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「あ、あなた……アリエスが連れ連れ去られてしまったわ!」
「ふひひ……大丈夫だ。行先は分かっている」

 アリエスの母親は、金のなる木――アリエスがグレイと共に去ってしまったことに大慌て。
 だが父親の方は、相手が国の王族だと知っており、ニヤリと笑みをこぼす。

 エミュロット家とは比べ物にならないよい縁談。
 王族の恩恵を受ければ、俺の位も……

 ニヤニヤと醜悪な笑みが収まらない父親。
 呆然としたまま、ユージンは彼を見下ろしていた。

「……アリエス。俺はまだ諦めていない」
「…………」

 父親はユージンの真っ直ぐな目を見て舌打ちをする。

 ここで出しゃばられるのも厄介だ。
 こいつをなんとかできないものか……

 そんな事を考えていると、屋敷の中へと大勢の人が雪崩れ込んでくる。

「な、なんだ、お前たちは!?」

 アリエスの両親を取り囲む数人の騎士。
 彼らはアリエスの両親を威圧するかのように、二人を睨む付けている。

 アリエスの父親は怯えながらも、彼らに怒声を放つ。

「そ、そこをどけ! 今から娘の所に――」
「それは認めれられない」
「な、なんだと……?」
「グレイ様の命令だ。金輪際、アリエス様との接触を禁止とする」
「な……自分の娘と会えないなんて、そんなバカな話が!」
「自分の娘を、長い間虐げてきたのは誰だ?」
「う……」

 グレイは全てを把握していた。
 アリエスがどんな環境で育ち、両親からどのような扱いを受けてきたのか。
 キツイ罰でも与えてやってもいいが、しかしこれでもアリエスの両親。
 接触禁止を言い渡すだけで済ませてやろうと考えていた。

 王族の命となれば、さすがにどうしようもなく、項垂れるアリエスの両親。

「わ、私たちは、これからどうやっていけばよいのですか……?」
「…………」

 夫人の言葉に返事をすることもなく、父親は唖然と天井を見つめるだけであった。

「お、お前たちは誰だ!? 俺は今から行かなければならないところがある。どけ!」

 ユージンはアリエスの両親よりも大勢の人数に取り囲まれていた。
 その数、18名。
 彼らは憎しみを含んだ視線をユージンに向けている。

「俺たちが誰かだと? お前に傷物にされた娘を持つ父親だと言えば分かるか?」
「……なっ!?」

 一気に顔を青くするユージン。
 しかし男たちを警戒しつつも、相手よりも自分の地位が高いことを把握している。
 
「お、俺に手を出してただで済むと思っているのか?」
「ああ。俺たちにはグレイ様がついてくれていらっしゃるからな」
「……え?」
「お前への復讐はグレイ様がお許しになってくれた。全ての責任を取ってくれるんだとよ」
「ちょ……ちょっと待て。お前たちの娘は、俺との一夜を喜んでいたはずだ」
「ふざけるな……今でも娘は泣いてばかりいるんだぞ!」

 父親たちの感情が爆発する。
 娘をオモチャにしたユージンに対して、怒り狂う。

「お前に騙されたと、お前を信じていたと言っているぞ!」
「今までは侯爵家の人間であるお前に手を出せなかったが、今こそ恨みを晴らさせてもらう!」
「おい、皆で取り押さえるぞ!」
「お、おい! 何をするつもりだ!」

 男たちはユージンを周りから取り押させ、身動きできないようにしてしまう。

「もう女遊びをできないようにしてやるよ」
「な、何をするつもりだ……何をするつもりな――ぎゃああああああああああああああ!!」

 娘たちの無念を晴らすように、男たちはユージンの身体の一部を切り取ってしまった。
 こうしてユージンは、女遊びはおろか、子供を作れない体になってしまうのであった。
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