上 下
110 / 150
第三章 原初の破壊編

#106 ねえ、行かないで

しおりを挟む

 鬼人の会が作り出す異界に集結した地球の連合戦力。
 地球防衛組、陸たちA班とガーネたちB班は、地球上で暴れる十二波動神を止める為、異界を発った。

 そして、今異界に残っているのは来人、テイテイ、秋斗の崩界突入組の三人と、メガたち技術班と美海たち補給班からなる、支援組の面々だ。

 メガとギザが急ぎで作業を進めてはいるが、崩界へ繋がるゲートの開通にはもうしばらく時間がかかる。
 崩界突入組は今しばらくの待機となり、束の間の休息が与えられた。

 しかし、今この瞬間にも世良はアークに取り込まれ、そして地球の各所は戦場となっている。
 急く気持ちも有りゆっくりと何もせずにはいられなかった来人は、一人異界の森――あの時の湖の畔で剣を振るっていた。

「――はあっ!!」

 金色の剣が弧を描き、周囲に『泡沫』を散らす。
 光を乱反射するバブルに、歪んだ来人の像が映し出され、そして他にもう一人の姿がバブルに映っていた。

「あれ? 美海ちゃん、どうしたの?」

 何となく、一人で鍛錬していた所を見られてしまった来人は気恥ずかしくなって、すぐに剣を仕舞った。
 金色の剣は絆の三十字へと戻り、来人の首にネックレスの形として納まった。

「うん、えっと、来人どこに居るかなって探したてたら、秋斗がこっちに居るんじゃないかって。ごめん、邪魔だった?」
「ああ、秋斗にはお見通しか。ううん、大丈夫。何か動いてないと落ち着かなかっただけだから。丁度そろそろ休もうと思ってたんだ」

 そう言って、来人は近くの木陰に腰を下ろして、手招きして美海を呼ぶ。
 美海もそのまま来人のすぐ隣へと腰を下ろした。

 その後、しばらくの間が有ってから、おずおずと美海は話し始めた。

「ねえ、来人」
「なあに?」
「本当に、行っちゃうの?」

 行く――それはつまり、崩界へ。世良を救いに。アークと戦いに。
 来人は優しく、穏やかに答える。

「うん。行くよ」
「相手、強いんでしょ? 来人よりも、ずっと」
「うん」

 来人が頷き短く肯定すると、美海はぴくりと身体を震わせ、またしばらくの間。
 そして、身を乗り出して近づいて、来人の顔を覗き込み、ぴたりと視線を合わせて、

「じゃあさ、やめようよ!」
「やめるって、それは、戦う事を?」
「そうだよ! メガもさ、言ってたじゃん! あっちが次に現れるのは、百年後かもしれないって!」

 メガは言っていた。
 アークの居る世界――崩界とこちらとでは、世界と世界の距離が遠く、時間の流れが異なる。
 よって、アークが世良と完全な融合を果たして再び現れるのがいつになるのか分からないのだ。
 明日現れて世界が滅ぶかもしれないし、百年先か千年先かも分からない。
 もしかすると今から向かっても手遅れかもしれないし、どうなっているか、どうなるか分からない。

「じゃあさ、その百年、私と一緒に居てよ! 私、世良って子の事、全然知らないよ! だから、その子がどれだけ来人にとって大切なのか、分からない。分からないから、諦めてなんて簡単には言えない。――でもね!」

 美海は言葉を続け、来人はそれを静かに聞いていた。

「でもね、私は今ここに居て、これかれも来人の傍に居てあげられるよ! 今も、そしてこれからも、来人の傍に居るのは、居られるのは私!」

 美海は縋りつくように来人の腕を掴み、目に涙の粒を浮かべている。

「……来人、私、来人が死ぬのは嫌よ。絶対に嫌。ねえ、来人。私がお婆ちゃんになって、死ぬまで、ずっと一緒に居てよ」

 我慢できなくなって、決壊して、涙が溢れ出る美海。
 そんな美海を、来人は優しく抱き止める。

「――美海ちゃん。僕は、最初からそのつもりだよ」
「え? でも、だって、行っちゃうんでしょ……?」

 崩界へ行くという事は、アークと戦うという事は、それ即ち死と殆どイコールだ。
 大前提として、崩界へのゲートが正常に開通するかどうかも分からない。
 ゲートの先は無の空間で、そこに放り出されて死ぬかもしれない。
 
