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第一章 百鬼夜行編

#6 核

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 ――速い!

 鬼は一瞬で距離を詰め、その槍の様な腕で刺突を繰り出す。
 
 反応が、間に合わない。
 しかし、来人と鬼の間にユウリが割って入る。

 ユウリのスキルは『結晶』だ。
 結晶で出来た双剣を作り出し、その両の刃で刺突の一撃を受け流した。

「らいたん!?」
「来人君、大丈夫ですか!? すみません、手を出しちゃいました」
「いいや、すまないユウリ。油断した」
「あれ、なんだか印象が違う様な……」

 鬼は一度後方へと退避する。
 そして、そこに体勢を立て直した来人の反撃だ。

 地を蹴り、鬼へと剣を振るう。
 しかし、鬼は先程と同じ様に直線距離の超高速移動。
 来人の一振りは空を切る。

「くそっ」
「来人君! 神の力を使うのです! 心の中に、あなただけのイメージが――“色”が有るはずです!」

 ユウリの『結晶』の様に、そしてガーネの『氷』の様に。
 来人の、色。
 
(――イメージを描き、世界を彩る。俺のスキルは――『鎖』)
 
 来人が力を振るう。
 心の内で想像した『鎖』は、現実に創造される。

 倉庫内のありとあらゆる“隙間”から鎖が現れ、倉庫内を張り巡らす。
 それは檻の様に鬼を囲う包囲網だ。

「鎖の檻だ、これでその高速移動も使えないだろ」

 先程鬼の見せた一瞬の間で距離を詰める超高速移動。
 観察していれば、その全ては直線距離の移動しかしていない。
 ならば、この鎖に囲まれた中では満足に動く事も出来ないだろう。

 狙い通り、鬼は動きを止める。
 鬼は腕の槍で鎖を断とうとするが、その程度で切れる程甘くは無い。
 
 十字架のアクセサリー――三十字を柱として想像し、創造した『鎖』は強固な絆の鎖だ。
 槍が鎖を叩く甲高い金属音だけが倉庫内に響く。
 
 ――好機だ。

 “出来る”と言う想像が、あらゆるイメージを現実の物とする。
 神となった来人の身体能力は飛躍的に向上していた。

 来人は鎖を足場として、倉庫内を駆けまわる。
 そして、袖口の隙間から発射した鎖を天井に打ち込み、そのまま巻き取り、その鎖を巻き取る勢いで来人の身体は一気に上空まで打ち上がる。

「はあああぁぁぁ――!!」

 そして、上空から重力を乗せた金色の剣による一閃。

 逃げ場を失った鬼は腕の槍を交差させる事で防御の体制を取るが、しかしその細腕は容易く砕け散る。
 そして、そのまま鬼の身体を金色の刃が二つに割いた。

「ギ、ギギ……」

 断末魔と共に、鬼の身体は端から炭のように黒くなり、ボロボロと崩れて行く。
 やがて崩れた身体は塵と成り、風に乗って消えて行った。
 
 カラン、と何かが地面に落ちる音。
 鬼の居た場所に、最後に残った歪な形をした石ころが落ちた。

「やったネ!」
「来人君、流石です!」

 鬼は討たれた。
 来人の持つ剣は十字架に、そして髪の色も白金から明るい茶へと戻って行く。
 そして、来人は落ちたその石ころを拾い上げる。

「……これは?」
「それは鬼の“核”かくだネ。それを回収して天界に持って行けば、お金になるネ。天界で集めた核は浄化した後、その魂は輪廻の輪に帰って行くネ」
「え? 魂って、これが……?」

 来人は手に持った石ころを眺める。
 半透明で、赤とも黒とも付かない混沌とした色の石。
 それが、魂だという。
 
「あれ、知らなかったんですか? 鬼も、元は人間の魂ですよ」

 ――え?
 来人の手から、石ころ――核が滑り落ちる。
 カラン、と乾いた音。

「おっと、これはネが預かっとくネ」

 そう言って、ガーネは落とした鬼の核を口に咥えて、そのまま呑み込む。
 
 ガーネやユウリはさも当然と言った風だが、来人の内心は動揺していた。
 知らず知らずのうちに人間の魂を斬っていたと思うと、あまり気持ちの良い物では無い。

「偶に突然変異的に死した魂がいびつに変質するんです。そして、それが鬼となって人を襲うのです」
「歪に変質って、例えばどういう――」
「まだ鬼については解明されていない事が多いですが、良くない死に方をすると魂はゆがむと言われています」
 
 魂が歪む程の“良くない死に方”――その言い方的に、それがどういう物を指すのか。
 そんな事、まだ経験の浅い来人にも想像出来た。
 普通ではない良くない死に方。

「つまり――」
 
 ――“殺された者の魂”。

 事故や病気、寿命ではなく、他者によって害され、死した魂の成れの果て。
 それが、鬼の正体だ。
 
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