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第一章 百鬼夜行編

#27 地下研究所

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 メガコーポレーションの地下施設。
 白い壁と同じく白いタイル張りの床、清潔感のある如何にも研究所ラボといった雰囲気の施設だ。
 
 壁には等間隔で扉が有り、部屋数が馬鹿みたいに多い。
 その全てに電子ロックが掛けられている。
 その等間隔の扉の所為か、それとも真っ白な空間の所為か、地下施設はまるで空間が捻じ曲がったと錯覚する程に広く感じる。

 そんな扉たちを全て見送って、ガーネは真っ直ぐ廊下を歩いて奥の突き当りへ。

「ガーネ、行き止まりだぞ?」
「なんだ、迷ったのか」
 
 そこはただの白い壁で、何も無い。

「そんな訳ないネ。まあ見てるネ」

 そう言って、ガーネは手――ではなく、前足で壁に触れる。
 その様は犬がお手をしている様子その物なので、ぺたっという可愛い効果音がぴったりだ。

 そうガーネが壁にお手をすると、かちりと小さな音が鳴り、壁が静かにキューブ状になって左右に崩れて行く。
 そして、そこに更に奥の部屋へ続く空間――隠し通路が現れた。
 
「おおー! 秘密基地みたい」
「まさにそうだネ。この先がメガの秘密基地だネ」

 そして、その薄暗い隠し通路を進んで奥の部屋へ。
 
 隠し部屋は大量のモニターが壁一面に配置されていて、それらが間接照明の様に室内を青白く照らしていた。
 
 その部屋に居たのはたった一人――いや、一匹だけ。
 高級そうな革製の椅子に座り、“機械のマジックアームでタイピングをしている”。
 
 暗い部屋にはカタカタとそのタイピング音とPCファンの回る音だけが響いている。

「メガ、らいたんたちを連れて来たネ!」

 ガーネがそう声を掛けると、ぴたりとタイミング音が止む。
 
「ありがとう、お兄ちゃん」
 
 そして椅子をくるりと回してこちらを振り向いた。

「――やあ、ライト。会いたかったヨ」

 白い体毛に耳辺りに茶色のワンポイントの柄をした、喋る犬。
 背中にはリュックサックの様な物を背負っていて、そこから伸びた機械のマジックアームが柔軟に動いている。

「君が、ガーネの弟?」
「そうだヨ。このメガコーポレーションの真のCEO、メガだ。噂はかねがね伺っているとも、半神半人ハーフの鎖使い」
 
 犬のガーネの弟は、やはり犬だった。
 そして、この会社の真の代表取締役社長。
 ギザは人間社会に溶け込む為の表の社長、つまり影武者であり、実質的な実権はこの犬が握っているのだ。
 
 メガはにやりと口角を上げて、来人を天界での二つ名で呼んで揶揄やゆして、それを聞いたテイテイは疑問の声を上げる。

「来人、有名人になったのか?」
「あはは……。なんか天界の神様方のお気に召したらしい」
「まあ来人には人を引き付けるカリスマ的な物が有るからな、分からなくも無い」
「そうなの……?」

 来人自身はあまり実感が無かったが、テイテイは一人でうんうんと頷き納得していた。
 
「それよりも、僕に何の用が有ったの?」
「お兄ちゃんから話を聞いて、興味が湧いたんだヨ」
「でもそれだと、わざわざ“お友達”を連れて来る意味は無いんじゃない?」

 来人は最初ガーネに誘われた時から、少しだけ違和感を感じていた。
 ガーネの主人である来人だけに会いたいならともかく、わざわざお友達も連れてきて良いと言う理由が無い。
 そうした方が来人が了承しやすいと考えたのかもしれないが、それよりもメガにとって“お友達を連れて来る事自体にメリットがある”と考える方が自然だろう。
 
