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3.ふわふわ猫
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この猫はといえば、部屋で過ごす場所にも好みがうるさい。
日当たりが良くふわふわしたところが大好きだが、そこがベッドのど真ん中であってもお構いなしなので、リリーが寝ていたら私はベッドの端を使うか、そのベッドは使えない。
まあちなみに、ひっくり返って眠っていることもあるが、それを「可愛い」と言って触ろうとすると、機嫌の悪い時はビクッと飛び起きて怒ることもある。
飼い主だよ!と思わず突っ込むけれど、ほぼ無視だ。そんなときはベッドの端で眠ることも許されない。
まあそんな感じで、なかなかリリーには私も振り回されることも多かったのだが、(元)夫の浮気癖で私のうすら寒い心はだいぶリリーに埋めてもらった。
とまあ、リリーにお世話になったのは私ばっかりのような書き方だけど、リリーに関しては、(元)夫の方も徐々に心惹かれていたようだ。
買ってきた当初はそこまで興味を示さなかった(元)夫だったけれど、ある日何かの社交関係で夫婦の会話が必要だった時に、(元)夫は、気まぐれにゴロゴロ私の膝で甘えていたリリーに見つけ、目が釘付けになったのだった。
「こんなに可愛いかったっけ、名前は?」
(元)夫は、必要な事務連絡の前にまず猫について言及した。
その(元)夫の恍惚とした表情を見て、「ああ、この人が女性を気に入るときってこんな感じなのね」ってぼんやり客観的に思った私だったっけ。
その時は「この人、可愛いものは嫌いじゃないのね」くらいにしか思わなかったが、それから私が(元)夫とベッドを共にするときは、必ずと言っていいほどリリーを同衾するようになった。
もちろん大人しく抱かれるようなリリーではない。リリーはすぐに逃げようとする。それを離すまいとする(元)夫。(元)夫はけっこう生傷が絶えなくなった。それでも懲りずにリリーのどこかを触りながら眠ろうとする。
すごい執念だと感心したけれど、執念の相手が猫であることに一抹の寂しさ、というか虚しさを感じずにはいられなかった。
「夫婦と猫っていうのも家族としてはそんなに悪くない組み合わせかしら?」と必死に自分に言い聞かせる日々。
そんなある日、(元)夫がリリーに食べ物をやっている瞬間に出くわした。
「あら、ご飯の時間じゃありませんわよ、食べさせ過ぎでは」
と思わず私が口を出すと、(元)夫はムッとした顔をした。
「私がリリーちゃん用にメニューを考えたんだ。たまにはいいだろう」
そして(元)夫は食べ物で釣りながら、リリーを自室へ連れて行ってしまったのだった。
そしてそのうち、(元)夫が邸にいるときは、よくリリーを借りていくことが増えた。
私と(元)夫は夫婦とは言ってもあまり同じ部屋にいることはなかったから、邸でのくつろぎタイムにリリーと二人っきりの水入らずの時間を過ごしていたようだ。
そのうち(元)夫の居室やら書斎やらにはリリーが遊ぶための台やリリーが過ごしやすそうなふかふかの寝具などが次々とおかれるようになり、もはやその部屋は(元)夫のための部屋なのかリリーのための部屋なのか分からないほどになった。
リリーがリネン類に爪を立てても、(元)夫はへっちゃらだ。
さて、こんな風に聞けば、リリーが私たち夫婦の共通の趣味で、そこには共感も生まれていたように思えるかもしれない。
しかし残念なことに、(元)夫は女遊びの方について「それとこれとは別」といった様子で、それはそれはお盛んにやっていた。
だから、私は帰宅した時だけ都合よくリリーを借りていこうとする(元)夫に苛立ちを感じた。
私の日々の空虚な気持ちを慰めてくれているリリーを、なぜ空虚にさせている張本人にそんなにほいほいと貸し出さなければならない?
「こないだお貸ししましたから今日は我慢なさいませ」
「何だと! 滅多に帰れない夫にそんな扱いをするのか? ふだんおまえがリリーを独占しているのだから帰宅したときくらいいいだろう!?」
「まあ! 滅多に帰れない理由は何なのか説明できるならね」
私たち夫婦はリリーを取り合ってケンカまですることもあった。
やがてマリネットさんの一件で離婚が決まったときもリリーの所有権を巡って結構言い合いをしたっけ。
かなり渋る(元)夫に「慰謝料です。リリーを譲らなければ離婚しません」と言い放った私。
(元)夫はかなり渋りながら、けっきょくマリネットさんに押し切られる形でリリーを手放すことを承諾した。
そう、あの時元夫はリリーではなくマリネットさんを選んだはずなのだ!
