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「マリーベル。君を迎えに来たよ」

 初めて出会ったロイド様は、とても美しい男性だと思った。
 茶色の髪はサラサラしていて、私を見つめるその瞳は情熱的な赤。
 私の屋敷へとやって来たロイド様を見た女性たちは、ほっとため息をつく。
 そのあまりの美しさに、心を奪われているようだった。

 私もロイド様に心を奪われた者の一人だ。
 一瞬で、彼に恋に落ちた。

「は、初めまして、ロイド様……」
「…………」

 ポーッと見上げる私を見て、ロイド様は苦笑いをする。

「初めてではないのだけれどね」
「え? も、申し訳ありません! ロイド様のようなお方と会っておいて、忘れるなどと……」
「いや。別に気にしていないよ。君と結婚できる。その事実だけで俺は満足している」

 大きく頼りがいのある手で私の頬に触れるロイド様。
 顔は赤くなっているだろう。
 その手の温かさと私を見つめる瞳に、ときめき続ける私。 
 いきなりこんなじゃ、明日まで心臓が持つのだろうか……

 彼は私と会ったことがあると言っているが、今の私は思考回路がとろけてしまっている。
 今は何も考えられない。
 このような美しい人が、私を迎え入れてくれるなんて……
 その奇跡を噛みしめるだけで、何かを考える余裕などなかった。

「では、娘のことをよろしくお願いします」
「ええ……」

 お父様の言葉に、ロイド様はどこか冷たい様子を見せる。
 私に向けられる太陽のような温かさはなく、極寒の寒さを覚えさせえる冷たい目。
 だけど不思議と、私は彼の目が怖くなかった。
 だって私を見る時は、絶対に笑顔を絶やさないから。

「あっ」

 ロイド様は私の身体を抱き抱え、お父様とお母さまに背を向ける。
 そして歩き出し、温かい顔で私を見つめていた。

「俺の大事なマリーベル。ようやく君をこの手に抱くことができた。これからは一生君を放すつもりはないから覚悟しろ」
「は、はい……」

 これは夢? それとも幻?
 彼の想いがストンと胸に落ちる。
 ロイド様は本気で私のことを想ってくれているのだ。
 不思議だけど、夢のようだけど、これは事実なのだ。
 私は胸をドキドキさせながら、彼に抱かれていた。
 
「……君のことは色々と調べさせてもらった。もうこの屋敷の敷居を跨ぐ必要はないし、そうさせないつもりだ。いいね?」
「……はい」

 ポロリと涙がこぼれた。
 ロイド様は私のおかれた状況を理解されているのだ。
 私が両親と姉からぞんざいな扱いを受けてきたことを知っている。

 私をここからさらうために現れてくれたのだ。
 涙が止まらない。
 そしてロイド様の愛を感じていた私は、グチャグチャの顔で笑みを彼に向けるのであった。
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