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だったらお家に帰ります!夫婦喧嘩からはじめる溺愛婚(続行)
番外編:父子の会話
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確かにこそこそ隠したのは悪かったし、シエラからのプレゼントを断り続けていたのは確か。
でもそれは、“俺にとってシエラという存在以上の贈り物はないから”というだけで――……
「それなのに、まさか」
まさか家出されるだなんて、誰が想像出来るというのだろう。
“変な人に絡まれたりしてなければいいんだけど……!”
ハラハラしながらなんとか仕事に区切りをつけ、アドルフに引き継ぎ後を頼む。
『はじめての夫婦喧嘩はとても可愛らしいですな』なんてアドルフにからかわれつつ、慌ててシエラを追って馬を走らせたビスター公爵家にはなんと帰ってきていなくて。
「嘘だろ……っ」
馬車で出たシエラと馬で駆けた俺なら、馬の方が速い。
まさか途中で抜かしたのか?なんて思ったが、馬車で走れる道は限られているし……
「ま、まさかネイト家か……!!?」
なんて、シエラならばあり得ると気付いた俺が慌てて実家に戻るとまさにそこにシエラがいた。
到着すると、ライトンとひと揉めしたらしく家を飛び出したと聞いて青ざめる。
しれっと帰ってきていたライトンに状況を聞き、シエラならば闇市に飛び込んでもおかしくないと更に青ざめ――……
そしてその予想まで当てた俺は、無事彼女を取り戻せたことに安堵しつつ実家に戻ってきた。
「すっかり仲良しだな」
弟妹たちに囲まれ楽しそうに笑うシエラを見ていると、堪らなく幸せな気持ちが溢れてくる。
“見た目が高貴だから近寄りがたく見えるけど、ちょっと天然で可愛いギャップであっという間に中心だ”
子供というのはとても素直な存在で、そして見抜く力が強い。
嬉しそうに頬を染めるシエラがあまりにも微笑ましく、その温かな光景をぼんやりと眺めていると、コトリと机にコーヒーが置かれた。
「父さん」
にこりと隣に座った父が、何も言わずにコーヒーを口に含んだのでそれに習い俺も一口コーヒーを飲む。
「これ、アルファスのレンゲ豆だ?」
「流石だな」
「ま、キャサリンに言われて色々買いに行ったからさ」
パシリのように買い付けに行かされていた日々を思い出し思わず苦笑を漏らすと、父がそっと目を伏せて。
「――幸せ、か?」
「え?」
唐突に聞かれたその質問にぽかんとしてしまう。
「お前には悪いことをしてしまったとずっと思っていたんだ」
「それ、どういう……」
答えない父に、漠然とキャサリンとのことかと理解した俺は、気付けば自然と頬が緩んでいて。
「確かに大変だったけど、まぁ……妹としか思えなかった俺にも問題はあったよ」
「だが、俺たちが無理に婚約をさせなければ……」
「そうだね、父さんたちが婚約をさせなければ、きっと今シエラとは結婚してなかったかも」
互いの状況が似ていたからこそ起きた奇跡。
「だから俺は、本当に感謝してるんだ。こんなに大事にしたいと思える人と出会えるなんて思わなかった」
子供の体力は無限で、常に全開……だが、唐突に力尽きて寝てしまうのも子供の特徴。
そんな弟たちに振り回されたシエラも、気付けば力尽きたのか床で寝てしまっていて。
そっと膝掛けをシエラたちにかけて、そして席に戻る。
その様子を見ていた父は、先ほどまでのどこか後悔を孕んだような表情ではもうなくて。
「幸せに、しろ」
「もちろん」
口数少なくそれだけ言った父は、空になったカップを持って台所に向かった。
きっとクラリスと一緒に料理をしている母を手伝うのだろう。
“言われなくても、幸せにする”
それは結婚したからの責任感からではなく、俺自身がシエラの幸せを何よりも望んでいるからで。
そして彼女を幸せにするのは、絶対に俺でありたいという欲からで。
「愛してる」
溢れるようにそっと呟く。
この言葉は、きっと誰にも聞こえてないから。
“起きた彼女に、彼女だけに”
改めて伝えようと決意して、残ったコーヒーを一気に呷ったのだった。
でもそれは、“俺にとってシエラという存在以上の贈り物はないから”というだけで――……
「それなのに、まさか」
まさか家出されるだなんて、誰が想像出来るというのだろう。
“変な人に絡まれたりしてなければいいんだけど……!”
