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第7章

花屋の女

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『……こちらは事故現場から十キロほど離れた町です。工場自体が郊外の田畑の中にあるものですから、一番近い町までも、これくらい離れているわけです。ちょっと町の方にお話を伺ってみましょう。――すみません、テレビ局の者ですが……』

 リポーターが街角のエプロンをつけた女性に声をかけた。どこかの店員らしい。

「このニュースがどうかした?」

 朱里の問いには答えず、桔梗は食い入るように画面を見ていた。画面中央ではエプロンの女性が丁寧に受け答えをしている。しかし、桔梗が見ているのはその向こうだった。

「……今ね、映った女性が……不思議な色をしていたものだから」

 よく見ると、エプロンの女性の後ろのほうで、違う人間が何人か映り込んでいる。中年女性がひとりと、比較的若い男女がふたり。どうやら花屋のようだ、男性が大量の花を抱え、若い女性が何やら置き場所の指示をしているらしい。

『――というわけで、主にビニールハウスで栽培されている花に関しては、特に入荷や栽培に支障はないようです。ただ、近くでとれる野菜に関しては、工場から何か有害な物質が排出されたのではないかという風評被害がありまして、特に地元の野菜を扱う八百屋の方は、売れ行きが半減したとおっしゃっていました』

 そういうリポーターの後ろで、男女が笑顔で話している。しばらくすると、男性は会釈をして中年女性とともに軽トラックに乗り込んで去っていった。

「……この人?」
「違う。こっちの、若いほうの女性。……見たことのない色だわ」
「どんな色?」
「金色」

 朱里には、金色のオーラがどれほど珍しいものなのか、さっぱりわからなかった。そもそもひとりとして同じ色の人間がいないのなら、金のオーラを持つ女性がいてもおかしくはないのではないだろうか。

「金、か……。桔梗の仮説で行くと、その人は、とても気高くて女王様みたいな感じ?」

 冗談のつもりで訊いてみたが、桔梗は考え事をしているのか返事をしない。マウスを操作して、しきりに女性の周辺を見ている。それから首を傾げた。

「見覚えはないと思うんだけど……なんだか気になるわ。確かにね、同じ色の人間はいないといったけど、たいていは緑とか赤とか、似たような系統のグループに収まるのよ。でも……金は……」

 しばらく沈黙した後、桔梗は朱里に告げた。

「紺碧や紅の意見も訊いてみたいわ。ねえ朱里、この花屋の名前と住所、調べてくれる?」
「ええ!? いいけど、そこに行くつもり? FC社や木崎主任のことはどうするのよ」
「それは後回し。このお花屋さんは研究所からも近いみたいだし、何か、手掛かりがあるのかもしれない」
「ん~、そういうことなら」

 携帯電話を取り出すと、朱里は哲平と華へメールをした。正直にいうと、少しほっとしていた。あの恐ろしい黒服連中に守られているかもしれない主任に話をつけにいくよりは、花屋に行くほうがよっぽど安全に決まっている。
 桔梗の言い分をメールした後、一時停止した動画を確認して、追記した。

『花屋の名前は、フローリスト西原です。ちょっと調べてみて』
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