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第二章
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今日は子供教室はお休みらしく、皆一緒に行動することとなった。
天気はどんよりと曇り空。
雨が降らなかったらいいんだけどな。
「ほら、行くぞ」
全員で竜の姿となったイドの背中に乗る。
皆慣れた様子で、大きな背中の上でお茶を飲み始めてしまった。
「ええ風にええお茶。これはええどすな」
「おい、てめえら!」
流石に背中でお茶を飲まれたら怒るか……
当然だよね。
「俺にも飲ませろ!」
と思ったら自分が飲めないことに怒っている様子のイド。
背中でお茶を飲むのはいいんだ。
「目的地に到着したら出しますから、そこまでお願いしますわ」
イドは一度だけ頷くとすごい速さで黒い霧が発生している場所まで移動する。
いつもより速い速度で到着したのだけれど……そんなにお茶が飲みたかったの?
「それ、結構美味いよな」
レンが魔法瓶から熱々のお茶を紙コップに淹れ、イドに出す。
どうやらお茶がお気に入りらしく、ふーふーしながら口にしていた。
「や、やあ。本当に来たんだね」
私たちが黒い霧に到着すると、すでにそこには先日の男の人たちが集結しているようだった。
「うん。今からこれを浄化するからね」
「浄化って……そんな簡単にできるものなのか?」
「そんな簡単にできるもの、らしいよ」
私は黒い霧の中へと侵入して行く。
「あ! ちょっと、その中は危ない――」
「大丈夫。私は大丈夫なんだ」
平然と霧の中へと入って行く私を、男の人たちは唖然としていた。
私は黒い霧の中で、手に持っていた『純聖石』を地面に叩きつける。
すると中から光が漏れ出し、霧の内側から闇が光に侵食され始めた。
このまま闇が消えるのを待つだけか……
『純聖石』のおかげなんだろうけど、あっさりしすぎていて拍子抜け。
まぁ簡単に越したことはないか。
霧から脱出した私を、心配そうに男の人たちが駆け寄って来る。
「身体の調子は!? なんともないのか!?」
「だから言ったじゃない。私は大丈夫だって」
イドの血のおかげであろう。
霧の力など今の私には通用しない。
普通は身体に異常をきたす霧の中から、健康体で戻って来た私に驚くばかりの男の人たち。
しかしイドたちは当たり前のことだと考えているのか、ただ私を眺めるだけであった。
「このまま放置しておけば霧も消えるから」
「え……もう終わり?」
「うん。だからこれからは安心していいからね」
「…………」
言葉も失ってしまい、男の人たちはポカンとしていた。
私はそんな彼らの反応を見て苦笑いを浮かべる。
私はただアイテムを使っただけなんだけどな……
「ここにいても大してすることも無いし、もう帰ろっか」
「おう。早く帰って映画見るぞ」
「映画はまってるね、イド……そうだ! 帰るなら、『空間移動』試してみよっか。イドが私の所に来てくれたっきりで、あれから使ってないしね」
瞬時に自宅、あるいは伴侶のもとまで瞬間移動できる能力。
イドと空を飛ぶのが楽しくて、これまで一度として使ったことはなかった。
