追い出され、それを苦に自殺を図ったと思っているのでしょう?
大誤解だけど!
これは……、今後、良くない噂が王宮中を駆け巡る気がする。
元夫も事があまりにも大きくなり過ぎたと思っているようだった。
婚約をしているのに自分が邸を追い出し、その上婚約者が自殺未遂をしたというのだから、自分が世間的に悪者なのは間違いない。
元夫は血の気のなくなった顔をしている。
私たちは応接室に通されたが、マリネットさんのご両親が不審そうな顔で私に「あなたはなぜいらっしゃったのですか」と聞いてくるので、私は大変申し訳なさそうな顔でお辞儀するしかなかった。
「あの、もしかしたら誤解されているかもと思って申し上げますが、私は元夫とよりなんて戻しておりません。ただ、私がこうしてこちらに伺ったのは、私の飼い猫をマリネットさんが拾ってくださったかもしれないということをちょうど元夫から聞いたところでしたので」
(私は少し言葉を和らげて言った。だって、まさか「マリネットさんが盗んだかも」なんて言えないし。)
すると、ちょうどそのときお茶を出しに来ていた侍女の一人がビクッとなり、お盆が揺れて茶器がカチャカチャっと鳴った。
私が不審に思って侍女を見上げると、侍女は顔面蒼白になっている。
「どうかなさいましたか?」
この侍女何か知っているなとピンと来たけど、私は努めて平静を装いながら柔らかく聞いた。
マリネットさんのご両親も何かを察したらしい。
「どうしたのだね」
と少しきつい口調で侍女に問いかけた。
侍女はここまで来ては逃げられないと観念したのか、それとも本当は言ってしまいたかったのか、震える声で話し始めた。
「マリネット様は猫を追っていらしったのです」
「猫!」
「猫!!」
私と元夫は同時に叫んだ。リリーちゃんのことだと思ったからだ。
「猫?」
「猫ですって?」
マリネットさんのご両親は突然のワードに意味不明とばかりに聞き返した。
侍女は縮こまりながら続ける、
「はい、白いふわふわの猫でございました。『迷いネコよ』とマリネット様は仰って抱っこしておられました。が、やってやった感が出ていましたので、もしかしたら迷いネコではなかったのかもしれません」
リリーだわ、と私は思った。やっぱりマリネットさんが犯人だったのね!
しかしマリネットさんのご両親は「迷いネコ? 可哀そうに。あの子は優しいところがあるから保護してあげたのね」なんて言っている。
私はイラっとした。
しかしまだ侍女は後ろ暗い顔をしている。まだまだ事情がありそうだった。
「それで? 迷いネコはどちらにいらっしゃるの」
私は刺激しないように優しく尋ねた。柔らかい態度で接してすべてを白状させねば。
侍女は「はい」と小さな声で答えた。
「マリネット様は私に猫の面倒を見るように言いつけたのです。しかし急に猫を押し付けられて私はどうしたらよいのか戸惑いました。猫はほとんど触った事がありませんでしたので。それで先輩に聞こうと席を外したところ猫が逃げ出したのでございます」
侍女は一旦言葉を切った。
しかし沈鬱な表情は消えない。
マリネットさんのご両親は困惑の顔をした。
「逃げた猫がいったいどうしたというのだね」
「迷い猫が逃げたくらいで何だと言うの?」
元夫の浮気相手のマリネットさん。男爵家のご令嬢。自殺未遂だなんて、さぞかし大騒ぎになっているはずだった。
元夫の邸を追い出されたというが、一応元夫との結婚の約束はまだそのままなはず。
婚約している元夫はともかく、元嫁の私がついて行くのはなんか変だなと思ったけれど、先ほどのリリーがマリネットさんに誘拐されたという話が否定できない以上、私もついていくことにしたのだった。
案の定、男爵家の方々は私の顔を見て大変嫌そうな顔をした。
ええ、分かりますよ、この状況。私だってバカじゃありませんからね。
元夫が私とよりを戻したせいで、娘は婚約者(※元夫のこと)の邸を追い出され、それを苦に自殺を図ったと思っているのでしょう?
大誤解だけど!
これは……、今後、良くない噂が王宮中を駆け巡る気がする。
元夫も事があまりにも大きくなり過ぎたと思っているようだった。
婚約をしているのに自分が邸を追い出し、その上婚約者が自殺未遂をしたというのだから、自分が世間的に悪者なのは間違いない。
元夫は血の気のなくなった顔をしている。
私たちは応接室に通されたが、マリネットさんのご両親が不審そうな顔で私に「あなたはなぜいらっしゃったのですか」と聞いてくるので、私は大変申し訳なさそうな顔でお辞儀するしかなかった。
「あの、もしかしたら誤解されているかもと思って申し上げますが、私は元夫とよりなんて戻しておりません。ただ、私がこうしてこちらに伺ったのは、私の飼い猫をマリネットさんが拾ってくださったかもしれないということをちょうど元夫から聞いたところでしたので」
(私は少し言葉を和らげて言った。だって、まさか「マリネットさんが盗んだかも」なんて言えないし。)
すると、ちょうどそのときお茶を出しに来ていた侍女の一人がビクッとなり、お盆が揺れて茶器がカチャカチャっと鳴った。
私が不審に思って侍女を見上げると、侍女は顔面蒼白になっている。
「どうかなさいましたか?」
この侍女何か知っているなとピンと来たけど、私は努めて平静を装いながら柔らかく聞いた。
マリネットさんのご両親も何かを察したらしい。
「どうしたのだね」
と少しきつい口調で侍女に問いかけた。
侍女はここまで来ては逃げられないと観念したのか、それとも本当は言ってしまいたかったのか、震える声で話し始めた。
「マリネット様は猫を追っていらしったのです」
「猫!」
「猫!!」
私と元夫は同時に叫んだ。リリーちゃんのことだと思ったからだ。
「猫?」
「猫ですって?」
マリネットさんのご両親は突然のワードに意味不明とばかりに聞き返した。
侍女は縮こまりながら続ける、
「はい、白いふわふわの猫でございました。『迷いネコよ』とマリネット様は仰って抱っこしておられました。が、やってやった感が出ていましたので、もしかしたら迷いネコではなかったのかもしれません」
リリーだわ、と私は思った。やっぱりマリネットさんが犯人だったのね!
しかしマリネットさんのご両親は「迷いネコ? 可哀そうに。あの子は優しいところがあるから保護してあげたのね」なんて言っている。
私はイラっとした。
しかしまだ侍女は後ろ暗い顔をしている。まだまだ事情がありそうだった。
「それで? 迷いネコはどちらにいらっしゃるの」
私は刺激しないように優しく尋ねた。柔らかい態度で接してすべてを白状させねば。
侍女は「はい」と小さな声で答えた。
「マリネット様は私に猫の面倒を見るように言いつけたのです。しかし急に猫を押し付けられて私はどうしたらよいのか戸惑いました。猫はほとんど触った事がありませんでしたので。それで先輩に聞こうと席を外したところ猫が逃げ出したのでございます」
侍女は一旦言葉を切った。
しかし沈鬱な表情は消えない。
マリネットさんのご両親は困惑の顔をした。
「逃げた猫がいったいどうしたというのだね」
「迷い猫が逃げたくらいで何だと言うの?」
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