十年前の片思い。時を越えて、再び。

  キミは二六歳のしがない小説書きだ。
 いつか自分の書いた小説が日の目を浴びる事を夢見て、日々をアルバイトで食い繋ぎ、休日や空き時間は頭の中に広がる混沌とした世界を文字に起こし、紡いでいく事に没頭していた。

 キミには淡く苦い失恋の思い出がある。
 十年前、キミがまだ高校一年生だった頃。一目惚れした相手は、通い詰めていた図書室で出会った、三年の“高橋先輩”だ。
 しかし、当時のキミは大したアプローチを掛けることも出来ず、関係の進展も無く、それは片思いの苦い記憶として残っている。
 そして、キミはその片思いを十年経った今でも引きずっていた。

 ある日の事だ。
 いつもと同じ様にバイトを上がり、安アパートの自室へと帰ると、部屋の灯りが点いたままだった。
 家を出る際に消灯し忘れたのだろうと思いつつも扉を開けると、そこには居るはずの無い、学生服に身を包む女の姿。
 キミは、その女を知っている。

「ホームズ君、久しぶりね」

 その声音は、記憶の中の高橋先輩と同じ物だった。
 顔も、声も、その姿は十年前の高橋先輩と相違ない。しかし、その女の浮かべる表情だけは、どれもキミの知らない物だった。

 ――キミは夢を捨てて、名声を捨てて、富を捨てて、その輝かしい未来を捨てて、それでも、わたしを選んでくれるかしら?
24h.ポイント 0pt
0
小説 193,582 位 / 193,582件 SF 5,457 位 / 5,457件

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

美少女リリアの宇宙探査・1000光年の愛の旅

ヤクモ ミノル
SF
地球から1000光年以上も離れた恒星系から、レッドというヒューマノイドと二人だけで、地球への孤独な旅を続ける美少女リリア。様々な惑星で、異星人と交流し・・・いつも途中で襲われて大変なことになりますが・・・最後には涙の別れが・・・感動のストーリーの連続・・・果たして彼女は地球に帰り着くことができるのでしょうか・・・ いつもちょっとエッチなことが起きますが、かなりサイエンティフィックに検証して書きました

Galaxy Day's mini

SF
惑星を破壊し、文明を蹂躙し、人命を奪いまくる 悪の組織の一家、『コズモル家』。しかし彼らも 生きている以上、日常や休日はある。これは そんな彼らのおもしろおかしく、そしてクソだらけ の日常を描いただけの物語である。 本編とはまた別の短編集的なナニカ。今のところ、 この話が 何話前で何話後なのかとかは未定。 そもそも本編とリンクさせるかどうかも未定。 地の文、バトル、ロボット要素は控えめ。 そのクセ、ギャグやコメディ、パロディ要素は 本編以上… カモしれないッスねー (早速パロってる) 未定だらけの見切り発車同然で作ってしまった この作品。ま、気軽な気持ちで見てくださいませ! あと、よければこの縁で本編も見てくださいませ!

【ショートショート】雨のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

装甲を纏い戦う者達

ブレイブ
SF
未知の物質が発見され、未知の物質はアルカディアと命名され、アルカディアが適応すれば人に驚異的な力を与える。人をほおっては置けない白黒忌子はただの学生として過ごしていたが、特異災害、アドヴァルサの侵略攻撃の中、忌子の想いによって力が目覚めた

花より大福

HAHAH-TeTu
SF
:星占いと超能力:未来予想はどちらを信じる

30秒で読めるショートショート、超短編小説、SF小説

reigo
SF
どうもレイゴです。 YouTubeで1人芝居で短編動画もアップしてます。オチは次のページに留めておくのでそちらもご覧ください\(^^)/

二杯目の紅茶を飲んでくれるひと

秋月真鳥
BL
 ベストセラー作家にもなった笠井(かさい)雅親(まさちか)は神経質と言われる性格で、毎日同じように過ごしている。気になるのはティーポットで紅茶を入れるときにどうしても二杯分入ってしまって、残る一杯分だけ。  そんな雅親の元に、不倫スキャンダルで身を隠さなければいけなくなった有名俳優の逆島(さかしま)恋(れん)が飛び込んでくる。恋のマネージャーが雅親の姉だったために、恋と同居するしかなくなった雅親。  同居していくうちに雅親の閉じた世界に変化が起こり、恋も成長していく。  全く違う二人が少しずつお互いを認めるボーイズラブストーリー。