 仮に無事崩界に辿り着けたとしても、あっけなくアークに殺されて終わる可能性だって有る。
 そしてそのあまりにも細い糸を通して無事に勝利出来たとしても、帰って来られるのは百年後かも千年後かもしれない。
 無事帰り着いたとしても、時の流れの違う地球にはもう美海は居ないかもしれない。

 美海は神の事情に詳しい訳では無いはずが、こういう事態だ、仲の良い友人であるギザから詳しい話を聞いたのだろう。
 そして、勝算なんて殆ど無い戦いだという事を理解したのだ。
 だから、美海は止めに来た。

 来人は優しく美海の頭を撫でる。

「好きだよ、美海ちゃん。お爺ちゃんとお婆ちゃんになって、死ぬまで、一緒にいよう」
「じゃあ――」

 美海の表情がぱっと明るくなり、顔を上げる。
 じゃあ――しかし、その先の言葉は続かなかった。

「でもね、僕は行くよ」
「え……。なん、で……?」

 ――どうして、私を置いて行ってしまうの?

「僕はアークを倒して、世良を救って、そして美海ちゃんの元に帰って来る。だから、大丈夫。僕は、何一つ諦めない」
「そんな! そんなのって――」

 出来る訳が無い。そう思った。
 でも、それを口にするのは来人に対しての裏切りな気がして、思っていても、その先を言う事は出来なかった。

 来人はそれも分かっていて、美海の気持ちも全てわかっていて、それでも――、

「ねえ、美海ちゃん。僕が今戦いを諦めて、アークを放置して、地球の十二波動神や天界の追手を何とかして、それで運よく生き延びて、美海ちゃんと一緒に人間として、百年の時間を過ごしたとするよ」
「うん……」
「じゃあ、その後、僕たちの子供はどうなるんだろう?」

 美海は驚き、来人を見る。
 来人は未来を思い描いていた。

「きっと、僕たちは死ぬまで一緒に過ごして、幸せだったって言って死ぬと思う。
 まあ、僕は神様だから、美海ちゃんよりももっと長く生きる事になってしまうだろうけれど、美海ちゃんと一緒の人間としての人生は、きっと無事に幸せに過ごせるんだろうと思う」

 美海はそう来人が話す間も、「うん、うん……」と小さく相槌を打っていた。

「でもね、そんなあり得そうな未来の、もっと未来の事も、考えてみたんだ。
 きっと僕たちの間には子供が居るだろうし、孫だって出来ると思うんだ。
 そして、僕は長生きするだろうから、神様の僕はその先までも見て行く事になるはずなんだ」

 来人の言わんとする事を察し始めた美海は「来人……」と、そう小さく溢す。

「そうするとね、僕は見る事になるんだ。
 僕が世良を、アークを倒す事を諦めて、ただ目先の幸せに縋ると、その先の未来を見る事になってしまうんだ。
 僕の子供が、孫が、子孫が、大切な人達の生きる世界が、世良と融合を果たして完全な力を取り戻したアークが、その全てを破壊し尽くすその様を、見る事になるんだ」

 全ては仮定の話だ。
 十二波動神を倒して、アークが百年以上も現れず、来人が人間として美海と過ごし生きるという、そんな有るかも知れない未来の話。
 しかし、そんな未来はあり得ない。

「僕は美海ちゃんの事が大切だ、それは嘘じゃないよ。でも、それと同じくらい、美海ちゃんと一緒に作って行く未来も大切なんだ。
 それは美海ちゃんだけじゃない。友達も、一緒に戦った仲間たちも、そして家族も、全部が全部、その全てが大切だ」

 美海は溢れる雫を抑えきれず、泣きじゃくり、ぎゅっと手に力を込める。
 来人の服に寄った皺を、小さな掌で掴む。

「僕はその全てを諦めない。一つ一つの全てを大切にしたい。
 僕は必ず帰って来るよ、美海ちゃん。だから、笑顔で送り出して欲しいな。
 それでね、帰ってきたら、おかえりって、また笑顔で迎えて欲しい」

