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私は俯くエリック様の手を握る。
すると彼はビクッと身体を震わせた。
「…………」
「エリック様は心の優しい素敵な方ですわ。価値が無いなんて言わないでください」
「いや、価値なんて無いよ。僕に価値なんて……」
エリック様は私から顔を逸らしてそう言った。
でも手を払いのけるようなことはしない。
少し人を拒絶している気はあるのに、温もりは求めているような……
そんなような気がした。
エリック様は何故こんなにも自分に自信がないのだろうか?
何故こんなにも自分が無価値だと考えているんだろうか?
今更ながら、私はそんなことが気になりだし彼に尋ねてみることにした。
「エリック様は何故そんなに自分に価値がないと考えているのですか? あんなカリーナのことも黙って許してあげて……私は優しくて十分価値があると思います」
「だって価値が無いんだから価値がないんだよ。それが事実であり答えなんだ。それ以上の理由も意味もない」
そう断言するエリック様。
ダメだ。話してくれるような気配はない。
そりゃ私は元婚約者の友人というだけで、彼と特別親しいわけじゃない。
もしエリック様に話したくないことがあったとしても、私なんかに話すわけがないか。
私はエリック様から手を放し、少し寂しい気持ちを抱きながら歩き出す。
「とりあえず、この家の敷地を出ましょう。こんなところにはいたくありませんので。エリック様もそうですよね?」
「……うん」
私たちは何かを話すわけではなく、ゆっくりと歩いていく。
きっとエリック様と別れた後、会うことはないだろう。
せめて別れる前にほんの少しだけでも彼の心を癒せたらなと思っていたが、それももう叶わなさそう。
とうとう門を抜け、別れの時間が迫っていた。
「あの、エリック様……」
「ありがとう、エリーゼ。君の気持ちは嬉しいよ。でも、ダメなんだ……君がどれだけ僕を良く思ってくれていてもそれだけの価値がないんだよ。どれだけ良く言ってくれたとしても僕はどうしようもないほどダメなんだ」
「…………」
卑屈に笑うエリック様に私は何も言えなかった。
もうここで終了か……
そう思った瞬間であった。
ビュッと激しい風が突然巻き起こる。
するとエリック様のお顔が露わになった。
「……エリック様」
「そう。僕には価値なんてないんだよ。こんな顔じゃね」
エリック様の額の左側には、火傷の跡があった。
そうか……この人は自分のその火傷を気にして、ここまで卑屈になっていたのか。
すると彼はビクッと身体を震わせた。
「…………」
「エリック様は心の優しい素敵な方ですわ。価値が無いなんて言わないでください」
「いや、価値なんて無いよ。僕に価値なんて……」
エリック様は私から顔を逸らしてそう言った。
でも手を払いのけるようなことはしない。
少し人を拒絶している気はあるのに、温もりは求めているような……
そんなような気がした。
エリック様は何故こんなにも自分に自信がないのだろうか?
何故こんなにも自分が無価値だと考えているんだろうか?
今更ながら、私はそんなことが気になりだし彼に尋ねてみることにした。
「エリック様は何故そんなに自分に価値がないと考えているのですか? あんなカリーナのことも黙って許してあげて……私は優しくて十分価値があると思います」
「だって価値が無いんだから価値がないんだよ。それが事実であり答えなんだ。それ以上の理由も意味もない」
そう断言するエリック様。
ダメだ。話してくれるような気配はない。
そりゃ私は元婚約者の友人というだけで、彼と特別親しいわけじゃない。
もしエリック様に話したくないことがあったとしても、私なんかに話すわけがないか。
私はエリック様から手を放し、少し寂しい気持ちを抱きながら歩き出す。
「とりあえず、この家の敷地を出ましょう。こんなところにはいたくありませんので。エリック様もそうですよね?」
「……うん」
私たちは何かを話すわけではなく、ゆっくりと歩いていく。
きっとエリック様と別れた後、会うことはないだろう。
せめて別れる前にほんの少しだけでも彼の心を癒せたらなと思っていたが、それももう叶わなさそう。
とうとう門を抜け、別れの時間が迫っていた。
「あの、エリック様……」
「ありがとう、エリーゼ。君の気持ちは嬉しいよ。でも、ダメなんだ……君がどれだけ僕を良く思ってくれていてもそれだけの価値がないんだよ。どれだけ良く言ってくれたとしても僕はどうしようもないほどダメなんだ」
「…………」
卑屈に笑うエリック様に私は何も言えなかった。
もうここで終了か……
そう思った瞬間であった。
ビュッと激しい風が突然巻き起こる。
するとエリック様のお顔が露わになった。
「……エリック様」
「そう。僕には価値なんてないんだよ。こんな顔じゃね」
エリック様の額の左側には、火傷の跡があった。
そうか……この人は自分のその火傷を気にして、ここまで卑屈になっていたのか。
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