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【第五部:聖なる村】第五章

ジュノレとテュリス~盗難事件の推理③

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「突拍子もない……?」

 テュリスはにやりと笑った。

「惨殺されたジャン・ガールは、『俺を捕まえても無駄だ』と自信満々だった。まるで、最初から逃げられるとわかっていたかのように。エルシャはこういっていた。サラマ・アンギュースの中には、操作の民という者がいる。どんな能力なのか具体的にはわかっていないが、もし人間を『操作』できるのならば、護送中に逃げ出すことなんて朝飯前だろう。そして、サラマ・アンギュースをつけ狙う者たちがいるのも事実だ。ジャン・ガールは、サラマ・アンギュースの力を使って逃走した。そして、サラマ・アンギュースであるがために命を奪われれた。殺した者は、神のかけらを奪う必要があったが、体のどこに埋めてあるのかわからないために、体中を切り刻んだ……」

 ジュノレはしばらく返す言葉が見つからなかった。しばらくしてから、何とか一言発した。

「何というか……すごい想像力だな」

 テュリスは声をあげて笑った。

「エルシャを一番理解しているだろうおまえですら、その反応か。笑えるな。 俺もいったよ、おまえは考えすぎだと。神からの使命の重圧にやられて、おかしなことを考えているだけだとね。今でもそう思っているよ。だが……」
 テュリスは身を乗り出した。
「可能性としては、ゼロではない。そうだろう? もしそうならば、ティルセロ・ファリアスもサラマ・アンギュースだということになる」

 ジュノレは首を振った。

「仮定が多すぎる。たまたま、神の民の二人が紋章事件に関わったというのか? 神の民を狙う奴らは、どこでその情報を手に入れた? たまたま紋章事件が起きた時期にその情報を入手したとでもいうのか。以前から知っていたなら、事件が起きる前に殺せたはずだ」
「だが、殺された三人と、ジャン・ガールとファリアスの二人は、違う目的で違う人間に殺されたと考えるのが、一番納得がいく」
「その場合、紋章事件の容疑者という共通点をどう解釈するか説明できない限り、やはり謎は残る。エルシャの説を採用するにしても、謎は残るんだよ」

 今度はテュリスが考え込む番だった。

「そうなんだ……。結局情報を整理すると、紋章盗難の同機が、謎を解く鍵のように思えてならない」
「表向きは、金目的の犯行ということになっているが、王族に共犯がいることと、盗まれたのが前国王の紋章ということから、実際には現体制に不満のある王族の誰かが首謀あるいは手引きをしたというところだろう?」

 テュリスがうなずく。

「そう考えていたが、それだけでは辻褄が合わないんじゃないか、ということだ」

 そこでジュノレは失笑した。

「そもそも、現国王に一番不満なのは、テュリス、おまえ自身だからな。このままではおまえが有力な容疑者になってしまう」

 テュリスは不満げに鼻を鳴らした。

「いついわれるかと思っていたよ。だがな、今の時点では、おまえも含めてすべての王族が容疑者だ」

 ジュノレは意にも介さずに返した。

「わかっているよ。私が真犯人なら、相談のふりをして探りに来たおまえに対し、ぼろを出さないよう自然にふるまうのが苦痛で堪らないだろうな。では、ひとつ、意地悪な質問をしてやろう」

 テュリスが眉を上げて身を乗り出す。

「ほう、俺に挑戦するというわけか、面白い」

 ジュノレは資料の一部を指さしていった。

「当日、金庫を訪れた王族がただひとりだけいる。この人間が、一番の容疑者ではないのか?」
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