それなのに今になって、離婚した元夫が猫を理由によりを戻したいなんて言語道断!
日当たりが良くふわふわしたところが大好きだが、そこがベッドのど真ん中であってもお構いなしなので、リリーが寝ていたら私はベッドの端を使うか、そのベッドは使えない。
まあちなみに、ひっくり返って眠っていることもあるが、それを「可愛い」と言って触ろうとすると、機嫌の悪い時はビクッと飛び起きて怒ることもある。
飼い主だよ!と思わず突っ込むけれど、ほぼ無視だ。そんなときはベッドの端で眠ることも許されない。
まあそんな感じで、なかなかリリーには私も振り回されることも多かったのだが、(元)夫の浮気癖で私のうすら寒い心はだいぶリリーに埋めてもらった。
とまあ、リリーにお世話になったのは私ばっかりのような書き方だけど、リリーに関しては、(元)夫の方も徐々に心惹かれていたようだ。
買ってきた当初はそこまで興味を示さなかった(元)夫だったけれど、ある日何かの社交関係で夫婦の会話が必要だった時に、(元)夫は、気まぐれにゴロゴロ私の膝で甘えていたリリーに見つけ、目が釘付けになったのだった。
「こんなに可愛いかったっけ、名前は?」
(元)夫は、必要な事務連絡の前にまず猫について言及した。
その(元)夫の恍惚とした表情を見て、「ああ、この人が女性を気に入るときってこんな感じなのね」ってぼんやり客観的に思った私だったっけ。
その時は「この人、可愛いものは嫌いじゃないのね」くらいにしか思わなかったが、それから私が(元)夫とベッドを共にするときは、必ずと言っていいほどリリーを同衾するようになった。
もちろん大人しく抱かれるようなリリーではない。リリーはすぐに逃げようとする。それを離すまいとする(元)夫。(元)夫はけっこう生傷が絶えなくなった。それでも懲りずにリリーのどこかを触りながら眠ろうとする。
すごい執念だと感心したけれど、執念の相手が猫であることに一抹の寂しさ、というか虚しさを感じずにはいられなかった。
「夫婦と猫っていうのも家族としてはそんなに悪くない組み合わせかしら?」と必死に自分に言い聞かせる日々。
そんなある日、(元)夫がリリーに食べ物をやっている瞬間に出くわした。
「あら、ご飯の時間じゃありませんわよ、食べさせ過ぎでは」
と思わず私が口を出すと、(元)夫はムッとした顔をした。
「私がリリーちゃん用にメニューを考えたんだ。たまにはいいだろう」
そして(元)夫は食べ物で釣りながら、リリーを自室へ連れて行ってしまったのだった。
そしてそのうち、(元)夫が邸にいるときは、よくリリーを借りていくことが増えた。
私と(元)夫は夫婦とは言ってもあまり同じ部屋にいることはなかったから、邸でのくつろぎタイムにリリーと二人っきりの水入らずの時間を過ごしていたようだ。
そのうち(元)夫の居室やら書斎やらにはリリーが遊ぶための台やリリーが過ごしやすそうなふかふかの寝具などが次々とおかれるようになり、もはやその部屋は(元)夫のための部屋なのかリリーのための部屋なのか分からないほどになった。
リリーがリネン類に爪を立てても、(元)夫はへっちゃらだ。
さて、こんな風に聞けば、リリーが私たち夫婦の共通の趣味で、そこには共感も生まれていたように思えるかもしれない。
しかし残念なことに、(元)夫は女遊びの方について「それとこれとは別」といった様子で、それはそれはお盛んにやっていた。
だから、私は帰宅した時だけ都合よくリリーを借りていこうとする(元)夫に苛立ちを感じた。
私の日々の空虚な気持ちを慰めてくれているリリーを、なぜ空虚にさせている張本人にそんなにほいほいと貸し出さなければならない?
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かなり渋る(元)夫に「慰謝料です。リリーを譲らなければ離婚しません」と言い放った私。
(元)夫はかなり渋りながら、けっきょくマリネットさんに押し切られる形でリリーを手放すことを承諾した。
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