唯一イドが、クロズライズに襲われている私のもとまで飛んで来た時に使用したけど……
もっとこういうのも有効活用した方がいいよね。
「でもお前、空飛ぶの好きだろ?」
「うん。でも、散歩は散歩でいいかなって。イドは速く帰って映画見たいでしょ?」
「……だ、だったら、いつでも散歩につきあってやるんだからな!」
いつものツンデレデレのイド。
彼の素直な気持ちはどこまでも気持ちいい。
まるで空のような清々しさ。
心にスッと気持ちが入って来る。
「じゃあ帰ろっか」
私の言葉に、イドたちがこちらに集まって来る。
後は『空間移動』を発動すれば家の前だ。
だが、スキルを使用する瞬間に、一人の男の人が姿を現せる。
「……誰?」
「さあ」
背はとても大きく見える。
でも驚いたのは、彼の背中に背負っている大斧。
大きな体よりもさらに大きな斧だ。
そんな彼の姿を見て、背筋にゾクッと寒気が走る。
あれは自分では対処できないような相手で、戦ってはいけない相手だと直感が訴えかけていた。
「……どうやら魔族みたいだね」
「そうみたいどすなぁ。それもウチらじゃ到底敵わん相手みたいどす」
「おう!」
クマたちも相手の実力に感づいたのか、少し距離を取る。
私も心の奥から恐怖心が沸き起こり、イドの後ろに隠れた。
「おい、止まれ」
「止まるつもりはない。貴様だな。クロズライズを殺したのは……対峙した瞬間にそれを理解した」
イドと男の人の視線がぶつかる。
相手はイドの激しい殺気に怯むことなく突き進んで来る。
「何が人間だ……龍族の男ではないか」
「ああ? 俺が竜族で何か問題でもあんのかよ?」
「問題だらけだな……貴様を倒すのに一苦労しそうだ」
「一苦労か……その心配は必要ねえぜ」
「何?」
「てめえは俺に殺されるだけだからな!」
イドが邪悪な表情を浮かべ、相手を睨み付ける。
戦いが始まる……それはもうどうしようもない事実であった。
イドの迫力に、一緒にいた男の人たちが震えあがる。
「な、何が起こるんだ……何をするつもりなんだ!?」
「み、皆は隠れた方がいいよ! すごい戦いが起こりそうだから、危ない!」
「あ、ああ! ちょっと隠れさせてもらうよ!」
男の人たちはそそくさと近くにあった岩場へと隠れる。
私たちはイドと、そしてイドと向かい合っている男性の行く末を眺めていた。
イド……負けないよね。
私はイドを信じつつも、もしかしたらなんて一抹の不安を抱きながら、彼の勝利を祈るばかりであった。
天気はどんよりと曇り空。
雨が降らなかったらいいんだけどな。
「ほら、行くぞ」
全員で竜の姿となったイドの背中に乗る。
皆慣れた様子で、大きな背中の上でお茶を飲み始めてしまった。
「ええ風にええお茶。これはええどすな」
「おい、てめえら!」
流石に背中でお茶を飲まれたら怒るか……
当然だよね。
「俺にも飲ませろ!」
と思ったら自分が飲めないことに怒っている様子のイド。
背中でお茶を飲むのはいいんだ。
「目的地に到着したら出しますから、そこまでお願いしますわ」
イドは一度だけ頷くとすごい速さで黒い霧が発生している場所まで移動する。
いつもより速い速度で到着したのだけれど……そんなにお茶が飲みたかったの?
「それ、結構美味いよな」
レンが魔法瓶から熱々のお茶を紙コップに淹れ、イドに出す。
どうやらお茶がお気に入りらしく、ふーふーしながら口にしていた。
「や、やあ。本当に来たんだね」
私たちが黒い霧に到着すると、すでにそこには先日の男の人たちが集結しているようだった。
「うん。今からこれを浄化するからね」
「浄化って……そんな簡単にできるものなのか?」
「そんな簡単にできるもの、らしいよ」
私は黒い霧の中へと侵入して行く。
「あ! ちょっと、その中は危ない――」
「大丈夫。私は大丈夫なんだ」
平然と霧の中へと入って行く私を、男の人たちは唖然としていた。
私は黒い霧の中で、手に持っていた『純聖石』を地面に叩きつける。
すると中から光が漏れ出し、霧の内側から闇が光に侵食され始めた。
このまま闇が消えるのを待つだけか……
『純聖石』のおかげなんだろうけど、あっさりしすぎていて拍子抜け。
まぁ簡単に越したことはないか。
霧から脱出した私を、心配そうに男の人たちが駆け寄って来る。
「身体の調子は!? なんともないのか!?」
「だから言ったじゃない。私は大丈夫だって」
イドの血のおかげであろう。
霧の力など今の私には通用しない。
普通は身体に異常をきたす霧の中から、健康体で戻って来た私に驚くばかりの男の人たち。
しかしイドたちは当たり前のことだと考えているのか、ただ私を眺めるだけであった。
「このまま放置しておけば霧も消えるから」
「え……もう終わり?」
「うん。だからこれからは安心していいからね」
「…………」
言葉も失ってしまい、男の人たちはポカンとしていた。
私はそんな彼らの反応を見て苦笑いを浮かべる。
私はただアイテムを使っただけなんだけどな……
「ここにいても大してすることも無いし、もう帰ろっか」
「おう。早く帰って映画見るぞ」
「映画はまってるね、イド……そうだ! 帰るなら、『空間移動』試してみよっか。イドが私の所に来てくれたっきりで、あれから使ってないしね」
瞬時に自宅、あるいは伴侶のもとまで瞬間移動できる能力。
イドと空を飛ぶのが楽しくて、これまで一度として使ったことはなかった。
唯一イドが、クロズライズに襲われている私のもとまで飛んで来た時に使用したけど……
もっとこういうのも有効活用した方がいいよね。
「でもお前、空飛ぶの好きだろ?」
「うん。でも、散歩は散歩でいいかなって。イドは速く帰って映画見たいでしょ?」
「……だ、だったら、いつでも散歩につきあってやるんだからな!」
いつものツンデレデレのイド。
彼の素直な気持ちはどこまでも気持ちいい。
まるで空のような清々しさ。
心にスッと気持ちが入って来る。
「じゃあ帰ろっか」
私の言葉に、イドたちがこちらに集まって来る。
後は『空間移動』を発動すれば家の前だ。
だが、スキルを使用する瞬間に、一人の男の人が姿を現せる。
「……誰?」
「さあ」
背はとても大きく見える。
でも驚いたのは、彼の背中に背負っている大斧。
大きな体よりもさらに大きな斧だ。
そんな彼の姿を見て、背筋にゾクッと寒気が走る。
あれは自分では対処できないような相手で、戦ってはいけない相手だと直感が訴えかけていた。
「……どうやら魔族みたいだね」
「そうみたいどすなぁ。それもウチらじゃ到底敵わん相手みたいどす」
「おう!」
クマたちも相手の実力に感づいたのか、少し距離を取る。
私も心の奥から恐怖心が沸き起こり、イドの後ろに隠れた。
「おい、止まれ」
「止まるつもりはない。貴様だな。クロズライズを殺したのは……対峙した瞬間にそれを理解した」
イドと男の人の視線がぶつかる。
相手はイドの激しい殺気に怯むことなく突き進んで来る。
「何が人間だ……龍族の男ではないか」
「ああ? 俺が竜族で何か問題でもあんのかよ?」
「問題だらけだな……貴様を倒すのに一苦労しそうだ」
「一苦労か……その心配は必要ねえぜ」
「何?」
「てめえは俺に殺されるだけだからな!」
イドが邪悪な表情を浮かべ、相手を睨み付ける。
戦いが始まる……それはもうどうしようもない事実であった。
イドの迫力に、一緒にいた男の人たちが震えあがる。
「な、何が起こるんだ……何をするつもりなんだ!?」
「み、皆は隠れた方がいいよ! すごい戦いが起こりそうだから、危ない!」
「あ、ああ! ちょっと隠れさせてもらうよ!」
男の人たちはそそくさと近くにあった岩場へと隠れる。
私たちはイドと、そしてイドと向かい合っている男性の行く末を眺めていた。
イド……負けないよね。
私はイドを信じつつも、もしかしたらなんて一抹の不安を抱きながら、彼の勝利を祈るばかりであった。
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