 美海は手の甲で必死に涙の雫を拭い取り、泣き腫らした赤い瞳で、来人を見上げて、

「うん……わかった。わかったよ、来人……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「魔物肉は食べられますか?」異世界リタイアは神様のお情けです。勝手に召喚され馬鹿にされて追放されたのでスローライフを無双する。

太も歩けば右から落ちる(仮)
ファンタジー
その日、和泉春人は、現実世界で早期リタイアを達成した。しかし、八百屋の店内で勇者召喚の儀式に巻き込まれ異世界に転移させられてしまう。 鑑定により、春人は魔法属性が無で称号が無職だと判明し、勇者としての才能も全てが快適な生活に関わるものだった。「お前の生活特化笑える。これは勇者の召喚なんだぞっ。」最弱のステータスやスキルを、勇者達や召喚した国の重鎮達に笑われる。 ゴゴゴゴゴゴゴゴォ 春人は勝手に召喚されながら、軽蔑されるという理不尽に怒り、王に暴言を吐き国から追放された。異世界に嫌気がさした春人は魔王を倒さずスローライフや異世界グルメを満喫する事になる。 一方、乙女ゲームの世界では、皇后陛下が魔女だという噂により、同じ派閥にいる悪役令嬢グレース レガリオが婚約を破棄された。 華麗なる10人の王子達との甘くて危険な生活を悪役令嬢としてヒロインに奪わせない。 ※春人が神様から貰った才能は特別なものです。現実世界で達成した早期リタイアを異世界で出来るように考えてあります。 春人の天賦の才  料理 節約 豊穣 遊戯 素材 生活  春人の初期スキル  【 全言語理解 】 【 料理 】 【 節約 】【 豊穣 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】 【 快適生活スキル獲得 】 ストーリーが進み、春人が獲得するスキルなど 【 剥ぎ取り職人 】【 剣技 】【 冒険 】【 遊戯化 】【 マテリア化 】【 快適生活獲得 】 【 浄化 】【 鑑定 】【 無の境地 】【 瀕死回復Ⅰ 】【 体神 】【 堅神 】【 神心 】【 神威魔法獲得   】【 回路Ⅰ 】【 自動発動 】【 薬剤調合 】【 転職 】【 罠作成 】【 拠点登録 】【 帰還 】 【 美味しくな~れ 】【 割引チケット 】【 野菜の種 】【 アイテムボックス 】【 キャンセル 】【 防御結界 】【 応急処置 】【 完全修繕 】【 安眠 】【 無菌領域 】【 SP消費カット 】【 被ダメージカット 】 ≪ 生成・製造スキル ≫ 【 風呂トイレ生成 】【 調味料生成 】【 道具生成 】【 調理器具生成 】【 住居生成 】【 遊具生成 】【 テイルム製造 】【 アルモル製造 】【 ツール製造 】【 食品加工 】 ≪ 召喚スキル ≫ 【 使用人召喚 】【 蒐集家召喚 】【 スマホ召喚 】【 遊戯ガチャ召喚 】

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

召喚出来ない『召喚士』は既に召喚している~ドラゴンの王を召喚したが誰にも信用されず追放されたので、ちょっと思い知らせてやるわ~

きょろ
ファンタジー
この世界では冒険者として適性を受けた瞬間に、自身の魔力の強さによってランクが定められる。 それ以降は鍛錬や経験値によって少しは魔力値が伸びるものの、全ては最初の適性で冒険者としての運命が大きく左右される――。 主人公ルカ・リルガーデンは冒険者の中で最も低いFランクであり、召喚士の適性を受けたものの下級モンスターのスライム1体召喚出来ない無能冒険者であった。 幼馴染のグレイにパーティに入れてもらっていたルカであったが、念願のSランクパーティに上がった途端「役立たずのお前はもう要らない」と遂にパーティから追放されてしまった。 ランクはF。おまけに召喚士なのにモンスターを何も召喚出来ないと信じていた仲間達から馬鹿にされ虐げられたルカであったが、彼が伝説のモンスター……“竜神王ジークリート”を召喚していた事を誰も知らなかったのだ――。 「そっちがその気ならもういい。お前らがSランクまで上がれたのは、俺が徹底して後方からサポートしてあげていたからだけどな――」 こうして、追放されたルカはその身に宿るジークリートの力で自由に生き抜く事を決めた――。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪行貴族のはずれ息子【第1部 魔法講師編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第2部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/450916603 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

処理中です...