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第一章

28 コームの正体

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エメはルナリアが連れて行かれて直ぐに行動に移る。



ルナリアは直ぐに戻ると言っていた。



だけど、ルナリアは戻って来ないだろう。



ルナリアが教えてくれた。



学校を休んだ理由は風邪とかではなく、ディオン様から止められていたからだと。



ただ、その理由を探る為に出て来ちゃったみたいだけど……



ディオン様はルナリアが学園に来ていることを知らない。



ということは、あの三人は殿下の指示なのか独自で動いているのかは分からないけどディオン様は側近達がルナリアを迎えに来たことは知らないということ。



「優先順位から行くとディオン様に報告が先何だろうけど……」



恐らく、ディオン様に会うのは難しい。



ディオン様の名前を出してまでついてくことを拒否したルナリアが意見を変えた。



権力に屈した。


それもあるかもしれない。



だけど、エリクとか言う人がルナリアに何か言ってからルナリアの様子が明らかにおかしくなった。



考えられるのは、殿下の名前を出されたから。



もう一つはディオン様に関すること。



主人の行動を把握する事も従者の務め。



だけど、ルナリアはディオン様の現状を把握していなかった。


「ブリス!ブリスはいる!?」
「エメ、如何したんだ。クラスまで来るなんて珍し──」
「話はあと。コームとクロードも来て。ルナリアの事で話があるの、ついてきて。」



エメはブリス達のクラスへと急ぐと三人を呼ぶ。



三人はエメの切羽詰まった様子に何かあったのかと言われるがままエメの後に続いた。



一階の玄関まで降りると人気は少なく四人を気にする人もいない。



「それで、如何したんだエメ」
「ルナリア嬢の事で何かあったのか?」


ブリスとクロードの問いにエメは早まる気持ちを抑えて頷いた。


「ルナリアがパトリス殿下の側近達に連れて行かれたの。多分…この事はディオン様は知らない。お願い。一緒にルナリアを探して!」


一人では対応出来ない。


だから、三人にお願いをした。


「エメ嬢、先にこの質問に答えてくれる?側近達はパトリス殿下の指示で動いたものだったのか。如何してルナリア嬢が学園に来ていたのか」
「コーム、お前…如何してって、ルナリア嬢はこの学園の生徒何だし登校しててもおかしくないだろ」
「ブリスは黙って」


コームは全てを知っている。


エメは彼の質問にそう理解した。


コームの実家は特殊で諜報部隊や情報屋として活動している。


だから、ルナリアもコームの力を借りようとした。



その飛び抜けた情報収集能力を買う為に。


「殿下の指示かどうか分からない。だけど、殿下の存在は感じなかった。ルナリアが学園に来たのはディオン様の様子がおかしくて心配してのこと」



エメはコームの質問に答えるも、彼の協力を得られるのは難しいかもしれないと考えていた。



それは、文字通り情報を買う必要がある為。



同じ学生と言えど、ルナリアがディオン様に学園に来ないように言われていたことを関係のないコームは知っていた。


即ち、コームの情報網は既に金銭的価値があるということ。


ただ、一概に情報を買うのはお金だけとは言えないが。



「そう。分かった。ディオン様には僕が伝えに行く。エメ嬢、ブリス、クロードの三人はルナリア嬢を探して。殿下が関わっているのか分からないけど独自に動いているのだとすると危険だ。出来るだけ早く見つけ出して。じゃないと、取り返しのつかないことになる」
「コーム!それってどういう…」
「クロード…僕は君が一番にルナリア嬢を見つけ出してくれると信じているよ。」



エメは男爵家でコームから情報を買えるほどの大金も持っていなければ、情報と交換出来る同等のものを持っているわけでもない。



だから、断られる事を覚悟で友情に賭けて話をしたのだが、あっさりと引き受けてくれたことに拍子抜けして唖然としてしまった。



「エメ嬢。申し訳ないけど僕はブリスやクロードと違って友情では動かないよ。僕は上からの指示で動いているだけ。それが今回ディオン様とルナリア嬢に関係することだけだったんだ」



コームはブリスとクロードに聞こえない声でエメにそう耳打ちをすると、ニコリと微笑んだ。


「ルナリア嬢が連れて行かれたのは恐らくディオン様の元か別の場所。ディオン様の所なら僕が向かうし恐らく殿下もいるから下手に手出しされる心配はない。だけど、殿下の指示ではなく独自に動いている場合は厄介だ。あの三人はアメリー嬢の事でルナリア嬢に恨みがある。何をしでかすか分からない。連れて行くなら人気のない場所。校舎裏か倉庫、後はあまり使われていない人気のない教室とかだと思う」
「独自で動いている場合は時間が無いな。」
「校舎裏と倉庫ならば外履きが無くなっているはずだ。靴があるなら構内にいるということ。幸いにもここは玄関だ。すぐに確認しよう」
「ルナリアの靴、あるよ!ルナリアは校舎にいる」
「じゃあ、三人は普通科で人気のない場所を徹底的に探して。ディオン様に報告を終えたら僕も合流する」



エメ、ブリス、クロード、コームの四人は普通科へと駆けた。




コームは三人と分かれて生徒会室へと向かった。



パトリス殿下とディオン様は生徒会室にいると知っての事だった。


そして、その二人の間に介入出来るのも自分しかいないと分かっていての役割だった。



コームは生徒会室の扉を叩く。



「誰か知らんが今は取り込み中だ。用ならば後にしてくれ」


中からパトリス殿下の声が聞こえた。


「ドーバントン伯爵家十二男のコーム・ドーバントンと申します。至急お知らせしたい事があり参上致しました」
「ドーバントンだと!?良いだろう。入れ」
「失礼致します」



ドーバントン伯爵家。



代々、王家に仕える諜報部隊兼情報屋。



その権力は侯爵位を賜ってもおかしくないとされているが、何故か当主となる者は皆伯爵家のままでいる事に拘っているらしい。


また、情報は誰にでも買えるがとても高額で高位貴族になるほどドーバントンに口止めとして莫大な金銭を渡して自分たちに関する情報の売買を禁止させているとも聞く。



それが、パトリス殿下のドーバントンに対する認知度だった。


ドーバントン家の者が自ら接触してくるのは珍しい。


だが、パトリス殿下は自分が王族であるが故何か重要な情報を持って来たのだと推測してコームを招き入れた。


「失礼致します」
「して、知らせとは何だ」
「ああ、良かった。やはり此処におられましたか。ディオン様に御報告です。ルナリア嬢がエリク・アギヨン様、エゾン・デュフォー様、ジェルマン・クヴルール様に拉致された模様。恐らく、普通科の空き教室に連行されたものと思われます。現在、僕の友人であるブリス、クロード、エメ嬢が救出に向かってます」


中にいたのは、殿下とディオン様の二人でコームはディオンに向かって報告をする。


「なん…だと。殿下、やってくれましたね」



コームの報告を受けて、ディオンの雰囲気がガラリと変わった。



殺気が滲み出て、射殺さんばかりに殿下を睨み付ける。



「何だ。どういうことだ!私は何も聞いてないぞ!エリク達がルナリアを誘拐しただと?」
「白々しい。私を此処に留め置いてルナリアに危害を加えようという魂胆でしたか。先程の話ですが、貴方に言われなくともアメリー嬢からの申し出はお断り致します。冤罪をふっかけて来た上に責任を取れだと?私が手を出す女性はルナリアただ一人です。あんな阿婆擦れ熨斗をつけて殿下にお渡ししますよ」


それだけ言うとディオンは出口へと向かった。


「待てディオン!」
「殿下…これ以上ルナリアに何かしたら俺があんたを許さない」


去り際に吐き捨て、ディオンはコームを引き連れて生徒会室を出て行った。
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