 そう来人が訪ねると、メガは少し驚いたようにぽかんと口を開けたまま一瞬固まってしまった。
 その後、メガは満足気に頷いて答える。

「ライト、君は意外と鋭いネ。それなのに、わざわざボクの企みに乗ってくれたのかい?」

 それは来人の疑問に対しての肯定だった。
 やはり、メガは来人のお友達――つまり、テイテイにも用が有ったのだ。

「ネ? そうだったのネ?」
「ごめんごめん、お兄ちゃんには言い忘れてたヨ」

 わざとらしくそう言うメガ。
 やはりガーネは聞かされていなかったらしく、初耳の話に目を白黒とさせていた。

「ガーネの弟だからね、別に普通に頼まれたら大体の事なら協力するのに」
「ありがたいネ。なら、半神半人ハーフとその契約者――存分に研究させてもらうヨ」

 やはりそう言う事か、と来人は納得した。
 元々ガーネから弟は天才科学者と聞いていた。
 だからメガが来人に興味を示す理由なんて大体そんな感じだろうと薄々あたりを付けていたので、特段驚きは無かった。

「待て待て、俺は協力するとは言ってないぞ。研究なんて何されるか分かったもんじゃない」
 
 しかし、来人が二つ返事で了承するのに対して、テイテイは拒否反応を示す。
 テイテイは大の機械音痴。
 テイテイにとって科学とオカルトがほぼ同義なのだ。
 解剖でもされると思っているのだろうか、滅茶苦茶嫌がっている。

「まあまあ、僕からもお願いするから、協力してあげようよ。そんな取って食ったりはしないから」

 ――多分。

「まあ、来人が言うなら……」

 来人には甘いテイテイであった。

「助かるヨ。それじゃあ、そこに立っててもらって――」

 そう言って、メガが後ろのキーボードを背中から伸びるマジックアームでカタカタと操作すると、どこかから小型の黒いドローンが何台か宙を浮いて出て来た。
 そして、そのドローンが来人とテイテイの周囲を飛び回り、二人に何かレーザーの様な物を照射し始める。
 テイテイはおっかなびっくりとそのドローンを目で追っている。

「これは?」
「そのドローンで二人の身体と魂をスキャン知っているんだヨ」
 
 当然の様にそう語るが、身体はともかく魂のスキャンをする機械とは今迄に聞いたことが無い。
 
 そうして数秒間のスキャンの後、壁のモニターに二人のスキャンデータが数値化されて表示される。
 ゲームみたいな攻撃力や防御力が数値化された物では無いが、魂の器の世界もマッピングされていて、記憶容量や契約者の一覧、それに現在の有しているスキルまで丸わかりだ。

 来人の保有スキルは『鎖』と『泡沫』。
 契約者はテイテイ、秋斗、ガーネ。
 後は文字化けした様なノイズデータ、おそらくスキャンしきれない記憶のデータが表示されている。
 表示されている情報に誤りはなく、スキャンは正確な様だ。

「やっぱり俺と比べると、来人の方が表示されている情報が多いな」
「魂の器と波動量の差だヨ。ライトが王の血筋なのもあるけど、そもそも神と人とでは圧倒的な差が有るネ」
「でも、テイテイは人間にしては波動量がかなり多いネ」
「そうなんだ、流石テイテイ君だ」

 テイテイの言う様に、来人の情報が表示されいる画面は文字と数字でいっぱいだが、それに対してテイテイの画面には契約とそれに付随するスキルくらいだ。

「それにしても、ガーネから天才とは聞いていたけど、本当に凄い技術だね」
「ネの弟は凄いんだネ!」
「天界の馬鹿どもには無い、英知の結晶だヨ」

 メガのその言葉には、どこか棘が有った。
 なんとなく、来人は天界で会った人間の血を嫌うティルと同じ雰囲気を感じた。
 
「……もしかして、メガは天界の事が嫌い?」

 メガは少し黙って間を置いた後、再び口を開いた。
 
「――ああ、大嫌いだネ。落ちこぼれだったボクを早々に見限って捨てた、馬鹿どもだヨ」
「落ちこぼれ……そういえば、身体が弱かったって」
「そうだネ。それじゃあ、少しだけボクの話をしてあげるヨ」
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