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【第四部:神の記憶】第六章

盗難事件の捜査

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 朝食を終えると、エルシャとテュリスはすぐに刑事資料室へ向かった。そこには、アルマニア王国誕生以来のほとんどの事件に関する全国的な資料が集められている。テュリスは、膨大な資料の中からアルマニア・アルマニア宮殿部の最近数週間の資料を引っ張り出してきた。

「さて。殺された容疑者についてだな……」

 テュリスが手早くページをめくる。

「……あったぞ。警備員を含む容疑者九人のうち、現在宮殿に交流しているのはひとり、ザンガ・シュワルツだ。こいつはただの雇われた運び屋だな。それから、まだ行方不明なのがひとり。ハーレル・ディドロだな。……これは驚いた。あとの七人は全員殺されている。二人の警備員もだ」

 テュリスは詳しい報告書に目を通した。それによると、事件当夜から姿の見えなくなっていた二人の宮殿の警備員は、昨夜イルマに続く森の中で、死体で発見されたとあった。心臓を、正面から剣でひと突きだった。
 テュリスが舌打ちをする。

「ふん、これでは二人が事件に絡んでいたのかそうでないのか、わからないな。だが、どちらにしろ、この二人は神の民からは外して考えていいだろう」

 テュリスの視線を受けて、エルシャはうなずいた。

「さて、次は……ああ、護送中の三人だな。この三人は、シャクソンからルキヌまでの運び屋らしい。しかし、ただの雇われか首謀者の一味なのか吐かせる前に、三人とも殺された。報告書によると、御者を含めた護衛十人――中に五人――のうち、死者は六人。残り四人によると、森の中に隠れていた男たちが突然剣で襲撃してきたという。人数は八人、明らかに待ち伏せの様子で、物盗りのような挙動は見られず、馬車内の三人を殺すと逃げるように去っていった、と。殺し方に変わったところはないぞ。三人のうち一人は頸部を一撃、あとの二人は、手や腹にちょっとした切り傷こそあれ、すぐ心臓を貫かれて死んでいる。護衛の誰かを狙ったわけでもなく、これはただ行く手を阻んだから殺っただけだろう」

 エルシャはしばらく黙り込んでいたが、これといった考えは浮かばなかったようだった。

「いっただろう、おまえの考え過ぎだと」

 テュリスがいう。しかしエルシャは先を促した。テュリスが渋々といったていで続ける。

「殺された残りの二人のうち、一人はあの頬に傷のある男だ。これはもういいだろう。もう一人は……ああ、こいつはまだ捕まる前に殺されたんだな。死体を発見したから調べてみたら、容疑者のひとりだった、ってやつだ。場所はエルスライの外れ、東北東方向の森の入り口。体中が切り刻まれていたらしい。致命傷は頸部の切り傷だ。……こりゃひどいな、あまりに細かく切ったものだから、服はぼろぼろで、裸同然だったらしい。一見では、男か女かもわからないほどだったと書いてるぞ。よほど切られたんだな」

 テュリスが意味ありげに笑う。エルシャはそれを無視して資料を手に取った。

「あの傷の男とこの男の二人だけは、殺され方が違う。……体中が切り刻まれていた、か……。犯人は、この男がサラマ・アンギュースであることは知っていたが、かけらがどこに埋めてあるかまでは知らなかった……」

 たまらずにテュリスが口を挟む。

「いい加減にしろよ。この男は、違う原因で殺されたんだよ。ほかの四人はみな逮捕されてから殺されているが、こいつは違う。あるいは、そうみせかけた口封じかもしれない。いずれにしても、そのどちらかだよ」

 しかし、エルシャはまだ解せないようだった。

「この男の人相と、名前はわかるか?」

 テュリスは諦めのため息をついて別のページを開いた。

「顔はこれだ。ふん、なかなか男前じゃないか。名前はティルセロ・ファリアス。これでいいか」
「家族構成はわからないのか。住んでいた場所は?」
「身元は不明だ。エルスライの町によく出入りしていて、そう名乗っていたそうだ。残念だったな」

 エルシャはしばらく人相図を見ていると、その紙を持って資料室の受付へ向かった。

「おい、どうする気だ」
「許可をもらって、これをもう一枚作らせる。この男について、もう少し知りたいからな」

「エルスライで聞き込みでもするつもりか?」
 呆れたようにテュリスがいう。
「まあ、俺の知ったことではないがね。おまえのその奇怪な行動には、もう口を出さないことにするよ」

 エルシャは気にする様子もなくにやりと笑った。

「それはありがたい」
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