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第三章 原初の破壊編
#105 ガイアの契約者たち
しおりを挟む陸たちA班が異界を出て、ガーネとジューゴたちB班もそれに続く。
「それじゃあらいたん、行ってくるネ」
「王様! 行って来ます!」
「行ってらっしゃい。気を付けて」
来人は二人をそれぞれぎゅっと抱き締めて、送り出す。
「らいたんこそ。一番大変なのは、らいたんだネ」
「そうですよ! 僕と先輩のコンビプレーで、こっちはちょちょいのちょいですよ!」
天界での戦いでポセイドンに敗した二人だったが、しかし主人に心配させまいとそう気丈に振舞い、そしてそれを以て自身を奮い立たせる。
「ああ。お前たちなら大丈夫だ。信じてるよ」
来人もそれを解ってか、その背中を押す。
そうして二人の契約者は、鬼人の会と共に戦場へと向かった。
「坊ちゃま、それではわたくしも」
ガーネとジューゴが異界を発った後、準備を終えたイリスがやって来た。
怪我ももうすっかり治り、いつもと同じメイド服に身を包んでいる。
「イリスさん、母さんの事、よろしくお願いします」
「ええ、勿論ですわ。奥様を必ず無事に連れて戻りますわ」
イリスはそう答えた後、そのまま何かを待つ様に来人の前に立っていた。
「……? どうしたんですか?」
「あら、坊ちゃま。意地悪ですわね」
そう言って泣き真似のポーズを取って悲しむ振りをして見せた後、
「わたくしも、坊ちゃまの契約者ですわよ。わたくしには同じ様にしてくれないのですか?」
と、悪戯っぽく笑って見せた。
同じ様にとは、つまりガーネとジューゴと同じ様に、だ。
それはつまり、
「ええっ!? イリスさんは女性だし、人間の姿をしてるじゃないですか」
「坊ちゃまはわたくしの事、お嫌いなのですね……」
イリスはまたもや「およよよ……」とわざとらしい泣き真似をして、来人を困らせる。
イリスはガーネやジューゴと同じガイア族であり来人の契約者だ。
しかし、それでもイリスは二人とは違って神格を持ち、人間の姿をしている。
イリスの外見上はメイド服を来た金髪の綺麗な女性であり、来人はそのイリスを抱き締める事にやや抵抗が有った。
イリスはちらりと、顔を覆う手の指の隙間から来人の様子を窺う。
「はぁ……。分かった、分かったよ」
結局、来人は降参のポーズを取って、イリスの要請を受け入れた。
両手を広げて、ウェルカムの体勢を取る。
流石に自分から抱きしめに行く勇気は出なかった。
イリスは嬉しそうにその腕の中へと飛びついて、そっと来人の背に手を回した。
来人よりも少しイリスの背が高いから、どちらかと言えば来人がイリスに抱きしめられると言う形になってしまった。
しばらく、そうやって黙ったままイリスは来人を抱き締めていた。
来人も照れつつもしばらくされるがままとなる。
その後、満足したのかイリスは来人を離して、
「それでは、行って来ますわ」
「行ってらっしゃい」
――イリスは来人の事が心配だった。
アークという遥かな高みに座す大いなる存在を相手に、勝てるはずが無い。
来人の事を、自分の仕える主人を、何より幼い頃から見守って来た“坊ちゃま”を、そんな相手との戦いに行かせたくは無かった。
それは親心にも似た気持ちだった。
しかし、そんな事は口が裂けても言えはしない。
イリスにもガイア族としての、来人の契約者としての矜持が有った。
来人は自分の意志で、強い信念を持って、戦いに赴こうとしている。
ならば、イリスはその背を押すしかない。
だから、それはイリスの小さな抵抗。
最後の我儘だった。
イリスは来人を、ぎゅっと、強く抱きしめた。
その手から零れ落ちない様に、遠くへ行ってしまわない様に、そう祈りを込めて。
(――坊ちゃま、どうか、どうかご無事で)
異界を発ったイリスは後ろ髪を引かれながらも、天野邸を目指して走った。
今の自分の仕事は、来人の母――天野照子を救出する事だ。
十二波動神たちは動き出した。
相手は神に人の血が混ざる事を忌避し、それが高じて人間へと負の感情を向け、そして邪神に魅入られてしまった神々だ。
ライジンの妻であり、半神半人をこの世に産んだ照子は、確実にその命を狙われている事だろう。
イリスは四肢を獣へと変え、地を蹴る。
――一方、ガーネとジューゴたちB班。
ガーネはその身を“氷のドラゴン”に変化させて、天を飛翔する。
その背にはジューゴと鬼人の会の面々。
ガーネは空を飛びつつも、後輩に声を掛ける。
『ジューゴ、大丈夫だネ?』
「大丈夫って、何がですか?」
ジューゴはそう気丈に振舞って見せるが、ガーネには分かっていた。
『お前、震えてたネ。相手は神、それも強いネ。怖いなら、降りてもいいネ』
「これは――そう、武者震いです! これから武勲を立てて、水の大地の兄様たちに良い報告が出来るかと思うと、今から楽しみで楽しみで! だから、僕は大丈夫です!」
『お前、早口で何言ってるネ……。まあ、そういう事にしといてやるネ』
ガーネはそれ以上追求する事はせず、翼を羽ばたかせる。
やがて、見えて来たのは大きな港町だ。
既にその地には十二波動神が一柱が降り立っている。
港町の人々は恐怖し、逃げ惑う。
人が恐れる、大いなる自然。――津波だ。
海の沖から山をも吞まんとする程の大きな高い津波が港町を向けて迫って来ていた。
人々はその津波から逃れんと走る。
ある者は車に乗り込む。ある者は他の者を押し退け狂乱のままに走る。ある者は絶望に座り込む。
しかし、皆この大自然の起こす絶対的な『破壊』からは、逃れられない。
この地に降り立った十二波動神、かの神の名は“ポセイドン”。
『海』の色を操りし、ギリシャの神の“神格”を得し海神。
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