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第二章

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 それは早朝のこと。
 イドが寝ぼけ眼で朝食を食べていると、リビングの外に大勢の兵士が雪崩れ込んで来る様子が見えた。
 
「え、何? 何があったの?」
「なんでっしゃろな……あんま楽しそうな雰囲気ではありまへんな」

 兵士たちは怒りに満ちた表情、そして何か決意を秘めたような顔をしている。
 私はリビングのドアを開き、兵士たちに向かって静かに聞く。

「えっと……何か用事かな?」
「用事だと? とぼけるつもりか」
「別にとぼけてもいないけど……本当に何しに来たの? まだご飯を食べてないから、話なら早く済ませてほしいんだけど」
「それはあなた次第だな」

 そう言うのは、兵士たちの先頭に立つ男。
 先日、兵士を指揮していた人だ。

「あなたは?」
「俺はジャレット。人間の敵を葬りに来た」
「人間の敵?」

 それは誰? もしかして、イドのこと?
 あるいは……ゼロスたちのことを言っているの?

「あなたは人間でありながら、魔族と手を組んでいるな?」
「手を組むって表現はどうなのかな……?」
「リナ様の配下だからね。手を組むと言うよりは、従えていると言った方が正しいと思うよ」
「ま、魔族を従えているだと……」

 兵士たちがざわめく。
 少し危惧していたことではあるけれど……バレてしまっては仕方がない。
 顔色を青くしているジャレットたちに向かって、私は堂々と言う。

「成り行きでそうなってしまったけど……でも、悪くない魔族だっているわけで――」
「魔族は悪だ! 悪ではない魔族など存在するわけがない!」
「いや、存在してるって話をしてるんだけど……」

 だが、私の言葉は彼らには届かない。

「現在、人間が魔族にどんな目に遭わされていると思っている? 我々の領土を侵略しようとしているだぞ! そんな奴らとコソコソと……貴様はそれでも人間か!」
「人間ですけど。この世界の人間ではないけど、ちゃんと人間だよ」
「いいや、魔族と同じ空間で生活をし、そのことを何とも思っていない者が、人間のはずがない! 国王は、間違って人間ならざる者を召喚されてしまったのだ!」

 その言葉に、流石に私もムッとくる。
 そっちの都合で召喚しておいて、人外だなんてどういう了見なの?
 腹が立った私は、彼らを怒鳴りつけてやろうかと考えるも――
 それ以上にクマたちが怒っていたようだった。

「あのさ、リナ様が人間じゃないってどういうことだい?」
「話の内容によっては、悪いけど全滅させてもらうわ」
「おう!」

 クマたちが放つ殺気に近い空気感。
 ジャレットたちは恐怖に後退している。

「き、貴様らも人間ではないな……理解しがたい生き物に、獣族が二匹。ふん。ここはどうなっている。他種族を集めて、我々の世界を侵略するつもりか!?」
「好き勝手言ってくれるね。君たちの国を守ってくれたのは誰だと思っているのさ? 君たちの国とは関係ない、リナ様とイド様が守ってくれたんだよ。それなのに、そんな意味の分からないことばかり言って……」

 クマの表情は変わることがないが、言葉は刺々しい物だった。
 普段は周囲を癒す、可愛い生き物なのに……私のために本気で怒ってくれてるんだな。

 レンもライオウも同じ考えらしく、二人は厳しい目つきで彼らのことを睨み付けていた。

「で、てめえらは何しに来たんだよ? 人ん家の朝食を邪魔して……覚悟はできてんだろうな」

 ご飯に味噌汁をかけて食べていたイドであったが、とうとう私の隣に立つ。
 彼の登場に、兵士たちは一気に凍り付く。

 イドの怖さを知っている者は多数いる。
 そんな彼が目の前に現れたら、怖いだろうな。

「き、貴様らが魔族と一緒にいるから――」
「一緒にいたら何だってんだ? 俺は龍族だから、てめえらのルールなんて知らねえよ」
「り、龍族だと……!?」

 さらに大騒ぎをするジャレットたち。
 イドが龍族であったという事実に、驚きを隠せないようだ。
 黙ってたら面倒ごとも少なくていいのに……でも、イドにそんな駆け引きみたいなのも似合わないよね。
 そもそも黙ってたのも、別に聞かれなかったからだし。

「あなたはどこまでも……人間としての誇りを捨てたのか!」
「人間の誇りなんて言われても……龍族とか魔族とか、仲良くするのはいけないことなの?」
「いけないことに決まっているだろ! だから俺たちはこうしてお前たちを退治しに来たのだ!」

 なるほど。
 自分たちの持つ常識から逸した私のことが許せないのか。

 でも私は自分で間違ったことをしているとは思わない。
 ゼロスは勝ってに仲間を連れて来たけれど、でも直接的に人間たちに迷惑をかけたわけではない。
 私の言うことを聞いてくれて、気を使ってくれていたというのに。
 
 そしてイドは強くて優しくて……家族想いのいい人だ。
 そんな人たちと仲良くすることのどこがいけないのか。
 常識にとらわれ過ぎている彼らの方が間違ってるのではないかと、私は怒りを覚える。
 
「龍族にだって魔族にだって、いい人はいる。人間に悪い人もいる。少し種族が違うぐらいで、騒ぎ過ぎだよ。もっと視野を広げて、正しいことに目を向けた方が皆の将来のためになると思うよ」

 私の言葉を聞いても、聞く耳は持たない。
 皆そんな顔をしている。
 私は大きくため息をつき、肩を落とすのだった。
 
 話し合いで済んだら一番いいのになぁ……
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