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第二章 ガイアの遺伝子編
#70 四つの宝玉
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戦闘を終えてから、しばらく時間が経った。
負傷したジャックは治療の為に運ばれ、今は長の間の一角に設置されているベッドに寝かされている。
以前来人も出会ったチーターの女性ミーシャ含むリンクフォレストの民たちも医療班として駆り出されていて、他にも大勢居る怪我人の手当てに追われていた。
リンクフォレストの森は酷い有様だ。
暖かく空気の澄んだ美しく豊かな自然の広がる大地は、今はもう焦げた煙の鼻を突く匂いと黒色に染まった焼野原だ。
天を突く程の大樹の太い幹も業火に焼かれ、抉れた様に傷が出来ている。
かけられていた橋も燃え落ち、今は簡易的に木の板や丸太を代替えとして掛けていた。
この分では、自然の大地リンクフォレストの完全な復興まではしばらくの時間が必要となるだろう。
来人たち一行とティルたち、皆長の間に集まっていた。
ジャックの眠るベッドの傍には、メイドのイリスとエルフの姿をした長リーンが座っている。
皆が集まったのを確認すると、リーンは顔を上げて口を開いた。
「皆様、ありがとうございました。おかげで最悪の結果にならずに済みました」
「リーンさんは、大丈夫でしたか?」
「ええ。ティル様とダンデが私の元へ駆けつけて、守ってくださいました。おかげで怪我も無く、この通りです」
そう言って、リーンはティルとダンデの方へ視線を送って薄く微笑んだ。
そんなリーンに対して、ティルは一歩前に出て詰め寄る。
「何か原因に心当たりは無いのか? これまでそいつ――、ジャックの一番近くに居たのはお前だろう?」
「いいえ。ジャックは真面目でそれでいて優しい人です。このような事をするはずが有りませんし、原因は私にも分かり兼ねます」
しかし、リーンは首を横に振る。
その悲し気な瞳を見て、流石のティルもそれ以上の追求はしなかった。
ティルはこの異変の調査の為にこのガイア界へやって来た。
それでもこの様子を見る限りでは、有力な手掛かりを掴めていないのだろう事はその様子を見ていた来人たちにも分かる事だった。
だからこそ、来人はティルに一つ提案をする。
「ティル、そっちの持っている情報と僕らの持っている情報を共有しないか? もしかすると、何か分かるかもしれない」
しかし、来人に話しかけられたティルは露骨に不服気な表情を向けて来る。
「何故お前と協力しなくてはいけない。私は一人でこの異変を――」
「ティル様」
ティルが来人の提案を跳ね除けようとした時、その隣に居たダンデが声を上げる。
「……ダンデ、なんだ」
「この異変の調査を任されたのはティル様です。それを解決すれば、それは結果としてティル様の手柄となるでしょう」
そう言って、ダンデは一瞬来人の方に視線を送った。
それを見た来人も意図を察して、先に自身の持つ情報を開示する。
水の大地、そして山の大地でも同じくガイア族が姿を変えて暴走するという異変が起きた事、そして水の大地では怪しい人影と黒い靄の様な何かを見た事。
倒れるジャックからも同じ黒い靄の様な何かが這い出て来た事。
山の大地で空間の崩落が起きて、地下空間アビスプルートに落ちてしまった事。
更に地下空間アビスプルートでは核を落とさない鬼が現れた事。
これらの事から予想される、黒幕の存在。
「――と、いう訳だ」
それを聞いたティルは少し考えるぞぶりを見せた後、ダンデの狙い通りに自分の持つ情報を喋り始めた。
「なるほどな。私も炎の大地コルナポロニアで同様の暴走事件を確認し、制圧している。そして、同様の異変は他にも数件。水の大地はお前から聞いたのが初めてだが、炎の大地と自然大地では直近でもそれぞれもう一件ずつ確認されている」
その言葉尻を取って、リーンが頷き補足する。
「あなた方が来られる前にも、ここ自然の大地では同様の異変が起きました。その際は天馬に変身したガイア族で、それもジャック程の強者では無かったので、ここまでの大きな被害を及ぼす事は無かったのですが……」
「イリスさんが手紙を受け取った時の事件ですね」
「ええ、そうです」
まとめると、
水の大地ではジュゴロクが変身したリヴァイアサンに。
山の大地ではグリフォン。
炎の大地ではティルが確認した一件と、それ以前にもう一件の計二件。
自然の大地では今回のジャックが不死鳥となった一件と、イリスに手がが届いた際の天馬の計二件。
そして関係性は不明だが地下空間アビスプルートで鬼の出現。
ティルは取り出したガイア界の地図を広げて、ペンを走らせる。
「――おそらく、黒幕の活動圏は大体この辺りだな」
中央都市メーテルを中心として時計の十二時の位置から順に水、山、炎、自然、氷、地下空間。
ティルがペンを走らせて丸で囲ったのは炎と山、そして地下空間。
間には、禁足地である氷の大地リップバーンが有った。
「――リップバーン。ここだけは、まだ異変が確認されていません」
「当たり前だ、ここには誰も――、暴走するガイア族も居ない。その上四つの宝玉の鍵で閉ざされているのだから、異変など起きようも無いだろう」
ダンデの言葉をティルは一蹴する。
しかし、それを聞いた来人は有る可能性に思い至る。
「もしかすると、そこに黒幕が居るんじゃないか?」
「どういう事だ?」
「だって、黒幕がガイア界で暗躍するのなら、ここが一番都合が良いじゃないか」
来人は指で氷の大地を指し、そして隣にある断絶された深淵、地下空間アビスプルートへ繋がるへの大穴へと指を滑らせる。
「氷の大地を拠点として、ここからアビスプルートへ降りる。アビスプルートはガイア界全体の地下に張り巡らされた迷路の様な空間だ。それを上手く使えば、この世界のあらゆる場所に出没出来る」
来人は山の大地で起きた空間の崩落を思い出す。
あれがもし、黒幕が利用していた隠し通路なのだとしたら、これまでの各地で起きた異変にも説明が付くのではないか。
「――なるほどな。どうやって氷の大地に立ち入ったのかは分からないが、空間の崩落を起こしてアビスプルートの迷路を利用し、各地でガイア族の暴走を起こしていた、という訳か。しかし、それなら水の大地ではたったの一件しか起こっていない事に説明が付かないのではないか?」
そんなティルの疑問に、ジューゴが答える。
「それは簡単なのです! 地下から上がった先はディープメイルの深い海の底なのですから、普通は溺れてしまいます!」
「つまり、黒幕は水の大地の民の様な水生生物ではないという事か」
「その可能性は高いと思うのです」
氷の大地、リップバーン。
かつて初代神王アダンの相棒として共に戦い力尽きた、原初のガイア族が一人、バーガの身体が眠る地であり、禁足地。
そして、今回ガイア界に来るに当たって、来人が目的地としていた場所だ。
太古の空気すらも凍り付きそのままの状態を残すこの地なら、かつて神々に背いた同じく原初のガイア族ゼノムの『遺伝子』の色、その波動の残滓が残っているかもしれない。
そして、それが有れば鬼人となってしまった秋斗の魂の遺伝子を改変し、人間に戻すことが出来るかもしれない。
「氷の大地に、犯人が――」
その噛み締める様なリーンの呟きに、来人の胸はちくりと小さく痛んだ。
この“氷の大地に黒幕が居るかもしれない”という来人の推理は、そういった来人の目的から来る誘導の側面が有った。
勿論可能性として無い訳では無い、この推理だって嘘では無い。
しかし、ティルがこの場に居るこの状況において、氷の大地に行く為にはより合理的で論理的な理由が必要だったのだ。
そしてその来人の思惑通り、その話を聞いたリーンは懐から緑色のエメラルドの様な石を取り出し、差し出して来る。
「でしたら、是非これをお持ちください。自然の宝玉です」
来人は静かに頷き、その自然の宝玉を受け取り、握りしめる。
スイから貰った水の宝玉、カンガスから貰った山の宝玉、そして今リーンから貰った自然の宝玉。
来人の手元に三つの宝玉が揃った。
「あと一つ、炎の宝玉だけですわね」
「山の大地でアビスプルートに落ちて通り過ぎちゃったから……。今から戻って、貰いに行くか……」
これから来た道を戻って炎の大地へ向かい、宝玉を貰ってから氷の大地に再び向かうとなるとかなりの時間ロスだ。
そうしている内にも、黒幕は再び事を起こすかもしれない。
確かに氷の大地に行く事は来人の目的では有るが、だからと言ってガイア界を脅かす何者かを放置しておく事は出来ない。
ここはガーネ、ジューゴ、イリス、仲間たちの故郷だ。
そう来人とイリスが話していると、ダンデがおもむろに二人の方へ近づいてきて、ことりと赤い石を床に落として転がしてきた。
来人はこつんと足先に当たったそれを拾い上げる。
光に透かせば石の中で炎が揺らめいて見える様な、ルビーの様な赤い石。
「これって、もしかして――」
「ええ。炎の宝玉です」
「なんでダンデが持ってるの?」
その様子に気付いたティルが「おい、それは――」と言いかけるが、ダンデは特に気にした様子も無く言葉を続ける。
「ティル様と共に炎の大地に赴いた際に頂いた物です。ティル様が要らないと跳ね除けたので自分が変わりに受け取っておいたのですが、役に立ちそうで良かったです」
「お前、勝手な事を……」
ティルがはあと大きく溜息を溢す。
「ありがとう、ダンデ」
ダンデはこくりと頷き答え、ティルの元へと戻って行った。
ピースは揃った。
水、山、炎、自然、四つの宝玉が来人の手元に有る。
「お兄様をこんな風にした奴らに仕返しをしてやりますわ!」
「ジュゴロクの仇!」
「まあ、ネはお爺ちゃんのお墓参りだネ」
ついに氷の大地への切符が揃い、思い思いに沸き立つ面々。
「ここから北西へ進めば氷の大地に繋がる大きな門が有ります。どうか、お気を付けて」
「はい。行って来ます」
リーンに送り出されて、それぞれの思いを胸に来人たちはついに禁足地、氷の大地リップバーンへと歩を踏み出した。
負傷したジャックは治療の為に運ばれ、今は長の間の一角に設置されているベッドに寝かされている。
以前来人も出会ったチーターの女性ミーシャ含むリンクフォレストの民たちも医療班として駆り出されていて、他にも大勢居る怪我人の手当てに追われていた。
リンクフォレストの森は酷い有様だ。
暖かく空気の澄んだ美しく豊かな自然の広がる大地は、今はもう焦げた煙の鼻を突く匂いと黒色に染まった焼野原だ。
天を突く程の大樹の太い幹も業火に焼かれ、抉れた様に傷が出来ている。
かけられていた橋も燃え落ち、今は簡易的に木の板や丸太を代替えとして掛けていた。
この分では、自然の大地リンクフォレストの完全な復興まではしばらくの時間が必要となるだろう。
来人たち一行とティルたち、皆長の間に集まっていた。
ジャックの眠るベッドの傍には、メイドのイリスとエルフの姿をした長リーンが座っている。
皆が集まったのを確認すると、リーンは顔を上げて口を開いた。
「皆様、ありがとうございました。おかげで最悪の結果にならずに済みました」
「リーンさんは、大丈夫でしたか?」
「ええ。ティル様とダンデが私の元へ駆けつけて、守ってくださいました。おかげで怪我も無く、この通りです」
そう言って、リーンはティルとダンデの方へ視線を送って薄く微笑んだ。
そんなリーンに対して、ティルは一歩前に出て詰め寄る。
「何か原因に心当たりは無いのか? これまでそいつ――、ジャックの一番近くに居たのはお前だろう?」
「いいえ。ジャックは真面目でそれでいて優しい人です。このような事をするはずが有りませんし、原因は私にも分かり兼ねます」
しかし、リーンは首を横に振る。
その悲し気な瞳を見て、流石のティルもそれ以上の追求はしなかった。
ティルはこの異変の調査の為にこのガイア界へやって来た。
