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第二章 ガイアの遺伝子編
#60 地下空間、アビスプルート
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一行はグリフォンが暴れていた集落を後にして、長の住む隣山の頂上を目指す。
山の大地グロッグウォールには山の各所に点々と小さな集落が有り、来人たちは目的地までの道中にもいくつかの村を通過して行った。
そして、もう少しで目的地に辿り着こうかという頃だ。
「――にしても、あのグリフォンもそうだが、ここで一体何が起こってるんだ……?」
「これまでは、ああいう暴走とかって無かったんですか?」
「無いな。本来ガイア族は必要に迫られなければあの翼の姿を見せない物だ。その上、我を失って暴れ出すなんてただ事じゃない」
来人とカンガスの会話に、イリスも頷く。
「わたくしも姿を変えた事は人生でも片手で数えられる程度ですわ。もはや飛び方すら忘れたガイア族だって少なくは有りませんの」
「ネもこの前久しぶりに飛んだネ」
ガーネの言う“この前”とは、百鬼夜行戦の時の一件だ。
あの時ガーネは初めて来人の前で氷のドラゴンの姿に変化して見せたのだ。
「そんなもんなのか……。イリスさんなんて、ガイア族やドラゴンみたいな姿よりも、人間の姿の方が慣れてそうですよね」
「そうですわね。旦那様から神格を頂いてからはずっとこの姿ですわ」
「そう言えば、前も言ってたけどその神格って……?」
水の大地ディープメイルの長、人魚姫のスイもイリスと同じく人の姿に近いながらもガイア族であった。
その事から、位の高い、もしくは力の強いガイア族が持つ物という事は想像に難くない。
「わたくしの名前“イリス”に覚えは有りませんか? 例えば神話、もしくはそれを元とした創作物などですわ」
「ん……? 確かにアニメとかで同じ名前のキャラクターが居たかもしれないけど……」
神話や伝承に関する知識に明るくなかった来人は首を傾げる。
それを見たイリスはくすりと笑って、解説を続けてくれた。
「ギリシャ神話の虹の女神の名ですわ。わたくしの色に合わせて、旦那様から頂きましたの。そして、“神格を得る”という行為は、その神話上の神の名――つまり、信仰や知名度を得るという事ですわ」
「でも、それって創作物であって、実際の神様では無いんですよね?」
「ですわ。でも、その名に対して人々の信仰、想いが集まりますわ。想いとは即ち想像、それがわたくしたちの力になりますの」
そうやって、来人の質問にイリスは少し自慢げに答えてくれた。
そして、それにカンガスが付け足す。
「ほら、鎖使いだって“ゼウス”には流石に聞き覚えが有るだろう?」
ゼウス、ティルの祖父の名だ。
「ああ、それは流石に。ギリシャ神話の有名な神様ですよね」
「そう、それに集まる信仰と想いを我が物といしているからこそ、お前も知るあのゼウスは圧倒的な力を持っている」
人間が想像し産み出した架空の神の名を我が物として掌握する事で、その力を得る。
ガイア族がその信仰の集まる名――“神格”を得れば、その姿も神に近づくのだ。
「イリスは神の使いでありながら神の名を得てそれに適合したんだネ」
「今はあんなデブになっても、旦那様は最強の神ですから。わたくしもそれくらい出来ませんと、契約者として相応しくありませんわ」
そんな話を聞いて、来人は新たな疑問が浮かぶ。
「じゃあ、水の大地の長は何の神格を持っているんですか?」
「彼女はセイレーン、人魚の怪物の神格を持っているはずですわ」
「同じ神話でも、神様じゃなくて怪物なのか……」
