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第二章
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「てめえら面倒だな……この場で殺してやろうか?」
瞬間湯沸かし器。
イドを見ていたらそんな言葉が頭に浮かぶ。
彼らの態度に、怒りのゲージを一瞬で最高潮まで達するイド。
リビングから裸足で出て、喧嘩を始めようとする。
いや、イドの場合喧嘩じゃなくてジェノサイドになるんじゃ……
家の庭先でそんな物騒なことはやめて!
私はイドを止めようと彼に近づく。
それと同時に、兵士たちの眼前に眩い光が出現する。
出現したと思ったら、その輝きと共に彼らは遠くへ吹き飛んでしまう。
「へ?」
何が起こったのだろう……
さっきまでいた兵士たちが、ものの見事に全員この場からいなくなってしまった。
私とイドは呆然とし、誰もいなくなった庭を眺めるばかり。
「聖域の力だね」
「聖域?」
「うん。ほら、リナ様に敵意を抱いている者を侵入不可能にするって力さ」
「ああ……そんなのもあったね」
これまで聖域の力が発動しているところを見たことがなかったら忘れていたけど。
モンスターがここに近づけないのは分っていたけど、そういう設定もしたよね。
彼らは私に敵意をむき出しにしていた。
だから聖域が彼らを敵だと認識し、ここから追い出してしまったというわけだ。
すごいね、聖域。
いつもは当たり前すぎて何とも思わないけれど、いつも私たちのために頑張ってくれてるんだ。
って、人じゃないけど、その力に感謝だ。
「んだよ。喧嘩は無しか」
「イドは喧嘩しちゃダメ! イドがやったら、ただのイジメになっちゃうでしょ」
「イジメですんだらええどすけど、イドはんの場合、厄災を引き起こすレベルどすからな」
レンが扇で口元を隠しながらそんなことを言う。
イドも自覚があるのか、何も言い返すこともしない。
本当、イドが戦ったらどうなるか分からんないからな。
出来る限り大人しくしていてほしい。
「でも、リナ様。これからの立ち振る舞いは考えた方がいいと思うよ」
「どういうこと?」
クマが腕を組んで話を続ける。
「さっきの態度で分かると思うけど、この世界では他の種族を受け入れられない者が多いんだ。サリアやゼロスなんかは特殊だと考えていた方がいい。ほとんどの人が他種族を拒絶している。存在自体が許せないんだよ」
「存在が許せない……そんなの間違ってるよ」
「間違っていても、彼らの中では正解なのさ。他種族は悪。それが真理だと言わんばかりに敵視してるんだ。話し合いだけでどうにかなるとは考えない方がいいよ」
「残念どすけど、クマの言う通りどすな。話し合えば分かり合える日も来んことないんやろうけど、何年と時間かかると思いますわ」
私は、できることなら色んな人たちと仲良くしたいと思っている。
ゼロスを慕っているオーガたち。
彼らは私たち人間、それに龍族であるイドを受け入れている。
他の魔族は知らないけれど、でも少し考え方を変えたら、少し抱いている偏見を無くせば、お互いに手を取り合って生きて行けるはずだ。
なのに、説得するだけの言葉を持たない自分が悔しい。
良い魔族がいるように、悪い人間だっている。
それを理解できたら、きっと皆楽しく一緒に暮らしていけると思うのに。
私は重たいため息をつく。
「でもよ、お前には俺がいるだろ。それにゼロスたちがいる。それだけじゃダメか?」
「ダメじゃないよ。イドがいてくれて嬉しい。でも、もっとわかり合えないかなって考えると、無性に悔しく思っちゃうんだ」
「その考えは分んねえな。だけど、俺はずっと一緒にいる。どんな時でもお前を一人になんてしねえ。だからそんな顔すんな」
イドが私の頬に触れる。
温かい手……それに熱いぐらい温かい心。
「悔しいのはお前の所為じゃねえ。あいつらの所為だ。だからその……気にすんな」
「うん。ありがとう。イド、大好き」
「お、俺だってお前のこと大好きなんだからな!」
イドが真っ赤になってそんなことを叫ぶ。
彼の優しい気持ちが嬉しくて嬉しくて……涙が出ちゃいそう。
私は本当に幸せ者だ。
こんな素敵な旦那さんに出逢えたんだから。
「これからどうなるか分からないけど……でもとりあえずはここにいたら安全だし、イドもあの人たちを無駄に傷つけないでね」
「分かってる。お前が嫌がることはしねえよ」
ぷいっと照れくさそうに顔を逸らすイド。
私たちはそんなイドの態度に笑いをかみころす。
さっきまでは殺伐した空気だったのに、今はこんなにも楽しくて幸せで……
心の底から嬉しい。
なのに、私は急な眩暈に倒れそうになる。
「リナはん!」
倒れそうな私を、抱き抱えてくれるレン。
気分が悪い。
吐き気がする。
立っているのが辛い。
私、どうしちゃったんだろう……
「お、おい……大丈夫かよ」
「うーん……あんまり大丈夫じゃないかも」
イドが、クマが、ライオウが、心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
皆に大丈夫だよと言いたいところなのに、心配しないでって言いたいのに……
そんな余裕は全くない。
レンは神妙な面持ちで私を見ている。
もしかして……何か病気にかかっちゃったのかな?