それでもこの様子を見る限りでは、有力な手掛かりを掴めていないのだろう事はその様子を見ていた来人たちにも分かる事だった。
だからこそ、来人はティルに一つ提案をする。
「ティル、そっちの持っている情報と僕らの持っている情報を共有しないか? もしかすると、何か分かるかもしれない」
しかし、来人に話しかけられたティルは露骨に不服気な表情を向けて来る。
「何故お前と協力しなくてはいけない。私は一人でこの異変を――」
「ティル様」
ティルが来人の提案を跳ね除けようとした時、その隣に居たダンデが声を上げる。
「……ダンデ、なんだ」
「この異変の調査を任されたのはティル様です。それを解決すれば、それは結果としてティル様の手柄となるでしょう」
そう言って、ダンデは一瞬来人の方に視線を送った。
それを見た来人も意図を察して、先に自身の持つ情報を開示する。
水の大地、そして山の大地でも同じくガイア族が姿を変えて暴走するという異変が起きた事、そして水の大地では怪しい人影と黒い靄の様な何かを見た事。
倒れるジャックからも同じ黒い靄の様な何かが這い出て来た事。
山の大地で空間の崩落が起きて、地下空間アビスプルートに落ちてしまった事。
更に地下空間アビスプルートでは核を落とさない鬼が現れた事。
これらの事から予想される、黒幕の存在。
「――と、いう訳だ」
それを聞いたティルは少し考えるぞぶりを見せた後、ダンデの狙い通りに自分の持つ情報を喋り始めた。
「なるほどな。私も炎の大地コルナポロニアで同様の暴走事件を確認し、制圧している。そして、同様の異変は他にも数件。水の大地はお前から聞いたのが初めてだが、炎の大地と自然大地では直近でもそれぞれもう一件ずつ確認されている」
その言葉尻を取って、リーンが頷き補足する。
「あなた方が来られる前にも、ここ自然の大地では同様の異変が起きました。その際は天馬に変身したガイア族で、それもジャック程の強者では無かったので、ここまでの大きな被害を及ぼす事は無かったのですが……」
「イリスさんが手紙を受け取った時の事件ですね」
「ええ、そうです」
まとめると、
水の大地ではジュゴロクが変身したリヴァイアサンに。
山の大地ではグリフォン。
炎の大地ではティルが確認した一件と、それ以前にもう一件の計二件。
自然の大地では今回のジャックが不死鳥となった一件と、イリスに手がが届いた際の天馬の計二件。
そして関係性は不明だが地下空間アビスプルートで鬼の出現。
ティルは取り出したガイア界の地図を広げて、ペンを走らせる。
「――おそらく、黒幕の活動圏は大体この辺りだな」
中央都市メーテルを中心として時計の十二時の位置から順に水、山、炎、自然、氷、地下空間。
ティルがペンを走らせて丸で囲ったのは炎と山、そして地下空間。
間には、禁足地である氷の大地リップバーンが有った。
「――リップバーン。ここだけは、まだ異変が確認されていません」
「当たり前だ、ここには誰も――、暴走するガイア族も居ない。その上四つの宝玉の鍵で閉ざされているのだから、異変など起きようも無いだろう」
ダンデの言葉をティルは一蹴する。
しかし、それを聞いた来人は有る可能性に思い至る。
「もしかすると、そこに黒幕が居るんじゃないか?」
「どういう事だ?」
「だって、黒幕がガイア界で暗躍するのなら、ここが一番都合が良いじゃないか」
来人は指で氷の大地を指し、そして隣にある断絶された深淵、地下空間アビスプルートへ繋がるへの大穴へと指を滑らせる。
「氷の大地を拠点として、ここからアビスプルートへ降りる。アビスプルートはガイア界全体の地下に張り巡らされた迷路の様な空間だ。それを上手く使えば、この世界のあらゆる場所に出没出来る」
来人は山の大地で起きた空間の崩落を思い出す。
あれがもし、黒幕が利用していた隠し通路なのだとしたら、これまでの各地で起きた異変にも説明が付くのではないか。
