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第二章

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 ゼロスを慕っているオーガの集団。
 数にして千人ほどのオーガが私たちの家に集結していた。

 ゼロスはオーガにしては美形であり、そして小柄だったようで……
 彼と同族であるオーガは、筋骨隆々といった体が大きく、そして怖い顔をした人ばかりであった。

 そんなオーガの集団を見てサリアは絶句するが、サリアが面倒を見ている子供たちは意外と愉しそうな顔をしている。
 なんで?

「み、皆は子供たちが怖くないの?」
「何言ってるんだよ、サリア。この人たちはライオウみたいじゃないか」

 私は子供の言った言葉に、妙に納得してしまっていた。
 確かに、ライオウも見た目は怖くないわけではない。
 しかしライオウは優しくていい人。
 
 そうか。
 子供たちはライオウと接することで、見た目だけで判断する真似はしなくなったんだ。
 見た目は大事だけど、見た目が全てじゃない。
 ライオウは予想外の学びを皆に教えてくれていたようだ。

「この方は俺の主であるイド様の奥様方であるリナ様だ。この方が魔族王の首が欲しいと言えば首を落とし、死ねと言えば潔く死ね。いいな」
「オオオオオオオ!!」
「いや、首なんて欲しくないし死ねなんて言わないから」
「言葉の綾というやつですよ。何を言われても貴方様の命令は絶対。そう伝えたかっただけです」

 命令とか……そんなのもどうでもいいんだけれど。

 私が呆れている間に、オーガたちは木材などを運び、住処を立てる準備を始め出した。
 するとそれをサポートするかのか、ライオウが重機を動かす。

「な、なんだあれは……」
「化け物……いや、なんだ!?」

 オーガたちは重機に驚くばかり。
 これまで見たことのない機械に仰天しっぱなしだ。

「この辺りも広いですけど、あれだけの人数が住まいを作る言うたらちょっと土地が足りまへんから」
「ああ。土地を広げるために重機を動かしたんだね」

 私の隣で話をしていたレンが、扇を私に向かって扇ぐ。
 いきなり何をするのだろうと私は怪訝に思い、首を傾げる。

「なんと言いますか……ちょっと顔色がすぐれんように見えましたんで」
「そうかな……そう言えば、ちょっと体が怠いかな」

 いつもと比べると何か気怠く、少しふらつくような気がする。
 レンに言われるまで大して気にはならなかったけれど、言われたらなんだか意識をしてしまう。
 不思議なものだよね。
 さっきまでは何とも思ってなかったのに。

「少し横になりますか?」
「ううん。大丈夫。そんなに疲れてるわけじゃないし」

 私は笑顔を作りレンに向ける。
 そしてオーガたちの作業の方を眺め、ふと思った事を口にした。

「オーガたち……というかさ、魔族とモンスターの違いって何なんだろうね。見た目は同じなのにまるで違う生き物みたい」
 
 近くを浮いていたクマが私の腕の中に着地し、同じようにオーガの方に視線を向けながら話し出す。

「そうだね……リナ様に分かりやすい言葉で言えば、意思の無いクローンみたいなものかな」
「クローン……自然に生まれたわけじゃないんだ」
「うん。もっと前の魔族王が生み出した禁呪……不自然に生物を生み出す技法。そうして生まれるのがモンスターなんだ」
「あの黒い霧がそうなんだ……」

 私はその話を聞き、霧に対して酷い嫌悪感を覚える。
 そんな技術を創り出して、人を襲わせて……本当に酷い術だ。
 あんなものは世界にあってはいけない。
 存在してはいけないものなんだ。
 漠然と、しかしそうハッキリと私は判断する。

「俺もあの技術は好きになれません。邪道ですよ、あんなものは」
「邪道ばかりの中で、正道を進むことができたんやなぁ、ゼロスは」
「そんな良いものではない。ただ卑怯なことが嫌いなだけだ」
「それが正道なんじゃない? 曲がったことが嫌いで、真っ直ぐ進んで来た……うん。良いことだと思うよ」
「リナ様……」

 ゼロスは綺麗な顔をグシャグシャにして、ホロリと目元から雫を流す。

「勿体ないお言葉……感謝いたします!」
「なんか新しい住人は面倒な人だね……」

 号泣し出すゼロスに呆れるサリア。
 私も呆れて涙するゼロスを見る。

「オーガの人たちがここに来たのはいいんだけどさ……これからどうしようかな」
「どうしようとは……どういうことですか?」

 ゼロスは鼻をすすりながら私に聞く。

「だって、人間の世界に魔族が大量に移り住むわけでしょ? 問題にならないかなって、思ってさ」
「問題にですか……問題になった時は、俺が全てを黙らせてみせますよ」
「それが問題って言ってるの! うーん……何事もなければいいんだけど」

 何事もなければいいとぼんやりと考える私であったが……
 何事もないまま済むわけがなかったのである。
 これだけの魔族がこの地域に住み始め、話が大きくなるのにそう時間はかからなかった。
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