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 元々は平民でしかなかった私は行く場所を失いつつあった。
 ワクワクした気分であったが少々困っている部分もある。
 歴代の聖女に与えられる屋敷があり、私はそこに住んでいたのだが、聖女の伝承を信じない国王と王子、そしてそれに同調する者たちの手によって、とうとう私は立ち退きを余儀なくされているというわけだ。
 
 別に出て行くのは構わない。
 だけど穏やかに生きたい。
 だから出て行きたくない。
 
 だってここの暮らしは楽で優雅で言うことがなかったのだから。
 まさに天国のような屋敷。
 周りの人はなんでもやってくれるし、なんでも言うことを聞いてくれるし、本当にいい場所だった。
 
 でも私はここを出て行かなければならない。
 一人強く生き延びなければいけないのだ。

 さよなら、私の屋敷。
 もう帰ってくることもないし、もうこれから先聖女がここに足を踏み入れることはないだろう。
 私はしみじみとした気持ちで、屋敷を出ようとした。

 すると数人の侍女が、私に声をかけてくる。

「シルビア様……お待ちくださいませ」
「どうしたの?」
「あの……私たちも連れて行ってほしいのです」
「連れて行ってほしいって……」

 彼女たちは懇願するような視線を私に向けている。
 何故私について来たいのだろうか?
 この国に住んでおけば……まぁ、そのうち滅びるんだろうけれど。
 もしかしてそのことをうすうす感づいているとか?

「何故あなたたちは私についてきたいの?」
「あなた様に仕えていて私たちはよく理解しています。神の加護を受けたあなた様は本物の聖女であると。そんな聖女を追い出す国王と王子に仕えるつもりはありません」

 なるほど。
 純粋に聖女である私を追い出すことに怒りを感じているのか。
 それは私に向けれらた気持ちなのか。
 はたまた、『聖女』であるからこそ抱く感情なのか。
 まぁどちらにしても自分に対して怒ってくれていることには変わりない。
 私は少し嬉しい気分になり、彼女たちを連れて行くことにした。

「分かったわ。私と同行することを許します。ただし、この国には二度と戻れないと思ってください」
「く、国を離れるのですか?」
「ええ。神の加護を侮辱するような行為を働く国に、いつまでもいるわけにはいきません。だから私はこの国を離れ、別の土地へと移り住みます。それでもいいのならついてくればいいわ」
「…………」

 私の前にいる侍女は九人。
 皆それぞれ悩んでいるようだったが――決意をしたのか、皆一つ頷いた。

「私たちは聖女様について行きます。どうか同行することをお許しください」
「一人じゃないというだけで心強いわ。皆さん、これからよろしくお願いします」

 こうして私は九人の侍女を引き連れ、屋敷を後にしたのであった。
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