「――なるほどな。どうやって氷の大地に立ち入ったのかは分からないが、空間の崩落を起こしてアビスプルートの迷路を利用し、各地でガイア族の暴走を起こしていた、という訳か。しかし、それなら水の大地ではたったの一件しか起こっていない事に説明が付かないのではないか?」
そんなティルの疑問に、ジューゴが答える。
「それは簡単なのです! 地下から上がった先はディープメイルの深い海の底なのですから、普通は溺れてしまいます!」
「つまり、黒幕は水の大地の民の様な水生生物ではないという事か」
「その可能性は高いと思うのです」
氷の大地、リップバーン。
かつて初代神王アダンの相棒として共に戦い力尽きた、原初のガイア族が一人、バーガの身体が眠る地であり、禁足地。
そして、今回ガイア界に来るに当たって、来人が目的地としていた場所だ。
太古の空気すらも凍り付きそのままの状態を残すこの地なら、かつて神々に背いた同じく原初のガイア族ゼノムの『遺伝子』の色、その波動の残滓が残っているかもしれない。
そして、それが有れば鬼人となってしまった秋斗の魂の遺伝子を改変し、人間に戻すことが出来るかもしれない。
「氷の大地に、犯人が――」
その噛み締める様なリーンの呟きに、来人の胸はちくりと小さく痛んだ。
この“氷の大地に黒幕が居るかもしれない”という来人の推理は、そういった来人の目的から来る誘導の側面が有った。
勿論可能性として無い訳では無い、この推理だって嘘では無い。
しかし、ティルがこの場に居るこの状況において、氷の大地に行く為にはより合理的で論理的な理由が必要だったのだ。
そしてその来人の思惑通り、その話を聞いたリーンは懐から緑色のエメラルドの様な石を取り出し、差し出して来る。
「でしたら、是非これをお持ちください。自然の宝玉です」
来人は静かに頷き、その自然の宝玉を受け取り、握りしめる。
スイから貰った水の宝玉、カンガスから貰った山の宝玉、そして今リーンから貰った自然の宝玉。
来人の手元に三つの宝玉が揃った。
「あと一つ、炎の宝玉だけですわね」
「山の大地でアビスプルートに落ちて通り過ぎちゃったから……。今から戻って、貰いに行くか……」
これから来た道を戻って炎の大地へ向かい、宝玉を貰ってから氷の大地に再び向かうとなるとかなりの時間ロスだ。
そうしている内にも、黒幕は再び事を起こすかもしれない。
確かに氷の大地に行く事は来人の目的では有るが、だからと言ってガイア界を脅かす何者かを放置しておく事は出来ない。
ここはガーネ、ジューゴ、イリス、仲間たちの故郷だ。
そう来人とイリスが話していると、ダンデがおもむろに二人の方へ近づいてきて、ことりと赤い石を床に落として転がしてきた。
来人はこつんと足先に当たったそれを拾い上げる。
光に透かせば石の中で炎が揺らめいて見える様な、ルビーの様な赤い石。
「これって、もしかして――」
「ええ。炎の宝玉です」
「なんでダンデが持ってるの?」
その様子に気付いたティルが「おい、それは――」と言いかけるが、ダンデは特に気にした様子も無く言葉を続ける。
「ティル様と共に炎の大地に赴いた際に頂いた物です。ティル様が要らないと跳ね除けたので自分が変わりに受け取っておいたのですが、役に立ちそうで良かったです」
「お前、勝手な事を……」
ティルがはあと大きく溜息を溢す。
「ありがとう、ダンデ」
ダンデはこくりと頷き答え、ティルの元へと戻って行った。
ピースは揃った。
水、山、炎、自然、四つの宝玉が来人の手元に有る。
「お兄様をこんな風にした奴らに仕返しをしてやりますわ!」
「ジュゴロクの仇!」
「まあ、ネはお爺ちゃんのお墓参りだネ」
ついに氷の大地への切符が揃い、思い思いに沸き立つ面々。
「ここから北西へ進めば氷の大地に繋がる大きな門が有ります。どうか、お気を付けて」
「はい。行って来ます」
リーンに送り出されて、それぞれの思いを胸に来人たちはついに禁足地、氷の大地リップバーンへと歩を踏み出した。
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