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【第一部:王位継承者】第十二章

決戦②

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 凝縮された力の塊は、結界と接触してまばゆい光を放った。見えない壁との攻防の末、突然ぱあんと何かの砕ける音がした。

「まさか……!」

 サルジアが悲鳴に似た声をあげる。

「結界が破れたんだ!」

 しかし、それだけではなかった。ディオネの力は結界を突き抜け、サルジアの体に命中した。

「ああああっ!」

 サルジアが倒れこんだ。右肘から下がはじけとび、ぼたぼたと血がしたたり落ちて絹のドレスを朱に染める。同時に、五人を巻き込んでいた竜巻が消失し、全員どさりと床に落ちた。
 サルジアは歯を食いしばり、怒りのこもった目で五人を凝視しながら左手で傷口をわしづかみにした。しゅうしゅうと音を立て、傷が焼けるようにふさがれる。彼女は不気味な笑みを浮かべた。

「やってくれたね……もう容赦はしないよ!」

 左腕を突き出すと、目もくらむような閃光が手のひらから放たれた。

「ナイシェ!」

 ディオネの掛け声に応じるように、ナイシェは光に向かって夢中で両手を突き出した。

 私の、創造の力――サルジアの力も通さないほどの、分厚い壁を……!

 光と光がぶつかった。激しい音がして光が消滅し、そこにがれきの山が現れる。ナイシェの創った壁が、サルジアの力を食い止めた跡だった。

「小生意気な者ども!」

 サルジアが叫び再び左手を突き出す。ナイシェも対抗しようとし、考えた。

 同じことの繰り返しでは、防戦一方になってしまう。何とか彼女の動きを止めないと――。

 とっさに、同じ力をサルジアの目の前めがけて発動した。サルジアの手のひらが光るのと、そのすぐ前に新たな光が現れるのは、ほぼ同時だった。
 サルジアの力が放たれた瞬間、そこに天井まで届くほどの巨大な石の壁が生まれた。地下室が激しく揺れるほどの爆音が轟き、サルジアの頭上から大小のがれきが降り注ぐ。

「今だ!」

 その下半身ががれきに埋まった直後、テュリスが飛び出した。すらりと剣を抜き、心臓めがけて一直線に繰り出す。

「死ね!」

 剣が心臓を貫く寸前、サルジアの口が呪文を紡ぎ、一瞬にしてテュリスの剣が砂へと姿を変えた。そのまま左手をテュリスの左胸へと伸ばす。

「死ぬのはおまえだ……!」

 サルジアの指先から爪がしゅるしゅると伸びる。

「貫いてやるわ!」

 とっさに身をかわしたテュリスの左肩に、サルジアの鋭い爪が突き刺さる。

「く……っ!」

 激烈な痛みがテュリスの全身を支配する。爪はさらに伸長を続け、容赦なくテュリスの肩をえぐった。耐えがたい痛みを堪えながら、テュリスは肩に突き立てられたサルジアの手首をしっかりとつかんだ。

「残った片腕の動きさえ封じれば、こっちのもんだ――」

 にやりと笑ったテュリスの背後から、エルシャが飛び出す。サルジアが気づいたときには、すでに遅かった――エルシャの剣が、サルジアの胸にまっすぐ向かっていた。左腕を引き抜こうとするが、テュリスがそれを許さない。サルジアは必死に呪文を唱え始めた。

「――遅い!」

 呪文を唱え終わる前に、エルシャの剣がサルジアの心臓を貫いた。

「うああ……っ」

 獣のような呻き声をあげ、サルジアは力なく仰向けに倒れた。胸から鮮血があふれ出し、見る間に血だまりを作る。サルジアは最後の力で頭をもたげ、とぎれとぎれに言葉を吐いた。

「私を……殺しても……もう、遅い……ジュノレは……戻らない――」

「ジュノレは、俺が治す」

 静かに、エルシャがいった。サルジアはわずかに口角をつりあげて笑った。

「それも……いいでしょう……でもね――いつか、必ず……私を殺したことを、後悔する――」

 そういうと、ゆっくりと血の海に横たわり、そのまま、二度と動くことはなかった。

 しばらくの静寂のあと、ジルバの声が地下室に響き渡った。

「これをもって、サルジア・キッカスの処刑を終了する」
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