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第5章

朱里①

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 最近、哲平の様子がおかしい。あれは、紅ちゃんという彼女ができたからというだけではないと思う。それをいうなら、恋人ができたということ自体、おかしい。あんな、なよなよした哲平みたいな男に、あんなに若くて可愛い彼女が。

 もやもやしたものを抱えながら、朱里あかりは大学を目指した。一時間目に間に合うよう歩いていると、何メートルか先に哲平の姿が見えた。紅は一緒ではないらしい。大学に行くには不自然なほど大きなリュックを背負っている。普段は教科書すらまとも持ってこないくせに。

「哲平、おはよ――」

 今日こそは問い詰めようと足を速めた瞬間、誰かに肩を叩かれた。振り返ると、黒髪の女性が立っていた。朱里より少しだけ背の高い、艶やかな長髪の女性。細い目と赤い唇の、和風美人だ。

「こんにちは」

 凛とした声で微笑まれると同時に、朱里は少しだけ顔をしかめた。
 昨日、同じ時間帯に、道を尋ねてきた女性だ。少しばかり人目を引く美人だったから、覚えている。そのときは一番近い図書館はどこかと訊かれた。普通に案内してあげたが、二日続けて声をかけてくるとなると、ただの迷い人ではなさそうだと警戒する。

「昨日はどうもありがとう」
「いえ……」

 すぐ歩き出そうとする朱里の手を、女性が優しく、しかし有無をいわさぬ仕草で掴んだ。

「今日は、公園を教えていただきたくて。どこか、心安らぐ公園はないかしら? 芝生と日陰があれば、十分です」

 今度は公園か。

 本当に道を聞きたいだけなのか半信半疑ながらも、公園程度なら断る理由もない。

「それなら、この川沿いに緑地が広がってますよ。ベンチもあるし、ちょうどいいんじゃないかしら。ほら、あそこの橋、見えます? 土手の右側が、公園みたいな遊歩道になってます。橋まで行けば、すぐ横に土手まで降りる階段が見えますから、そこから行けます」
「ご親切にどうもありがとう」

 女性はにっこりと微笑むと、静かに去っていった。

 ……本当に、道を聞きたかっただけなのか。

 どうも腑に落ちないものを感じながら、朱里は前を向いてはっとした。もう、哲平の姿が見えなくなっている。

「ああもう、今度こそ聞き出そうと思ってたのに!」

 女性のせいでチャンスを逸した。午前中は選択授業で哲平と会うことはない。もやもやの上にイライラが重なるのを感じながら、朱里は大学へと足を速めた。
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