より格の高い名を掌握するには、それだけの実力が居る。
例えば他のガイア族がいきなり神格を得ようとしても、すぐに弾かれてしまう。
その点が、イリスと他のガイア族を分けるレベルの違いだ。
「イリスさん、すごいのです! 僕も追いつけるように頑張ります!」
ガイア族の先輩の話を聞いて、ジューゴは目を輝かせていた。
可愛らしく無邪気な後輩だ。
そう話していると――、
突如大きな地鳴りが起こり、周囲の地盤が崩落。
先頭を歩いていたカンガスと来人は目の前に出来た大きな穴に落ちて行く。
「イリスさん、危ない!」
「坊ちゃま!?」
来人は危うく巻き込まれかけたイリスを突き飛ばし、間一髪のところで救う。
代わりに、来人とカンガスはそのまま穴の底へ。
「――いたた。ここは……?」
幸い砂がクッションとなって来人は怪我をしては居ない様で、すぐに立ち上がって周囲の様子を確認する。
穴の底は細かいサラサラとした砂が埋め尽くす地下世界だった。
「ここは、アビスプルートだな」
その来人の問いに答えたのは、同じく崩落した穴から落ちて来たカンガスだった。
「ガイア界の地下空間でしたっけ」
「ああ。全大地の真下に迷路みたいに張り巡らされた何も無い所だ。しかし、“空間の崩落”なんてただ事じゃないな」
「空間の崩落――。そうだ、あの穴! みんなは大丈夫かな?」
来人が上を見上げれば、遥か上空に落ちて来た穴が有る。
そして、その穴の先には空。
穴はこうしている内にも少しずつ塞がって行っていて、既に今からそこまで戻って地上へ戻る事は難しそうだ。
それでも、穴の先から声が響いて来る。
「らいたん!」
「坊ちゃま、ご無事ですか!?」
「王様、僕もそっちに――」
ガイア族たちの心配する声。
そして、ジューゴなんかはまだギリギリ一人分通れそうな穴に自分も落ちようとしている。
「待った待った、お前まで落ちてどうするんだ!」
「でも――」
そうしている内に、穴はどんどん塞がって行く。
「待て、焦る事は無い。先に進めば、別の地上へ繋がる穴が有るかもしれない」
カンガスはそう言って、ジューゴを制止する。
実際に地上へ戻る穴が有るかなんて分からない以上、全員で落下して戻れずに全滅は避けるべきだ。
ここは来人もカンガスの言葉に乗る。
「後で必ず合流するから、みんなは先に進んでいて!」
「鎖使いは俺に任せろ」
しかし、その言葉に対する地上の三人の返事は地下空間の二人へと届く事は無く、空間の崩落の穴は完全に埋まってしまった。
地下空間アビスプルートには、来人と帽子の獣人カンガスだけが残される。
「――それで、空間の崩落ってなんなんですか?」
「俺たちは山の上に居ただろう? だから、実際に地盤が崩れた訳じゃない。空間出来た亀裂が広がって穴が空いて、アビスプルートに落ちてしまったんだ。もっとも、そのきっかけが何なのかは分からないがな……」
地盤の崩落に見えたあれは、裂けた空間に呑まれた地形が崩れただけの事。
穴が埋まれば、元に戻る。
「ガイア族の暴走とも、関係が有るのかな……」
「どうだろうな。それもこれも、地上に戻ってからだ、行くぞ」
そう言って、カンガスは先導して砂を踏みしめて進んで行く。
「地上に戻るって、本当に他の穴が有るんですか?」
「いいや、空間の穴なんてそう沢山空いてて堪るかってんだ。でも、衝撃を加えれば穴を開けられる程度の小さな亀裂なら見つかる可能性は高い。穴をぶち空けた時に多少の地震が地上で起こるかもしれないが、仕方がない」
来人は自分たちがこのアビスプルートに落ちた時の状況を思い出す。
あの時も、大きな地鳴りの後に足元の空間が崩落した。
カンガスの言によれば、小さな亀裂を刺激するという方法でこの空間の崩落は意図的に起こすことが出来る。
