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第二章
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「俺の名はゼロス。貴様の名は?」
「てめえの名前なんて興味ねえ。今から死んでいくんだから聞くだけ無駄だ」
「ふっ……酷く傲慢な男のようだ」
「傲慢?」
「そうではないか。勝手に勝利を確信して、そしてすでに勝ったつもりでいる。俺だってそれなりに自分の力に自身があるのだがな」
ゼロスと名乗ったその人は、イドに対して冷たい視線を向けていた。
その真っ赤な瞳は、視線が合っていないはずの私でも、恐怖を感じる程だ。
「イド! 相手の人は強そうだよ! 油断はしないでね!」
「こんな程度、油断しまくっても問題ねえよ」
「……俺をここまで嘗める奴も初めてだ」
「ああ? てめえなんかつまんねーんだよ。俺はさっさと帰って、さっさとテレビが見てえんだよ」
「てれび……?」
聞いたことのない言葉に、相手は一瞬思案顔をする。
が、すぐに鋭い目つきに戻し、イドを見据えた。
「おら。やるならさっさとかかって来い。てめえごときに時間を使うのがもったいねえからよ」
「本当に――ふざけた奴だ!」
ゼロスは信じられない速度の突きを放つ。
バチンという乾いた音が鳴り響く。
イドの顔面が弾けた……?
私は顔を青くし、イドに駆け寄ろうとする。
「イド! イド!」
「……大丈夫だ。心配すんな」
イドの顔に何も変化は無かった。
ただ眼前で相手の拳を手で止めただけのようだ。
私はホッとしつつも、ゼロスが強い相手だと再確認し、息を呑む。
「てめえの実力は理解してたつもりだけどよ、今のでよく分かったぜ」
「ほう?」
「俺の想像してた以上の実力はあるみたいだな」
「で、想像以上でもう諦めたのか?」
「諦める? そりゃてめえの方だろ?」
また乾いた音が鳴り、次は相手の顔面が本当に弾ける。
「なっ……!?」
「おいおい。こっちは全然本気出しちゃいねえんだぜ? これぐらい避けてみせろよ」
「ぐっ……」
ゼロスの顔が痛みに歪む。
イドが見えない何かを放ち、相手の顔をとらえ続けている。
両手をズボンに突っ込んでいるのに……何をしているの?
「がはっ!」
「おら。少しゆっくり打ってやるから、避けてみせろよ!」
イドが拳を放つのが目に見える。
まさかパンチを打っていただけだなんて……
それであれだけのダメージを与えているの?
ゼロスはその威力に膝をつく。
その瞬間、イドが相手の胸倉を掴み、右手だけで高速の連撃を放つ。
何十、何百という拳を瞬時に叩き込み、相手の顔は休む暇もなく弾け続ける。
「イドはんは、ほんまんのバケモンどすなぁ」
「全くだ。これだけ強かったら心強いを通り越して、あんな化け物を前にしても安心すら覚えるぐらいだよ」
レンとクマがイドの強さに呆れているようだ。
一緒にいた男の人たちは唖然とするばかり。
「あ、あの相手は弱くないはずだよな……」
「た、多分……いや、強いはずだ。俺たちじゃ全く敵わないほどの」
「私たちでも勝てない相手だよ」
「き、君でも勝てない敵なのに、あの圧倒的な差はどうなっているんだ!?」
私でもこの人たちから見れば十分に強いようだ。
その私でも敵わないゼロス。
そしてそれを圧倒するイド……本当にイドの底が見えない。
もしかしたら世界で一番強いんじゃないのかな?
