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 城門は決壊し、住民たちが城へと侵入する。
 兵士たちは迎え撃つが、中には裏切る者も現れた。

 食料を奪おうとする意志は凄まじく、彼らを止められそうにもない。
 数人の兵士がシェイクのもとまで駆けつけ、大慌てで口を開く。

「シ、シェイク様! 今すぐお逃げ下さい! もうここは危険でございます」
「な……」

 部下の言葉に固まってしまうシェイク。
 ふとそこで、ヒメラルダのことを思い出す。

「ヒ、ヒメラルダはどこだ……?」
「ヒメラルダ様……?」
「そういえば、もう長いこと見ていないな」
「ど、どういうことだ……?」

 シェイクもヒメラルダのことを長い間見ていないことを今更ながらに気づく。
 何故あんな大事な女性のことを忘れてしまっていたのだ?
 彼女の住む屋敷ももう流されてしまったというのに……
 僕は屋敷が流された時、何をしたんだ?

 その当日のことを思い出すことができないシェイク。
 頭を抱えて思い出そうとしていたが、兵士が彼の手を取り、駆け出した。

「今はそんなことより、逃げましょう!」
「このままではシェイク様も殺されてしまいます!」
「あ、ああ……」

 迫りくる住民のことを考え、シェイクは青い顔で逃げ出した。
 しかしどこに逃げればいいのだ?
 混乱したまま城の裏に用意されていた馬に跨り、十二名の兵士と共に城を飛び出した。

「こ、これは……」

 城を出た先の景色を見渡し、シェイクたちは愕然としていた。
 自然に囲まれていたはずのソルディッチ……
 全てが流され、今は見る影もなく、ただ荒野が続いているようだった。
 ぬかるみの中走る馬。
 疲れからか、次々に馬も倒れていく。

「た、助けてくれ……」

 馬と共に倒れる兵士たち。
 だが誰も助けようとはしない。
 人が減った方が、飢えをしのげるからだ。
 食料はほんの少ししか残っていない。
 数は一人でも少ない方がいいのだ。

 馬が倒れる度に、兵士を放置していく。
 そうしていると、とうとうシェイクと一人の兵士しか残らなかった。

「……シルビアはどこに行ったのだろうな?」
「アールモンドの方角に向かったと聞いております」
「アールモンド……」

 今更ではあるが、聖女の伝承が本物だったのではと考え至るシェイク。
 彼は唯一となった兵士と共に、アールモンドへと向かうことにした。

 聖女の話は本当だったんだ。
 僕が悪かった、シルビア。
 今僕は、君を迎えに行く。
 そして僕を許してくれ。
 そうすることによって、きっとまた、ソルディッチは平穏を取り戻すことができるかずだから。
 もう僕は他の女性に目もくれないと約束しよう。
 これからは二人で力を合わせて、ソルディッチを再建していくんだ。

 心の中でシルビアに謝罪をするシェイク。
 愚かにも、まだ自分たちはやり直せるはずだと信じて……
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