ハラハラしながらなんとか仕事に区切りをつけ、アドルフに引き継ぎ後を頼む。
『はじめての夫婦喧嘩はとても可愛らしいですな』なんてアドルフにからかわれつつ、慌ててシエラを追って馬を走らせたビスター公爵家にはなんと帰ってきていなくて。
「嘘だろ……っ」
馬車で出たシエラと馬で駆けた俺なら、馬の方が速い。
まさか途中で抜かしたのか?なんて思ったが、馬車で走れる道は限られているし……
「ま、まさかネイト家か……!!?」
なんて、シエラならばあり得ると気付いた俺が慌てて実家に戻るとまさにそこにシエラがいた。
到着すると、ライトンとひと揉めしたらしく家を飛び出したと聞いて青ざめる。
しれっと帰ってきていたライトンに状況を聞き、シエラならば闇市に飛び込んでもおかしくないと更に青ざめ――……
そしてその予想まで当てた俺は、無事彼女を取り戻せたことに安堵しつつ実家に戻ってきた。
「すっかり仲良しだな」
弟妹たちに囲まれ楽しそうに笑うシエラを見ていると、堪らなく幸せな気持ちが溢れてくる。
“見た目が高貴だから近寄りがたく見えるけど、ちょっと天然で可愛いギャップであっという間に中心だ”
子供というのはとても素直な存在で、そして見抜く力が強い。
嬉しそうに頬を染めるシエラがあまりにも微笑ましく、その温かな光景をぼんやりと眺めていると、コトリと机にコーヒーが置かれた。
「父さん」
にこりと隣に座った父が、何も言わずにコーヒーを口に含んだのでそれに習い俺も一口コーヒーを飲む。
「これ、アルファスのレンゲ豆だ?」
「流石だな」
「ま、キャサリンに言われて色々買いに行ったからさ」
パシリのように買い付けに行かされていた日々を思い出し思わず苦笑を漏らすと、父がそっと目を伏せて。
「――幸せ、か?」
「え?」
唐突に聞かれたその質問にぽかんとしてしまう。
「お前には悪いことをしてしまったとずっと思っていたんだ」
「それ、どういう……」
答えない父に、漠然とキャサリンとのことかと理解した俺は、気付けば自然と頬が緩んでいて。
「確かに大変だったけど、まぁ……妹としか思えなかった俺にも問題はあったよ」
「だが、俺たちが無理に婚約をさせなければ……」
「そうだね、父さんたちが婚約をさせなければ、きっと今シエラとは結婚してなかったかも」
互いの状況が似ていたからこそ起きた奇跡。
「だから俺は、本当に感謝してるんだ。こんなに大事にしたいと思える人と出会えるなんて思わなかった」
子供の体力は無限で、常に全開……だが、唐突に力尽きて寝てしまうのも子供の特徴。
そんな弟たちに振り回されたシエラも、気付けば力尽きたのか床で寝てしまっていて。
そっと膝掛けをシエラたちにかけて、そして席に戻る。
その様子を見ていた父は、先ほどまでのどこか後悔を孕んだような表情ではもうなくて。
「幸せに、しろ」
「もちろん」
口数少なくそれだけ言った父は、空になったカップを持って台所に向かった。
きっとクラリスと一緒に料理をしている母を手伝うのだろう。
“言われなくても、幸せにする”
それは結婚したからの責任感からではなく、俺自身がシエラの幸せを何よりも望んでいるからで。
そして彼女を幸せにするのは、絶対に俺でありたいという欲からで。
「愛してる」
溢れるようにそっと呟く。
この言葉は、きっと誰にも聞こえてないから。
“起きた彼女に、彼女だけに”
改めて伝えようと決意して、残ったコーヒーを一気に呷ったのだった。
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