86 / 150
第三章 原初の破壊編
#86 地を歩く天使と共に
しおりを挟む来人たちがそう話しながら王の間へと向かっていると、不意に声を掛けられた。
「やあ、来人。久しぶりー」
振り返ると、そこに居たのは来人と同じ半神半人にして、三代目神王候補者、今日来人が戦う事になる相手、大熊陸と、その肩に乗ったモシャだった。
陸は既に神化した状態の白金色の髪色で、王の証を変化させた大鎌を肩に担いでいた。
しかし、どこかこれまでと様子が違う事に来人は違和感を覚えた。
「陸、久しぶり――って、あれ? なんか、雰囲気変わったっていうか……、落ち着いた?」
そう。今までの陸なら、神化すると性格まで豹変し荒々しくなっていた。
初対面の時には来人もその神化した陸に襲われ、困らされたものだ。
しかし、今目の前に立つ陸は、神化したしているにも関わらず、とても落ち着いていて、穏やかっで、普段の人間の時の陸と何ら変わらない。
いや、来人の知っている人間の陸よりも、もっと落ち着き切った、まるで悟りの境地でも開いたかのような、余裕さえ感じる。
「そうだねー。来人が居ない間に、僕も強くなった――、というよりは、やっと自分の中の神を理解したって感じかなー」
「自分の中の神を、理解……?」
「その内来人にも分かるよー。それじゃあ、今日はお互い頑張ろうねー」
そう言って、陸は来人を追い抜いて先に行ってしまった。
そんな陸の後ろ姿を見送っていると、後ろでジューゴの相手をしていたユウリが戻って来て、
「陸君はウルス様の天山から戻って来てからは、あんな感じみたいですよ? それに、来人君の居ない間、地球の鬼退治を頑張っていましたからね。その分実力を付けているはずです」
「そっか、陸もお爺ちゃんの所で、何か得る物が有ったって事なんですかね」
来人がウルスの技『憑依混沌』を修得し帰った様に、陸もまた、来人が去った後もウルスの元で修行を重ね、そして何かを掴んだのだろう。
「そうかもしれませんね」
「ティルもあのままお爺ちゃんに修行付けて貰えばよかったのに」
あの時、ティルは一人修行を終える前に、さっさと天山を降りてしまった。
そして、ガイア界でまた再会した訳だ。
「――誰が、何だって?」
「げ」
噂をすればなんとやら、だ。
同じ目的で集まっているのだから、同時刻帯に出会って当然では有るのだが、魔の悪いタイミングで件の人物の登場だ。
ティルはいつもの様に少し不機嫌そうに、相棒のライオン、ダンデを連れて、来人たちの前に現れた。
「私はゼウス様を師事して、お前たちなんか相手にならない程に強くなっている。ガイア界ではあのゼノムとかいう忌々しいガイア族に不意を打たれて遅れを取ったが、あの時と同じだと思わないで貰いたい」
ティルはやはりいつもの様に、尊大な態度でぺらぺらと捲し立てる。
そんな主人を横目に、ダンデは来人たちの方を見ると、ぺこりと軽く頭を下げ、挨拶としていた。
来人はダンデの方へ軽く片手を上げて応えた後、こほんと咳払いで一拍置いて、
「やあ、ティル。まあ、お互い頑張ろうね」
「ふん。結果は決まっている。勝つのは私だ」
「――それは、どうだろうね。ただで負けてやる気は、僕も、それに陸も、無いと思うけど?」
来人だって、言われたままはいそうですかと流してやれる程大人では無かった。
つい売り言葉に買い言葉で、そう言い返してしまう。
お祭りムードだった天界の大通りの中心で、二人の神王候補者が火花を散らせるただならぬ様子に、周囲の神々を固唾を飲む。
そして、しばしの間見合った後、先に沈黙を破ったのはティルの方だった。
「ふん。まあいい、そう言っていられるのも、今の内さ」
そう言って、背を向けて王の間へと歩いて行った。
ダンデも「ティル様! お待ちください!」と急いで主人の後を追って行く。
「ふぅ……。やれやれ」
「ダンデも相変わらず大変そうだネ」
「あはは……」
さて、他の二人は先に王の間へと向かってしまったが、王位継承戦の予定時間まではまだしばらく時間が有る。
それでも既に三人中二人が揃っているのならば、待たせる訳にも行かないだろう。
「それじゃあ、僕たちも行こうか」
「ネ!」
来人がそう言えば、ガーネが元気よく返事を返す。
一行は王の間へと向けてゆっくりと歩を進めて行った。
そうして歩いていると、来人の傍に泳いで来たジューゴが少し不安気に、
「そういえば、僕たちも同行しても大丈夫なのでしょうか?」
陸とティルは契約しているガイア族はそれぞれ一人ずつ、モシャとダンデだけだ。
それに対して、来人はガーネ、ジューゴ、イリスの三人ものガイア族と契約している大所帯だ。
ただでさえ若輩者のジューゴが、全員で王の間へと行って大丈夫なのか心配に思うのも無理はない。
「あ、それなんだけど。一応ルールみたいなものがあるらしくて、候補者一人につき契約者一人が同行して、一緒に戦うっていう感じらしいんだ」
「では、わたくしたちはご一緒出来ないのですね」
イリスがそう言えば、足元をちょこちょこと歩いていたガーネは一瞬足を止めて、
「え? ネが出るのが確定なんだネ?」
「当たり前ですわ」
「でもでも、イリスの方が強いし――」
「何を言っていますの? ガーネが一番坊ちゃまの傍に居て、一番理解していますわ」
ジューゴも続いて肯定する。
「はい! 誰か一人だけなら、ガーネ先輩に決まっています! 僕たちも王様と共に戦えないのは残念ですが、精一杯応援しているのです!」
「ネ……。なんだか照れるネ」
ガーネも満更でもない様子で、来人と共に戦う契約者はガーネに決定した。
そんなこんなで、気付けば王の間の前まで来ていた。
来人が見上げれば、入口の両端に設置された門番の像。
それもどこか懐かしく感じる気さえした。
「それでは、わたしはここまでですね。応援していますよ、来人君」
「ありがとうございます、ユウリ先生。先生の教えに報いられるよう、僕、勝ちます」
来人がそう言うと、ユウリはにこりと優しく微笑んで、手を振って送り出してくれた。
「坊ちゃま、お気を付けて行ってらっしゃい」
「王様! 先輩! ファイトです!」
イリスとジューゴも、激励の言葉と共に背中を押してくれる。
「うん、行って来ます」
来人はガーネを連れて、門を潜り、王の間へ。
三代目神王候補者、その王位継承戦。
ついに、戦いの刻だ。
0
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!
飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。
貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。
だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。
なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。
その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。
私のスキルが、クエストってどういうこと?
地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。
十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。
スキルによって、今後の人生が決まる。
当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。
聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。
少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。
一話辺りは約三千文字前後にしております。
更新は、毎週日曜日の十六時予定です。
『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。
神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜
きのこのこ
ファンタジー
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…?
え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの??
俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ!
____________________________________________
突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった!
那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。
しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」
そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?)
呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!)
謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。
※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。
※他サイト先行にて配信してますが、他サイトと気が付かない程度に微妙に変えてます。
※昭和〜平成の頭ら辺のアレコレ入ってます。わかる方だけアハ体験⭐︎
⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる
みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」
濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い
「あー、薪があればな」
と思ったら
薪が出てきた。
「はい?……火があればな」
薪に火がついた。
「うわ!?」
どういうことだ?
どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。
これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。
もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~
ゆるり
ファンタジー
ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。
最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。
この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう!
……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは?
***
ゲーム生活をのんびり楽しむ話。
バトルもありますが、基本はスローライフ。
主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。
カクヨム様にて先行公開しております。
異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。
碧
児童書・童話
異世界転生したものの、チートもなければ、転生特典も特になし。チート無双も冒険もしないけど、現代知識を活かしてマイペースに生きていくゆるふわ少年の日常系ストーリー。テンプレっぽくマヨネーズとか作ってみたり、書類改革や雑貨の作成、はてにはデトックス効果で治療不可の傷を癒したり……。チートもないが自重もない!料理に生産、人助け、溺愛気味の家族や可愛い婚約者らに囲まれて今日も自由に過ごします。ゆるふわ癒し系異世界ファンタジーここに開幕!
殺し屋が異世界転移してもやっぱり職業は変わらないみたいです
クレハ
BL
日本で殺し屋をしている鹿乃 亮華(カノ リョウカ)。
コードネームはリョカと名乗っている。
そんな彼が仕事帰りに近道しようと路地裏に入り通りに出るとそこは異世界でーーー
しかも何故か18歳の頃の自分に若返っているし黒く短かった髪は腰まで長くなってる!?
え、なに?この世界では黒髪黒目は存在しないの!?
愛用しているナイフ2本だけで異世界に放り出された殺し屋は異世界でもやっていけるのかーーー
※R18はあまりありません、雰囲気だけでも楽しんでいただければと思います。拙い文章ですがよろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる