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過去編 『勇者アルの冒険』
『明滅』の魔女④
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アルバスの話を聞いたエルは、すぐに「そうなのね」と一言だけを発して答えた。
「……信じてくれるのか?」
もしアルバスがエルの立場だったなら、何の記憶も無いのに突然変な事を言い出した相手を不審に思うか、もしくはただ心配するかもしれない。
そう思ってやや不安気だったアルバスは、そんなエルの反応に少し驚いた様子。
「別に、アルが嘘を吐く理由も、わたしがアルを疑う理由も無いもの」
アルバスは驚きの表情を浮かべるが、エルはさも当然と言った風に、微塵の躊躇も疑いも無い。
「ふっ……そうか。ありがとよ」
やっぱり、エルは特別だ。俺の大切な仲間だ。
そう再認識したアルバスは、表情が綻ぶ。
「どういたしまして? でも、お礼を言うのはまだ早いわよ。きっと、この繰り返しは何度も何度も、脱出するまで続くわ」
「そーだよ、そのとーり」
「これはまぼろし、うたかたのひととき」
俺たちの様子をどこかで見ていたのか、またあの妖精たちが現れる。
何が面白いのかくすくすと怪しく笑いながら、透明な羽を羽ばたかせてふわりと宙を舞う。
「お前ら……!」
アルバスは、剣を抜き構える。
「やってくれたわね。でも、ここから反撃よ」
エルも杖を取り出し臨戦体制を取る。
しかし、アルバスが地を蹴り、そしてエルが『結晶』の矢を生成しようとした、その時。
――ぐらり。
再び、アルバスの視界が暗転。
瞬きをし、正常な視界を取り戻した時には、そこに妖精たちの姿は無かった。
そしてーー、
「これ……人の骨かしら」
また、聞き覚えのあるエルの台詞。
気づけば、隣で杖を構えていたはずのエルは木の根元に座す人骨をしゃがみ込んで興味深げに見ていた。
アルバスは理解した。また、繰り返しだ。
この精神攻撃は、終わらない。
それでも、アルバスは先程とまた同じ様に、何も覚えていないエルに全てを説明した。
すると、やはりエルは「そうなのね」と短く答えて、なんの躊躇いも無く全てを丸々信じてくれた。
「にしても、証拠も何もないのに簡単に信じてくれるんだな。俺はエルが詐欺にでも引っかからないか心配だぜ……」
やれやれと言った調子でアルバスがぼやくが、エルとしてはそう言われるのは心外だ。
「別に、アルが言う事だからよ? 誰でもじゃないわ」
「それは――信用されてるって事で、素直に受け取っていいのか?」
アルバスは前の周回と同じ様に、また表情を綻ばせる。
「そうね。あなたの言葉を借りるなら、“仲間だから”――そして、“特別だから”よ」
エルは真っ直ぐとアルバスの目を見て、してやったりと「ふん」と笑って見せた。
いつもからかわれる意趣返しのつもりだ。
そう話していると、再びあの妖精たち。
「なかま、なかまー」
「なかよし、だね」
何度見ても、同じ調子だ。
おそらく、彼らはこの“繰り返し現象”に気付いた時――つまり、今でいえばアルバスがエルに状況を伝えると現れるのだと、推察できる。
そして、その後に来るのはあの暗転によるリセット。
つまり、彼らが現れたという事は、この周回にはもう時間が残されて無いという事。
「悪いな、エル。時間切れみたいだ」
「そう。なら、次のわたしには説明なんてしなくていいわ。ただ、一つ“こう言う”のよ――」
次の作戦を、アルバスへと託す。
そして、エルのその言葉を聞き、アルバスは豪快に笑った。
「ははははっ。――それで、エルは俺のそんな戯言をまた信じて“それ”をやってくれるのか?」
「ええ。もし失敗しても、アルは繰り返す度に、同じ様にわたしに頼ればいいのよ。わたし、絶対にすぐに信じるわよ」
そして、あの感覚。
エルの言葉に答えるアルバスの声がエルの耳に入ったかどうか分からない。そのくらいのタイミングで、再び視界が暗転した。
――ぐらり。
(信じてるわよ、アル)
瞬きをすれば、またあの瞬間。
「これ……人の骨かしら」
聞き覚えしかない、もう耳にこびり付いたエルの台詞。
そして、やはりエルの注意は人骨の方に向いている。
「――なあ、エル」
「うん? 何かしら?」
しかし、今のエルが状況を把握して居なかろうが関係は無い――らしい。
前の彼女に言われた通りのそのままを、アルバスは口にする。
「俺の精神に『支配』の魔法をかけてくれ」
それが、エルの託した作戦だった。
曰く、これでこの妖精からの精神攻撃を突破できるのだと言う。
「え? なんでよ……」
しかし、エルはドン引きしていた。
「おい、話が違うじゃないか! お前にそう言えってお前に言われたんだよ!」
当然の反応では有るのだが、予定と話が違いアルバスは頭を抱える。
「わたしに言えって、わたしに? あー……」
エルは少しだけ考える素振りを見せた後、にやりと面白い物でも見つけたみたいなに笑う。
遊びでは無いのだが……。と、そんな彼女の様子を見たアルバスは少し不安になって来た。
これ以上の説明は出来ない。
何故アルバスだけが許されているのかは分からないが、妖精の精神攻撃をエルが認識してしまった瞬間にリセットがかかり、次の周回へ強制的に行ってしまうのだ。