瞬間湯沸かし器。
イドを見ていたらそんな言葉が頭に浮かぶ。
彼らの態度に、怒りのゲージを一瞬で最高潮まで達するイド。
リビングから裸足で出て、喧嘩を始めようとする。
いや、イドの場合喧嘩じゃなくてジェノサイドになるんじゃ……
家の庭先でそんな物騒なことはやめて!
私はイドを止めようと彼に近づく。
それと同時に、兵士たちの眼前に眩い光が出現する。
出現したと思ったら、その輝きと共に彼らは遠くへ吹き飛んでしまう。
「へ?」
何が起こったのだろう……
さっきまでいた兵士たちが、ものの見事に全員この場からいなくなってしまった。
私とイドは呆然とし、誰もいなくなった庭を眺めるばかり。
「聖域の力だね」
「聖域?」
「うん。ほら、リナ様に敵意を抱いている者を侵入不可能にするって力さ」
「ああ……そんなのもあったね」
これまで聖域の力が発動しているところを見たことがなかったら忘れていたけど。
モンスターがここに近づけないのは分っていたけど、そういう設定もしたよね。
彼らは私に敵意をむき出しにしていた。
だから聖域が彼らを敵だと認識し、ここから追い出してしまったというわけだ。
すごいね、聖域。
いつもは当たり前すぎて何とも思わないけれど、いつも私たちのために頑張ってくれてるんだ。
って、人じゃないけど、その力に感謝だ。
「んだよ。喧嘩は無しか」
「イドは喧嘩しちゃダメ! イドがやったら、ただのイジメになっちゃうでしょ」
「イジメですんだらええどすけど、イドはんの場合、厄災を引き起こすレベルどすからな」
レンが扇で口元を隠しながらそんなことを言う。
イドも自覚があるのか、何も言い返すこともしない。
本当、イドが戦ったらどうなるか分からんないからな。
出来る限り大人しくしていてほしい。
「でも、リナ様。これからの立ち振る舞いは考えた方がいいと思うよ」
「どういうこと?」
クマが腕を組んで話を続ける。
「さっきの態度で分かると思うけど、この世界では他の種族を受け入れられない者が多いんだ。サリアやゼロスなんかは特殊だと考えていた方がいい。ほとんどの人が他種族を拒絶している。存在自体が許せないんだよ」
「存在が許せない……そんなの間違ってるよ」
「間違っていても、彼らの中では正解なのさ。他種族は悪。それが真理だと言わんばかりに敵視してるんだ。話し合いだけでどうにかなるとは考えない方がいいよ」
「残念どすけど、クマの言う通りどすな。話し合えば分かり合える日も来んことないんやろうけど、何年と時間かかると思いますわ」
私は、できることなら色んな人たちと仲良くしたいと思っている。
ゼロスを慕っているオーガたち。
彼らは私たち人間、それに龍族であるイドを受け入れている。
他の魔族は知らないけれど、でも少し考え方を変えたら、少し抱いている偏見を無くせば、お互いに手を取り合って生きて行けるはずだ。
なのに、説得するだけの言葉を持たない自分が悔しい。
良い魔族がいるように、悪い人間だっている。
それを理解できたら、きっと皆楽しく一緒に暮らしていけると思うのに。
私は重たいため息をつく。
「でもよ、お前には俺がいるだろ。それにゼロスたちがいる。それだけじゃダメか?」
「ダメじゃないよ。イドがいてくれて嬉しい。でも、もっとわかり合えないかなって考えると、無性に悔しく思っちゃうんだ」
「その考えは分んねえな。だけど、俺はずっと一緒にいる。どんな時でもお前を一人になんてしねえ。だからそんな顔すんな」
イドが私の頬に触れる。
温かい手……それに熱いぐらい温かい心。
「悔しいのはお前の所為じゃねえ。あいつらの所為だ。だからその……気にすんな」
「うん。ありがとう。イド、大好き」
「お、俺だってお前のこと大好きなんだからな!」
イドが真っ赤になってそんなことを叫ぶ。
彼の優しい気持ちが嬉しくて嬉しくて……涙が出ちゃいそう。
私は本当に幸せ者だ。
こんな素敵な旦那さんに出逢えたんだから。
「これからどうなるか分からないけど……でもとりあえずはここにいたら安全だし、イドもあの人たちを無駄に傷つけないでね」
「分かってる。お前が嫌がることはしねえよ」
ぷいっと照れくさそうに顔を逸らすイド。
私たちはそんなイドの態度に笑いをかみころす。
さっきまでは殺伐した空気だったのに、今はこんなにも楽しくて幸せで……
心の底から嬉しい。
なのに、私は急な眩暈に倒れそうになる。
「リナはん!」
倒れそうな私を、抱き抱えてくれるレン。
気分が悪い。
吐き気がする。
立っているのが辛い。
私、どうしちゃったんだろう……
「お、おい……大丈夫かよ」
「うーん……あんまり大丈夫じゃないかも」
イドが、クマが、ライオウが、心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
皆に大丈夫だよと言いたいところなのに、心配しないでって言いたいのに……
そんな余裕は全くない。
レンは神妙な面持ちで私を見ている。
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