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 氷がゆっくり溶けて水になるように、エリック様の心は少しずつ少しずつ溶けていっていたように思える。

 最初は自信が全く無かったようだが、最近は額を隠すようなことはなくなっていた。
 まだ堂々としているわけではないが、以前と比べれば随分と自信を感じる。
 いい傾向だ。
 このままいけば、きっとエリック様には素敵な女性が現れるはず。
 
 そう喜ぶ自分がいるのだけれど、そんな人が現れないでほしいとも思っていた。

「大丈夫かい?」
「は、はい! ありがとうございます!」

 カップを割ってしまった侍女を真剣に心配しているエリック様。
 彼女は真っ赤な顔で彼のことを見つめていた。

 本当に優しくて、他人を見下したりしない人のできたお方。
 彼と接するうちに、私はいつの間にか心惹かれていたのだ。

 良い人が現れればいいけれど、願わくばそれは私であってほしい。
 本気で私はそう考え始めていた。

「どうしたんだい、エリーゼ?」
「い、いえ。なんでもありませんわ」

 カリーナと違い、私の話をよく聞いてくれる。
 親身になって話を聞いてくれるので、話をしているこちらも熱が入る。
 こんな素敵な人、他にいるかしら?
 いや、いないと思う。
 ここまでできた方は、他には存在しないと思うほどだ。

「エリック様はなんでそんなにお優しいのですか?」
「え?」
「いや、私だけじゃなくて、他の誰にでも優しいじゃありませんか。分け隔てなく誰にでも優しくする……そんなことは中々できることではないと思うのです」

 エリック様は少し悲しそうに笑いながら話す。

「僕自身がずっと殻に閉じこもっていたからね……誰かが優しくしてくれていたらああはならなかったと思うんだ。だから、他の誰かには優しくしたい。それで誰かの人生が変わるとは思わないけれど、うん。でも他人には優しく接したいんだよ」

 私は一つ考えていることがある。
 それは自分に降りかかる災難は、全て自分のためにあるということ。

 エリック様は火傷を負って辛い人生を歩んできたけれど、そのおかげでこれだけ優しくなれたのだと、私はそう思う。
 そう考えるとひどく彼の火傷が愛おしく思えてきて、私はエリック様の額に手を触れた。

「ななな、何をしてるんだい?」
「いいえ。少し触れてみたくなりましたの」

 エリック様は照れているようだったが、顔を赤くしたまま私を受け入れてくれていた。

「き、君になら触られてもいい……かな」

 そう言ってくださるエリック様。
 私は心の底から思っていた。
 優しいこの人と、これからも一緒にいたいと。
 どこまでも純粋な優しさを持つこの方とずっといつまでも。
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