そして、どうしようかとアルバスが唸り始めるとほぼ同じくらいのタイミングで、エルが再び口を開いた。
「――いいわよ」
「……信じてくれるのか?」
もしアルバスがエルの立場だったなら、何の記憶も無いのに突然変な事を言い出した相手を不審に思うか、もしくはただ心配するかもしれない。
そう思ってやや不安気だったアルバスは、そんなエルの反応に少し驚いた様子。
「別に、アルが嘘を吐く理由も、わたしがアルを疑う理由も無いもの」
アルバスは驚きの表情を浮かべるが、エルはさも当然と言った風に、微塵の躊躇も疑いも無い。
「ふっ……そうか。ありがとよ」
やっぱり、エルは特別だ。俺の大切な仲間だ。
そう再認識したアルバスは、表情が綻ぶ。
「どういたしまして? でも、お礼を言うのはまだ早いわよ。きっと、この繰り返しは何度も何度も、脱出するまで続くわ」
「そーだよ、そのとーり」
「これはまぼろし、うたかたのひととき」
俺たちの様子をどこかで見ていたのか、またあの妖精たちが現れる。
何が面白いのかくすくすと怪しく笑いながら、透明な羽を羽ばたかせてふわりと宙を舞う。
「お前ら……!」
アルバスは、剣を抜き構える。
「やってくれたわね。でも、ここから反撃よ」
エルも杖を取り出し臨戦体制を取る。
しかし、アルバスが地を蹴り、そしてエルが『結晶』の矢を生成しようとした、その時。
――ぐらり。
再び、アルバスの視界が暗転。
瞬きをし、正常な視界を取り戻した時には、そこに妖精たちの姿は無かった。
そしてーー、
「これ……人の骨かしら」
また、聞き覚えのあるエルの台詞。
気づけば、隣で杖を構えていたはずのエルは木の根元に座す人骨をしゃがみ込んで興味深げに見ていた。
アルバスは理解した。また、繰り返しだ。
この精神攻撃は、終わらない。
それでも、アルバスは先程とまた同じ様に、何も覚えていないエルに全てを説明した。
すると、やはりエルは「そうなのね」と短く答えて、なんの躊躇いも無く全てを丸々信じてくれた。
「にしても、証拠も何もないのに簡単に信じてくれるんだな。俺はエルが詐欺にでも引っかからないか心配だぜ……」
やれやれと言った調子でアルバスがぼやくが、エルとしてはそう言われるのは心外だ。
「別に、アルが言う事だからよ? 誰でもじゃないわ」
「それは――信用されてるって事で、素直に受け取っていいのか?」
アルバスは前の周回と同じ様に、また表情を綻ばせる。
「そうね。あなたの言葉を借りるなら、“仲間だから”――そして、“特別だから”よ」
エルは真っ直ぐとアルバスの目を見て、してやったりと「ふん」と笑って見せた。
いつもからかわれる意趣返しのつもりだ。
そう話していると、再びあの妖精たち。
「なかま、なかまー」
「なかよし、だね」
何度見ても、同じ調子だ。
おそらく、彼らはこの“繰り返し現象”に気付いた時――つまり、今でいえばアルバスがエルに状況を伝えると現れるのだと、推察できる。
そして、その後に来るのはあの暗転によるリセット。
つまり、彼らが現れたという事は、この周回にはもう時間が残されて無いという事。
「悪いな、エル。時間切れみたいだ」
「そう。なら、次のわたしには説明なんてしなくていいわ。ただ、一つ“こう言う”のよ――」
次の作戦を、アルバスへと託す。
そして、エルのその言葉を聞き、アルバスは豪快に笑った。
「ははははっ。――それで、エルは俺のそんな戯言をまた信じて“それ”をやってくれるのか?」
「ええ。もし失敗しても、アルは繰り返す度に、同じ様にわたしに頼ればいいのよ。わたし、絶対にすぐに信じるわよ」
そして、あの感覚。
エルの言葉に答えるアルバスの声がエルの耳に入ったかどうか分からない。そのくらいのタイミングで、再び視界が暗転した。
――ぐらり。
(信じてるわよ、アル)
瞬きをすれば、またあの瞬間。
「これ……人の骨かしら」
聞き覚えしかない、もう耳にこびり付いたエルの台詞。
そして、やはりエルの注意は人骨の方に向いている。
「――なあ、エル」
「うん? 何かしら?」
しかし、今のエルが状況を把握して居なかろうが関係は無い――らしい。
前の彼女に言われた通りのそのままを、アルバスは口にする。
「俺の精神に『支配』の魔法をかけてくれ」
それが、エルの託した作戦だった。
曰く、これでこの妖精からの精神攻撃を突破できるのだと言う。
「え? なんでよ……」
しかし、エルはドン引きしていた。
「おい、話が違うじゃないか! お前にそう言えってお前に言われたんだよ!」
当然の反応では有るのだが、予定と話が違いアルバスは頭を抱える。
「わたしに言えって、わたしに? あー……」
エルは少しだけ考える素振りを見せた後、にやりと面白い物でも見つけたみたいなに笑う。
遊びでは無いのだが……。と、そんな彼女の様子を見たアルバスは少し不安になって来た。
これ以上の説明は出来ない。
何故アルバスだけが許されているのかは分からないが、妖精の精神攻撃をエルが認識してしまった瞬間にリセットがかかり、次の周回へ強制的に行ってしまうのだ。
そして、どうしようかとアルバスが唸り始めるとほぼ同じくらいのタイミングで、エルが再び口を開いた。
「――いいわよ」
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