つまり、来人たちは誰かに陥れられた可能性が有るのだ。
来人は慎重に周囲に警戒を払いつつ、カンガスの後を付いて地上へ戻る為の小さな空間の亀裂を探して進んで行った。
山の大地グロッグウォールには山の各所に点々と小さな集落が有り、来人たちは目的地までの道中にもいくつかの村を通過して行った。
そして、もう少しで目的地に辿り着こうかという頃だ。
「――にしても、あのグリフォンもそうだが、ここで一体何が起こってるんだ……?」
「これまでは、ああいう暴走とかって無かったんですか?」
「無いな。本来ガイア族は必要に迫られなければあの翼の姿を見せない物だ。その上、我を失って暴れ出すなんてただ事じゃない」
来人とカンガスの会話に、イリスも頷く。
「わたくしも姿を変えた事は人生でも片手で数えられる程度ですわ。もはや飛び方すら忘れたガイア族だって少なくは有りませんの」
「ネもこの前久しぶりに飛んだネ」
ガーネの言う“この前”とは、百鬼夜行戦の時の一件だ。
あの時ガーネは初めて来人の前で氷のドラゴンの姿に変化して見せたのだ。
「そんなもんなのか……。イリスさんなんて、ガイア族やドラゴンみたいな姿よりも、人間の姿の方が慣れてそうですよね」
「そうですわね。旦那様から神格を頂いてからはずっとこの姿ですわ」
「そう言えば、前も言ってたけどその神格って……?」
水の大地ディープメイルの長、人魚姫のスイもイリスと同じく人の姿に近いながらもガイア族であった。
その事から、位の高い、もしくは力の強いガイア族が持つ物という事は想像に難くない。
「わたくしの名前“イリス”に覚えは有りませんか? 例えば神話、もしくはそれを元とした創作物などですわ」
「ん……? 確かにアニメとかで同じ名前のキャラクターが居たかもしれないけど……」
神話や伝承に関する知識に明るくなかった来人は首を傾げる。
それを見たイリスはくすりと笑って、解説を続けてくれた。
「ギリシャ神話の虹の女神の名ですわ。わたくしの色に合わせて、旦那様から頂きましたの。そして、“神格を得る”という行為は、その神話上の神の名――つまり、信仰や知名度を得るという事ですわ」
「でも、それって創作物であって、実際の神様では無いんですよね?」
「ですわ。でも、その名に対して人々の信仰、想いが集まりますわ。想いとは即ち想像、それがわたくしたちの力になりますの」
そうやって、来人の質問にイリスは少し自慢げに答えてくれた。
そして、それにカンガスが付け足す。
「ほら、鎖使いだって“ゼウス”には流石に聞き覚えが有るだろう?」
ゼウス、ティルの祖父の名だ。
「ああ、それは流石に。ギリシャ神話の有名な神様ですよね」
「そう、それに集まる信仰と想いを我が物といしているからこそ、お前も知るあのゼウスは圧倒的な力を持っている」
人間が想像し産み出した架空の神の名を我が物として掌握する事で、その力を得る。
ガイア族がその信仰の集まる名――“神格”を得れば、その姿も神に近づくのだ。
「イリスは神の使いでありながら神の名を得てそれに適合したんだネ」
「今はあんなデブになっても、旦那様は最強の神ですから。わたくしもそれくらい出来ませんと、契約者として相応しくありませんわ」
そんな話を聞いて、来人は新たな疑問が浮かぶ。
「じゃあ、水の大地の長は何の神格を持っているんですか?」
「彼女はセイレーン、人魚の怪物の神格を持っているはずですわ」
「同じ神話でも、神様じゃなくて怪物なのか……」
より格の高い名を掌握するには、それだけの実力が居る。
例えば他のガイア族がいきなり神格を得ようとしても、すぐに弾かれてしまう。
その点が、イリスと他のガイア族を分けるレベルの違いだ。
