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 私、エリーゼ・ルンフォルムにはカリーナ・エドレインという友人がいる。

 カリーナはくせっけの強い赤髪を腰辺りまで伸ばし、強気な金色の瞳の持ち主。
 凄く綺麗な女性で、彼女にアプローチをかける男性も多かった。
 
 だがしかし、彼女には婚約者がいるのだ。
 エリック・カーマイン。
 
 彼はあまり自分に自信がないのか、目が隠れるほど前髪を伸ばし、いつもオドオドしている人だった。
 
 カリーナはある日、私の家にやって来てエリック様のことの愚痴を漏らしていた。

「あーあ。あの人、地味で根暗で本当に嫌になっちゃう」
「そうなの? 私は優しそうに見えるのだけれど」
「優しいなんか何の役に立つというのよ? やっぱり男は、華やかさと家柄でしょう。ま、家柄は悪くないけれど」

 エリック様は侯爵家の生まれの方で、確かに家柄に関しては悪くない。どころかかなりいいはずだ。
 条件も悪くないのに、彼女から見たら全然ダメなようで。

「はぁ……エリック様よりいい男は大勢いるのだけれど、彼より家柄のいい人は少ない。良い男で良い家柄の人はいないのかしら」
「カリーナ。あなたは高望みしすぎなのよ。エリック様は十分に良い人よ。これ以上望むのは身の程知らずにも程があるわ」

 ふんと鼻を鳴らすカリーナ。
 私は彼女の態度に少しムッとする。

「あなた程度じゃそう考えるでしょうけど、私はいい女だから」
「……確かに、あなたと比べたら私なんて大したことないでしょうね」
「そう。あなただったらエリック様で十分でしょうけど、私から見たら物足りないのよ。まだまだ足りない。身の程知らずはエリック様の方よ。あんな程度で私の婚約者面して」

 彼女は異様なほどに自分に自信を持っており、どうも男は自分が選ぶものだと考えているようだ。 
 エリック様との婚約は両親同士が決めたことで、納得はいっていない様子。
 
 だがしかし、彼女が言う通り、カリーナはとてもいい女だ。
 まぁ外見だけに関してはの話ではあるが……

「私の旦那になるというのなら、もっともっと努力するべきだと思わない? あんな人と一緒にいるのは本当に嫌だわ。私の旦那になるということをしっかり自覚してくれないと」

 プンプン怒り続けるカリーナ。
 これは今日に始まったことではない。
 彼と婚約をした時から、ずっとだ。
 毎週のようにエリック様の愚痴を漏らすカリーナ。
 正直私は辟易していた。
  
「はぁ……素敵な男性が突然現れてくれないものかしら」

 私はカリーナのため息に合わせて、同じようにため息を漏らした。
 もういいから帰ってくれないかしら? 
 彼女の話を聞かず、そんなことばかり考えていた。
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