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【第一部:王位継承者】第十二章

召喚

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「兄上、お探ししておりました」

 本宮である水晶宮を歩く二人の背後から、男性の声がした。

「兄上、テュリス殿。宮廷長のワーグナと、宮廷魔術師長のジルバから、早急な用事があるそうです」
「……ついに来たか」

 エルシャは安堵とも不安ともとれるため息をついた。
 宮廷が調査し始めるだろうことはわかっていた。ジュノレやサルジア、それにテュリスやエルシャ自身のこの数か月間の行動は、不審に思われても仕方のないものだったからだ。しかし――。

「この呼び出しで、事態が好転するか、悪化するか……」

 エルシャはテュリスと顔を見合わせると、ワーグナとジルバが待つ紅玉宮へと向かった。





 そこには、白いあごひげを蓄えた老人と、さらに年配に見える純白のローブをまとった男がいた。そして、そのすぐ手前に、ナイシェとディオネ、そしてフェランが――男性の姿のままで――立っている。

 やはり、この件か。

 エルシャは険しい顔つきで前へ進み出た。

「早急なご用件とは……?」

 白いあごひげの男性、宮廷長のワーグナが、口を開いた。

「最近、ジュベール様のご様子がおかしいという話が、多くの者から報告されておりまして、調べたところ、不思議なことがわかったのです」

 そして、隣にいるジルバに目を向けた。ジルバはゆっくりと話し始めた。

「ジュベール殿に、ある種の魔術のようなものがかけられていることが判明したのじゃ。そして、かけている人間が、母君であられるサルジア殿ということもわかった」

 二人は息をのんだ。

 どうやら、事態は好転しそうだ。

 ジルバが続けた。

「そこで我々は、サルジア殿の調査を行った。ジュベール殿に使われた術は、現在解明されている三大魔術のうちのどれにも該当しなかった。じゃが、サルジア殿が宮廷に正式な手続きをせずに、黒と赤の魔術を習得していることが明らかになった。この時点で、宮廷魔術法により、サルジア殿は三大魔術不法習得の罪で処刑されねばならない」

 三大魔術は現在、アルマニア宮殿内の魔術研究訓練所でのみ正式に習得できることとなっている。貴族の子弟か、上級貴族の推薦を受けない限り、訓練を申し込むことすらできない。申し込みが受理されても、実際に入所するには厳格な審査が待っており、これを突破することはたとえ上級貴族であろうと至難の業だ。それは、魔術の力がときとして一国を滅ぼすほどに強大なものであることがわかっているからだった。だからこそ、正式な手続きを経ずに魔術を不法習得した者は、何人なんぴとであれ処刑されることになっている。
みな黙って、ジルバの続きを待った。

「ジュベール殿の調査とともに、エルシャ殿――貴方についても、少々調べさせていただいた」
 そういうと、ジルバはフェランとディオネ、そしてフェランのほうに目を向けた。
「このお三方は、偉大なる神の民、サラマ・アンギュースではないかね?」

 エルシャは大きくひとつ、深呼吸をした。

「――そのとおりです」
 
 ジルバはうなずいた。

「そして……貴方がたは、捕えられたジュベール殿を救出せんがために、テュリス殿と協力することにした。これも、正しいですな?」

 今度はテュリスが答えた。

「ええ、そうです」

 ジルバは再びうなずいていった。

「話は戻るが……。サルジア殿は王族、しかも現在のアルマニア六世陛下のご息女であられる。その名誉から、王族内に出でたる背徳者は内密に処せられることになっておる。じゃが……我々宮廷魔術師のみで内密に処理するには、サルジア殿の操る魔術の力は強大すぎる。三術と異なるその力は、計り知れない。そこで……」
 ジルバは一度言葉を切ると、集まった五人をひとりひとり見つめていった。
「貴方がたの、協力を仰ぎたい。サルジア殿の力は未知のものじゃ。しかし、偉大なる神の民の力をもってすれば、打ち勝つことができるやもしれぬ」

 宮廷の調査能力はさすがのものだった。公には紹介していないナイシェとディオネの正体を短期間で突き止め、侍女として働いていたフェランが男であることも知っていた。この様子ならば、テュリスが赤魔術を不法習得したことも、調べ上げているかもしれない。今回はより悪質なサルジアの処刑のために、あえて目をつぶるといったところか。

「これは、交渉や取引ではない。宮廷からの、要請じゃ。貴方がたの協力なしには、この案件は内密には処理できぬ。どうか、聞き入れてはくださらぬか」

「……ひとつ、訊きたいことがあります」
 エルシャが尋ねた。
「サルジアを処刑した場合……ジュベールは、どうなるのですか」
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