50 / 110
第7章
萌葱と祐輔②
しおりを挟む
「はい、お世話になります」
この花屋がふたりのデートスポットなのはもうばれていて、祐輔も照れながらそう答える。ごゆっくり、といって店の奥へ消えていく山吹を、じっと萌葱が見つめていた。
「……山吹さんが、どうかした? こないだも、何か気になるみたいだったよね?」
祐輔の問いに、萌葱が小さく首を傾げる。
「うーん……あの人のオーラがね、すごく珍しいから」
「何色?」
「金色」
「珍しいの?」
「見たことない。色を見ればだいたいその人の性格もわかるけど、あの人は……なんだかすごく、不思議」
「どんなふうに?」
「優しいんだけど、距離があるというか。穏やかだけど、心を開いていないというか」
「ふうん?」
そもそも山吹のオーラ自体見えていない祐輔には、何が不思議なのかもわからなかった。確かに、あの凛とした雰囲気は簡単には声をかけてはいけないようなオーラにも見えるが。
「でもさ、その人の色が見えるのって、便利だよね。色で、いい人か悪い人かも何となくわかるんでしょ?」
「うーん、まあ、何となく、ね――」
そこまでいって、萌葱が言葉を止めた。視線が、遠くへ注がれている。見ると、道路の反対側のだいぶ先に、黒い服の男が立っていた。もう初夏の陽気で汗がにじむほど暑いのに、その人は長袖の黒いコートを羽織っている。それが異様だった。
萌葱が祐輔の手を取った。
「行きましょ、祐輔」
「……あの人が、どうかしたの?」
萌葱は視線を落として足早に歩き出した。
「あの人も、なんか変……」
「色のこと?」
萌葱は黙ってうなずいた。
「あんな色も、初めて見る。……真っ黒。ものすごく暗い、黒」
そういう萌葱の目には、不安とも恐怖ともとれる色が揺れている。
色がその人間の性格までをも表すというのなら、真っ黒というのは――。
祐輔はちらりと男を盗み見た。歩道に立ったまま、動く気配はない。
確かに、不気味だ。
祐輔は思った。
黒のオーラが萌葱を不安にさせるというなら、あの全身黒ずくめの格好自体が、充分に恐ろしい。黒は、祐輔にも黒として映る。
「……早く行こう、萌葱」
祐輔は萌葱の手を一層強く引き寄せた。
この花屋がふたりのデートスポットなのはもうばれていて、祐輔も照れながらそう答える。ごゆっくり、といって店の奥へ消えていく山吹を、じっと萌葱が見つめていた。
「……山吹さんが、どうかした? こないだも、何か気になるみたいだったよね?」
祐輔の問いに、萌葱が小さく首を傾げる。
「うーん……あの人のオーラがね、すごく珍しいから」
「何色?」
「金色」
「珍しいの?」
「見たことない。色を見ればだいたいその人の性格もわかるけど、あの人は……なんだかすごく、不思議」
「どんなふうに?」
「優しいんだけど、距離があるというか。穏やかだけど、心を開いていないというか」
「ふうん?」
そもそも山吹のオーラ自体見えていない祐輔には、何が不思議なのかもわからなかった。確かに、あの凛とした雰囲気は簡単には声をかけてはいけないようなオーラにも見えるが。
「でもさ、その人の色が見えるのって、便利だよね。色で、いい人か悪い人かも何となくわかるんでしょ?」
「うーん、まあ、何となく、ね――」
そこまでいって、萌葱が言葉を止めた。視線が、遠くへ注がれている。見ると、道路の反対側のだいぶ先に、黒い服の男が立っていた。もう初夏の陽気で汗がにじむほど暑いのに、その人は長袖の黒いコートを羽織っている。それが異様だった。
萌葱が祐輔の手を取った。
「行きましょ、祐輔」
「……あの人が、どうかしたの?」
萌葱は視線を落として足早に歩き出した。
「あの人も、なんか変……」
「色のこと?」
萌葱は黙ってうなずいた。
「あんな色も、初めて見る。……真っ黒。ものすごく暗い、黒」
そういう萌葱の目には、不安とも恐怖ともとれる色が揺れている。
色がその人間の性格までをも表すというのなら、真っ黒というのは――。
祐輔はちらりと男を盗み見た。歩道に立ったまま、動く気配はない。
確かに、不気味だ。
祐輔は思った。
黒のオーラが萌葱を不安にさせるというなら、あの全身黒ずくめの格好自体が、充分に恐ろしい。黒は、祐輔にも黒として映る。
「……早く行こう、萌葱」
祐輔は萌葱の手を一層強く引き寄せた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。
ねんごろ
恋愛
主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。
その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……
毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。
※他サイトで連載していた作品です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる