21 / 110
第4章
黒いコートの男①
しおりを挟む
夕方から降り出した雨は音もなくアスファルトを濡らし、人々は家路を急ぐ。鞄や手で雨をよけながら足早に進む人々の中、男は緩慢な足取りで黒いコートのフードをかぶった。
雨雲が覆う灰色の空が好きだった。陽が沈み、世界が次第に闇に溶け込んでいくさまが好きだった。暗ければ暗いほど、目障りなものを見なくて済む。
人気のなくなった公園の片隅で、雨に濡れたままうなだれている女がいた。ベンチに座り、雨ざらしの長い髪は頬に張りついている。男は静かに女へ近寄った。触れるほど近寄って初めて、女が顔をあげる。女はしばらく男を凝視したあと、不思議そうな顔をした。
「あなた……は……」
男は女を見下ろしたまま静かにいった。
「ほう……俺が、わかるのか」
その場にしゃがみこみ、今度は下から女の顔を覗き込む。
「俺の色が、わかるのか」
そういった男の口角が不自然につり上がり、女の目に怯えが宿る。立ち上がろうとした女の首を、男の手が一瞬早く掴んだ。
「うう……っ」
黒い革の手袋が、女の首に食い込む。色白な女の首がぼんやりとその輪郭を失い、やがて泥のような灰色になり、そして漆黒に染まる。抵抗しようと男の手首を掴んだ女の腕が、しばらくしてだらりと垂れ下がった。
「……どのみち、時間切れだ」
男は小さく吐き捨てると、手を離した。どさりと女の体が落ち、ベンチに倒れる。黒く変色した首は、元に戻っていた。
「……ふん、出来損ないが」
女が動かないのを確認すると、男は来たときと同じゆっくりとした足取りで、去っていった。
雨雲が覆う灰色の空が好きだった。陽が沈み、世界が次第に闇に溶け込んでいくさまが好きだった。暗ければ暗いほど、目障りなものを見なくて済む。
人気のなくなった公園の片隅で、雨に濡れたままうなだれている女がいた。ベンチに座り、雨ざらしの長い髪は頬に張りついている。男は静かに女へ近寄った。触れるほど近寄って初めて、女が顔をあげる。女はしばらく男を凝視したあと、不思議そうな顔をした。
「あなた……は……」
男は女を見下ろしたまま静かにいった。
「ほう……俺が、わかるのか」
その場にしゃがみこみ、今度は下から女の顔を覗き込む。
「俺の色が、わかるのか」
そういった男の口角が不自然につり上がり、女の目に怯えが宿る。立ち上がろうとした女の首を、男の手が一瞬早く掴んだ。
「うう……っ」
黒い革の手袋が、女の首に食い込む。色白な女の首がぼんやりとその輪郭を失い、やがて泥のような灰色になり、そして漆黒に染まる。抵抗しようと男の手首を掴んだ女の腕が、しばらくしてだらりと垂れ下がった。
「……どのみち、時間切れだ」
男は小さく吐き捨てると、手を離した。どさりと女の体が落ち、ベンチに倒れる。黒く変色した首は、元に戻っていた。
「……ふん、出来損ないが」
女が動かないのを確認すると、男は来たときと同じゆっくりとした足取りで、去っていった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険
alphapolis_20210224
ファンタジー
凄惨な戦いだった魔王大戦は人類が勝利した。
しかし、戦後の復興に伴う軍備縮小により、火球の魔法使いだったクロウは職を失う。
転転と職を変え、なんとか生きていたが、やっとましな仕事にありつく。
荷馬車の護衛運送業務だった。
不審なところもあったが、背に腹は代えられない。
だが、輸送途中で襲撃に会う。そこで破損した荷からあらわれたのは緑の瞳の少女だった。
※本作品においては暴力の描写があります。小説上の表現として用いています。その点ご理解の上お読みください。
*「カクヨム」に投稿しています(名義:@ns_ky_20151225)。
*「小説家になろう」に投稿しています(名義:naro_naro)。
*「エブリスタ」に投稿しています(名義:estar_20210224)。
*「ノベルアップ+」に投稿しています(名義:novelup20210528)。
スキルガチャで異世界を冒険しよう
つちねこ
ファンタジー
異世界に召喚されて手に入れたスキルは「ガチャ」だった。
それはガチャガチャを回すことで様々な魔道具やスキルが入手できる優れものスキル。
しかしながら、お城で披露した際にただのポーション精製スキルと勘違いされてしまう。
お偉いさん方による検討の結果、監視の目はつくもののあっさりと追放されてしまう事態に……。
そんな世知辛い異世界でのスタートからもめげることなく頑張る主人公ニール(銭形にぎる)。
少しずつ信頼できる仲間や知り合いが増え、何とか生活の基盤を作れるようになっていく。そんなニールにスキル「ガチャ」は少しづつ奇跡を起こしはじめる。
俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。
ねんごろ
恋愛
主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。
その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……
毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。
※他サイトで連載していた作品です
魔法のトランクと異世界暮らし
猫野美羽
ファンタジー
曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。
おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。
それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。
異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。
異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる──
◆◆◆
ほのぼのスローライフなお話です。
のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。
※カクヨムでも掲載予定です。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜
金華高乃
ファンタジー
〈異世界帰還後に彼等が初めて会ったのは、地球ではありえない異形のバケモノたち〉
異世界から帰還した四人を待っていたのは、新たな戦争の幕開けだった。
六年前、米原孝弘たち四人の男女は事故で死ぬ運命だったが異世界に転移させられた。
世界を救って欲しいと無茶振りをされた彼等は、世界を救わねばどのみち地球に帰れないと知り、紆余曲折を経て異世界を救い日本へ帰還した。
これからは日常。ハッピーエンドの後日談を迎える……、はずだった。
しかし。
彼等の前に広がっていたのは凄惨な光景。日本は、世界は、異世界からの侵略者と戦争を繰り広げていた。
彼等は故郷を救うことが出来るのか。
血と硝煙。数々の苦難と絶望があろうとも、ハッピーエンドがその先にあると信じて、四人は戦いに身を投じる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる