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第三章

尚論殺し その2

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 破仏の嵐の吹き荒れるなか、改革派の尚論たちは次から次へとティサンの前から姿を消していった。
 真っ先に消えたのは、先王へのへつらいで仏教徒となった者たちだ。彼らは早々に棄教を表明した。
 次に消えたのは、仏像や仏典を手放すことを拒否して、辺境に追放となった者だ。
 それをやり過ごした者もちょっとした過失で捕らえられ、隠し持っていた禁制の文物が発見されて、やはり追放された。
 やがてそのような物証がなくとも、マシャンに批判的な言論をしたというだけで、そしてその疑いがあるというだけで、捕らえられるようになった。彼らは拷問の末自白させられ、一族郎党が処刑された。
 ティサンは身を慎み、マシャンに付け入る隙を見せぬよう気を遣っている。
 そんなティサンの態度は、他の改革派の人間から見れば裏切りにも見えるのだろう。面と向かって「腰抜け」とティサンをののしって、領地に帰った尚論もいる。都に残るティサン派の尚論は、今やニャムサンとサンシだけとなってしまった。
 それでも、サンシがもたらした仏典を守るため、盾にならなくてはいけない。
 ティサンは表面は穏やかに笑みながら、心中では歯を食いしばり、屈辱に耐え続けていた。

 ニャムサンには聞かれたくない相談があると言ってサンシがひとりで屋敷にやってきたのは冬になってすぐの夕刻だった。
「ニャムサンのことだからすぐに飽きて放り出してしまうかと思っていたのですけど、驚くほどまめに訳経所に通っています。それで、わたしと同様、兵士をふたりほどニャムサンに知られぬよう警備につけていただくことはできませんか」
 サンシには、ニマとダワというティサンの家来のなかでも優秀な双子を護衛をつけていた。
「どうしてニャムサンどのに知られたくないのです?」
「イヤがるに決まっています。ニャムサンはいつもひとりで来るのです。せめてタクだけでも連れて来たほうがいいと言ったのですけど、『あいつは弱いから、いざというときは足手まといになる』なんて言って聞いてくれなくて。帰りは一緒に帰れますけど、行きは仕事の都合上一緒にというわけにいかないことも多いんです。路上で尚論が襲われる事件も起こっているので心配でなりません」
 毒矢で尚論が襲われる事件は都から少し離れたヤルルン地方で起こっていた。とはいえ、都とヤルルンは大街道でつながっている。仮の訳経所はその大街道沿いにあるので、サンシが不安に思うのも無理はなかった。
「困ったひとですね。すぐに手配しましょう。しかし隠れながらの護衛では、いざというときは間に合わない恐れがありますよ」
 サンシはホッとした顔をする。
「それでもいないよりはマシだと思います。よろしくお願いいたします」
 ティサンはふたりの兵士に、ひそかにニャムサンを護衛するよう命じた。
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