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第1章

「よろしくね、人間さん」①

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『本日の運勢、残念ながら最下位なのは、山羊座のあなた! 思わぬハプニングに振り回される一日となるでしょう。よそ見をして歩いていると、転びますよ! でも大丈夫、そんなあなたの運勢を盛り上げる今日のラッキーカラーは、赤! 赤いものを身に着けて出かけるようにしましょう』

 けだるそうに電源を消し、哲平はゆっくりと重たい腰を上げた。時計を見ると、もう九時前だ。

 ……今さら行っても、どうせ遅刻だな。運勢も最悪だし、まあのんびり行くか。

 リュックを背負い、いつもの茶色いスリッポンを履こうとして、止まる。少しだけ考えたあと、赤いストライプの入った運動靴に足を入れた。
 世間は五月、爽やかな陽気で皆元気そうに通りを闊歩している。通勤ラッシュもとうに過ぎ、哲平は大学の最寄り駅でのろのろと電車から降りた。大学まではここから十分足らずだ。大通りを正門に向かっていると、ふとどこからか声が聞こえてきた。

『あら、素敵な緑』

 若い女の声だ。きょろきょろとあたりを見回す。なんとなく、自分に話しかけられたような気がしたが、それらしき人は見当たらない。

「……気のせいか」

 もう一度歩き出そうとして、再び女の声が飛び込んできた。

『もしかして、聞こえてる?』

 今度こそ、はっとして足を止める。

「……だ、誰?」

 小さい声で窺うのは、その声の出所がまったくわからないからだ。いや、出所というより、その声は耳からではなく直接脳へ響いてくるような、残響の残る不思議なものだった。

『君! そこの、緑の君! 聞こえてるの?』

 だんだんと恐ろしくなった。周りの人間は、訝し気に哲平を見ながら通り過ぎていく。どうやら、聞こえているのは自分だけらしい。
 哲平は自分の洋服を見下ろした。白いシャツに、青いジーパン。どこにも、緑の要素はない。自分のことではないのだろうか。

『あっ、ちょっと、無視しないでよ、白いシャツの君!』

 やはり自分のことだ。うつむきがちに足を速めても、声は追いかけてくる。なのに、追いかける人影はない。
 妙な汗と動悸を感じながら、哲平はやがて走り出し、逃げるように狭い路地へと駆け込んだ。ぱっと振り返る。大通りから追ってくる人間はいない。

 気のせいか? 幻聴か?

「やあ! 君、聞こえてたんだね?」

 突然背後から肩を叩かれ、哲平は悲鳴をあげて飛び上がった。
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