そう思えるほどにイドの力は相手を果てしなく凌駕していた。
「おい、ここらで降参するなら許してやってもいいんだぜ?」
「……降参だと?」
片手で相手を持ち上げるイド。
ゼロスは傷だらけとなった顔でイドを見下ろしながら、しかしうっすらと笑みを浮かべる。
「ウォーミングアップはそろそろ終わりでいいか?」
「あ?」
ゼロスの体から激しい炎が吹き荒れる。
地獄から召喚したかのような、身の毛もよだつ恐ろしい青い炎。
レンとライオウは冷や汗をかき、男の人たちは恐怖に気絶しそうになっていた。
クマの表情からは何も読み取れないけれど……でも、怖いと思っているような雰囲気。
イドは炎に包み込まれ、その姿が視認できなくなっていた。
「イ、イド!」
「ははははは! 油断大敵! 調子に乗っている間に燃えてしまうとはな!」
「これぐらいで俺を燃やせるかよ」
「……は?」
イドは炎に包まれたはず。
しかし、その声は何も気にしていないようなとぼけたものであった。
炎に包まれてもなお、相手を持ち上げているイド。
そのままゼロスを地面に叩きつける。
「ぐはっ!」
地面は陥没し、ゼロスは口から青い血を吐き出す。
「で、もう終わりか? 俺は帰ってアニメってのを見たいんだよ。昨日いいところで終わっててな」
「ま、まだだ……まだ終わっていない……」
イドは相手から手を放し、嘆息する。
ゼロスは痛みに耐えながら起き上がり、そしてその背中に背負った巨大な斧を肩に担ぐ。
あまりにも甚大な巨斧。
その斧を青い炎がまとわりつく。
「貴様もこちらの想像以上の実力だったようだ……しかし、俺はまだ力を出し尽くしてはいない」
「そうかよ。だったらそろそろ本気出せよ。せめてB級映画よりは楽しませろ」
「び、B級えいが……?」
またイドの言葉に思案顔をするゼロス。
「……イドはん、映画とアニメに影響されまくってるみたいどすな」
「おう!」
「…………」
現在のイドの頭の中を映像の話が大半を占めているのではいだろうか。
そう思えるぐらい、映画やアニメのことを口にするイドであった。
楽しいのはいいけど、ちょっと影響されすぎかな。
「てめえの名前なんて興味ねえ。今から死んでいくんだから聞くだけ無駄だ」
「ふっ……酷く傲慢な男のようだ」
「傲慢?」
「そうではないか。勝手に勝利を確信して、そしてすでに勝ったつもりでいる。俺だってそれなりに自分の力に自身があるのだがな」
ゼロスと名乗ったその人は、イドに対して冷たい視線を向けていた。
その真っ赤な瞳は、視線が合っていないはずの私でも、恐怖を感じる程だ。
「イド! 相手の人は強そうだよ! 油断はしないでね!」
「こんな程度、油断しまくっても問題ねえよ」
「……俺をここまで嘗める奴も初めてだ」
「ああ? てめえなんかつまんねーんだよ。俺はさっさと帰って、さっさとテレビが見てえんだよ」
「てれび……?」
聞いたことのない言葉に、相手は一瞬思案顔をする。
が、すぐに鋭い目つきに戻し、イドを見据えた。
「おら。やるならさっさとかかって来い。てめえごときに時間を使うのがもったいねえからよ」
「本当に――ふざけた奴だ!」
ゼロスは信じられない速度の突きを放つ。
バチンという乾いた音が鳴り響く。
イドの顔面が弾けた……?
私は顔を青くし、イドに駆け寄ろうとする。
「イド! イド!」
「……大丈夫だ。心配すんな」
イドの顔に何も変化は無かった。
ただ眼前で相手の拳を手で止めただけのようだ。
私はホッとしつつも、ゼロスが強い相手だと再確認し、息を呑む。
「てめえの実力は理解してたつもりだけどよ、今のでよく分かったぜ」
「ほう?」
「俺の想像してた以上の実力はあるみたいだな」
「で、想像以上でもう諦めたのか?」
「諦める? そりゃてめえの方だろ?」
また乾いた音が鳴り、次は相手の顔面が本当に弾ける。
「なっ……!?」
「おいおい。こっちは全然本気出しちゃいねえんだぜ? これぐらい避けてみせろよ」
「ぐっ……」
ゼロスの顔が痛みに歪む。
イドが見えない何かを放ち、相手の顔をとらえ続けている。
両手をズボンに突っ込んでいるのに……何をしているの?
「がはっ!」
「おら。少しゆっくり打ってやるから、避けてみせろよ!」
イドが拳を放つのが目に見える。
まさかパンチを打っていただけだなんて……
それであれだけのダメージを与えているの?
ゼロスはその威力に膝をつく。
その瞬間、イドが相手の胸倉を掴み、右手だけで高速の連撃を放つ。
何十、何百という拳を瞬時に叩き込み、相手の顔は休む暇もなく弾け続ける。
「イドはんは、ほんまんのバケモンどすなぁ」
「全くだ。これだけ強かったら心強いを通り越して、あんな化け物を前にしても安心すら覚えるぐらいだよ」
レンとクマがイドの強さに呆れているようだ。
一緒にいた男の人たちは唖然とするばかり。
「あ、あの相手は弱くないはずだよな……」
「た、多分……いや、強いはずだ。俺たちじゃ全く敵わないほどの」
「私たちでも勝てない相手だよ」
「き、君でも勝てない敵なのに、あの圧倒的な差はどうなっているんだ!?」
私でもこの人たちから見れば十分に強いようだ。
その私でも敵わないゼロス。
そしてそれを圧倒するイド……本当にイドの底が見えない。
もしかしたら世界で一番強いんじゃないのかな?
そう思えるほどにイドの力は相手を果てしなく凌駕していた。
「おい、ここらで降参するなら許してやってもいいんだぜ?」
「……降参だと?」
片手で相手を持ち上げるイド。
ゼロスは傷だらけとなった顔でイドを見下ろしながら、しかしうっすらと笑みを浮かべる。
「ウォーミングアップはそろそろ終わりでいいか?」
「あ?」
ゼロスの体から激しい炎が吹き荒れる。
地獄から召喚したかのような、身の毛もよだつ恐ろしい青い炎。
レンとライオウは冷や汗をかき、男の人たちは恐怖に気絶しそうになっていた。
クマの表情からは何も読み取れないけれど……でも、怖いと思っているような雰囲気。
イドは炎に包み込まれ、その姿が視認できなくなっていた。
「イ、イド!」
「ははははは! 油断大敵! 調子に乗っている間に燃えてしまうとはな!」
「これぐらいで俺を燃やせるかよ」
「……は?」
イドは炎に包まれたはず。
しかし、その声は何も気にしていないようなとぼけたものであった。
炎に包まれてもなお、相手を持ち上げているイド。
そのままゼロスを地面に叩きつける。
「ぐはっ!」
地面は陥没し、ゼロスは口から青い血を吐き出す。
「で、もう終わりか? 俺は帰ってアニメってのを見たいんだよ。昨日いいところで終わっててな」
「ま、まだだ……まだ終わっていない……」
イドは相手から手を放し、嘆息する。
ゼロスは痛みに耐えながら起き上がり、そしてその背中に背負った巨大な斧を肩に担ぐ。
あまりにも甚大な巨斧。
その斧を青い炎がまとわりつく。
「貴様もこちらの想像以上の実力だったようだ……しかし、俺はまだ力を出し尽くしてはいない」
「そうかよ。だったらそろそろ本気出せよ。せめてB級映画よりは楽しませろ」
「び、B級えいが……?」
またイドの言葉に思案顔をするゼロス。
「……イドはん、映画とアニメに影響されまくってるみたいどすな」
「おう!」
「…………」
現在のイドの頭の中を映像の話が大半を占めているのではいだろうか。
そう思えるぐらい、映画やアニメのことを口にするイドであった。
楽しいのはいいけど、ちょっと影響されすぎかな。
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