「イリスさん、すごいのです! 僕も追いつけるように頑張ります!」
ガイア族の先輩の話を聞いて、ジューゴは目を輝かせていた。
可愛らしく無邪気な後輩だ。
そう話していると――、
突如大きな地鳴りが起こり、周囲の地盤が崩落。
先頭を歩いていたカンガスと来人は目の前に出来た大きな穴に落ちて行く。
「イリスさん、危ない!」
「坊ちゃま!?」
来人は危うく巻き込まれかけたイリスを突き飛ばし、間一髪のところで救う。
代わりに、来人とカンガスはそのまま穴の底へ。
「――いたた。ここは……?」
幸い砂がクッションとなって来人は怪我をしては居ない様で、すぐに立ち上がって周囲の様子を確認する。
穴の底は細かいサラサラとした砂が埋め尽くす地下世界だった。
「ここは、アビスプルートだな」
その来人の問いに答えたのは、同じく崩落した穴から落ちて来たカンガスだった。
「ガイア界の地下空間でしたっけ」
「ああ。全大地の真下に迷路みたいに張り巡らされた何も無い所だ。しかし、“空間の崩落”なんてただ事じゃないな」
「空間の崩落――。そうだ、あの穴! みんなは大丈夫かな?」
来人が上を見上げれば、遥か上空に落ちて来た穴が有る。
そして、その穴の先には空。
穴はこうしている内にも少しずつ塞がって行っていて、既に今からそこまで戻って地上へ戻る事は難しそうだ。
それでも、穴の先から声が響いて来る。
「らいたん!」
「坊ちゃま、ご無事ですか!?」
「王様、僕もそっちに――」
ガイア族たちの心配する声。
そして、ジューゴなんかはまだギリギリ一人分通れそうな穴に自分も落ちようとしている。
「待った待った、お前まで落ちてどうするんだ!」
「でも――」
そうしている内に、穴はどんどん塞がって行く。
「待て、焦る事は無い。先に進めば、別の地上へ繋がる穴が有るかもしれない」
カンガスはそう言って、ジューゴを制止する。
実際に地上へ戻る穴が有るかなんて分からない以上、全員で落下して戻れずに全滅は避けるべきだ。
ここは来人もカンガスの言葉に乗る。
「後で必ず合流するから、みんなは先に進んでいて!」
「鎖使いは俺に任せろ」
しかし、その言葉に対する地上の三人の返事は地下空間の二人へと届く事は無く、空間の崩落の穴は完全に埋まってしまった。
地下空間アビスプルートには、来人と帽子の獣人カンガスだけが残される。
「――それで、空間の崩落ってなんなんですか?」
「俺たちは山の上に居ただろう? だから、実際に地盤が崩れた訳じゃない。空間出来た亀裂が広がって穴が空いて、アビスプルートに落ちてしまったんだ。もっとも、そのきっかけが何なのかは分からないがな……」
地盤の崩落に見えたあれは、裂けた空間に呑まれた地形が崩れただけの事。
穴が埋まれば、元に戻る。
「ガイア族の暴走とも、関係が有るのかな……」
「どうだろうな。それもこれも、地上に戻ってからだ、行くぞ」
そう言って、カンガスは先導して砂を踏みしめて進んで行く。
「地上に戻るって、本当に他の穴が有るんですか?」
「いいや、空間の穴なんてそう沢山空いてて堪るかってんだ。でも、衝撃を加えれば穴を開けられる程度の小さな亀裂なら見つかる可能性は高い。穴をぶち空けた時に多少の地震が地上で起こるかもしれないが、仕方がない」
来人は自分たちがこのアビスプルートに落ちた時の状況を思い出す。
あの時も、大きな地鳴りの後に足元の空間が崩落した。
カンガスの言によれば、小さな亀裂を刺激するという方法でこの空間の崩落は意図的に起こすことが出来る。
つまり、来人たちは誰かに陥れられた可能性が有るのだ。
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